そもそも僕は運がない。全然ない。バナナの皮ですっころぶ。傘がない時雨が降る。道を歩けば棒に当たる。くじは必ずハズレだし、落とし穴には必ず落ちる。それから――やめよう。なんだか空しくなってきた。
とにかく僕は福引き券を手に道具屋を出た。そして福引きをやっているという酒屋へ向かった。酒屋は道具屋の目の前である。僕が酒屋のドアノブに手をかけた時、同時に冷たい風がわずかに吹いた。時は初春、まだまだ風は冷たい季節だ。 ちなみにロッコ村において風はとても重要な存在である。ロッコ村のあるハル島は風神様の加護を受ける島であり、絶え間なく吹く風により生活をする。季節をもたらしてくれるのだって風だ。今は南風、本来は南風なら暖かくなるはずだが、それでも風が冷たいのは寒流の影響だとリュ―兄は言っていた。琥珀色の僕の髪が、冷たい風に小さく揺れた。 この時、僕は風に流れる前髪を左右に首を振ってよけながら、隣の広場に目をやった。特に意味はなかったが、丁度散歩に出ていたらしい村長さんと村長さんの奥さんの姿が僕の視界に入った。そしてその時、ふと、奥さんの方と目が合った。あの時の彼女は僕と目が合うとすぐさま視線をそらした。 「くるっぷ」 クルーが怒ったように鳴いて僕を見上げた。 「仕方ないよ」 僕は肩を竦めた。まぁこれもいつもの通りだ。何だか不機嫌になってしまったクルーを連れて、僕は酒屋のドアを開けた。
酒屋とバーを兼ねているこの店には、朝の時間、お客さんがほとんどいない。この日も朝のコーヒーを飲みにきているお客さんが一組、それと1人でミルクを飲んでいる人が一人居ただけだった。そして、僕は店の片隅に一人で座っている人の姿を見て眉を潜めた。珍しい、この村に外部から人がやってくるなんて、と心の中で呟いたと思う。しかも出で立ちが異様なのだ。真っ白のローブのフードをかぶり、顔には白布の口当て、ローブから覗く衣服やグローブまでも白い。また全身白の出で立ちが、ローブを着込んでいてもわかる体つきの繊細さを強調していた。その中で唯一覗く目元が僕の目についた。浅葱色の目、僕の目と全く同じ色だったから。 「不思議な人でしょう?」 不意に声をかけられて僕はハッとした。カウンター内のアリスさん――この店のオーナーだ――が片隅の客を見つめ、眉を寄せていた。アリスさんが首を傾げ、同時にアリスさんの長い鳶色の髪が、彼女の華奢な肩を滑り落ちた。そうですね、アリスさんの言葉に僕は頷いた。店の片隅の暗がりに浮き上がる白い人物は、とても奇妙な存在だった。 「それでサンはどうしたの?」 「あぁ、福引きをしに来ました」 僕はアリスさんに福引き券を差し出した。カウンターのふちに四角い箱が置かれていて、それがくじ引きの箱だ。ちなみに福引き運営委員のアリスさんは福引きを手に取るなり、僕に白いタオルを差出した。
「これがハズレよ」
いやいや、せめて福引きさせて下さい。どうせハズレだろうけどさ。
そもそもこの時、僕が自分の運のなさを知りながら、それでも心の片隅で何かいいもの当たらないかな、と期待したことも間違いだったのだろう。僕はため息まじりに箱から一枚の紙を取り出した。それを僕はアリスさんに渡し、アリスさんが紙を開いた。そしてアリスさんは目を見開いて――とても見事な大爆笑をしたのだ。なんだこの反応、と僕は眉を潜めたと思う。 そのうえアリスさんのよく通る笑い声を聞いて、コーヒーを飲んでいたお客さんが「まさか」と呟いた。「そのまさかよ」とアリスさんは言い、彼らは納得したように頷いた。なんてイヤな反応だろう。 「なんですかその反応」 「サンがくじ引きの時点でこうなる予感はしたけどね」 だから何なんだ。首を傾げた僕にアリスさんは用意されていたプレートを掲げた。プレートには大きな文字でこう書かれていた。
『村はずれの祠掃除権』
「むらはずれのほこらそうじけん?」 ぽかんと口を真ん丸にして呟いた僕に、アリスさんは頷いた。 「そういうこと。頑張って掃除してね」 「ま、待ってよ! これ、罰ゲームじゃないですか」 「うん」 うん、ってそんなあっさり。未だ納得いかない僕にアリスさんは微笑んだ。 「冗談でつけたした景品がサンにあたるとはね。ある意味さすがよ」 笑顔のアリスさんに僕は苦笑いをするしかなかった。僕の隣ではクルーがぎゅっと両目を瞑ってかぶりを振った。くるっぷー、訳すればやれやれ頑張ってねと言ってクルーは同情の視線を僕に向けた。この権利、リュー兄にあげたら喜ぶだろうか、とあの時の僕の脳裏には、楽しそうに掃除をするリュー兄の満面の笑みを脳裏に思い浮かんだのだった。
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