彼は一息ついて手で顔をこすると、声の調子をガラッと変えて言った。 「お聞き、カワイイ子ちゃん。私はもう行ってしまうよ。だけどお前さん、私の武器を返してくれよ。もし返してくれないとねえ、カワイイ子ちゃん、そいつは泥棒になるよ。 もし武器を返してくれたら、私は出て行く。約束だ! 誓うよ! ちょっとだけここを開けないか?指切りげんまんしよう!」
「いやよ! 開けるもんですか。もし指切りげんまんしたいのだったら、扉の下から手を出したらいかが?…」 彼は言われたとおりに手を差し込んだ。 「もしお前の白い手をつかんだら最後、なにが起こっても放しはしない!」 彼は心の中でほくそ笑んだ。
ギャーッ――という叫び! 彼はあわてて手を引っ込めたが、手首から先がない。 そして手首からは血が泉のように溢れ出していた。
「ハッハッ、この罰あたりめ! この仕返しは絶対にしてやる、血にかけて! いつかお前がお慈悲を乞うときがやって来る。しかしそれは効かないんだ。商人の娘よ!」 彼は手首を赤の外套で包み、痛みに耐えた。 「もうすぐ俺の手下達が獲物を求めてやって来るだろう! その時がお前の最後だと思え!」 彼はまるで酔っ払いのようにふらふらしながら階段をおりた。 降りた拍子に樽につまずき、地面に転んでしまった。
状況は変化したものの、ロズウェルにはこれ以上なす術がなかった。 使えそうなものがないか部屋の中をあちこち探し回ってみたが、血で真っ赤に染まった短刀とピストル以外なにもない。 ピストルで彼のとどめを刺そうか、と彼女は思ったが、相手は負傷してはいるものの、やり手の強盗だ。簡単に倒せるとは思えない。 ふいに後ろの窓に石が当たる音がした。 急いで駆け寄り、窓を開ける。 「ロズ! そっちに梯子を渡すから強盗さんに気付かれないように登って!」 開け放った窓の下には、逃げたはずの従姉が体を震わせながら立ち尽くしていた。
|
|