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作品名:不可思議情報の私的考察 作者:ツジセイゴウ

第36回   詐欺か商売か
百貨店の衣料品売り場でよく見かける光景。「これはどうかしら」と客が尋ねると、「それもお似合いですよ」と店員が答える。普通の買い物風景であるが、これが詐欺になる可能性があると言ったら一大事である。詐欺とは、「他人を欺罔(ぎもう)して錯誤に陥らせて財物を交付させる行為」と定義されている。ここで欺罔とは、分かりやすく言えば相手をだますということである。
この店員は実際には似合っているなど微塵も思っていないのに、買わせるためにウソ偽りを述べ、その結果客は錯誤を起こして、必要もない洋服を買わされた。ほとんど言い掛かりのように思えるが、これは立派な詐欺行為になる。ただ、これを実際に法廷に持ち込んでも客にはほとんど勝ち目はない。まず、店員が「ウソではありません、ホントに似合っていると思ったからお勧めしました」と言えば欺いたことにはならない。しかも、実際に客は満足して買ったのだからまず真っ当な商談成立ということになる。
過去に起きた詐欺の実例では、例えば消火器詐欺。これは、「消防法で設置が義務付けられています」、「消火剤は毎年交換する必要があります」などと偽りを述べ、客に消火器を買わせたという点が問題になった。リフォーム詐欺では、「このままでは家が壊れますよ」とウソを言って、必要のないリフォームをさせ、しかもほとんど工事らしい工事もせずに何十万円もの高い代金を請求した点が問題となった。いずれも、他人を「欺罔して」、「金銭を交付」させているので正真正銘の詐欺である。
また、かなり大昔のことになるが、原価1万円程度の英会話テープを10万円で売り付ける「学習教材詐欺?」が流行った時期があった。このケースは、詐欺の立証が難しい。原価1万円のものを10万円で売っただけでは詐欺罪は成立しない。客を欺いていないし何より客がそれだけ値打ちがあると思って買っているから、真っ当な商売と言えば商売である。でも買わされた方はたまったものではない。泣き寝入りするしかない。
こうした問題商法が頻発したため、消費者を保護するためにクーリングオフ制度が法律で定められた。クーリングオフつまり冷却期間である。購入契約をした消費者が、セールスマンが帰った後、もう一度冷静になってよく考えてみるとやっぱり要らなかったと思えば、契約自体をキャンセルできるという制度である。ただ、このクーリングオフが認められるのは、訪問販売や通信販売等の「特定商取引」の場合だけで、店舗販売の場合は認められていない。客が自らの意思で店に出向く店舗販売は、客が最初から何がしかを買おうと思ってわざわざ出向いているわけだから、そこまで保護してやる必要はなかろうということである。
では、百貨店のケースは本当にセーフなのだろうか。大抵の百貨店では、セールストークマニュアルというのがあって、店員のセールス研修などでよく使っている。要するに、客がああ言えばこう答えるという想定問答集である。この想定問答によると、客はどう受け答えしても最後は商品を買うように仕向けられている。こんなマニュアルはもちろん社外秘であるから、まずわれわれの目に触れることはないが、驚くべき話法がそこかしこに入っている。
先の店員は、このマニュアルに沿って客を欺罔して洋服を買わせており、仮にこのマニュアルが証拠物件として法廷に提出されれば、百貨店側が負ける可能性もある。それゆえ、百貨店側はサービスと称して、バーゲン品以外の場合は、客からの申し出により任意で返品に応じるケースが多い。法律上は厳密には返品に応じる義務はないが、自身の側にも店員が客に無理やり押し売りした可能性があるという一抹の不安があるため、大きなクレームに発展する前に返品に応じてしまえということである。
この他にも、世の中には詐欺か商売か、紙一重の取引が数多く存在している。例えば、携帯電話。電話機はタダですというのはウソで、実際は後々払う通信料に上乗せされている。プリンター格安9800円というのもウソで、後々買わされるインクカートリッジ代に割引分が上乗せされている。これらは詐欺にはならないのであろうか。
この世はまさに落とし穴だらけ。こうした落とし穴に落ちないようにするには、自己の責任において十分調査し、納得の上買い物をすることである。皆さん、くれぐれも衝動買いだけはしないようにしましょう。


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