そとには目に見えない鉄格子が張りめぐらされていた。この家からは出られない。
あの日、半日登校の日でお昼過ぎに家へ帰ってきた。そして、電話が鳴る。 「あ、もしもし。佐々木ですけど山内くんおる?」 「ちょっと待ってください。」 丁度、電話の呼び出し音と共に自転車のブレーキ音が聞こえた。受話器を置いて庭を見た。わたしは庭に面したガラス戸をスライドさせた。 「ちょっと、佐々木さんから電話やで」 「あ、そう?」 「え・・・・・」 頭の中が一気に騒々しく動き出した。今のは何だったのだろう。彼は確かにわたしの問いかけに答えた。わたしの問いかけに対する返事だ。一瞬呆然として彼を見つめようとしたが、われに返りすばやくドアをスライドした。とにかく、兄の視界から外れなくてはならない。見つめていることが見つかったらきっと襲い掛かってくるだろう。とりあえず、状況を心の中で整理してみることにする。わたしは兄の友人からの電話を兄に伝えた。そして、兄は返事を返した。それも罵声ではなく、静かな応答だったと思う。わたしの中で何かがはじけたような気がした。
「さやちゃああああああああああああん。早く起きなさい。」 私の朝は母の金切り声から開始される。 「ドンドンドンドンドン!バンバンバン!」 耳をつんざくキリキリした声とともに、ドアが激しくたたかれる。ガラスが2枚はめ込まれている木のスライドドアは振動し、ビリビリビリといった音も混じっている。とにかく、耳に突き刺さる空気の振動だ。怒鳴られたって3時間前に床についたばかりで起きられない。また激しい音がする。 「トントントントントン!ドンドンドンドンドン!」 母が階段を上ってきた。またドアをたたかれる。かなりうるさい。 私はどなる。 「うっせーーー。だまれ。消えろ!もう起きるわ!」 この動作は7時半まで繰り返される。これが毎朝の恒例行事。我が家の朝はこうして始まる。 「プルルルルルルルル。プルルルルルルルルル。プルルルルルルルルル―――」 第二ラウンドが開始される。騒音地獄はまだまだ続く。耐え切れず足音を踏み鳴らして受話器をとりにいく。 「だから、だまれって言っとるやろ!だまれだまれ!うぜえんじゃ」 思いっきり受話器をたたきつけた後、鳴らないように受話器をずらしておく。こうして朝は始まる。 心底けだるい感じで階段をどしどし下りる。まだまだ朝は長い。すがすがしいという言葉がふさわしい朝はいつから消えたのだろうか。そもそも、そんな朝は存在しているのだろうか。所詮テレビドラマや小説などの幻想にすぎないのかもしれない。 「さやあああああああか。俺の靴下探せ。」 朝だから罵声の強さも幾分弱い。心の中にいらいらを持ちながらも、靴下を探す。ない。探す。ない。探す。ない。探す。ない。探す。 なぜ、朝から靴下のことで右肩に重い一撃をくらい、右足に蹴りをくらわなくてはならないのだろう。 「考えてはいけない―――」 頭の中で誰かが命令する。誰だろう。姿は見えないけどいつも諭すように声がする。
|
|