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作品名:見えない城 作者:ながいみち

第22回   22
初めて二人が愛し合った出来事は、まるでロシアンルーレットのような一か八かの賭けにも似ていた。

これから医師を目指す愛美にとって今妊娠することは絶対にまずい。だからと言って安易な中絶には反対である。

そんな複雑な思いが生理不順を招き結局セーフであったが二週間遅れてしまった。准一もこれに反省してその後からはちゃんと避妊するようになった。

それからといものの、准一の愛美に対する愛の表現は言葉では言い尽くせないほど、愛美を絶頂の快楽へと誘った。

そして愛美は気付いた。

「なぜだろう・・」准一が愛してくれればくれるほど、平柳のことを思い出してしまう。確かに私を女にしてくれたのは平柳である。しかし・・別れてもう二年だ・・。

愛美は不思議に感じた。しかし准一への愛は変わることなくその愛を受け入れて行った。




しばらくして初めてのイブの夜、愛美はバイトを休んだ。どうしても准一と過ごしたかった。やっさんも少々困っていたが、快く受け入れてくれた。

そして愛美の部屋で手作りのケーキとチキンを焼いてノンアルコールのシャンパンで乾杯した。

その夜、愛美は准一に尋ねた。
「ねぇ?どうして私と付き合おうと思ったの?もっと綺麗で若い子がいるのに?」
「えっ?!愛美は充分綺麗で若いよ!僕が好きなんだからそれでいいんだ。」

「以前は彼女とかいたんでしょ?」
「・・・いないよ」

「面食いなんだ!」
「違うよ・・そんなことない。ただ・・・気に入る子がいなかっただけだよ。」

「そうかなぁ〜??」
愛美はこういう時ばかりお姉さん振って准一を問い詰めた。
「それじゃぁ〜、教えて?!愛美の元彼のこと。」

愛美は一瞬止まった。
平柳のことは誰にも話していない。話すどころか自分自身で既に消し去った男である。だから思い出して話すことは決してしたくなかった。

「いいよ!私が話したら准一にも質問していい?」
「オッケー!」

「私の元彼は・・・実は前の大学の准教授でしたぁ〜!」
愛美は嘘をついた。しかし年上の男性という点だけは共通性をとった。

「半年付き合あったんだけど、奥さんにばれちゃって・・それで別れたの」と、わざとらしく笑顔を作って応えた。

准一は「ふ〜ぅん・・そなんだぁ・・」とさらりと流した。

愛美はこれ以上、掘り下げられた困るので准一の話題に切り替えた。

「じゃー今度は准一の番ね。いい?」
「うん・・」

「准一が大学に入学するまでのこと話して?」

愛美は今まで准一の詳しい生い立ちは聞いてなかった。ただ、小さい頃は親の仕事の都合であちこち転校していたから友達がいない、と言うことと兄と妹が居るということは聞いていた。

准一の顔が少し強張ったが、シャンパンをグィッ!と飲んで話し出した。
「出生地は大阪で転校は5回、親友は一人で父は公務員、母は無職。そんなとこかな。」

「えーーーっ!それ何よ!全然分かんないしぃ〜!」
愛美はあっけに取られたが、むしろ准一らしく噴出しそうになった。

「では、質問を続けます!転校はどこへ行ったのですか?」
「大阪、北海道、千葉、福岡、千葉」

千葉・・・愛美は思い出していた・・。平柳の奥さんのことを。同じ千葉なんて偶然だろうけどやはり気持ちが揺らいだ。

「ふ〜ん、日本全国だね。それじゃぁ、友達も出来ないよね・・。でも、転校生ってもてるし頭いいし、人気あったんじゃないの?」

「全然。友達が出来る前に転校だからね・・。」
「そうかぁ〜、私なんて一度も転校したことないから分からないけど、何となく羨ましく感じちゃう。」

「・・・」
准一は喉が渇くのか、ウーロン茶をグラスに入れて飲んだ。

「じゃぁ〜もう一つね。お兄さんってどんな感じの人?妹さんは?」

准一は軽くため息をついた。
「妹は中3、兄は・・・・」

准一は少し間を空けた。愛美は准一の顔を見返した。

准一は両手を枕にして目を瞑り天井を向いていた。

「あっ・・・聞いちゃいけなかったかなぁ・・・黙秘権あるからね。」
愛美はとっさに話題を変えようとした。

しかし、それを遮るように准一が話し出した。
「愛美、これから話すこと冷静に聞いてくれよな。今まで親友にしか話したことないんだ。愛美が二人目。いいね。」

愛美は真剣な表情の准一をみて、「うん・・・分かった・・」と小さくうなずいた。

「実は僕の兄貴は、高1の時家庭内暴力で荒れてたんだ。僕が中1、妹が小3の時。それまで父の転勤に付き合わされてあちこち転校してたんだけど、とうとう兄貴が切れちゃって・・。それまではすっごく優しかったんだけど・・・。それと高校入学で自分が本当に行きたかったところを無理やり親に変えさせられてね。合格して入学したけど直ぐ不登校になって。挙句に暴力。仕方ないから母親の実家の千葉県へ定住したんだ。しばらく兄貴は同じ状態だったけど、2年留年して違う高校に入学してやっと落ちついたんだ。だけど父親は仕事があるから千葉に住むわけにもいかず、今は単身赴任。妹は特に兄貴のこと慕ってただけに暴力が始まってからは失語症にかかってしまって今も決して言葉を話そうとはしないんだ。でも普通学校へ通ってて今は中3。来年高校受験なんだけど・・どうするのか・・。」

愛美はどう応えてよいか分からなかったが、准一が家族を思っている気持ちは分かった。兄妹、そして両親。

愛美は尋ねた・・。「准一はどうだったの?」

「僕・・?」

少し間が空いて・・
准一は枕にしていた腕を顔に当て交差し表情が見えないようにして応えた。
「・・・怖かった・・し、寂しかった・・・。」

その声は精一杯喉の奥から発せられた。

「准一・・・」

愛美は必死で涙を堪える准一に覆いかぶさり抱きしめ「もういいよ、応えなくて・・・
もういいよ・・

准一には私がいるから・・ずっと一緒だから・・・。」
愛美は准一が今まで頑なに心に秘めていた気持ちを全身で受け止め、そして決して離れることない未来を見つめた。

イブの夜に分かち合ったそれぞれの心の痛みは二人の永遠の誓いとなっていった。



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