「私を置き去りにしておいて、よく言えたものね」 「無駄口はいいから、はやく降りて!」
手下達が駆け付けた時には、すでに二人の姿はなかった。 彼らは地面に横たわっている自分たちの頭目を見つけると、手を延べあって輿を作り、 森の奥へと運んでいった。 「誓って、誓って」 彼はなおも周囲を震え上がらせるような声で叫んだ。 「お前にジャン・ド・ボールを思い出さずには置かないぞ!」
三日目に、商人は銀貨をつめこんだ袋を携えて、帰って来た。 坂を下ったところで、馬をゆっくり歩かせ、村の広場で停めた。 娘の従姉であるキュアリーが緑色の壺をもって、水を汲みに行くのが見えた。 「へーい、お前はうちの娘といっしょにいてくれなかったのか?」 「叔父さん! それが大変なことになってしまったんです。今頃、叔父さんの家はめちゃくちゃです」 「なに、一体どういうことだ?」 彼女は、昨晩起きたことをなるべくあやふやに説明しようとした。 「怪しい人影が叔父さんの家に忍び込んで、ベッドの下に隠れていました。私は怖くなって逃げ出したんです」 「それじゃあ、わたしの娘はどうなったのだ? 今すぐ助けに行かねば!」 今にも駆け出しそうな叔父を前に彼女はこう言ってのけた。 「それがロズの彼氏だったんですよ。もうわたしびっくりです。もうサヨナラ、サヨナラ、きれいなおねえさん!ってわけ。それで私は家に帰りました!」
「お前、自分がどんなことを言っているのか、分かっているのか?」 彼女はロズウェルが言った言葉を思い出していた。昨日起こったことを絶対に悟られちゃだめ、とロズウェルは懸命に彼女に頼んだのだった。 ここでびびってはいけない、と彼女は思った。
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