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見えない城
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第16回
心の城
学会から戻り、忙しい毎日を過ごしていた。平柳との一晩も嘘のように一ヶ月が過ぎようとしていた。
「はい!皆さん集まってください!新人看護師は今日で4ヶ月の研修期間が終わりれっきとした職員となります。だからと言って気を緩めることなく患者さんに対して誠意を尽くしてくださいね。」
と、看護婦長から激励が言い渡された。 今までと違うところは今日から当直勤務が始まることだ。 この総合病院には数百人の看護師が勤務している。3交代で勤務表が組まれる為、1ヶ月先まで予定が埋まる。
愛美も今日から一人前の看護師として仕事を任せられるのでその思いは計り知れない。父親がガンで入院し、とても辛い日々を過ごした母にいつも優しく支えてくれたのが看護師であった。 多くの患者と向き合って最期を看取った数も少なくない。だからこそ患者家族の気持ちも分かってくれた。愛美もそんな看護師に支えられた。 だからこそ恩返しをしたく看護の道に進んだ。
「はーっ、やっぱり精神的にストレス溜まるよね・・」とよー子が言った。
「どうして??好きでなった仕事でしょ!」
「そうだけどぉ、やっぱり自由に遊べないしさぁ〜」
よー子には大学時代から付き合っている彼氏がいた。同じ大学ではなかったが、就職も同じ地域だったためそのままずるずる付き合っていた。 しかし、よー子の勤務が不規則なことから時間が会わず最近はご無沙汰のようだった。
愛美は平柳との関係から2ヶ月が過ぎようとしていた。 院内ですれ違う時には挨拶はするものの、医科部長であるため職務上忙しい毎日を送っている。愛美に話しかける余裕すらない毎日であった。
そんなある日、愛美が日勤で定時に帰ろうとした時、平柳から小さなメモを渡された。平柳は軽く微笑んでそのまま立ち去った。 裏口から帰ろうとした愛美は辺りに誰もいないことを確認してメモを開いた。
そこには「明日、遅番だね。私も久しぶりに定時に帰れそうだからここへ来て欲しい。西区桜木町・・○○マンション703号 ロック番号3C7○(私が戻っていなかったら入ってて)」と、書かれていた。
「えっ!これって部長のマンション?!」
平柳から自宅のマンションを告げられたのだ。 しかも平柳が帰っていなかったら部屋に入っていいと・・。 愛美は戸惑った・・。いつも突然惑わされる。初めての時もそうだった。洗面所で突然・・。
「でも、どうして明日遅番って知ってるんだろう・・・。そっか、勤務予定表は医科部長も把握してるんだ・・。それで・・・部長が私に合わせてくれたのかしら・・・」
愛美は心がトキメキ嬉しく心が弾み薄っすら微笑んだ。
遅番は夜9時に終わり、翌日は当直で午後出勤になるため、ゆっくり泊まれることになる。平柳も定時に帰れるということなので、緊急の呼び出しが無い限りは翌日通常出勤なのだ。二人が時間を合わせられる唯一の予定をこの日に平柳が組んだのだった。
自分のアパートに戻った愛美は明日のことを考えるとワクワクしながら、あの学会の夜のことを思い出していた。
翌日は緊急の外来もなく無事一日が終わった。
医科部長ともなると定時すらも不規則になる。もちろんそのことは平柳自身も想定範囲内のことだからこそ、愛美の遅番を選んだのだった。
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