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作品名:見えない城 作者:ながいみち

第5回   5
焼き鳥の屋台に数人の学生の輪があった。
大抵は同じようなオーラの人種が集まるのだが、准一だけなんとなくカラーが違っていた。

「この焼き鳥、3本ください。」と愛美が注文すると、イケメンとはどう見てもかけ離れたぬーぼー(ぬぅってしてぼうッとした感じ)のような学生が

「いらっしゃ〜い!3本ね。1本は彼女の分、もう1本は彼氏の分、もう1本は・・・??う〜ん!もう一人の彼氏の分!」なんて、冗談めいておどけながら満面の笑みの低音で応対した。

愛美は少し引きながら
「いえ、全部私の分」と、静かに答え代金を渡した。

「どうもありがとうございました!」

一応は丁寧に返答すると、

「彼女、一人?」
と、もう一人の学生が聞いてきた。

愛美は少し迷惑そうに「はぁ・・」と応えると、その場を早く立ち去りたい気持ちで一杯だった。

「ねぇ〜ねぇ〜ここの学生?学部は?彼氏いるの?」
と、これまた鬱陶しいほど食いついてくる。

「取りあえず、愛想笑いをしながら立ち去ろうとすると・・」「趣味はなぁに?一緒に焼き鳥売らない?」と、初めてのしかもお客に向かってありえない質問を投げかけてきた。

愛美はなんて失礼な奴なんだろうと・・つり銭を財布に入れながら振り返ってその学生の顔を見返した。

その顔もどうみても「ナンパ野郎」にはほど遠く、着ている洋服は流行を追う者とはかけ離れ瓦煎餅のような顔をした学生だった。
しかし、憎めないその笑顔に愛美は、「趣味はゲーム、ロープレが好き」と、ついつい引き込まれるように応えてしまった。

「へ〜ぇ〜そんなだ!俺もゲームは好きだよ!今はDSにはまってる!」そう応えると「ねぇ〜!ここの学生?学部は?」と、いかにも友達になりました!と言わんばかりに馴れ馴れしく聞いてきた。

愛美はこれといって親しい友達も出来ていなかったので「うん、まぁ・・そう」と控えめに応えた。

冷めかけた焼き鳥をどこで食べようか、愛美にとって、聞かれてくる返答よりそっちの方が気になっていた。

そうと、気がつくとその学生は「よかったらここで一緒に食べない?」と屋台の後ろの溜まり場を指差した。

そこには、午後の販売用の焼き鳥が積まれており、どう見てもくつろげる場所には程遠かったが、ほどよく焼かれる焼き鳥の香ばしい香りが漂っていた。

「まっ、いっか・・」と、所詮見知らぬ学生同士の他愛も無い会話で時間が潰せるのなら・・・と、愛美は今買ったばかりの焼き鳥を食べ始めた。

周りはスペシャルイベントのステージが始まる時間に近付き、大ホールへ移動する学生たちでざわめいていた。

今年のスペシャルは若手お笑いタレントだ。
昨年は人気デュオでテレビテーマソングに酔いしれた。
やはり、独立行政法人となった故の予算削減であろうか。愛美が昔通っていたしていた大学もさほど有名タレントを呼んだことは無く、大学の意向で常に看護や医療に携わる講演会がせいぜいであった。

「俺!お笑い見たいんだけどぉ、焼き鳥お願いしていいかな?」と、今まで愛美にあれこれ質問していた瓦煎餅顔の学生が苦笑しながら周りの仲間に取り合った。

「仕方ね~よなぁ〜。じぁゃ、俺が焼くとするか!」と、今までこれといって働いていなかったまるで関取のような学生が一声を上げた。

「おぅ!ケンジ!ありがとさん!」そう言うと、瓦煎餅とぬーぼーは大ホールへ消えていった。

愛美は一人で焼き鳥を頬張りながら学園祭のチラシを眺めていた。

その時「君、どこの出身?」と

今まで一人ゲームに集中していた地味な学生がぼそっと、尋ねた。

「えっ?・・・あっ・・神奈川県・・」そう愛美が答えると、

「ふ〜ん。やっぱり。訛り無いもんなぁ。」と、またぼそっと答えた。

他の仲間たちは軽々しく聞きまくっていたのにこいつだけは・・変な奴だなぁと、愛美は感じた。

「ねぇ?皆は何学部なの?」と、愛美がその学生に聞くと、

「薬学」と一言答えた。

「そうなんだぁ。」と愛美は呟いた。

そして2本目の焼き鳥を頬張りながら、
「私、一度他の大学を出て看護師をしてたんだけど、今年からここの医学部へ編入してきたんだぁ。

流石に編入試験は大変だったけど、学費の安さを比べたら私立医大は無理だしね。貧乏学生よ。」と、黙々焼き鳥を食べながら、独り言のように話した。

4月に入学して親しい友達のいなかった愛美にとって自分のことを話すのは初めてだった。
しかも、何の違和感も感じず話せたことは自分でも不思議なくらいであった。

「そう・・。」と、変わらずゲームをしながら返事をする学生はその時初めて、愛美の顔をちらっと覗いた。

愛美は焼き鳥を2本食べると、1本は残して「じぁゃ、おじゃましましたぁ」と言って、その場を立ち去ろうとした。

焼き鳥屋は昼時を迎えて客足が増え、一人の学生ではまかないきれなくなっていた。

「お〜い!准一!手伝ってくれよ!」
と、汗だくのケンジが後ろの准一に投げかけた。

「・・おぅ、しゃぁないなぁ・・手伝うとすっか・・」
そう呟くと、ゲームの手を止めてケンジの手伝いを始めた。

「ふぅ〜ん、ジュンイチって言うんだぁ・・」

愛美は特別、意識する分けでもなく荷物を抱えて既に始まっている大ホールのイベントへ向かった。

「サンキュー!准一、俺もう熱くてさぁ〜!手もアッチチだぜ!」

汗だくで大柄のケンジは大雑把な性格な為、焼き鳥を上手く焼き上げるタイミングが中々つかめず、客から急かされていた。

だからと言って准一も似たり寄ったりで、1時間ほど慌しいピークを過ごした。



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