結論から言うと、筆者はヒトクローンには賛成である。 ただ、クローン人間を作ることは、今のところ「ヒトクローン規制法」により禁止されている。具体的には同法第3条で、クローン胚(成体に成長する可能性のある胚細胞)を胎内に戻すことを禁じている。 もともとヒトクローン規制法が定められたのは、イギリスでクローン羊ドリーが誕生したのがきっかけであった。それまで、全く同じ遺伝子を持つクローンは高等生物では作れないと考えられていたため、このニュースは大きな衝撃をもって伝えられた。羊で可能なら当然ヒトでも可能であるはずだからである。 クローン技術については、筆者は一つ大きな矛盾があると思っている。一個体を再生するクローンを禁止する一方で、人体の一部である臓器を再生する技術は認めているからである。これまでに、ES細胞やiPS細胞を用いて皮膚、心筋、網膜などが既に再生され臨床実験も行なわれている。このまま臓器再生技術が進んでゆけば、人間の体のほぼすべての部分が再生可能となる。極端な話、首から下は全部再生した体で命を長らえるといった使い方もSFの話ではなくなる。ここまでくると、もう臓器再生なのかクローンなのか分からなくなる。 クローンベビーが誕生したというニュースはいまだ聞かない。ただ、重度の不妊症により自分と血のつながった子孫を残せない人にとっては、クローン技術は最後のよりどころとなる。難病で苦しむ人を臓器再生で救うことが許されるなら、重度の不妊症患者がクローン技術によって子を成すことも認められるべきであろう。 「第7回 人の精子の数が減っている」でも書いた通り、地球上では今や原因不明の不妊症が蔓延し始めている。仮に今から千年ほどが経って、人類すべてが完全不妊となった場合、人類はヒトクローンによってしか子孫を残せなくなっているかもしれない。それでも、生命倫理肯定派の人々は、ヒトクローンは認められないと言い続けるのであろうか。 (ヒトクローンの是非についてさらに詳しく知りたい方は拙著「テロメア」及び「不妊列島」を参照してください)
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