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作品名:見えない城 作者:ながいみち

第27回   希望
5月末、実習を終えて准一は戻り、少しして冬樹も戻ってきた。

愛美は前期試験に向けて必死だった。准一らも卒業予備試験が何度か分かれて行われる為、うかうか遊んではいられない。しかも研究室のレポートのまとめもあり4年生は忙しかった。

しかし、准一はあるサプライズを計画していた。

それは准一が昨年学年トップで貰った特別奨学金を使って小旅行をするという計画だった。

さすがこの時期だけに長期は無理なので2泊3日で北海道旅行を計画した。ネットで検索しツアーに便乗して現地では自由行動という格安プランだ。

準備万端、愛美のバイトの日を避けて平日に組んだ。大学はお互い欠席しても余裕のある単位の授業を事前に選んでおいた。

愛美は始めはそんな無駄遣いは勿体無いよ、と言っていたが准一の強い押しに根負けして一緒に出かけることにした。もちろん愛美とっては初めての北海道だけにワクワクと楽しみも一杯だった。

「どう?愛美、北海道に来てみて。」
「うん、飛行機乗るのも初めてだったからドキドキしちゃった!でも離陸してからしばらく気圧の関係で頭痛がしていたけど北海道の空港に着いたら治っちゃった!」

約2時間のフライト後二人は北海道の地に降り立った。

「ところで准一?ここはどこの空港なの?」

准一は今度のプランを一切愛美に話していなかった。全てサプライズにしていたのである。その方がより旅行が楽しめるのではないかと思ったからだ。

「ここは、新千歳空港だよ」
「へ〜ぇ、そうなんだ!」

愛美は初めて見る千歳を目の前に爽やかな心地よい風を身体全体で浴び、日頃の疲れを忘れていた。

機内で軽食が出たため二人に空腹感は無かったのでそのまま准一の案内で電車に乗り換え目的地へと移動した。乗り継ぎの為丁度合う時間が無く70キロ足らずにもかかわらず、3時間近くを要してしまった。

しかし、電車の中でも准一は愛美を飽きらせることは無かった。
それは昔、准一が小学校3年から4年の夏休みまで札幌の小学校に通っていた頃の話だった。

この頃准一家族は職員用社宅に住んでおり大自然に囲まれてのびのび生活していた。父親も社宅から職場まで近かったので、時間があるときは兄弟揃ってよく野山へ連れて行ってくれた。

准一も記憶を辿りながら小さい頃遊んだ場所や牧場での体験を事細かに話して聞かせた。愛美もまるでその記憶に登場する主人公のように准一の記憶と重ねながら話を聞いた。

乗換えで二人が乗った夕張線は駅に到着しても扉が自動には開かない。

寒い冬場を想定して発車する時のみ自動に閉まるようになっていた。
知らない乗客はずっと待ったままでその内発車してしまうこともありそうだが、そこが北海道の人たちは違い優しく教えてくれる。

愛美は地元の心優しい心遣いを准一から伝え聞いた。
しばらくして夕張駅の一つ手前の鹿の谷駅で降りた。4時を過ぎていたが未だ日が明るい。しかし閑散とした駅は人気も少なかった。

准一は愛美の手を引いてタクシーに乗った。そして、「ハンカチ広場までお願いします」と告げた。

運転手は「はい」と答えると数分の道のりをどこから来たのだとか、今日はどこへ泊るのだとか色々訪ねてきた。

准一たちは嫌がらずに答えた。そして、「あっ、そこで止めてください」と言うと、「少しの間ここで待っててください」と頼み愛美と二人で歩いて行った。

准一は愛美に話し続けた。「ここは昔、幸せの黄色いハンカチという映画のロケ地になって夕張では名所なんだ」と説明した。

愛美もそんな話をどこかで聞いたことはあったが、昔のことであまり興味はなかった。しかし准一は歩きながら話した。

「物語は網走刑務所に長いこと服役していた男が、出所を目前に妻に手紙を出すところから始まるんだ。男はもし今でも自分のことを待ってくれているのなら、黄色いハンカチを家の前に出しておいてほしいと書いて出すんだけど、出所後不安ですぐに帰れず様々な人たちと出会い、勇気付けられ悩み苦しみやっと決心して家に帰り着くまでを映画にしたストーリーなんだ」と話した。

そして愛美に聞いた。「愛美はその結果はどうだったと思う?」と准一が聞いた。愛美は、「そうね、黄色いハンカチはあったと思う。」と答えた。

准一は角を曲がるとそれを指差した。そこには何十枚もの黄色いハンカチが今も吊るされ風になびいて訪れる観光客に感動を与えていた。

愛美は見たこともない映画のワンシーンを思い出すようにその主人公の男の感動とずっと夫を待ち続けた妻のひたむきさを感じた。

「凄い愛情だね・・・」愛美は言葉にならなかった。准一も愛美をぎゅっと抱き寄せると、「僕たちもこの幸せの黄色いハンカチのように永遠に一緒にいようね」と呟いた。


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