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作品名:見えない城 作者:ながいみち

第8回   8
「やっさん、今日は賑やかなお客がいるのね。こんな早い時間から騒いでいるなんてきっと学生ね。親の脛かじって、全くやってられないわよ。」

「まあまあ、愛美ちゃん。店にとってはいい客なんだからそんなこと言わないで。ほら!呼んでるよ!オーダー取ってきて!」

やっさんは、50代後半でこの居酒屋の店長で板長である。
愛美のことを娘のように可愛がり、思いやってくれる。
父親のいないことももちろん知っており、何かにつけ気を配り店で残った惣菜なども内緒で持たせてくれたりする。
そんなやっさんを愛美も感謝している。

「はぁい」

そう言って、今日初オーダーを受けに店に出て行った。少なくとも社会人として働いていた一時がある以上、心構えは出来ている。

「笑顔、笑顔・・」と呟きながら、盛り上がるテーブルへ近付いて行った。

「はい!ご注文は?」と、愛美が聞いた。

すると、冬樹が「爆弾揚げ4つ!」と、メニューを指差しながら注文した。

と、同時に鈴木が「あっ!君は!学祭の時の!」

そう言うが速いか愛美の反応が速いか「あっ!ぬーぼー!」

二人は指差し合って一瞬止まった。

「あっ、本当だ!あの時の!ここでバイトしてるの?いつから?何度か来てたけど知らなかったなぁ〜」と冬樹もいつもの軽い調子で話しかけた。

愛美はとりあえずオーダーを聞くと厨房へ伝えに戻った。

なんであいつらがいるのよ・・あっ、そうか。学祭の打ち上げ?焼き鳥売れたんだ。
そういえば昔私もやったっけ、ナース白衣着てチョコバナナ売り。案外好評で打ち上げも港の見える丘公園でランチを食べたよなぁ〜・・

「愛美ちゃん!爆弾あがり!」

「はぁ〜い」

打ち上げコンパの場へ注文を運ぶと、他の客も増え始めたので愛美の仕事も忙しくなった。

「なぁ、彼女、俺らと同じ大学って言ってたけどぉ、名前なんて言うんだろなぁ?学部は?知らねぇ〜よなぁ?」

「おぅ、知らねぇ〜よぉ。まさか新入生でもねぇし。あっ!院生か?それか浪人生?・・・」

冬樹と鈴木はいつも好奇心に駆られいつの間にか酒の肴が愛美の話題に変わっていた。

その時、「医学部だって」と、准一が言った。

飲み会の席にはあまり参加しない准一であるが、今回は冬樹の誘いもあり打ち上げ目的で連れて来られた。

「へぇ〜!そうなんだぁ!女医さんかぁ!」

程よく酔いの回った大柄のケンジがニヤニヤしながら言った。

「俺さぁ〜、結構タイプかも・・。」

「おいおい!ケンジ、始まったようぉ、お前の癖が!」

ケンジは酒に酔うとどうも女ぐせが良くないようである。一度、飲みに行った先で口説いたオネェちゃんがニューハーフでとんでもないことになる寸前で青ざめて逃げ出した経緯がある。

本人が言うには、「それも人生経験。もう二度はないけど、なかなか味わえない体験だった」と、偉そうに話したことがある。しかし、根は真面目で実家が薬局を経営する跡継ぎ息子で口ほどではない。

「って言うかさぁ?なんで准一が知ってんの?おい!」

冬樹はしげしげ准一を覗き込んだ。

「はぁ〜、この間の学際のとき、ほら、お前らがお笑いを見に行った後、焼き鳥食ってて、その時そんなようなこと言ってた。確か・・・編入してきたとか?」

「そっかぁ、編入か?だから知らない顔だったんだなぁ。」

冬樹は頭の中で引き算して愛美の年齢を引き出していた。

「あの子、見た目は小っこくて若く見えるけど、そうなると・・・俺らより少し年上だよなぁ?」

ウーロンハイをグイッ!と飲み干しながら、鈴木が酔いの回った頭で言った。

「確か・・一度どっかの大学出て看護師をしてたとか言ってた。それからここの大学受けたみたい。」

「おい!おい!准一お前、結構あの子に気があるんじゃねぇ〜のぉ?女っ気の無い振りして意外とむっつりだったりして!!!」

酔いの回った冬樹は、悪気も見せず冷静な准一の肩に腕を回してニヤニヤしながら言った。

「おい、准一、お前もそろそろ彼女くらい作れよ!大学4年間が泣くぜ!」

「冬樹に言われたかぁないぜ!お前も居ないくせして。」

「俺はいいさっ。俺には空手がある!その内素早い組み手で仕留めてやるさ!」

夕方早い内から始まったコンパはそろそろお開きに近付いた。

「では、今夜はこれでお開きと言うことで、またの機会を楽しみにしましょう!」と、
元締めの鈴木が最後を締めて、コンパが終了した。
時間は、10時を過ぎようとしていた。

「おい、これからどうする?カラオケ行く?」
地方の田舎の城下町だが、土曜の夜となると町は賑わう。

「そうだなぁ〜、でも、まっ、今夜はこのくらいにして帰るとするか。今ならまだ最終のバスにも乗れるし。」

「そうだなぁ〜、じゃ〜帰ろう!」

学生が多く在住する地域なので田舎でもバスは多く活用されている。いつもならバイクや車で行き来している彼らであるが、マナーは守る学生である。


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