うっそうと茂る森を二時間も歩くと、ほのかに明かりをともした小屋が見えてきた。 「キュアリー、私よ」 家の扉をたたき、人が出てくるのを待つ。 すぐにランプを持った人影が姿を現わした。 「あら、ロズウェル、ひさしぶり。外は冷えるから中に入って」 「今日、お父さんが市場に行ったの。それで私の家に今すぐ来てほしいんだけど」 「わかった。ちょっと待ってて。用意してくるから」 扉がいきおいよく閉まった。 彼女が再び姿を現わした時には、すでに日が沈みかけていた。 「遅いよ。体がすっかり冷えちゃったじゃない」 ロズウェルの脚は小刻みに震えていた。 「ごめん、ごめん。牛の乳しぼりが遅くなっちゃって。暗くなる前に行こう」
二人は家を出発し、森の奥へと入って行った。 夕陽のかすかな残光は、うっそうとしげる森の中ではないに等しく、真っ暗だった。 枝にとまっているフクロウの目だけがくっきりと闇の中に浮かび上がっている。 「暗くて何も見えない。どうしよう、ロズ」 不安になったキュアリーは彼女の腕にぎゅっとつかまった。 「ちょっと、私より二つも年上のくせに何ビビってるの? どうせこの一本道を真っすぐ歩くだけなんだから、しっかりしてよ」 「わ、わかった。でもなんだかこの森は気味が悪くて……」 たしかに、とロズウェルは思った。 ふいに頭上で音がして、上を見上げる。 カラスか……。 二人はほっと息を吐いた。 だまって歩き続け、ようやく我が家にたどりついた。 二人がかまどのそばに戻ってみると、火は消えていた。 火をもらいに行くには、ここから五百歩もある隣家に行かなければならない。 二人は急いでお隣りへ走って行った。 そのとき扉や窓はすべて閉めたと思っていたが、この家の扉や窓は星の数ほどもあるのだった。
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