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見えない城
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第31回
31
愛美は大学の研究室にいたが准一の父親のことが心配でならなかった。
携帯の音量は最大にし、いつでも出られるようにしておいた。 昼前に准一から今病院に着いたというメールは届いたが、詳しい内容は書かれていなかった。
愛美も余り追及してはいけないと思い、「大丈夫だからね」と短い返信をした。 その後連絡は無く午後11時42分、准一からメールが届いた。「父、亡くなりました。」
愛美はその短いメールに何と返信してよいか分からず呆然とした。
動悸がしてあの10年前の悪夢が甦った。 しばらくして「そうですか。悲しいね。でも私がいつも一緒だから。」と、返信した。
愛美は一人眠れぬ夜を過ごした。 深夜、准一から通夜と告別式の日程がメールで送られた。深夜にも関わらず愛美は実家の母親に電話をし喪服の用意をお願いした。
そして翌日、いつもの通り在来線と新幹線を乗り継いで小田原の実家へ向かった。 母親は愛美の顔を見て直ぐに寝ていないことを察した。
通夜は今夜、習志野で執り行われる。それを聞いていた愛美の母も一緒に焼香へ行くと言った。一度しか准一に合っていないが愛に美とって大事な存在であることを母は感じており、また習志野には昔の思い入れもあったらしい。 ただ愛美にとって母がどうあろうが関係なかった。ただ早く准一に逢いたい。そして抱きしめてあげたい思いで一杯だった。
二人は6時からの通夜に合わせて会場へ向かった。乗った電車の中で二人は言葉少なかった。
すると愛美が「お母さん・・お父さんが亡くなった時どんな言葉を掛けて欲しかった?」と、母に尋ねた。母はしばらく沈黙して「そうだねぇ・・言葉よりもお父さんにもう一度戻ってきて欲しかったね」と呟くように言った。
中学生だった愛美は自分たちの悲しみとは逆に、親戚や知人たちが訪れる慌ただしさに、本当の悲しみを感じとったのは葬儀も終わり父のいない家に帰った時だった。きっと准一たちもそうだろうと感じていた。
だからこそ今はそっとしてあげたいと、愛美は心でそう思った。
式場に着くと沢山の弔問者がすでに訪れ、花輪は外まで並び愛美も母親も生前の人柄を感じ取っていた。
二人が受付に向かおうとした時、後ろから愛美を呼び止める声がした。「愛美?愛美!」それは、よー子だった。
「よー子!どうしてあなたがここへ?」愛美は驚いて近寄るよー子に尋ねた。よー子は同僚の看護師ら数名と弔問に来ていた。
「どうしてって!愛美こそどうして知ってるの!!平柳部長が亡くなったこと!」愛美は、一瞬立ち止まり
「えっ?平柳部長?」と呟き、葬儀名を確認した。
「だって、菊本・・って」そこには菊本彰夫という名が記されていた。愛美はよー子に
「名前が違うよ・・」と言うと「うん、私も今度のことで知ったんだけど、平柳部長は夫婦別姓を名乗ってて戸籍上はお婿さんに入ってるから菊本彰夫って言うんだって。ほら、仕事上いろいろ都合もあるじゃない?」と、よー子は答えた。
愛美は突然知らされたことに気が動転した。「准一のお父さんが平柳部長?そんな筈は・・だって、公務員って言ってたし・・・それとも嘘ついてたの・・・」
准一の悲しみがいつしか自分の悲しみに変わっていた愛美は頭で整理できずにいた。 そう言われると花輪の名には病院名や医師名などが多くみられる。
愛美は母と受付を済ませ後ろの隅に立った。広い式場には親族の他、百名を超えると思われる弔問者で一杯だった。
白い菊や百合で覆われた祭壇の中央に准一の父親、いや平柳の遺影が掲げられている。愛美はその写真を見るなり、込み上げてくる悲しみに襲われ肩を震わせた。
愛美の母もそんな愛美に「准一君もほら、気丈にしているんだから愛美がそんなんじゃだめでしょ、しっかりしなさい。」と優しく肩を抱き揺すった。
愛美は親族席でじっと俯いている准一を見つめた。涙で滲んでよく見えなかったが確かに准一がそこにいた。
その隣には長男らしき男性と母親と思われる年齢の女性、そして妹が座っていた。
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