Warning: Unknown: Unable to allocate memory for pool. in Unknown on line 0
Warning: session_start(): Cannot send session cache limiter - headers already sent in /var/www/htmlreviews/author/10659/10550/36.htm on line 4
見えない城
■ 目次へ
第36回
36
ある日、准一が住んでいたアパートの前を通りかかった時、新しい住人らしき学生が部屋から出てきた。
まだ高校を卒業したてだと直ぐ分かる女子大生だった。
愛美は声をかけることはしなかったが、何となく親しみを感じた。こうして時間は確実に過ぎて行った。
ある日愛美は准一から2〜3日メールが届いていないことに気付いた。忙しくても深夜には必ず着信がある。電話をしようとしたが、病院での仕事を気遣って掛けることはしなかった。一度深夜に掛けてみたが留守電になっており通じなかった。
愛美自身も実習や研究が忙しくバタバタしておりうっかり時間が過ぎるのを忘れてしまっていた。
しばらくしてゴールデンウィークに入り愛美も久しぶりに昼近くまで寝込んでいた。こんな時必ずと言って普段は寝坊助な准一が、休みになると早起きする子供のように愛美を起こしにやって来た。
しかしその准一も今はここに居ない。しかも連絡が取れなくなって十日近く経っていた。さすがに愛美は心配になり疲れきった身体をベッドに入れたまま電話を掛けた。
函館の病院だってゴールデンウィークは休みの筈である。しかしやはり繋がらない。メールも送ったが返信がない。
そんな繰り返しの中昼近くになってようやく愛美はベッドから起き上がった。そして食欲の無い身体にコーヒーを啜り、医者になるには知力より体力が必要だと言うことを思い知らされていた。
「准一・・何しているんだろう・・」
愛美は薬指のリングを見つめながらため息を付いた。
辛い時はこれを見て乗り越えようと思ったが、なぜだか余計不安に駆られる。愛美はもう一度准一にリダイヤルした。ところが今度はさっきとは違い、電波が届かない場所か電源が切れているのメッセージが流れた。
その時、愛美は准一の気配を感じた。 「よかった・・」 その時、何がよかったのかは分からないが、とりあえず携帯が移動している事実に安心した。
もちろんなぜ出られないのかまでは気にはしなかった。それはお互いが固い絆で結ばれ、きっと仕事が忙しく携帯に出ることができないのだろうと思っていた。愛美は少し安心すると朝昼兼用の食事を済ませ久しぶりに街へ出た。
愛美の住んでいる街は観光地にあたりあちらこちら観光客で賑わっていた。しかし一人でいるより気が紛れて少しは楽になった。 しかし「去年の今頃は・・・」とついつい准一と居た頃を思い出した。
愛美はふと気づくと准一とよく行った喫茶店の前にいた。その店は雑誌にも紹介されており目立つ場所ではないものの若者に人気があった。そして思い出に浸るようにその店に入った。やはり店は混んでおりいつものテーブルも他の客が座っていた。愛美は仕方なくカウンターに腰掛ダージリンを注文した。 しばらくして紅茶とその茶葉で作られたバウンドケーキが運ばれた。ここの人気は注文した茶葉のケーキが数限定でサービスとして付くことである。これが絶妙な味で単品では注文できない。その為わざわざ紅茶を頼む客が増えたと言うわけである。愛美もそんな情報に惹かれて訪れた客の一人であった。今日は込んでいる為食べられないと思っていたが最後の一つで味わえることができた。
愛美は携帯を取り出すと、「きっと准一も懐かしがるだろうなぁ」と思いケーキの写メを撮り准一に送った。案の定返信は無かったが愛美は毎日些細もないことをメールで送った。
ゴールデンウィークも前半が終わり中日にかかった。 さすがに愛美は不安になり准一に何度か連絡した。 しかし繋がらない。
個人の小さい病院なら大型連休にしてしまうが、総合病院の場合開業するケースが高い。
そう決心して愛美は准一から聞いていた病院の番号を調べ電話を掛けた。 もちろんできるだけ迷惑がかからないように同窓会の件とか言って繋げてもらおうと思っていた。呼び出しが2〜3回ほどで事務局の職員が出た。愛美は今年採用職員の准一の名前を告げ早急に連絡して欲しいことをお願いした。電話口の職員は丁寧に応対ししばらく待つように言って電話を保留にした。数秒して保留音が切れると同じ声の職員から思いも寄らぬ返事が返ってきた。
「菊本准一さんですね、その職員は4月15日付けで退職されております。」と言う返事だった。
愛美は頭が真っ白になりもう一度尋ねた。しかし何度聞いても同じ応えだった。 「准一が・・辞めた・・」
|
|
← 前の回 次の回 → ■ 目次
■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 4144