この靴が存在する違和感に気づきながらも、キュアリーはそのまま納屋を出た。
二人は夕食を食べて、ワインをほんの指一本分だけ飲んだ。 飲むことで、女二人で夜を過ごす不安を少しでも取り除きたかった。 風が暖炉をふいごのように鳴らし、すべての窓で笛を吹いていた。 二人はパチパチいう大きな火をおこした。 それでも夜がそれだけ明るくなるということはなかった。 「早く寝るのがいいようね」 「ちょっと待って。すこし話しておきたいことがあるんだけど……」 「なんなの?キュアリー」 ロズウェルは首をかしげた。 「本当はだまっていようと思っていたんだけど、実はこのあたりに狐皮のふちなし帽をかぶって、赤茶色の外套を着た強盗が動き回っているといううわさがあるんだって。それがなんとあの有名なジャン・ド・ボールらしいよ。彼は一味とともにこの森をうろついていて…」 「そんな強盗、聞いたこともないわ。その有名な強盗さんと私たちに何の関係があるっ て言うの?」 「実は私、見ちゃったんだ」 キュアリーはつばをごくりと飲み込んだ。 「一体、何を見たの?」 「絶対、怖がるから言わないでおこうと思ったんだけど…」 「だから一体、何を見たの?」 「影だよ」 「影?」 「家の前を忍び足で歩いていた。私の目の錯覚かもしれない。それにあの扉……、あれはきっと閉め忘れていて、風がバタバタさせていただけかもしれない。だけど、もし……」 「もし?」
額に汗を浮かべたキュアリーは、毛編みの長靴下を脱ぐため身をかがめた……。 そのとき、彼女の眼はあるものを捉えた。 燃えるような赤い目だった。 彼女はベッドの下の暗がりで二つの赤い目がこちらを見つめているのを見たのだった。 顔は人間の顔だった。 しかし、目は動物の目だった。 それらは光り、彼女を刺すように見つめていた。 彼女は震えながらまた靴下をはいた。 「わ、わたしの頭巾! 私は自分のナイト・キャップがないと眠れないんだった!取りに行かなくちゃ!」 あわてて部屋を出て行こうとするキュアリーをつかんで、ロズウェルは言った。 「私の頭巾をあげるわ。私のいちばんいい頭巾、お祝いのときにもらった頭巾よ。ねえ、それよりあの扉って一体なんのこと? 早く教えて」 「私、行かなくちゃ…」 「ちょっとこんな夜に、こんなに風が強いのに出て行くなんて気違いざただわ!」 「だめ、だめなの。どうしてもいかなくちゃならないの、どうしても行かなくちゃならないの!」 こう言いながら、彼女はもう部屋の扉を開けていた。 マントでしっかりと身を包み、彼女は転がるように階段を駆け下りた。 「あんた、気が狂ったの?!あんた、どうかしているわ!」 キュアリーはもう闇の中に逃れ去っていた。
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