雨上がりの虹の輝く午後に、ウサギは金魚に言いました。 「見て!君と同じ赤い色をしているだろう。君は僕のことが好きかい?」 「あなたはダメよ。だって、あなたは水の中では生きられないわ…。」 金魚は少しうつむいて答えました。 それを聞いたウサギは、「よし、わかった」と言って、走り去りました。 行き先はどこなのでしょうか?
ウサギは南に向かって何日も何日も走り続けました。 走り続けたせいでウサギの右前足のつめが、すべてはがれてしまいます。 痛みなど感じません。ウサギは笑顔でひたすら走り続けます。 「水の中でも生きることができたら、ずっといっしょにいられるんだ。」
着いた先は水の神様のもとでした。 ウサギがわけを話すと、魔法をかけてくれました。 「愚かで愛らしいウサギ。これでお前は水の中でも生きていける。」 ウサギは何度も何度もお礼を言って、また走り始めました。
北に向かって何日も何日も走り続けました。 走り続けたせいでウサギの後ろ右足のつめが、すべてはがれてしまいます。 痛みなど感じません。ウサギは笑顔でひたすら走り続けます。 「これでずっと、いっしょにいられるんだ。 これできっと、僕を好きになってくれる」
冷たい風の吹く夕方に、ウサギは金魚に言いました。 「水の神様にお願いして、水の中でも生きられるようにしてもらったんだよ。 君は僕のことが好きかい?」 「あなたはダメよ。だって・・あなたには、・・・大きな耳があるわ。」 金魚はつっかえ、つっかえ答えました。 それを聞いたウサギは、「よし、わかった」と言って、走り去りました。 行き先はどこなのでしょうか?
ウサギは暗闇に向かって、何日も何日も走り続けました。 白ウサギの足は血で赤く染まり、痛々しいほどに腫れあがっています。 痛みなど微塵も感じないのです。 ウサギは幸せな日々を夢見て走り続けます。
着いた先は森の奥にすむ魔物のもとでした。 ウサギがわけを話すと、その魔物がウサギの大きな耳を食べ始めました。 しかし、あまりにもおなかの空いていた魔物は、ウサギの体も食べてしまいました。 頭だけになってしまったウサギ。
帰れなくなったウサギは、大きな声をあげて泣きました。 すると通りがかった猟師がウサギに声をかけました。 ウサギがわけを話すと、 「俺が運んでやろう。その代わり、運んだらお前を食べるからな。」
ウサギは猟師の袋の中で揺られながら、光へ向かって何日も何日も過ごしました。 意識が遠のいていくのを耐えながら、金魚の笑顔を思い浮かべます。 痛みなど もはや感じません。 ウサギには幸せな日々が見えていました。
月がうたた寝を始めた夜遅く、ウサギは金魚に言いました。 「見て!大きな耳はもうないよ。 僕は君のことが好きかい?」 頭だけになって、大粒涙をポロリこぼす赤くなった白ウサギ。 何かがはじけたように、金魚が泣き叫びます。 「違うのよ!…私も、あなたが好きだった。 それでも、金魚の私とウサギのあなたとでは、あまりに違うから… どうしても素直に言えなかったの!ごめんなさい。」 金魚の七色の涙を見届けて、 ウサギは「ありがとう。ありがとう。」と言って息絶えました。
「もっと早く素直になれれば。どうしてつまらない意地を張ってしまったのでしょう。 愛に形も決まりもないのに・・・ お互いの気持ちが通じ合っていることが、何よりも大切なのに。 大きな耳のあの人が好きだった。雪のように白いあの人が好きだった。 野原を駆けめぐるあの人が好きだった。 そばにいてくれるだけで良かったのに・・・」
金魚は何日も何日も泣き続けました。 桜が咲いて、ひまわりが太陽の光を浴び、やがて紅葉が化粧をはじめ、そしてあのウサギのような白い雪が舞い、また桜が咲き乱れるころに、 金魚はウサギのように目を赤くして息絶えました。
おしまい
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