20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:金魚とウサギ 作者:紗工房

最終回   2
雨上がりの虹の輝く午後に、ウサギは金魚に言いました。
「見て!君と同じ赤い色をしているだろう。君は僕のことが好きかい?」
「あなたはダメよ。だって、あなたは水の中では生きられないわ…。」
金魚は少しうつむいて答えました。
それを聞いたウサギは、「よし、わかった」と言って、走り去りました。
行き先はどこなのでしょうか?

ウサギは南に向かって何日も何日も走り続けました。
走り続けたせいでウサギの右前足のつめが、すべてはがれてしまいます。
痛みなど感じません。ウサギは笑顔でひたすら走り続けます。
「水の中でも生きることができたら、ずっといっしょにいられるんだ。」

着いた先は水の神様のもとでした。
ウサギがわけを話すと、魔法をかけてくれました。
「愚かで愛らしいウサギ。これでお前は水の中でも生きていける。」
ウサギは何度も何度もお礼を言って、また走り始めました。

北に向かって何日も何日も走り続けました。
走り続けたせいでウサギの後ろ右足のつめが、すべてはがれてしまいます。
痛みなど感じません。ウサギは笑顔でひたすら走り続けます。
「これでずっと、いっしょにいられるんだ。
これできっと、僕を好きになってくれる」

冷たい風の吹く夕方に、ウサギは金魚に言いました。
「水の神様にお願いして、水の中でも生きられるようにしてもらったんだよ。
 君は僕のことが好きかい?」
「あなたはダメよ。だって・・あなたには、・・・大きな耳があるわ。」
金魚はつっかえ、つっかえ答えました。
それを聞いたウサギは、「よし、わかった」と言って、走り去りました。
行き先はどこなのでしょうか?

ウサギは暗闇に向かって、何日も何日も走り続けました。
白ウサギの足は血で赤く染まり、痛々しいほどに腫れあがっています。
痛みなど微塵も感じないのです。
ウサギは幸せな日々を夢見て走り続けます。

着いた先は森の奥にすむ魔物のもとでした。
ウサギがわけを話すと、その魔物がウサギの大きな耳を食べ始めました。
しかし、あまりにもおなかの空いていた魔物は、ウサギの体も食べてしまいました。
頭だけになってしまったウサギ。

帰れなくなったウサギは、大きな声をあげて泣きました。
すると通りがかった猟師がウサギに声をかけました。
ウサギがわけを話すと、
「俺が運んでやろう。その代わり、運んだらお前を食べるからな。」

ウサギは猟師の袋の中で揺られながら、光へ向かって何日も何日も過ごしました。
意識が遠のいていくのを耐えながら、金魚の笑顔を思い浮かべます。
痛みなど もはや感じません。
ウサギには幸せな日々が見えていました。

月がうたた寝を始めた夜遅く、ウサギは金魚に言いました。
「見て!大きな耳はもうないよ。
僕は君のことが好きかい?」
頭だけになって、大粒涙をポロリこぼす赤くなった白ウサギ。
何かがはじけたように、金魚が泣き叫びます。
「違うのよ!…私も、あなたが好きだった。
 それでも、金魚の私とウサギのあなたとでは、あまりに違うから…
 どうしても素直に言えなかったの!ごめんなさい。」
金魚の七色の涙を見届けて、
ウサギは「ありがとう。ありがとう。」と言って息絶えました。

「もっと早く素直になれれば。どうしてつまらない意地を張ってしまったのでしょう。
 愛に形も決まりもないのに・・・
 お互いの気持ちが通じ合っていることが、何よりも大切なのに。
大きな耳のあの人が好きだった。雪のように白いあの人が好きだった。
 野原を駆けめぐるあの人が好きだった。
 そばにいてくれるだけで良かったのに・・・」

金魚は何日も何日も泣き続けました。
桜が咲いて、ひまわりが太陽の光を浴び、やがて紅葉が化粧をはじめ、そしてあのウサギのような白い雪が舞い、また桜が咲き乱れるころに、
金魚はウサギのように目を赤くして息絶えました。


   おしまい


← 前の回  ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 989