「おい、准一、食ってるか?遠慮すんなよ!お前もしっかり手伝ってくれたんだからぁさぁ〜」
大学から少し離れた、チェーン店の居酒屋に4人はいた。 この辺の学生ならよく利用する一般的な格安な居酒屋である。冬樹たちも数回訪れていた。
「おい!おい!冬樹と鈴木はさっさとお笑い見に行ったくせに、よく言うよなぁ〜、俺たち大変だったんだよなぁ〜なぁ!准一!」
程よく酔いが回って気分良くなっているケンジが准一の肩に腕を回して話しかけた。 「まぁ〜なぁ〜」と、いつものように軽く准一が答えた。
「まっ、そう言うことで、今回の焼き鳥も繁盛したことだし、結果オーライ!ということで。」 その場を取り繕うように冬樹が口を挟んだ。
その時、料理場の裏から「おはようございます!」と女性の声がした。 「やぁ!おはよう!愛美ちゃん!」 厨房の料理人たちが挨拶した。
土日の夜だけ愛美は居酒屋でアルバイトをしていた。時給1150円とまぁまぁであり、人間関係の煩わしい家庭教師をするより気楽だった。
一度就職して二度目の入学の為、母には負担がかけられない。ましてや片親で大学まで出してもらい、途中で退職してしまった心苦しさもあった。その為、奨学金を借りてやり繰りしている。
父親は、愛美が高校生の時進行の早いスキルス性胃がんで亡くなった。 検査入院をしてから一ヶ月も満たなかった。 突然の父の死に母はしばらく立ち直るきっかけがつかめなかった。しかし長女が大学入学をきっかけに下宿することになり、このままめそめそしていてはいけないと振り切り、介護の職に付いた。しばらくは資格を取るために昼夜忙しい時間を過ごしていたが、高齢者の温かい言葉と笑顔に生きる意欲を見つけていった。
幸いに、父親は生命保険に加入しており、私たちの養育費について問題はなかった。しかし、娘を二人大学に行かせ生活を営むには、いくら国公立とはいえ、安い家を1件買う金額は出ていった。
だからこそ、愛美が就職した総合病院を辞めたいと言った時母親は悲しい顔をした。それと同時に、医学部へ再入学したいと伝えた時、さすがの母親も「もういいでしょ?看護師も患者さんを助ける立派な仕事よ、天国のお父さんもきっとそう思ってる・・・。」と言って反対した。
母親の思いとは別に愛美にはどうしても果たさなければならない使命・・いえ!宿命とも言える決意がそこにはあった。
その決意が後々、准一と愛美の運命を左右するとは誰も知るはずがなかった。
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