四柱推命・九星気学・風水に易。 算命学にインド占星術。 ルーンにカバラ。 西洋占星術にタロット・・・・・。 洋の東西も問わなければ、 太古の時代からハイテク器機に満ちあふれた現代に至るまで 占いは続いてきた。 そして・・・・・・・・。 当たる? 当たらない? 話を持ちかける相談者も、相談を受ける占い師も この二つに終始恐々とするのは、今も昔もかわらないのかも。
当たればそれで幸せになれるの? 外れたら本当に不幸なの?
そんな疑問が頭の片隅をよぎる。 それを誰に尋ねることもなく、 今夜も私は、ムーンティアラの鑑定士スピカとして、 相談者の問いかけに78枚のタロットカードをめくる。
「ねぇ先生、どぉ? 石川さんと鈴木さん、私のことどう見てる? どっちと付き合った方がいいかしら」 気になる男が二人いる。 二人それぞれが自分をどう思っているのか、 これから先どうなるのか観てほしい。 あまりにも月並みな相談内容に対し、タロットカードをシャッフルして テーブルに三枚ずつ並べるのだが、質問者の加藤圭子という五十代の女性は、 受話器の向こうから結論を急ぐ。 声音の中にゆるい艶があるのは、男性遍歴の証だろうか。 電話鑑定と違い観てズバリの対面鑑定なら、カードが目の前に並ぶのだ。 こんなふうにせかされるような手間ないんだろうなぁ〜。 テーブルにカードを並べて開いた途端、 「塔」とか「死に神」とかが出て、 怒り出すお客もいるから、対面だけがいいとは絶対にいえない。けれど、 電話占いは電話占いで、向こうもこちらも見えない分のもどかしさや、 めんどくさがある。 とはいえこれも仕事(通信料金は無料だけど、鑑定は一分200円。 そのうちの50円はこちらの取り分だ)。そして紛れもなく占いだ。 テーブルに並ぶタロットカードを見定めてから、私はリーディングを開始した。
「石川さんは過去が悪魔。 お二人は不倫の関係、かなり濃密であったことを示しています。 現在はカップの7。 あなたを取るべきか奥さんを取るべきか、あるいは他の女性なのか、 大事ではないけど迷っている状態。もてる方なんでしょ?」 「えぇ、それはもう石川さん、いい男だし、実家は地元の顔効き企業。 妹さんがひとりいるだけの御曹司だから、お金もあるし太っ腹だから 学生時代の頃から女の子にはもてたわよ。 跡継ぎ社長になった今も、それは変わらないわね。 ご時世的に今不況だけど、お祖父さんの代からのつながりで議員や役人に頼めば、 仕事は何とでもなるから、そっちの悩みもないだろうし、他の女ならともかく、 あの超ダサイ奥さんなんかと私を比べて、彼が悩むなんて事もありえないと思うの。 だってね先生、 さっきも言ったけど、あの奥さんはね、 石川さん本人とじゃなくて、彼のおうちの財力と結婚したんだから。 夫婦なんて世間体でしかないの。まぁその辺に関しては、うちも同じだけどね。」
石川との馴れ初めは高校時代に遡るという加藤さん。 当然奥さんよりも彼との付き合いは長く、その結婚が事業の絡みでの 見合いだった事も知っているのである。 「とにかく石川さん。今は迷っていて特定の人を決められない感じですね。 近い未来が恋人のカードですから、他にも気になる女性があありつつ、 遊び感覚のおつきあいを加藤さんに望んでくるでしょう。」 「そう・・まぁそんなところよね。 この人、いつも私を迷う対象の女として置いているから、 それでいられるならいいわ。 で、鈴木さんは?」 「戦車逆位置。 お二人はしばらく疎遠だったのでしょうか? 思いもかけない場所ででき加藤さんとの再会が嬉しくて、 積極的にアピールされたようですね。 現在が剣の5。執念と征服、損害などの意味がありますが、 お仕事の方で何か抱え込んでいるようですね。 近い未来が力。 愛の力という意味のカードですけれど、加藤さんを振り向かせるために、 あの手この手と魅力を振りまいている感じですが」。 「当たってるわぁ〜。 半年前だったかな。 横浜中華街に行った帰り、東横線のホームでぱったり会ったのよ。 彼ね、広告代理店の営業なのよ。部長かな。 その畑でならしてるのもあってセンスもいいし、石川さんより会話は粋ね。 話していると結構楽しいわ。 女がいるんじゃないかなって思ってたけど、そっかぁ私を振り向かせたいのね」 「お二人を比べて観ますと、鈴木さんの方が、加藤さんへの意識は高いですね」 <もしかして騙されるかも・・・。>カードを見てなんとなくそう思う。 何しろ最終予想が「力」。 愛の力と聞けば響きはきれいだが、手なずけるという意味があるし、 現在の「剣の5」との流れを考えると、アバンチュールな遊びだけには見えない。 だからそう言おうと思ったけれど、加藤さんの言葉の方が早かった。 「ねぇ先生、もう一人みてもらえる?」 「加藤さんがよろしければ観ますけれど、ご希望の鑑定時間を過ぎてしまいますが。」 オペレーターから聞いている加藤さんの鑑定希望時間は30分。 もう25分は経過してる。
「いいわぁ〜。 先生ズバッと言ってくれるし、話しやすいからお願いしまぁす」 言葉だけ聞いていると、本当に五十代? しかもまがりなりにも結婚をしているとは思えない加藤さんだが、 占いをしてもらう場合、年齢を偽るのは無意味だ。 「山本和夫さんていうんですけど、1950年3月16日生まれ。 ロマンチストな魚座のO型」 こういう場合、だいたい観るのは旦那以外の男が定番。 おそらくだが、夫婦の間は長年機能不全なのだろうし、 当然のごとく旦那の方も相手が居るのだろう。 社会的に観るなら、大問題な不倫。 でも、占いは質問者の知りたいことに対し、答えを出すものであって 社会倫理や道徳の授業ではない。 お客が現実と倫理の間で迷い、そこにふれない限り、 敢えてこちらから触れる必要はない。
シャッフルしたカードを、同じく過去・現在・未来の合計3枚で観る。 タロット鑑定では、テーブルに10枚のカードが並ぶケルト十字という戦法が 有名で、枚数も多いし配置も派手に独特なため、お客も満足度が高いらしく、 対面でも電話でもよく使われる。 けれど並べる枚数が多い分、読むにも時間がかかるので、一分刻みで料金が 発生する電話による鑑定には、今一つ向かない。 それに気持ちを観るだけなら、三枚もあれば十分。 「過去が金貨の10。 古いお知り合いですか?良好なご関係でしたね」 「父親同士が町内会で顔なじみだったから、いわゆる幼なじみ。 大学卒業後大企業に就職して、ずっと海外勤務だったんだけど、 二ヶ月くらい前に帰って来て、近所のスーパーでぱったり再会。 お子さんがうまれたばかりかな? 奥さんがハーフで美人だから、男の子なんだけどすごく可愛いいの」 「現在が審判。 加藤さんとの復活愛のカードですが、 未来がカップの2。 お二人の親しさは継続しますが、小アルカナカードですので、 強く燃え上がるほどの仲に発展するとはいえませんね」 可愛い男の子のお父さんと、この加藤さんは現在不倫中 (その前の二人もそうなのだが)なのである。 しかし、カードの並びは前の二人より平和な状況だ。 「そう、まぁいいんだけどね・・・」 それまで乗り気だった加藤さんのトーンが下がる。 「どうかなさいました?」 「どういうわけか・・・昔も今も、身体が今一合わないのよ」 ため息と同時に落ちた一言に実感がこもっていた。 「・・・山本さんね、初めての人なんだけれど なんか・・・その時からしっくり来なかったのよ。 全く初めてでしっくりも何もないのに、その後石川さんと付き合って、 他の人とも寝たんだけど、それで確信したわ。 どうも山本さんだけが、肌を合わせたフィット感が違うって。 それがこの前久々に再開して寝て、経験地は上がってるけど、 やっぱり合わないのよ。 ねぇ先生、これって変かしら」 これ、どえらい話にも聞こえるが、話す本人は実に真剣だったりする。、 「いいえ」 私はあっさりと否定した。 加藤さんのように、あまり罪悪感を感じないまま、 複数の異性たちと不倫を続ける人というのは、男女どちらも存在する。 鑑定の際に、肌を合わせた時のフィット感のあるなしを口にする人も、 加藤さんに限らずいる。 まるでSEXが皮膚呼吸しているような男女の仲。 加藤さんの話を聞いていると、なんとなくそう思えてくる。 『合わない』 といいつつ、加藤さんの意識には山本氏の存在が大きいのだろう。 「ホント?」 「加藤さん以外の方でも、『肌のフィット感が合わない』という 悩みをおっしゃる方はいらっしゃるんですよ。 きっと肌感覚に素直な感性をお持ちなのだと思います。 占いに戻りますが、お三方の中でアバンチュールな時間を 共有できるのが石川さん。 華々しさは求められませんが、穏やかに進むのが山本さん」 「鈴木さんは、石川さんより私への意識が高いんでしょう?」 「はい。但し、力のカードですし、二枚目のカードとの流れで観ると、 楽しくおつきあいというより、加藤さんを自分のペースに引きつけ、 手なずけたいという思惑が潜んでいますので」 「そう、私を手なずけたいの? この私を?それは無理だと思うけれど、まぁいいわ。 それくらい思われているなら、女として嬉しいものよ。 三人ともさほど悪いものが出てなければいいんだから。 締めていただけます?」 調子のいい話には気をつけて。 そう続けようとした言葉を遮る加藤さん。 釘差しや説教と感じる気配は、反射的に遮る性質なのだろう。 だいたいこの手のタイプは、1年以内にトラブルに巻き込まれ (結構本人が引き起こす事も有り)、大騒ぎして電話をかけてくる のがオチだ。 「わかりました。ご鑑定所用時間を確認します。 23時35分スタートのラスト24時25分で55分間に なりますが、よろしいですね」 「えぇ、いいわ。」 「それでは後ほどオペレーターより電話が入ります。 ありがとうございました」 途端にガチャリと、受話器が切れる音がした。 鑑定時間は55分。 今時だから、通話料はかからないけれど、鑑定料金として1分200円。 だからちょっとでも長引けば、結構いい金額を払うことになるが、 それでもかけてくるお客はいるし、鑑定が長引くこともある。。 最近はメールにチャット鑑定も増えたが、電話の気軽さに PCスキルは関係ない。 鑑定所要時間を、店に伝える作業は手間だが、 報告電話をこれも業務の内。
「ハイ、ムーンティアラ田島です」 明るくあっけらかんとした、元気な女性の声が耳に響く。 「スピカです。加藤さん鑑定終了しました。」 「あら先生、加藤さん割と早く済みましたね」 「えっ?」 「男関係派手な方で、相談が多いのは結構なんですけど、 お相手に気がないとか離れるというのが御納得されないみたいで、 あぁでもない、こうでもないとうるさく言われる上、鑑定料が高い とクレームつけて電話切りませんから、 苦手とする先生も多いんですよ」 「あっそう・・・・」 必要事項を伝えて電話を切ると、LDKはアルファ波音楽に包まれた 静かな空間に戻る。 どうやら深夜から雨模様といった天気予報が当たったらしい、 穏やかな曲とは別に、宵闇から落ちる雨音が耳に届く。。 冬の深夜に落ちる雨は気温も下げるのか、どことなく寒い。 エアコンの室内温度を上げ、床暖房をオンにして時計を確認すると、 25時に近づいている。 今日は二月十日。 ミルクが沸くのを待つつかの間に、紅茶缶を開けると、 ベルガモットの香りが、IHクッキングヒーターの周りに漂った。、 うお座にいた月が牡羊座に移動。 晴れてさえいれば、夜空に三日月と呼ぶにはスリムな月が見えただろう。 水星は相変わらず逆行中だ。 土星に位置する乙女座と木星が位置する山羊座はどちらも土属性。 慎重・堅実といえば聞こえはいいが、ともすれば保守的になりすぎて、 物事に対して内向きのまま動かない。 物事すんなりと進まないと感じる人は多いだろう。 再び電話からカノンのメロディが流れる。 「はい、スピカです」 「おはようございます、ムーンティアラの斉藤です。 スピカ先生、ご鑑定お願いします」 調子のいい田島さんと打って変わって、落ち着いた斉藤さんがオペレーターだった。 やった!この人なら、「霊感占い」を希望する客は回さない。 「ご指名のお客様。鈴木美幸様です」 「だったらデーターは大丈夫だけど」 ちょっち、気が重い。 「わかりました」
10分間の休憩。 ミルクティを飲み終わる頃、鈴木さんに電話を入れる。
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