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作品名:優しい気持ち 作者:たそがれルーキー

第5回   第四章 あの日
当時私には好きな先輩がいた。

特別かっこいいわけでもなく、人気があるわけでもなく、どちらかと言えば、女の子からは受けない、ひょろっとしたカンジの人だった。

接点といえば帰りのバスが一緒なことぐらいで、私はこの人のバスの中で小説を読んでいる姿が好きだった。

バス停でたまに視線が合うこともあったが、それだけだった。私だけが勝手に意識していた。それだけだった。

ある日、ハンド部の練習を終え、いつものようにバス停に向かった。私が通っていた高校は進学校だったため、三年生は六時間の授業の後、課外授業を強制的に受けることになっていた。私が好きになったこの人も三年生だったので、いつも私が部活を終える時間と一緒だった。

いつものようにバスに乗り、彼は前の方に、私は後ろの長い座席の方に腰を下ろす。名前は知らなかったが、いつも彼が降りる停留所は私のより二つ前だった。田舎の方で二つといえば距離にして三キロぐらいだろう。

だが、この日はいつもと違っていた。

彼はいつも降りる停留所に着いてもバスを降りなかった。一つ先の停留所でも降りなかった。

不思議に思ってよく見てみると、寝ている様子だった。私も部活の疲れから、自分の停留所を寝過ごすことは時々あった。一つでも寝過ごすと、上り方向へのバスを待ったりするだけで、結構時間がとられる。

そして三分後、私の停留所に着いた。

私はこのままだと最終停留所までいってしまうと思い、降り際に彼を起こしてあげた。

「あ、・・・ありがとう。」

「いえ。」

どうやら彼も私と同じ停留所で降りることができたようだ。

時刻は二十時ちょっと前。辺りには街灯も少なく、たまに走ってくる車のライトが夜道を照らす程度。

「君ってうちの高校だよね?二年生?」

「はい。」

初めて彼と会話することができた。イメージどおり、おどおどした感じの口調だった。

いつも一方的に見ているだけの勝手な関係。会話を一つできた、それだけでも私にとっては大きな進歩だった。

照れ性だった私は、話ができた、その事実だけで、舞い上がっていた。でも、自分からは何も言えなくて。

ちらっ、ちらっと彼を見ながらモジモジしていると、また話しかけられた。

「あの、高井戸までどれくらいあるかわかるかな?」

「あっ、二つ先です。バス停は・・・と。」
私は右斜め前方を指差し、向い側のバス停を教えてあげた。

その日以来、私と彼は帰りのバス停で会釈をするようになり、気がつけば一緒の席で帰るようになっていた。

「部活はどうだった?」

「きつかったです。もう、下坂監督がはりきってて。次の東北大会はベスト4に絶対入るんだ!ってうるさくて。」

「下坂先生?あの日本史の?」

「はい。」

「あの先生ってハンド部の顧問なんだ。へぇ、知らなかった。」

「日本史とってました?」

「いや、僕は地理だったから。歴史はちょっと苦手で。」

「あっ、そうなんですか。」

初めの頃は何を話しても楽しかった。彼のことを何でも知りたいと思っていた。私は部活のことを、彼は受験勉強のことを話しながら夢を語っていた。

「でね、男子ハンドの柏木君っていう一年生がいるんですけど。」

「うん・・・。」

「その子がものすごく上手いんですよ!」

「へぇ、そうなんだ。」

「ベンチにはもう入ってるんですけど、今度の大会ではスタメンでいこうか、って監督が言ってるぐらいなんです!」

「そう・・・。」

ただ一つだけ、気にかかることがあった。

それは、私と彼以外の話には全くと言っていいほど無関心な態度をするところだった。旬なドラマの話をしても、友達の話をしても表情をぴくりとも変えない人だった。

それから一ヶ月程経ったある夏の日、私がいつものようにバス停で待っていると、彼が現れた。

「あっ、今帰りですか?」

「そうだけど。毎日勉強でイヤになるよ。」

「そうですよね。」

「横、いいかな。」

そう言って、彼は私の隣に腰を下ろした。
夕日がまだ出ている夏の夕方。

私は教科書やお弁当箱が入ったカバンと部活用のカバンの二つ。彼はカバンと右手には小説を持っている。いつも小説を携帯している彼。内容はよく知らない。

「明日も勉強ですか?」

「そうだね、受験生に休みはないからね。」

「でも、休みの日くらいゆっくりした方がいいですよ。」

「そうかもね。君は明日も部活なの?」

「いえ、明日休みです。この前やっと大会終わったんで、今週末は休みです。」

「いいね。何するの?」

「特に予定はないんですけど。あっ、明日花火大会だから家族みんなでいくかも。」

「そう。」

明日は久しぶりの休み。そして、盛岡一の花火大会がある日だ。毎年家族と行く花火大会。今年も急に父が言いだすに決まってる。

「花火大会かぁ。いいね。」

「いかないんですか?」

「そうねぇ・・・。」

「気が紛れると思いますよ。」

「じゃあ、よかったら一緒に行かない?」

「・・・。えっ?」

突然男の人に誘われた花火大会。しかもその人は私の好きな人。一緒に話ができるだけで満足していたのに、急なアプローチ。私は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

その日の夜の食卓、父が例年のように話を切り出した。

「明日は花火大会だ!みんなで行こうな!母さん、明日はビールが飲めるぞー!」

「そうね!久しぶりに飲もうかね!」

母が話をつなぐ。

「優子、おまえも明日は行くだろう?」

「私、明日友達と行くから。」

三つ上の姉が話を遮る。

「なんだ、なんだ!?家族の集まりより友達かぁ?」

「別にいいじゃない!私もう二十歳なんだから、もうほっといてよ!」

「・・・。」

姉の勢いに黙り込む父。
しばらくの間、食卓の間がしーんと静まりかえった。

私も実は行けないのだ・・・。

なんて、この静まり返った状況の中、なかなか話を切り出せるわけない。

「ごちそうさま。」

姉はその場を離れ、部屋に行った。少し、緊迫感が薄れた。私はタイミングを窺いながら、二人をちらちら見ていた。

「友子は明日いくでしょ?」

母の言葉にすかさず、話を切り出す。

「私も実は・・・。」

「何?友子も友達と行くの?」

「友達じゃないけど・・・学校の先輩と。」

「全く、お前らは家族の集まりをなんだと思ってるんだ。」

「・・・。」

私は姉のように反発せず、沈黙を保っていた。ご飯を食べながら、夕方のテレビのニュースを見る。ちょうど天気予報の時間だ。

《それでは県内の明日の天気です。明日の岩手県内の降水確率は、盛岡三十パーセント、宮古四十パーセント、大船渡三十パーセントとなっています。》

「あら、明日三十パーセントだって。お父さん、大丈夫かね。」

「母さん、心配し過ぎだって。七十は晴れなんだろ。大丈夫だよ。」

「・・・。」

私は母譲りの性格なのか、三十パーセントでも雨が降るかどうか心配になっていた。

次の日、私は待ち合わせのJR盛岡駅前に三十分早く着いた。雨の心配も全くないくらい、空は晴れている。

今日は花火大会、普段は考えられないような程、人が溢れている。私は半分わくわくしながら、半分緊張しながら待っていた。何度も鏡で顔をチェックしながら。

すると突然声をかけられた。

「待った?」

彼だ。私は慌てて鏡を手提げの中にしまい、平静を装った。

「いえ。私もさっき着いたばっかりです。」

「そう。じゃあ、行こうか。」

花火が打ち上げられる場所は都南大橋の河川敷。その付近まで三十分程度バスに揺られる。あまり経験のない満員電車でも、非日常なことに心が弾む。

周りには大人のカップルや家族連れ。
私と彼はどんな風に見えるのだろう。体と体がいつになく接近しているこの状況に、私はドラマで見た男と女の関係を妄想していた。

でも、そんな関係になりたいと思っていたわけじゃなかった。

「今日天気よくて良かったですね。」

「そうだね。」

「私降水確率三十パーセントでも雨が降っちゃうんじゃないかって心配で。」

「そう。」

河川敷を歩く人の群れの中、会話をしながら歩を進める。

「大学はどこ受けるか決めたんですか?」

「まだ決めてない。医学の方向に進もう、それだけ決めてる。」

「医学部かぁ。すごいですね!」

「君は将来どうなりたいの?」

「私は・・・。」

誰にも話したことのない自分の思い描いている夢。もちろん親にも親友にも。

「私は歌を唄いたいんです。」

「えっ?歌手?」

「んー、よくわからないですけど・・・。歌手かなぁ・・・。」

「そんなの無理だよ。」

そう言われると思って誰にも話さなかった。それが無理なことなのかが私にはわからない。私が医学の方向に進むことの方が無理だと思う。

でも、世間一般的には、歌手になることよりも医学の道を志すことの方が否定はされない。少し気分を害されたと下を向いていると、特大の花火が夜空を彩った。

「うわぁ!きれい!」

花火大会開始の合図。それと共に周囲からは歓声が湧く。ちょっと前の嫌な気持ちが吹っ飛ぶぐらいの大きさ。私は笑顔でそれを見ていた。

「大きい!あれ見て!」

次々と打ち上げられる花火。どこに目をやればいいのか迷ってしまう。静かな表情で見ている彼に対し、わくわくしてしょうがない私。

「すごーい!あっ、あれすごいかわいい!」

「・・・。」

そんな下手な会話のやり取りのまま、花火大会は幕を閉じた。

「楽しかったですね!花火。」

「そう、よかった。」

「あっ!金魚すくい!」

賑わう露店をところどころ覗きながら、帰路に向かう。人形焼きやはし巻き、定番のたこ焼き、どれもみんなおいしそう。貯金していた少ないお小遣いをどれに使おうか悩んでいると、彼が言った。

「ねぇ、・・・今付き合ってる人とかいるの?」

唐突過ぎるその質問に、私の頭の中が困惑する。何故かわからないけど、群衆の中歩くのを止めてしまった。

「いえ・・・。」

私はそう答えた。

何かを期待している自分と、そのままでいたい自分。私が色々考えていると、また彼が言った。

「じゃあ、気になる人は?」

鼓動が早くなる。

≪これってもしかして・・・。≫

ドラマでよく見る展開を頭の中で再現する。
ボーっと彼の顔を見つめてしまっていた。
すると後ろから来た人にポンと肩があたって、前に押された。

「あっ・・・!」

「・・・。大丈夫?」

押された先は彼の胸の中。
私は恥ずかしくて何も言えず、何も動けずにいた。ただ、私の鼓動はさっきよりも早くなっていた。

半歩後ろに距離をとり、恐る恐る彼の顔を見てみる。彼もまた強張った表情をしていた。

「あのっ・・・すいません。」

「・・・。」

「ごめんなさい。私がボーっとしてるから・・・。」

「いや、僕の方こそ・・・変なこと聞いちゃって・・・。」

とりあえずまた歩き出した私たち。

さっきまでとは異なり、会話のない帰り道。
それがずっと続いた。バスの中でもずっと何も話さなかった。そしてそのまま盛岡駅に着く。

≪何か言わなきゃ・・・。≫

そう思って焦っていると、いきなり腕を掴まれた。

「ちょっと・・・まだ帰らないで。」

その力からは、優しさは微塵も感じられず、何かへの執着のようなものを感じた。

≪危ない・・・!!≫

そう直感した私は、とっさに手を振り払い、声をあげた。

「痛いっ!」

すると彼は戸惑った様子で、その場に立ち尽くしていた。そんな彼をこれまでとは別の人を見るような目で見た。牽制するような目で。

「僕はただ・・・。」

「・・・。」

つい一時間前まで楽しかったのに。
ずっと好きだったのに。

でも、そんな感情よりも、さっき感じたモノが怖くて仕方なかった。

それは、ただ私が『男』というものを知らないだけなのかもしれない。

だけど私はまだそんな関係になりたいと思っていたわけじゃない。

私はそのまま「さよなら」と言って、家に帰った。

その日以降、彼とは少し距離を置くようにした。そんな私に気付いてか、彼の方も私を避けている様子だった。

それから季節が秋、そして冬と色を変え、受験シーズンに入った。朝の食卓のニュースでも東京の早稲田、慶応、青学等さまざまな大学の合格発表が連日のように流れていた。

「友子、あんた来年受験だからしっかり勉強してよね。」

「うん。」

まだ一年も先の話だ。そう内心思いながらも母の言葉に返事を返す。あまり勉強は好きじゃないけど、こんな私でも何とかなるだろう、それぐらいの受験意識でテレビを見ていた。

そして私立大学の受験が終わり、今度は国公立大の受験に突入する。

進学校である私の高校では、各人が受験のため各地に飛んでいくため、この時期三年生は自宅学習となっていた。

《そう言えば彼はどこを受験したのだろう。》

以前尋ねた時は、医学の方面に進みたい、そう言っていた。

「井上さーん、井上友子さーん!聞いてますか?」

「・・・。」

「今は漢文の授業中です。数Uの教科書はしまってくださいね。」

「あっ・・・。」

私は、彼ならきっと受かる、そう信じながら日々の高校生活をおくっていた。

そして三月に入り、三年生は卒業式を迎える。私は最後に彼にこれからのお互いの健闘を祈りたい一心で、いつものバス停で彼が来るまで待つことにした。

三月と言えど盛岡では真冬で、卒業式の日は風も冷たかった。都会の電車やバスの感覚とは異なり、地方では一本乗り過ごすと次は一時間待ちなんてザラだ。また一台、私の前をバスが通り過ぎていく。

《まだ来ない。》

かじかんだ手を制服の袖にうずめ、息で温める。背中の方まで冷え切っていたが、最後に会いたいと思う気持ちの方が強かった。

《また一台行ってしまった。》

それからどれくらいの時間が経っただろう。私の目の前に彼が立っていた。

「あっ!」

「・・・。」

「あのっ、卒業おめでとうございます!」

「あぁ・・・。」

何か以前と違う雰囲気だったが、気のせいだと思った。それから二十分ぐらいして次のバスが来た。

「今日寒いですね。」

私は以前のように話を切り出した。

「・・・。」

反応してくれなかた。つーんと外を向いたまま、私はそれ以降何も話しかけることができなかった。そして彼の停留所に着く。

私は何も話すことはできなかったけど、最後に激励の言葉を言おうと思った。
だが、その前に彼が行動に出た。

「ちょっと来て。」

「あっ!!えっ!?」

彼は私の手をぐいっと引き、その停留所に降ろした。

「・・・。」

「・・・。」

何だろう。

「こっち。」

私は彼が歩く方向について行った。
しばらく歩くとそこには田舎にはよくある、廃墟のようなものがあった。彼はそこに入っていく。

「・・・。」

仕方なく私もついて行った。

廃墟に入ると、彼が部屋の中心に立っていた。さらにその奥には三人の男がいた。

「・・・!!」

≪バタン!≫

「えっ!?」

後ろにも男が2人。身の危険を感じた。

「なにっ!?なんなのっ!?」

私がどんなに大声をだしても、男たちはへらへらしている。彼までもが今までに見せたことのないような表情を浮かべ、私を見ている。

怖かった。

後ずさりする私を捕まえ、強引に床に押し付ける。抵抗するも服を剥ぎ取られ、下着があらわになる。男六人がかりで襲われたら、女一人を抑え込むことなどたやすいことだった。

口を塞がれ、下着までも剥ぎ取られた。まだ誰にも見られたことのない乳房も陰部も彼とその知らない男たちに弄られた。
強引に唇を奪われ、体中を触られた。

そして男根を眼前に差し出し、喉の奥に突っ込む。何度も嗚咽を起こした。

≪やめて・・・!≫

口内を犯しきると、足を広げ秘部に挿入してきた。

何度も。次から次へと。

その時男というものを知った。


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