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作品名:見えない城 作者:ながいみち

第11回   11
愛美は看護師になってから一度恋に落ちたことがある。

恋愛と言えるかどうか分からないが、確かに相手を愛していた。
学生当時は女子が多かったせいで付き合うきっかけがなかった。
しかも当時テニス部に所属していたので遊ぶ暇もそれほど欲しいとは思わなかった。

しかし卒業後、不安な新人看護師の愛美に当時の医科部長がとても親切にしてくれた。父親を亡くし大人の男性として感じた初めての男だった。
そして二人がお互いを受け入れるにはそう長い時間はかからなかった。


学会の為、医師らが大阪へ出張することになった。医科部長となればその名目で病院側から数名の看護師を同席することができた。その中に愛美がいた。

1泊2日の強行スケジュールではあったが、愛美にとって看護としての使命感を各現場から聞くことができるよい機会であった。

それに常に良きアドバイスをしてくれる医科部長のご指名とあり、周りから羨ましがられる小さな噂はあったものの、特別今回に限っての学会でもない為、新人研修を兼ねての安易な抜擢と周りは感じていた。

しかしその後・・・二人が特別の関係になるとは・・・誰も知る由も無かった。

新横浜から新大阪まで新幹線で2時間ちょっとの時間を数名の先輩看護師らともう一人の新人看護師とで座席を共にした。

もちろん医科部長の医師らは別の座席に座った。
始発であるにもかかわらず愛美はまるで学生気分のノリで浮き浮きしていた。

「ねぇ?何となく学生気分よね?」と、愛美がよー子に話しかけた。

「うん・・でも、まじ緊張するよ。だって学会だよ?!普通ならドクターオンリー!の出席に私たちみたいな新人看護師が参加できるなんて・・・愛美はお気楽よね?!私みたいな小心者は足がガクガクしちゃうよ。」と、愛美の耳元に小声で言った。

愛美は目で合図し、よー子に答え、窓の外を眺めた。

一緒に同行している先輩看護師の中には以前参加した人もいる。
看護師とはいえ患者の命を預かる大切な職業である。
向上心のある看護師はいくらでもいる。
その中から少しでも抜きに出るには協調性を必要とされる。
だからこそ機会があれば医師と同行して多くの学会や実務研修を経験したいと思っている。

しかし、現状はそうは行かない。地方の現場は医師や看護師が足らず年中採用を募集している。しかし、愛美の病院は都心に近く研修医も割りと多い。だからこそ今回、同行できたのである。


10時近く新大阪に到着した。

学会の会場までは歩いても直ぐだったので助かった。
1泊2日のため、荷物は少ないが、やはり資料や着替えを入れると抱えるほどになった。

それでも愛美はウキウキだった。その理由の一つに平柳医科部長の存在があった。いつもは『仕事』を通しての医師であるが、今回は愛美にとって違って見えた。
それは院内では見られない一人の男性に見えたからであった。

今回の学会は、地域医療の現状報告がテーマになっていた。

愛美は父親の死後、できる限り患者に対して愛情が持てる看護師になろうと思っていた。

そんないち看護師の自分にさりげなくても暖かく感じる声をかけてくれる平柳に惹かれたのである。


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