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作品名:不妊列島 作者:ツジセイゴウ

第5回   挑戦状
「1995年、水、米…、か。」
夜10時過ぎ、恵子は灯りの消えた研究所でただ一人パソコン画面に向かっていた。インターネットに次から次へと表示される膨大な数の記事を一つまた一つと開いては閉じていく。その間にも恵子の脳裏にはこの1年余りの出来事が次々とよぎっていった。
あの武沢薬品のレポートのリークを皮切りに様々なことがあった。政府による精子バンクの設立、一色修也による大胆なクローン実験、そして山本一輝との劇的な再開、全てが自身の手掛けたあのレポートから始まっていた。恵子は焦っていた。世の中の流れがあまりに速すぎて、この先どうなっていくのか恵子にも全く予想すら出来なかった。
このままなし崩し的に倫理の壁は破られていくのか。そして不妊の原因物質は果たして見つかるのか。そんなことを考えるだけで、恵子の目はますます冴え渡っていった。
「ひょっとして…」
夜が白み始める頃、ようやくある言葉が恵子の目に留まった。
「MA米」、別名ミニマム・アクセス米。多角的貿易交渉、いわゆるウルグアイラウンドで、わが国が輸入を義務付けられた米である。MA米の輸入が始まったのは1995年、あの篠原教授のヒントにも合致する。
歴史的にわが国政府は国内の農家を保護するため、様々な農産物の輸入を制限してきた。それがある意味、わが国の『食の安全』のバリヤーともなってきた。しかし、ウルグアイラウンドはそうした食糧鎖国を打ち破り、農産物貿易を自由化した結果、食の安全に対する大きな脅威が生じた。
ウルグアイラウンドでは、わが国が最低限輸入すべき米の量(ミニマムアクセス)が国内総生産量の8パーセント程度と定められた。農水省は、それでも国内の米農家を保護するため、MA米を主食として流通させず、主として加工食品用や工業用として卸していた。
「たった8パーセント? それも加工食品用か。」
恵子はパソコンを閉じながら大きな嘆息を漏らした。あまたの優秀な研究員が長年探し続けて見つからなかった不妊原因物質、それがわずか一夜で見つかると考える方が無理である。恵子は腫れぼったい目をさすりながら研究室を後にした。
いつしか外の廊下は出勤してくる職員で溢れていた。恵子はフラフラとエントランスに向かって歩みを進めていた、その時。
「あれ、あの人…」
恵子はその顔に見覚えがあった。スラッとした長身に少し面長な顔、縁のない眼鏡の奥に輝く冷徹な目は紛れもなくあの時の人であった。恵子はその人に近づいて声をかけた。
「一色さん、一色修也さんですよね。」
その声に付近にいた数人が一斉に振り返った。あの一色修也がいまここにいる。修也は徐に立ち止まった。あっという間に周囲に人垣が出来た。そんな中、恵子と修也はにらみ合ったまま対峙した。
「あなたは?」
修也は右手を軽く眼鏡に触れながら静かに尋ねた。
「わ、私、津山恵子って言います。先月からここの研究員として…」
「津山? 恵子…」
修也は少し考える仕草をした後、フッという不遜な笑みを浮かべた。
「君か。武沢薬品から移籍した不妊研究の第一人者っていうのは。」
恵子は先手を打たれて言葉に窮した。まさか自身のことが修也の口から出てくるとは思ってもみなかったからである。
「一体何をしにここへ。」
恵子はつい詰問口調になって尋ね返した。
「いや、ちょっと篠原先生にご挨拶と思ってね。」
篠原先生と聞いて恵子は即座に教授のあの言葉を思い出した。『切れる刀ほど時として危険な刃にもなりうる』その危険な刃が何をしにここへ。
「あなたにここに入る資格なんてないわ、第一先生がお会いにならない。」
「さあ、それはどうかな。」
修也は再び不遜な笑みを浮かべた。
「2年前、くしくも私が予言した通りになった。」
「予言?」
「そう予言さ。私は、いつかこんな日が来ると思っていた。だからクローン技術の研究を進めてきた。でも、先生はその重要性を理解してくださらなかった。いや、それどころか学内の倫理委員会に諮って、私の実験を中止させた。」
「そ、それは違うわ。あなたは間違ってる。絶対に。」
「フン、どうして君にそんなことが言えるんだい。不妊に苦しむ人達の気持ちも分からすによくそんなことが言えるな。いいかい、人々は一日も早いクローンベビーの誕生を待ち望んでいる。現にうちの研究所には3千人を超える人達が既に登録を済ませた。この人達の思いが君に分かるか。」
3千人と聞いて恵子は思わず頭がクラリとした。自身の血が、そして民族の血が絶えようとする時、倫理の壁は無残にも破られていく。恵子が返す言葉を失して茫然と立ち尽くす中、突然人垣がサッと割れた。そこには篠原教授の姿があった。
「おや、篠原先生じゃないですか。丁度よかった。いま所長室の方へお邪魔しようと思ってたところですよ。これは手間が省けた。」
修也は恵子には目もくれず、づかづかと教授の方へと歩みを進めた。篠原教授は一瞬驚いたような表情を見せたが、相手が誰かと分かると急に険しい表情になった。
「帰ってくれ。君のような人間に会う気はない。」
「おやおや、これはまた。会うなりいきなり帰れ、ですか。折角先生のお役に立ちそうな研究結果をお伝えしようと思って参りましたのに。」
「何が研究結果だ。あんな馬鹿げた研究なんぞに聞く耳は持たん。」
「相変わらずですね、先生。じゃあ先生はこの日本国の将来がどうなってもいいと。このまま不妊がドンドン拡大して日本人の血がこの世界から消えてなくなってもいいと。」
「わしは何もそんなことは言っておらん。何の努力もせず、短絡的にクローン技術を使おうとすることが問題だと言っとるんだ。」
 篠原教授は声を荒げた。周囲を取り囲む大勢の職員や研究員たちが2人の会話の行方を固唾を呑んで見守った。
「ほう、じゃあ先生、何か当てがおありなんてすか。この不妊の原因が何なのか。」
修也は勝ち誇ったようにニヤリと笑ってみせた。
「ああ、今そこにいる津山君が調べてくれている。必ずいい結果が出ると思っている。」
2人を取り囲んでいた人々の視線か一斉に恵子の方へと注がれた。恵子は突然名指しされたことで狼狽した。調べるといっても恵子の研究はまだその端緒に着いたばかり、この先何年掛かるかさえ分からない。そんな恵子の狼狽を見透かしたかのように、修也は自信たっぷりに言い切った。
「彼女が? ですか。いくら不妊研究の第一人者といっても、これまであまたの研究者たちが探し続けてきた不妊の原因物質ですよ。そう簡単に見つかるとは思えませんが…」
修也は鼻先でせせら笑った。図星である。修也の言葉は、つい先ほど恵子自身が実感したことをそのまま代弁していた。恵子は反論する言葉もなく目を伏せた。修也は勝ち誇ったように、衆目の前で挑戦状を叩きつけた。
「まあ折角ですから一度だけチャンスを差し上げましょう。もし、そこの津山さんでしたか、彼女が不妊の原因物質を解明できたら、クローンベビーは中絶させましょう。但し、人工的に中絶が認められるのは妊娠22週目まで、それを過ぎれば、先日お話しましたように世界初のクローンベビー誕生ということになります。今妊娠12週目ですから、残り時間はあと2ヶ月と少し。いいですか、私が伝えたかったのはそれだけです。それじゃあ朗報をお待ちしていますよ。」
修也は一方的に言い残すと、スーツの裾を翻した。

 薬学研究所、所長室。
「先生、私…」
 恵子は篠原教授の前で泣き崩れた。昨晩徹夜した疲れもあったが、何よりあんな大勢の前で屈辱的な侮辱を受けたのは初めてであった。
「気にすることはない。一色とは、ああいう男だ。」
 教授は、困ったという表情で大きな嘆息を漏らした。
「それで、その後、何か分かったかね。」
 教授の言葉でようやく正気を取り戻した恵子は、昨晩のいきさつを説明した。
「そうか、MA米か。なるほど、可能性はあるかもしれんな。」
「でも、先生、MA米の輸入量はわずか8パーセント、それもほとんどが加工食品や工業用とかで。」
「確かに君の言うとおりだ。だが、あれは1999年頃だったかな。中国から輸入されているMA米から基準を大幅に超える残留農薬が発見されてね。」
「ざ、残留農薬ですって。」
 その一言で、恵子の睡魔は一気に吹き飛んだ。
「ああ、確かメタミドホスだったかな。日本じゃとっくの昔に禁止されているが、あちらじゃ今でも簡単に手に入るそうだ。お国柄なのかね。自分たちさえよければ、後は野となれ山となれっていうことか。」
「それで、その問題は、どうなったんですか。」
「農水省は、これ幸いとばかりに中国からのMA米の輸入禁止に踏み切ろうとしたんだが、外務省が待ったをかけた。当時、中国は日本の重要な貿易相手国として台頭していたし、何よりあの国とは戦後処理の問題も抱えている。当時、残留農薬で健康被害が出たという事実も報告されていなかったこともあり、結局、主食としては使用しないということを条件に輸入は続行されることになった。」
 恵子は、ああとばかりに額に手を当てた。これこそ、まさに環境ホルモンの典型例かもしれない。一度に大量に摂取すれば中毒症状を起こす猛毒も、薄められて広く浅く食品の中に紛れ込んでしまえば、もはや誰にも何も分からない。MA米に残留していた農薬が何十年も後になって不妊という問題を引き起こしたとしても不思議ではなかった。
「先生、ありがとうございました。早速、農薬を当たってみます。」
 恵子は勢い込んで立ち上がろうとした。
「おいおい、君、少し休んだらどうだ。昨晩は寝てないんだろう。顔にそう書いてあるぞ。」
「いえ、寝てなんかいられません。後2ヶ月ですから。」
 恵子の脳裏には、あの一色修也の挑戦状のことしかなかった。教授は、やれやれとばかり苦笑いをしながら、走り去る恵子の後姿を見やっていた。

 一方、その頃、一輝はある事件について調べていた。
 不妊騒動が持ち上がって後、世の中はその犯人探しで話題が持ち切りとなっていた。報日新聞でも『食の安全』と題して特集記事を組むこととなり、一輝もその取材で忙しい日々を送っていた。
「そ、それって、偽装ってことじゃ。」
 一輝の目が釣り上がった。
「ああ、結果的にはそういうことになるかもな。でも、当時はどこでもやっていたし、逆にやらないと競争に負けて会社が駄目になっちまう。必要悪ってとこかな。」
 男は悪びれる様子もなく、ぼそぼそと話した。
 一輝が、匿名を条件に取材を申し込んだのは、米の卸売業者の元役員という男性。歳は60台半ば、もう引退して10年近くになるという。男が勤めていた会社の社長は、戦後のヤミ米の売買からのし上がってきた辣腕者で、農水省にも太いパイプがあるとの噂があった。
「社長命令だから仕方がなかったんだよ。断ればコレだしな。」
 男は、右手で喉元を切る仕草をして見せた。
「やり方は簡単さ。ラベルを張り替えるだけのことだ。当時は、国内の農協から仕入れる国産米に、農水省から下される輸入米をブレンドしていた。役所の方からの仕入れはノルマだからな、断るわけにも行かない。どこもぼやいてたよ。工業用限定だとか言われても、真面目にやってたんじゃ大赤字だしな。皆、多かれ少なかれ流通米に混ぜて出荷していたよ。『純国産コシヒカリ100%』なんて堂々と書いてね。」
 ペンを持つ一輝の手は怒りのためにプルプルと震えた。もしこれが取材でなかったら、その場で男を張り倒していたかもしれない。
「でも、もしその米に毒物とか混ざっていたら。」
「そりゃあ、まずいだろうな。でも、皆、バレようがないと思ってた。混ぜるのはほんの数パーセントだし、色も匂いも見た目は大して違わない。素人じゃまず見分けがつかない。いや業者ですら、一旦混ぜてしまえば、それこそ今はやりのDNA検査ってのでもやらない限り、産地はまず分かりっこない。それに、それ食って腹こわしたなんて話も聞いたこともなかったし。」
 男は、まるで他人事のように淡々と話し終えた。
 一輝の頭に、今恵子のあの言葉が蘇っていた。環境ホルモンは色も匂いもない。ピコグラムという極小単位でしか測れない。もし、そのブレンド米が汚染されていたとしたら、それはただの食品偽装では済まない話になる。
「おいおい、文屋さんよ。そろそろいいかな。俺も、今頃になってから、手、後ろに回りたくもないし。どうか一つ、内密に頼みやすよ。」
 男が立ち去った後、一輝はしばらく放心状態で座っていた。やがて、一輝は、ゆっくりと携帯電話を取り出すと発信ボタンを押した。

「では、津山さん、こちらに今日の日付と印鑑を。」
 恵子は薬剤部の受付で薬品の持ち出し手続きをしていた。メタミドホスは劇薬物に指定されているため、その持ち出しには厳格な手続きが必要であった。恵子は、素早く署名と捺印を済ませると、小さな茶色のガラス瓶を受け取った。ラベルには、高純度メタミドホス5グラムと記されてあった。わずか5グラム、我々が普段コーヒー1杯に入れる砂糖ほどの量である。しかし、この量でも30人の人間に中毒症状を起こさせるには十分であった。
 研究室に戻った恵子は、早速マウスを使った実験に取り掛かった。マウスの平均体重は25グラム、成人男性の約二千分の1である。平均寿命も約2年と短い。薬品の効果を調べるのに最適の実験用小動物である。
 恵子は、マウス10匹ずつを3つのグループに分けた。A群には、一日の最低許容量の100倍、B群には10倍、そしてC群には何も入れない通常のエサを与えるようにセットする。
「早ければ2週間ほどで何か分かるかもしれない。」
 実験の準備を終えた恵子が、ようやく一息ついてコーヒーカップに口をつけようとした、その時、携帯電話が鳴った。
「もしもし、恵ちゃん。俺だ。」
「せ、先輩。先輩なの。」
 恵子は、すぐに一輝と分かった。この前、あのような不自然な別れ方をして以来、恵子はずっと一輝のことが気にはなっていたが、なかなか連絡を取るきっかけがなかった。その一輝から電話が入ったのである。先ほどまでの疲れも忘れて、恵子の気持ちは一気に高揚した。
しかし、そんな恵子の心のときめきは一瞬にして凍りついた。
「えっ、そ、それってどういうこと?」
 電話の向こうの声に耳を傾ける恵子の表情は、次第に硬く険しくなっていった。
「そ、それじゃ、私たち、メタミドホスが入っていたかもしれない米を長年それと知らずに食べさせられてたってこと。」
「メ、メタ…、何? それ。」
「あっ、ごめんなさい。メ・タ・ミ・ド・ホ・ス、農薬の成分で、大量に摂取すると中毒症状を引き起こすの。それがMA米に含まれていたことが分かって…」
 恵子は、興奮した口調で矢継ぎ早に話した。
「ちょ、ちょっと待って。それと不妊とどういう関係が。俺、専門外だから、何が何だか。」
 電話の向こうに、困惑した一輝の声が聞こえた。恵子は、少しイラッとしたが、これまでの経緯を一輝の耳元で一気にまくし立てた。
そしてついに、一輝にとって決定的な最後通告の言葉が発せられた。
「だから、私たち、知らない間に環境ホルモン入りの米を長年食べさせられてきた可能性があるっていうことよ。」
 その言葉を最後に、電話の向こうに長い、長い沈黙が流れた。一輝は放心状態で携帯電話を握り締めていた。『ありとあらゆるものが環境ホルモンの候補になりうる』、一輝の頭の中に以前聞いた恵子の言葉が何度となくこだました。
「ね、ねえ、先輩、聞いてるの。」
プッ。その言葉と同時に電話の切れる音が恵子の耳に届いた。
「先輩、先輩ったら。」
 恵子は、すぐに一輝の携帯に折り返しの電話を入れるが、いつまでも呼び鈴の音だけが聞こえていた。メタミドホス入りの汚染米が流通していた可能性がある。それも主食用として。恵子の心を覆っていた深い霧の向こうに、微かに希望の光が見えたような気がした。
何も知らない、マウスだけが与えられたエサをポリポリと貪り食っていた。

2週間後、恵子の研究室。
恵子は震える手でマウスの下腹部にメスを差し入れた。クロロホルムによる麻酔が効いていてマウスはピクリともしない。マウスの精巣はわずか数ミリ。傷付けずにそれを摘出するのは、至難の作業であった。恵子は、頭に拡大鏡を装着し、器用にピンセットを動かす。
「これも随分小さくなってるわ。これも…。」
恵子は額の汗を拭いながら、根気よくこの微細なオペを続けた。
そして、その翌日。
「先生、結果が出ました。A群の被験体全てに精巣の萎縮が見られました。精子の数も30パーセント程減っています。明らかにメタミドホスの作用と思われる変異が出ています。」
「そうか、やはり。」
篠原教授は、額に手を当てて、大きく頭を横に振った。しばらく重苦しい沈黙が続いた後、教授は大きく長いため息を漏らした。
「先生、これは一刻も早く公にして、詳しい調査をした方が。」
「ああ、そうしたいところだが、これが原因だと確信を持っていうためには、もっと他の被験体でも調べてみないとな。」
恵子は意外であった。よもや教授の口からこのような慎重な言葉が飛び出すとは思ってもみなかったからである。
「でも、先生、もう時間があまりありません。クローンベビー誕生まで後1ヶ月半しか…」
「津山君、君の気持ちは分からないでもない。ただ、君も知っての通り、科学の世界じゃ推測でものをいうのは危険だ。何事も裏付けの検証が必要だ。」
「でも、先生、今度ばかりは間違いないと思います。実験でも明らかな違いが出ています。間違いなくメタミドホスが原因物質です。」
「いつも慎重な君にしては珍しいな。ただ、当時メタミドホス入りの汚染米は、全て工業用にされたと聞いている。だとしたら最近の不妊問題とは無関係ということになる。」
教授はあくまで慎重であった。事はこの国の将来を左右しかねない一大事、慎重の上にも慎重を期さないと、再びとんでもないパニックを引き起こしかねない。教授独特の勘、あるいは歳の功とでも言うべきか、この問題はそう簡単に答えか出るはずはないという思いがあった。
しかし、そんな教授の慎重さも、恵子の次の一言で一気に吹き飛んだ。
「何? そ、それって本当か。」
「ええ、大学時代の陸上部の先輩で、今、報日新聞の記者をしてます。信頼出来る人です。」
 恵子は、一輝から聞いた話を教授に伝えた。
「そうか、それは知らなかった。初耳だ。あの米が密かに流通していたなんて。もしそれが事実だとしたら、そしてそれが原因でこの国が大変な危機に陥れられたとしたら、その米業者は、いや米業者だけじゃない、農水省もだ、万死に値する国賊だ。」
教授は、怒りで、握り締めた拳を震わせた。もう。二人を迷わせるものは何もなかった。
「津山君、記者発表の準備をしたまえ。」
教授は、静かに自らの決断を指示した。


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