「私は自分の目の前で起こったことを言っているだけだわ。私はこの目で、ベッドの下にいた男の目を見たの。兎の目のように真っ赤で、けだものの目のように光ってた」
「その男が私の娘といちゃついていたと言うのか?!」 「信じられないなら、確かめに行けばいいじゃないですか」
商人は自分の家に向かって馬を大がけさせた。 この時、彼は持ち得るすべての理性を失っていた。 彼はひょうが降り、雷がとどろく嵐のような勢いで馬を走らせた。 家に着くと、三段跳びで階段を駆け上り、荒々しく扉を開けた。 ロズウェルは、いつも父が旅から帰って来た時にしていたように、膝をおってスカートを広げ、お辞儀をしようとした。 しかし、今にも蒸気を吹き出しそうに顔を真っ赤にした彼は、こぶしで娘を床にうち倒し、長靴をはいた足をあげて、綺麗に整った娘の顔を足蹴りにしようとした。 「このろくでなしめ! お前の従姉が言ったことは本当なのか? いい男が来て、ベットの下に隠れていたってのは?」 「ハー、そうよ、本当だわ、お父さん。いい男がやってきて……」 「この恥さらし! お前は私の顔に泥をぬったんだ! 村中のうわさになるぞ。 もうだれもお前にお前の手を求めに来ないぞ」 「そんなのお父さんには何も関係ないじゃない。わたしは一生、一人で結構よ」 彼はその言葉を聞いて愕然となった。 今まで手塩にかけて育ててきた自慢の娘が一生結婚しないだと?! 彼の顔は色を失い、しまいにはオイオイと泣き出してしまう始末だった。 彼に同情したのか、ロズウェルはしぶしぶこう言った。 「そんなに男の人の手がほしいなら、わたしはそのいい男の手をお父さんに差し上げるわ」 そういってあの血だらけの手と、ピストルと、テーブルと、短刀をテーブルの上に置いたのだった。
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