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作品名:続・不可思議情報の私的考察 作者:ツジセイゴウ

第15回   人の死の定義
またまた重たいテーマを持ち出してしまったが、これは別に難しい哲学や宗教のお話ではない。
「心臓が止まれば人は死ぬ」、これは誰しもそう思う。実際、心臓が止まった人に対しては、AEDを使ったり心臓マッサージをしたりして蘇生を試みる。しかし、これを逆さ読みにして、「人が死ぬと必ず心臓が止まる」というのは正しくない。
人の死は、法律で定義されており、現行法では心停止をもって判定される。だから、「心臓が動いている限り、その人はまだ死んでいない」ということになる。脳死患者は、実際は死んでいるにもかかわらず、心臓が動いているため現行法では死と認められない。臓器移植の場合に限り、脳死判定という手続きも行われるが、その判定作業は極めてややこしいので詳しいことは省略する。
さて、ここまでは、どうと言うことのない死亡判定の作業の話であるが、ここからがSFの世界の話になる。この世には心臓死、脳死の他にも全細胞死というのがある。我々の体は60兆個もの細胞から成っており、心臓が止まってもすぐにはこの細胞の全てが死ぬわけではない。心臓が止まって血液が届かなくなると、細胞は阻血性壊死(要するに血が通わないことによる細胞死)を起こし始める。器官にもよるが、例えば腎移植などは心停止してからでも最大24時間くらいまでは阻血時間を許容しているので、少なくとも死亡した人の体の中でも個々の細胞は、しばらくは生き続けていることになる。
仮に、ある人が「私の細胞の全てが死ぬまで、私が死んだ扱いにしないで欲しい」という遺言を残して死んだとしたら、さて、残された遺族はどうすべきなのであろうか。意識もないし、心臓も動いていないから、現行法に従い葬式を出して火葬に付するのか、それともまだ生きている細胞を取り出して冷凍保存にするのか。
実際、アメリカでは、死亡した大金持ちの人が、大枚をはたいて体全体あるいは頭や脳だけを液体窒素で凍結してもらい、医療が高度に進歩した遠い未来に蘇生してもらうという契約を結び、氷漬けになって眠っている(?)という。そこまでしなくても、もっと簡単に細胞数個、あるいはさらに極めるなら遺伝子数対を凍結保存し、いつの日かヒトクローンが認められた時に解凍して体を再生してもらうという契約もありうる。この人は、法律的には間違いなく死んでいるが、生物学的に本当に死んだことになるのであろうか。
もし、全細胞死が人の死と定義されたら、生前に自分の細胞を細胞バンクに預けておき、万が一の時は解凍して再生してもらう、あるいは年老いて死期が近くなったら解凍して新しい体に乗り換える等という、SFのような話が現実になる。
倫理の観点からそんなことが許されるはずはないと激怒する人がいるかもしれないが、あいにく科学技術の方は勝手にそんな方向にドンドン進んでしまっている。


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