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作品名:Vampiregirl 作者:ブナ

第3回   第三回
実を言えば、銀成高校に通うことを決めたのは、東月寒で今のマンションを見つけてからのことで、順序が逆なのである。マンションが気に入り、そこからあまり離れたところに通いたくなかったので、銀成高校を選んだのだった。しかも私立高校ならば、進学校の公立よりも面倒な受験指導や生活指導などに煩わされることもないと思った。
 北海道の札幌市に生活の拠点を求めたのは、空気がきれいだったからだった。それ以前の住まいが首都圏の東側や都内であったため、体質上、どうしても湿気の多い気候や時々発生する光化学スモッグに耐えられなかったのだ。今まで行ったことのない土地に行きたかった。だから、札幌駅から地下鉄に乗り、ひと駅ごとに降りては、駅前の不動産に当たるということを繰り返した。今のマンションは、そういう過程の末に見つけたものだ。
 ここに決めるとき、何よりも決定的となったのは、駅前の不動産屋に車でマンションの下見に連れて行ってもらう途中、窓から見つけたスーパーだった。バス通りを右に折れ、アンパン道路と呼ばれる細い道に入っていくと、二四時間営業の小さいスーパーがあったのである。
「変わった名前のスーパーですね…」
思わず窓から身を乗り出すようにして呟いた桜花に、不動産屋の若い社員は笑って言った。
「今時珍しいでしょう? あんな小さなスーパーがまだあるなんて。 つぶれないように頑張って二四時間営業にしたんでしょうね。とはいっても、もうすぐつぶれそうな予感もしますが」
 思わず本音が出たということだったのだろうが、言ってしまってすぐに、自分はいまこの近くに住まいを決めようとしている客を案内しているのだということに気づいたらしく、あわてて言い足した。
「でも、きっとまだつぶれませんよ。 あなたが頻繁に利用するようになれば、たぶん大丈夫です」
 フォローともとれる社員の発言に桜花は薄く微笑んだ。
「なら、大丈夫だと思います。かなり利用すると思いますから」
 小さいのはともかく、そばに一日中やっているスーパーがあるというのは嬉しい。だから、以前はコンビニの近くに住むことも考えていた。だが、きちんと整備されたコンビニエンスストアというものは人々をひきつけるものだ。そのため、その周辺の部件はなかなか手に入らなかった。
「このスーパーは、個人商店なんですか?」
「いいえ、何ヵ所かにあるみたいです。僕はこれ以外見たことないですけど」
「じゃ、すぐになくなることなんてありませんよね?」
「ないと思いますよ。実は結構利用する人は多いみたいです。貴重ですからね、二十四時間営業のスーパーなんてのは…」そう答えて、不動産屋の社員はちらりと桜花の顔を見た。
「さっきと言っていることが逆みたいですけど」
「すみません、つい。僕自身は何でつぶれないのかいまだに謎なもので。一体どんな人が利用するんですかね? わざわざ夜遅くに買い物する人なんているとは思いませんけど」
「……」
「怒りました?」
「いえ、別に気にしませんよ」
 こうして桜花が借りることになったマンションは、例のスーパーから歩いて十分しか離れていなかった。今年の6月までは、「世界のビール祭」と称して世界のあらゆるビールを所狭しと店内に並べていた。しかし、値段が高いため買う人はほとんどいなかった。桜花は、暇を見つけては店の商品を眺めにいっていたので、売れ残ったビールは一番愛してくれた彼女に所有の権利がある、という店長の独断と偏見のもとで桜花に贈られることになった。夏が来ると、不動産屋の言ったとおり、いや言っていた以上にお客がわんさか来て、とてもじゃないが五分と立っていられない。夏場はだめだ――とあきらめて、夜の街中を歩き回り、警察の補導につかまらないようにひっそりと時間を潰さなければならなくなった。
 そうして見つけたのが、東月寒四丁目の山のはずれにある廃校舎だったのだ。


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