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作品名:不可思議情報の私的考察 作者:ツジセイゴウ

第28回   恒星間飛行は可能か
まだ遠い、遠い未来の話になるが、人類は、いつかは地球を飛び出して新しい地球を求めて旅立たねばならない時が来る。その時までに、ワープ航法のような瞬時に遠くまで飛んで行ける技術が開発されていればよいが、そうでなければ今ある技術の中で考えうるプランを立てなければならない。
最も近い恒星までの距離は約4光年、光の速さでも4年はかかる。秒速8キロメートルの宇宙船だと1万年以上はかかる。これだけでも気の遠くなるような距離なのに、やっとの思いで辿り着いた先に人が住めるような惑星があるかどうかも定かではない。となると、さらに次なる恒星を目指して何万年、何十万年と飛び続けなければならない。こんなSFみたいな話を真剣に考えている科学者たちもいる。
まず宇宙船はどこまで加速できるのであろうか。宇宙船を光速近くまで加速できれば、それが一番簡単だが、実はこの方法が最も難しい。アインシュタインの相対性理論によると、宇宙船が光速に近づくにつれて、さらに加速するために必要なエネルギーはどんどん大きくなる。仮に今使われている通常の液体燃料で光速の半分くらいの速度まで加速するには、それこそ宇宙船の何百倍もの大きさの燃料タンクが必要となり、その燃料タンクを加速させるためにさらに大きな燃料タンクが必要となり、ということになってしまう。これを回避するためには、核融合や反物質を使ってわずかな燃料で大きな推進エネルギーを得るような方法を開発しなければならないが、今の技術ではまだまだ夢物語である。
さらに仮にそうした莫大なエネルギーが手に入ったとしても、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の問題がある。何もないと思われる宇宙空間も実際には細かいちりや彗星のかけら等が無数に漂っている。米粒ほどの大きさのちりでも、秒速何百キロというスピードでぶち当れば、宇宙船の壁は簡単に穴が開く。ましてやこぶし大の岩が燃料タンクにでも当たれば一貫の終わりである。実際、地球上でも流れ星は頻繁に観測されている。宇宙空間をウロウロしている星の破片がいかに多いかということである。こうしたデブリを全て検知し、回避することはまず不可能である。よって、亜光速で飛行する計画は危険極まりないと考えられる。
次に考えられている方法が、人工冬眠である。これはSF映画などでも頻繁に使われる方法である。生体を維持するための液体の入ったカプセルの中で人が冬眠する場面をよく目にする。実際、最近冬眠するクマから冬眠遺伝子が発見され、人にも同様の遺伝子があることが確認された。冬眠している間は、体温が下がり基礎代謝が極端に落ちるため、うまく冬眠する方法が開発されれば応用はできそうだ。但し、この方法が適用できるのはせいぜい太陽系内の惑星までである。いくら冬眠中といえども、少しずつでも代謝は起きるため老化は進む。そんな、何万年も眠ったまま恒星間を移動することは考えられない。
それなら冬眠ではなく、冷凍保存してしまえばどうか。実際、アメリカでは難病で死んだ患者が、死の直後に治療法が確立するまで冷凍してほしいと遺言して、冷凍保存されているケースがあるという。マイナス180度くらいの液体窒素で冷凍されているため、基本的に代謝は起こらず何万年でも保存可能である。但し、蘇生が可能か不明であり、生きている人に試すには勇気がいる。それに、冷凍保存中は、宇宙船内は人がいなくなるため、宇宙船の航行は完全自動で行なわなければならない。何かトラブルがあってもコンピューターだけで解決しなければならないため、相当高度な技術を必要とする。
もう少し現実的な方法として、凍結受精卵を使う方法を提唱する学者もいる。これであれば、宇宙船は超小型のもので済むし、冬眠だの蘇生だのというややこしいことを考えなくて済む。目的地に近付くと、コンピューターが凍結した受精卵を解凍し、人工インキュベーターの中で胎児として育てる。出産後は、コンピューターの母親が子育てをし、教育も行い、自立したところで目的の惑星に植民するという段取りである。但し、これも途中でトラブルが起きれば、すべてコンピューターが解決しなくてはならないという問題をはらんでいる。
結局、最もオーソドックスな方法として考えられるのは、超巨大宇宙船を何十隻と連ねて、何万年、何十万年という時間をかけて、何百世代に渡って宇宙空間を旅する方法である。この宇宙船内では何千人あるいは何万人という人間が、完全循環型の閉鎖空間の中で長期間暮らすことになる。この方法の利点は、目的地に最悪居住可能な惑星がなくても次の恒星に向けて旅を続けられるということと、旅の途中で何らかのトラブルで滅亡してしまうリスクが少ないということがあげられる。
ただ、これだけ長い時間宇宙空間の旅を続けることが、人にどういう身体的、精神的影響を与えるのかは不明である。火星までの旅を想定した閉鎖居住空間の実験でも、わずか半年ほどで精神に異常をきたす人も出た。また、数万年も宇宙空間にいると進化や退化が起きて人の姿形がすっかり変わってしまうことも考えられる。もっとも、これから行く先にある星の住環境がどんなものであるかは全く不明のため、この点については成り行き任せで、あまり気にしなくてもよいのかもしれない。
恒星間飛行は、まだまだSFの世界の話となりそうだ。


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