「はーっ、やっとコンパ終わった見たいぃ。」
愛美は、片づけを始め次の客を誘導した。
週末なだけに客足も多く馴染みの客も多い。
午後は4時から店を開きラストオーダーが10時半で11時半には閉店のこの店は他の飲み屋に比べて珍しいほど早く閉まる。 なぜなら、4年前やっさんの奥さんが脳梗塞で倒れそれからと言うもの左半身が麻痺し介護が必要になってしまった。 やっさんには子供がいなかった。 夫婦二人で貧しい暮らしからやっとの思いでここまでの店に育て上げた。 それだけに奥さんが倒れたことはとてもショックだった。しばらくの間やっさんも店を開けることが出来ないでいたが、一命を取り留めた奥さんからもう一度店を開いて欲しいと頼まれ、半年振りに再開したのだった。
やっさんは、店を閉めると足早に自宅へ戻る。夕方奥さんを残して店に来るのだ。 もしもの時用に非常ブザーもセキュリティ会社へ登録してある。 携帯もワンプッシュで繋がるようにしてある。しかし、それでも地震や火事があったときの為に近所にも事情を話し、警察や救急車を呼んでもらうように頼んでもある。やっさんは、本当に奥さんを愛していた。
愛美は一言もやっさんから奥さんのことを聞かされていなかったが他の従業員から少し聞いて知っていた。
ラストオーダーも終わり閉店に近付いた。
「愛美ちゃん、今日はお疲れ様。明日また頑張っておくれ。じゃあこれ今日の分。」
やっさんは今夜の日当を愛美に渡した。愛美のバイト代は日払いになっている。 それは、やっさんの奥さんにもしものことがあった時、いつでも清算できるようにするためだ。愛美もそれを承知している。
「ありがとう!店長」
愛美は制服代わりの法被を丁寧に畳みロッカーに閉まった。
外は秋風が心地よかった。今時こんな時間に閉める飲み屋なんてない。どこも24時間営業で人々が入れ替え立ち替えうごめきあっている。
「はぁ、今夜は賑やかだったこと・・。」
愛美はバイクを引きながら、「ふっ・・」とため息をもらした。
いつもの帰り道、ネオンがキラキラしていた。 時計の針が零時を過ぎようとしても人通りは多い。
愛美はふと思い出したように書店の通りにバイクを止めた。 そして店に入った。そこは新書と中古書がそれぞれ販売されており、特に中古漫画本には人だかりが耐えない。愛美は以前頼んでおいた医学専門書が届いたことを思い出し店員に話しかけた。そして、今稼いだばかりのバイト料にいくらか足して支払いをした。
「ありがとうございました!」
明るく挨拶する店員に
「きっとこの人は、私が普通の恵まれた医学生と思っているんだろうなぁ〜・・。できれば苦学生特典図書なんていうのを作って欲しいよ!ったくぅ・・。」
愛美は、片手では持ちきれないほどの重さのあるその専門書をナップサックに押し込み背負った。そして店から出ようとした時、背後から話しかける気配を感じた。
「よう・・」 「・・・?」
「よう、こんばんは」 「・・・」
「あっ!」
愛美の後ろには准一が立っていた。 「えっ?!どうして?ここに?」
「漫画読んでた」 「って・・、ずっと?」
「そう。」 「あれから・・ずっと?帰ったんじゃなかったの?だって・・もうかれこれ2時間近く過ぎてるよ!」
「あぁ、本読むの趣味だしね。特に歴史漫画大好き。一日中立ち読みしてたって平気。」
「へぇ〜、そうなんだぁ。私、今バイト終わってこれから帰るんだけど・・それじゃぁ。」
愛美が店の出口へと振り返った瞬間、店を出ようとした客と背中がぶつかり、准一目掛けて弾き飛ばされてしまった。 准一はとっさに愛美を抱き止めて倒れるのを防いだ。
「あっ、ごめん・・」 愛美は受け止められた准一の腕をそっと振りほどくと少し照れくさそうに誤った。
「別にいいけど・・君って結構小さいんだね・・・」
確かに愛美は大きい方ではない。最近の女性の平均身長は158センチほどであると思うが、愛美は150センチちょっとだ。コンプレックスではないが、やはりすらりとした容姿には羨ましい気はする。
そんな愛美を准一の胸で受け止めた瞬間から運命的な交際は始まった。
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