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作品名:真夜中のリーディング 作者:basil

第3回   セッション2−2 星のささやきにのる人々
「はい、ムーンティアラ川村です」
「すみませんスピカですが、鈴木さん、
鑑定の途中で電話を切られてしまいまして・・・・」

 山田祐一という上司が、鈴木さんをどう思っているのか。
 1枚引きで観るつもりだったが、鈴木さんの希望により、
クロススプレッドを使った。
アルファベットのxの形に計5枚のカードを展開する戦法で、
真ん中が主題に対するキィカードとなるのだが、これが大アルカナの「月」。
 左側が鈴木さん。
 過去がペンタクルスのページ(R)。
 未来は節制(R)だったのに対して、右側が山田さんの気持ちをみる。
 過去がワンドのキング(R)に未来はフールだった。
 結論から言えば、山田さんの心は鈴木さんから離れるのだ。
「どうして、どうして彼女と私が比べられるのよ!
 山田さんと私は、前世から繋がっているの!
 だからフールなんて嘘!
 二心なんて、私、信じないッ」
 まだリーディングの途中だが、話の腰を折り怒鳴りつける鈴木さん。
 受話器を当てたままの耳を、凄まじく堅い破壊音がつんざく。
 鈴木さんが力任せに受話器を切ったのである。

 もちろん、鑑定は終了していない。
 お客の都合で鑑定の途中に一端中断する際、5分以内に再度繋がれば
継続扱いになる。
 リダイヤルでかけ直したが出ない。
 仕方なく3分ほど待ち、もう一度かけ直す。すると今度は話し中。
 おそらく別の店の、霊感系占い士の所にでもかけたのだろう。
 鑑定の途中怒った客がいきなり電話を切るなんて事はざらにある。
 いちいち気にしていたら始まらない。
 とりあえず、ムーンティアラに連絡を入れた。

「じぁあ鑑定時間終了の確認をされていないのですね」
「そうです。
 確認はしていませんが、すみません怒らせてしまったようで、
電話を切られた時間は、24時52分です」
「それでは24時05分スタートの24時52分ラストですね」
「はい」
「後程こちらから 鈴木さんにはご連絡しておきます。
 先生、あまり気になさらないでください。
 鈴木さん、少しでも鑑定に不満があると、すぐ電話を切られて
別の鑑定士を依頼するか、あるいは別の店に電話してしまわれるようなんです。
 先日も若葉先生を指名されたのですが、やはり鑑定中に怒ってしまわれて。
 今日は既に別の電話占いに観てもらって、それが納得できなくて
先生を指名されてきたようなんです」
 落ち着いた口調で説明する川村さん。
「まぁそんなところでしょうね。
 占ってもらうというより、自分の思い描く筋書きの後押しか後ろ盾が欲しいから、
あっちこっちに電話するんでしょうし」
 うすうすそうだとは思っていたが、川村さんの説明で、
鈴木さんが占い依存症になっている確証が持てた。
 電話を切ると25時(1時)15分。
 今日の待機予定は26時までだから、後45分。
 何事もなく過ぎてくれれば、休める。
 テーブルには、先ほどの5枚のカードが出ていた。

 大アルカナの月。

 天空の月は2時間に一度進む。
 そして新月から満月。さらに新月へと変化する月は、その性質とリズムから
人の心を観る星として、占いの世界では重視されてきた経緯がある。
 タロットでは二つの心・不安定・迷いといった暗示があり、
現実感が薄く、幻想的な意味が強い。

 山田さんの心には自分と山崎さんの二人があり、常に二人は比べてられている
と思っている鈴木さん。だが、果たしてどうなのだろう。
 これまでも何回かこの男性の心を観ているが、山崎さんについては
「女教皇」や「コインの3」しか出ない。
 職場仲間。信頼の置けるまじめな人とは観ているが、友情以上の発展はない。
 恋愛の対象外なのだ。
 山崎さんではなく、全く別の女性が存在するのではないかと言っても、
鈴木さんは納得しなかったし、それどころか、自分と山田さんに恋愛はないと、
言い切っていたのである。

 カードをまとめている時、再び電話が鳴った。
 25時30分。正直気が重い。
「はい、スピカです」
「ムーンティアラの田島です。 
 先生、すみませんが御鑑定よろしくお願いします」
 嫌とはいえない。
 実際、待機終了前の電話をひどく嫌うベテラン鑑定士も多く、
中にはご指名でも拒否する人もいて、こちらにお鉢が回ってくるケースも少なくない。
「タロットご希望のお客様で、あまりお説教にならない先生をご希望です。
 小川浩二様。
 相談内容はお仕事についてです」

1980年4月27日生まれの27歳かぁ・・・。
 もう既に5日になっているとはいえ、平日深夜。
 明日のあるサラリーマン男性がかけてくる時間ではない。

 そんな単純な疑問は、彼と話してすぐに解けた。
「先生こんばんわぁ、小川と申します」
 通りのいい柔らかい声。ホスト君だ。
「はじめまして小川さん。
 ムーンティアラのスピカです。まずお時間確認ですが、
 2008年3月5日。午前1時40分。よろしいですか?」
「はーい。よろしくお願いします。
 さっそくですが先生、僕は渋谷にあるスターダストというお店で
ホストをしていますが、僕を指名してくださるお客様の中でも、
特に気になるお二人の方、山内恵美子様と小島清美様について観て頂きたいのです。
 お二人に面識はありません。
 山内様は実業家の奥様で、月に3〜4回ほど来店される方。
 小島様はまだ30代そこそこでお若いのですが、世田谷でお店を経営されていて、
やはり一月に3〜4回はほどお見えになります。
 ホワイトディの時にもお見えになると思いますが、日が重ならないでしょうか、
また、プレゼントはお気に召していただけるでしょうか」
 
 王子様ブームの世の中。
 ホスト君で成功する素養の声音と言い回しを持つ小川君。
 女性を和ませる術を持つ彼は、さしずめ星空王子といったところか、
 さっそく占ってみた。

「まず実業家の奥様、山内さんですがコインの2。
 頂き物も嬉しいけれど、貴方からのメッセージを喜ばれるでしょう。
 貴方からのメッセージ次第で、この方はお店に行く日を決めると思います。
 お若い小島さんの方は女帝。
 強いラブカードが出ています。
 ホワイトディは彼女自身、かなり期待しているのでしょう。
 贈り物ももちろん、貴方を目指して来店されるでしょう」
「ホントーですか、やっぱそうなんだ!
 やったー逆玉確保だ!」
「逆玉?」
「あっ、すみません、ついはしゃいじゃって。
 実は今日この内容で観てもらうの、先生で3件目なんです。
 山内さんは僕からの連絡次第だから日時をズラせる。
 そして清美さんへのプレゼントはね、僕自身。
 彼女が望んでいた貸しきりデートってヤツを、
ホワイトディの午後からしてあげて、そのまま同伴を考えてたんです。
 とにかく羽振りのいい方だから、抑えたいんですよ。
 でも霊視と霊感の先生が同じ答えはわかるけど、すごいや、先生も同じだなんて。
 これなら上手くいくなぁ、明日誘ってみますよ。
 もしかして先生、実はすごい霊感あるんじゃないですか?」
「いや、まったくないよ。特に霊視は無理だね」
「ふうん、でもすごいなぁ。
 打ち合わせも何もなしに同じ事、普通いえないッすよ。
 それじゃありがとうございます。締めてもらえますか?」
 結果も見ないうちに、自分の腹の中を裏書きをするような
鑑定内容に満足したらしい。最初の口調からかなり崩れては来たが、
上機嫌なのは早く閉めたいこちらにとっても、願ったりかなったり。
「今26時5分だから25分間ですね。」
「そうだ!
 これうまくいったら、先生たち呼んで店で占いイベントしてもらおうかな。
 あ、何でしたら一度来ませんか、
 綾夫って指名してくれればいいですよ」
「どうもありがとうね。
 よきホワイトディをお迎えください。
 それではおやすみなさい」
 あきらかに向こうは何かしゃべりたがっていた。
 華やかには見えるが、彼らの世界も浮き沈みの激しい業界だ。
 常に新しい客をプールしたいという営業根性も入っているのだろう。
 が、こちらも夜の商売であるし、対面鑑定でない限り占い師と
客が会わない方がいい。
 
 ムーンティアラに最終報告の電話を入れると、田島さんが出てくれた。
「スピカ先生お疲れ様でした。
 あれから鈴木様には連絡してるのですが、まだ電話が通じないのです」、
「つまり付き合ってる占い師がいる訳ね・・・・」
 26時=午前2時。この時間を過ぎているのに、まだ終わらない占い。
 どんな占い師か知らないが、その人は鈴木さんが納得するまで
同じネタで何度も占うループにはまっているのだろう。
「そうですね。一日に何軒かはしごされる方ですから」
「今さっきの小川さんもそうみたい。
 私で3人目らしいよ」
「そうですか、最近そういうお客様が増えられましたね」
「とりあえずこれで終わります。
 お休みなさい」
 大きなクレームもなければ、多少困りはするが厄介な客というほどの人もなく、
今夜は無事終了。
 しかし明日はまた、どんな客が来るかわからない。
 難題も困るが、他の占い師が観たものに対して苦情処理的な占いや、
何を言っても納得しないのが何より神経を使う。
 カードを片付け、ふとベランダの外を見ると、
明るい夜空の奥に、星々がささやくように輝いていた。


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