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作品名:SEASON 作者:けん

第4回   高校生活
「じゃあ行ってきます!」
 僕は玄関から台所まで声が届くように大きな声で叫んだ。
「忘れ物はしてない?ちゃんとハンカチ持ってるんでしょうね?」
 母さんは僕より大きな声で返答してきた。
「子供じゃないんだし忘れないよ。それに、もし忘れても休み時間の間に取りに帰ってこれるからね。」
 僕は玄関を出て、空を見上げた。
(今日もいい天気だな。今日は陸上部を見に行かなきゃ。この高校の陸上部は面白い噂があるけど、本当なのかな?もし本当ならどんな先生が顧問してるんだろう。早く顔が見たいもんだよ。)
高校までの短い道のりを歩きながら今日から始まる高校生活を楽しみに考えていた。けど昨日の湖白さんの話もしっかり頭に残っている。けどはっきり言って、全く困った事ではないのだ。むしろ昨日の事はなかったように湖白さんに挨拶するぐらいでいいと僕は思っていた。確かに僕に違和感を感じた事には驚いたが、ただそれだけなのである。違和感を感じただけの女の子を僕が不安になることはないのだ。僕が何もしなかったら湖白さんは僕に感じた違和感をいつもの気のせいだと思うだろう。僕があれをする事は高校生活の中でまずありえない事だ。そんなリスクを負うような事をするほど僕は馬鹿じゃない。それにあれをしたら湖白さんだけじゃなく高校の生徒達や先生、さらにはテレビ問題になる可能性だってある。そんな事を僕は望んでいない。普通に高校生活を楽しく過ごせれば僕は満足だ。)
 高校の校門で先生達と挨拶をし、僕は教室に入って行った。中学校時代にタイムスリップしたと錯覚するぐらいに僕に元気な声でおはようと言って手を振っているヤツが教室の中にいた。誰かって?言うまでもないね。
「おはよう、木村。今日も早いな。お前が僕の後から学校に登校した事は、中学の時に風邪を引いたのに無理して学校に来た時ぐらいだな。それでも俺より5分遅かったぐらいだったけど。」
「まぁな、あれ休むと皆勤賞がなくなってしまうから、どうしても休みたくなかったんだよ。」
 木村はいつも通りに元気よく話していた。んで昨日の事をさっそく聞く事にした。
「んでどうだった。彼女とはちゃんと会えたのか?」
 木村は少し渋い顔をして俺に問いかけてきた。
「なぁ風、俺ってこの高校の制服似合ってないのかな?」
「いきなりどうしたんだ?あぁ、そうか、彼女に何か言われたんだろ。お前の顔を見ると・・・そうだな、あんたみたいなサッカー馬鹿には、この高校の制服は似合わないわね、あんたは学ランが似合ってるわよ。とか言われたんだろ?」
 木村は顔を真っ赤にして
「お前、昨日帰るとか言ってこっそり俺と由美の会話聞いてただろ?」
 と僕に問い詰めてきた。
「違うよ、お前とどんだけ一緒にいると思ってんだよ。お前の性格じゃ彼女の尻にしかれてる感じなんだろ?まぁいいじゃない。その方が長続きするらしいから。それにサッカー馬鹿とか言ってるけど、彼女からしたら、お前のサッカーしてる姿が頭に残ってて、それをかっこいいと思ってるからそんな事を言うんだよ。お前もそれぐらい分かるようになれって。」
 木村は目が点になった。
「お前、どうして他人の事についてはそこまで分かるんだ。すげーな、言われてみればお前の言ってる事が当たってると思うぜ。そこまで女の子の事が分かるのに彼女がいないって言うのもあれだな。」
 木村は笑っていつもの木村に戻っていた。
「ほっとけ!後さっき俺が言ったことは彼女には絶対に言うなよ?完璧に地雷踏む事になるからな。」
「お前が言う事は大概当たってるから、言う通りにしておくよ。」
 そんな事を話しているうちに高校始まって初の授業が始まった。科目は数学。そう、担任の日高先生の授業だ。どうも担任の先生の科目が一番最初の授業になるらしい。それは授業が終わって廊下に出たときに他のクラスの先生が次々と教室から出てくる事でわかった事だった。後でその事を木村に話してみると
「お前もう他のクラスの担任の顔と名前と科目を覚えたのかよ?」
 と驚いていた。今思えばそうである。昨日配られた学校新聞を家に帰ってから読んで、その時に覚えてしまったんだろう。
「お前も学校新聞ぐらい読んでおけよ。」
 と言ってみたが、木村は
「そんなの読むのお前だけだよ。」
 と僕を変わった人間を見るような目で見た。まぁこれもいつもの事だから気にしないけど。
 授業は二、三、四、時間目が国語、英語、日本史と続いた。木村は昔から英語は特に苦手だったので、授業が始まってから10分も経たないうちに寝てしまっていた。先生に
「初めての授業で開始10分以内に寝た人は、多分私が知っている限り君は初めてだ。」
 と言って怒りはしなかったが、顔を洗ってくるように木村に言っていた。こいつは本当に嫌いな事をしないヤツだ。まったく中学の時の受験勉強の姿が嘘に思える。授業が終わって休み時間に、木村に心の底から彼女の事が好きなんだなとからかってやった。木村はうるせぇの一言で話を終わらして違う話題をふってきた。まぁ一途でバカだが、僕はそこがこいつのいい所で少し尊敬できるところでもあった。
「僕にもお前ぐらいに一途になれる人が出来るかな?」
 と木村に聞いてみたら木村は即答した。
「はぁ?何いってんだよ。この高校で絶対見つけるね。お前は自分の事に関しては鈍感過ぎるんだよ。」
 やたら自信満々で言ったから僕は少し驚いた。
「そこまで確信して言うからには、お前にはもうその人が分かってるのか?」
「まぁそこは秘密だ。もし分かってても教えるわけないだろ。それはお前自信で見つけるもんなんだよ。」
 と木村に言い負かされてしまった。多分さっき彼女の事で僕に言われたから、その仕返しだろう。
「わかったよ。まぁもしそれが本当ならその時は必ず来ると思うから気長に待ってるよ。」
 チャイムが鳴った。こいつと話していると十分休憩なんてあっという間だ。日本史の準備をして先生がくるのを外の景色を見ながら待っていた。
  キーンコーンカーンコーン
「はぁ、やっと授業終わったよ。風!さっそく飯食べようぜ。」
 木村が水を得た魚のように元気になって話しかけてきた。僕らはどちらも弁当だったので教室で食べる事になった。
 二人で弁当を食べようとすると
「ごめん、僕も一緒にご飯食べていいかな?」
 話しかけてきたのは、僕が入学式でプリントを渡した花東君だった。
「いいぜ、みんなで食べた方が飯も上手いからな。俺は木村っていうんだ。よろしくな。」
 木村は元気よく花東君を迎えた。
「秋谷です。花東君だよね?いいよ、一緒に食べようか。」
「ありがとう。」
 花東君は椅子に座るとゆっくり話し始めた。
「二人ともよく覚えてるよ。秋谷君は僕にプリントを渡してくれたし、木村君は自己紹介の時に一番印象に残ったから。それに自己紹介中に秋谷君の事をよく話していたしね。僕は史鎌西中学からきたんだ。」
「史鎌西かぁ。はひか他にもこのクリャフに史鎌西ちゅうりゃくの子がいなかったっへ?」
僕は花東君の顔を見てすぐに悟った。昼ご飯を食べながら木村は喋ったので花東君は何を言っているのか聞き取れなかったみたいだ。こいつの飯の時の話を解読するには少し修行がいる。恐らく高校の中で解読出来るのは僕と木村の彼女だけだろう。僕も最初は戸惑ったから花東君の気持ちはよくわかる。
「花東君と同じ中学の子がこのクラスにいなかったか?って聞いてるよ。つーか木村、食べながら話すのは止めろって言ってるだろ。」
 と僕は木村の言葉を言い直し、木村を注意した。
「わるひぃ。」
まだ木村は口の中にご飯が残っているようだった。
「あぁ、このクラスにはもう一人いるよ。ほら、あそこに座っている湖白さんも同じ中学だよ。彼女自己紹介の時すぐに終わってしまって、みんな少し驚いていたけど、実際はすごくいい子だよ。中学の時も友達に信用されてたし、男子からも人気あったからね。昨日はちょっとおかしかったけど、
もう友達は出来てるみたいだね。」
 湖白さんは女の子と五人ぐらい集まって楽しそうに昼ご飯を食べていた。そういえばあれから彼女とは何も話してない事に気づいた。木村とばかり話していたせいで、彼女の事が頭の中からすっぽり抜けていたのだ。
(けど、話の途中だったし、また話しかけてきてくれるかな。)
 僕は自分から昨日の事を湖白さんに話し出すことは止めておこうと思っていたのだ。まぁあれだ、彼女も恥ずかしがっていたし、無理に聞こうというのも失礼に値すると僕は感じたのだ。昼ご飯を食べ終わって、3人で話をしていると、
「なぁ、花東、ちょっと一緒に学食いかないか?さっき誰かが学食のアップルパイはおいしいって噂してたんだよ。ちょっと行ってみようぜ。」
「じゃあ僕も行くよ。」
「いや、風!お前は残っててくれよ。ちょっと二人で花東と男の話がしたくてさ。まぁすぐ帰ってくるから。お前の分のアップルパイも買ってきてやるから。」
 そう言って木村は花東君を無理やり引っ張って教室を出ていった。
(なんだよ男の話って?まぁいいか、あいつはたまに僕に理解できない事をやるからな。まぁアップルパイは奢りにしてもらうか。)
 僕は退屈だったので、教室を出て北校舎に行って見ることにした。北校舎は主に、家庭科教室や、理科の実験室、美術室、書道室、他もクラブの教室がほとんどなので、昼休みは人は誰もいないと言っても過言ではなかった。北校舎の窓から見える景色もなかなかいいものだ。僕はボーっと外の景色を眺めていた。
「綺麗な景色ね。ここからの景色もまた描いてみようかな。秋谷君外を眺めるのが好きなんだね。」
 突然の不意打ちに驚いた。さっきまで僕一人だと思ってたのに、すぐ横には湖白さんが立っていた。
「ごめんね、驚かせて。けど昨日の話が中途半端だったし、ちゃんと秋谷君とは話をしておきたかったから追いかけてきたの。さっき木村君だったっけな?私が秋谷君を見ている時に目があって、そしたら、急に学食に行こうって言い出したから、私に気を使ってくれたんだと思う。」
(なるほどな、だから木村は無理やり花東君を連れていったのか。あいつらしいと言ったらあいつらしいか。)
 僕は普段通り接する事を考えていたので、彼女の言っていた違和感について話そうと思っていた。
「それでやっぱり僕に違和感を感じるのかい?それはどういった事なの?」
 今回は湖白さんも落ち着いていた。
「うん、秋谷君の場合はなんていうのかな。普通の人とは違う何か特別な感じがするんだよね。それは一目見た時に直感するんだけど・・・。」
「待って!僕の場合って言ったよね。じゃあ他にも違う感じがする人もいるの?」
「うん、いるよ。この高校にはまだ見てないけど、この前町を歩いていた時なんだけど、ある女性が目に留まって、なんだか今にも死にそうな感じがしたんだよね。それで信号を渡ろうとする直前に、いてもたってもいられなくなって、その人に声をかけたの。そしたら、私が声をかける瞬間に大きなトラックが私達の目の前信号を無視して通過したの。その人腰抜かしちゃったんだけど、私はそのトラックが気になって、{危ない運転をしているトラックがあります。}って警察に電話して車のナンバーを言ったのよ。そしたら後になって分かったんだけど、その運転手飲酒運転をしていたの。」
「じゃあ湖白さんは人が死ぬ間際が分かるって事なの?その湖白さんが助けた女性は、それからも死にそうな感じはした?」
 僕は彼女の話を真剣に聞いていた。それは自分が特別な事を出来るために、違うような特別な、そう、彼女のような不思議な力を持っている人がいてもおかしくないと僕は思っていたからだ。
「その女性はそのトラックが過ぎてからは、何も感じなくなった。死ぬ間際が分かるってのは言い過ぎだと思う。そんな事はそれ一度だけだったから。」
「じゃあ僕も死ぬ間際だから、僕にそれを伝えようとしたのかい?けどそんな様子でもないよね?」
「違うわ。その人は感じ的には冷たい感じって言うのかな?何か嫌な予感がしたの。けど秋谷君は違う。秋谷君に感じたのは、とても暖かい感じがする。だからもしこれが私の勘違いだったとしても、万が一当たってたとしても、私にとってはどっちでもいい事なの。けど秋谷君の近くにいると、とても心が穏やかになる気がする。だからこれから私と友達になって欲しいと思って話をしにきたの。」
「そうだったんだ。僕にはその湖白さんが僕に感じた何かは分からないけど、僕も湖白さんはいい人だと思う。だから友達になるのは大歓迎だよ。これから一年間、いや、3年間の高校生活を楽しいものにしよう。きっと楽しくなる。忘れられない思い出にしよう。」
 湖白さんも笑みを浮かべた。
「うん、きっと出来るよね。よろしくね。風君。風って呼んでもいいかな?」
 湖白さんは体を少し前に倒して僕を下から見つめた。
「いいよ、中学の友達はみんな男女問わず僕の事を風って呼んでたから、その方が落ち着くからさ。」
 美咲さんは嬉しそうに
「じゃあ私の事も美咲って呼んでよ。その方が私もいいから。」
 と言った。これにはさすがに僕も困った。
「いや、それはさすがに恥ずかしいよ。せめて美咲さんにしてよ。」
「わかった。じゃあとりあえずそれでいいや。けど呼びたくなったらいつでも美咲って呼んでね。風!」
「わかったよ、じゃあ呼びたくなったらね。」
 その時、僕らをパニックにさせるチャイムが鳴った。
「やばい、次の授業が始まる。早く行こう。」
 僕は走り出した。美咲さんは僕の後ろから
「あ!待ってよ。風!女の子を置いてけぼりにする気?」
 と少し笑いながら怒っていた。教室に着くと僕ら以外はみんな席に座っていて木村がヤケにニヤニヤしてるのが目に入った。美咲さんと会釈をして席に戻ろうとした。その時、木村が僕の服をつかんだ。
「後で聞きたい事があるから絶対に授業が終わってから残れよ。逃がさないからな。」
 木村はやけに真剣だった。
「何だよ?今ここで言ったらいいじゃないか。僕が何したってんだよ。あぁ、そうかアップルパイを買ってきてくれて、それを渡したいんだな。今はさすがに食べる時間ないもんな。ありがとうな。」
 突然木村は僕の上から飛び掛ってきた。
「貴様何寝ぼけた事言ってやがる。お前というヤツは本当にニブチンだな。お前の頭は勉強するためにしかないのかよ?えぇ?この野郎!」
 木村は僕の頭を拳を握り締めグリグリやってきた。
「おい!やめろって!先生来るだろうが。」
「うるさい!お前には俺の拳が必要なんだ。先生がなんだってんだ!話を逸らすな!」
 美咲さんが僕達を見て笑っているのが、僕の視界に少しだけ入ってきた。そして木村とジタバタやっているうちに、五時間目の生物の先生が聞いていたらしく、僕と木村は後から職員室で説教をくらったのは言うまでも無い。まぁ担任の日高先生は後で、お前達元気いいなぁ。部活絶対入れよ!その持て余している力を発揮するんだ!と嬉しそうに喋っていた。
 この時担任が日高先生でよかったと心の底から思えたのだった。
「んで、簡単に言うと、お前は湖白さんとちょっと話をしただけであり、そして話が合って友達になっただけだと言うんだな?」
 木村は僕を椅子に座らせて僕の目の前に腕を組んで立っていた。今は授業が終わって、先生が来てホームルームが始まるのを待っている状態にある。みんな友達話していて、今度は僕たちもあまり目立たなかった訳だが、木村がこの状態である。
(何が腑に落ちないんだ?僕はそのまま伝えているのに。)
「まぁあれだ。お前が嘘を言っているとはこれっぽっちも俺は思ってない。けどな?お前もっと嬉しそうに話せないのか?なんだか報告を受けてる感じがするぜ。女の子と二人で話したんだろ?そして友達になってって言われたんだろ?しかも入学してから二日目で、さらにさらには可愛い女の子に!」
 木村は興奮していた。今までこう言った話を木村が食い下がって聞いてきた事があまりなかったから、ちょっと僕は面白かった。
「だから、前にも言ったじゃないか。僕は彼女にそのような感情は今はないって。別に女の子と友達になるのだって、おかしいことじゃないだろ?中学の時もみんな仲良くしてたじゃないか。」
「だぁぁ!これだからお前ってヤツは!お前がそういう風に思っていてもだな、湖白さんの方は・・・・。」
「木村!元気良くて結構だが、ホームルーム始めるからとりあえず座ってくれ。」
 話の途中で日高先生の声が木村の声を掻き消した。
(ナイスタイミングだよ。先生。)
「まぁこの話はまた今度でいいだろ?」
「・・・・あぁ、そうだな。また今度にしよう。つーかもう大体言いたい事は言ったから、この話は終わりでいいよ。」
 木村はなんだか焦っていた。何でこいつが焦っていたかは僕には分からなかった。
(さっきの話の中であいつの話は・・・・僕が中学の時に女の子とも仲良かったじゃないか。と言って、あいつは、僕がそう思っていても美咲さんが・・・・・・何だ?美咲さんがどうっていうんだろう?話の流れ的に・・・・そうか、美咲さんは僕の事をよく知らないから、ちゃんと友達になるならもっと話をしておけって言いたかったんだな。まぁそりゃそうだよな。僕の美咲さんの事は知らない事だらけだ。もっと話した方がこれからの高校生活も楽しくなるってもんだ。)
 僕は木村に小さな声で
「木村、お前が言いたい事はわかったよ。さすがだな!」
 木村は嬉しそうにこっちを向いて、
「分かってくれたか。さすが風だぜ!これから期待してるからな。」
「まかせとけって!僕もしっかりする事はするさ。」
 と、お互い笑顔でこの話の終わりを迎えた。              
ホームルームが終わり、今日の授業はこれで終わった。
「風!お前は陸上部見に行くんだろ?俺はサッカー部見に行ってくるわ。つーかもう入部する気満々だけどな。」
「僕も入部する気だけど、とりあえず仮入部しておくよ。僕はまだ掃除があるから。じゃあまた明日学校でな。」
「おぅ!また明日な。」
 僕は木村の背中を見送った。教室の掃除をしていた僕に思わぬ訪問者が現れた。
「すみません、秋谷風君っていますか?」
 その子は廊下の窓から教室を見渡して僕を探していた。
「僕がそうだけど、君はいったい誰なの?初めて会ったよね?」
 その子は僕に向かって自己紹介を始めた。
「あ、そうだった。僕は君の事はよく知ってるんだけどね。紹介が遅れたね。僕の名前は海藤輝って言います。僕は1組なんだ。単刀直入に言うけど、陸上部入るだろ?僕と一緒に行かないかな?
僕も陸上部に入りたいんだ。」
「なるほどね。そういうことだったらいいよ。一緒に行こうか。けど一つ質問なんだけど、何で君は僕の事をよく知っているの?」
「そりゃ秋谷風って言ったら、中学の大会の記録でよく新聞に名前が載っていたからね。知ってる人は知ってるんじゃないかな?君が出した五千メートルの最高タイムは全国十位だっただろ?実はそのタイムを出した大会に僕も出ていて、君を見たとき、走る楽しさを教えてもらったような気がしたんだ。競い合いのなかで楽しめればそれほど素晴らしい事はないからね。けど全国大会には出なかったよね?確か体調が崩れて棄権したんだよね。」
「ありがとう、こんな近くに僕の事を知っている子がいるなんて、思ってもみなかったよ。全国大会は残念だったけど、まぁ仕方が無いって言うか、僕は走る事が好きだから、走れたらそれでいいんだよ。」
 実は体調を崩した理由が、全国大会は茨城県であったので、ここからではとてつもなく遠い、よってそこまで行くのが面倒なので、ワザと風邪を引いたなんて事は口が裂けても言えなかった。
 僕は遠出するのが大嫌いだ。一番遠くて近畿地方までだ。茨城なんて行きたいとも思わないね。だから一番近い高校で楽しく走れるだけで十分なのである。大会は出ても出なくてもどっちでもいい。勝負にさほど拘らないからだ。まぁ他のランナーからしたら、僕は特別変な存在になるだろう。けどそれは個人の自由というわけでいいんじゃないかなと僕は思う。別にプロを目指して頑張る訳じゃないしね。あくまで趣味の範囲ってことさ。
「じゃあ海藤君、そろそろ行こうか、そういえば知ってる?これから行く陸上部の顧問の先生は変わり者だって噂だよ。」
「え?秋谷君顧問知らないの?だってその先生は・・・・・・。」
「待った!言わなくていいよ、僕楽しみにしてるんだ。どんな先生か。だからあえて高校新聞でも部活紹介のページは見なかったんだから。」
「じゃあ言わないけど、こんな事ってあるんだね。僕はってっきり知ってるかと思ってたよ。」
僕はこの時、海藤君の言葉の意味を理解出来なかった。しかし、僕は5分後にこの意味を理解することになる。
 陸上部は当然外で練習しているため、僕達も運動場に出る事にした。下駄箱から出てすぐ真正面に運動場がある。何人かが走っている姿が見えた。僕達は運動場に出て、近くに見える恐らく陸上部であろう人達に話しかけた。
「すみません、陸上部の見学に来たんですが、顧問の先生はいますか?」
すると、キャプテンと思われる人が
「あぁ、新入生だね。こんにちは!俺は島って言います。先生はもうすぐ来ると思うから、ちょっとそこに座って待っててよ。」
「分かりました。有難う御座います。」
 僕と海藤君は椅子に腰掛け、先生が来るのを待つことにした。他にも何人か新入生らしき人が数人いた。
「ちなみに君達の名前は?後どの種目をしているんだい?」
「僕は海藤輝って言います。隣にいるのは秋谷風君って言います。どちらも長距離ランナーです。」
 僕の代わりに海藤君が話してくれて僕が言う必要がなくなってしまった。けど、すぐに島先輩が、
「君が秋谷君か、この高校に入学したって事は知ってたけど、顔を見るのは初めてだね。海藤君も知ってるよ。君のお兄さんにはお世話になったからな。先輩曰く、あいつは俺以上に早くなるって言ってたな。二人とも期待してるからな!」
 先輩は嬉しそうに僕達を見ていた。優しそうな先輩だなと思った。部活動はもっと先輩後輩の立場でキッチリしてるから、もっと厳しく言われると思っていたんだが、的が外れた感じだった。島先輩は目を玄関の方に向け、
「こんにちは!」
 と大きく叫んだ。他の部員達も島先輩の後に合わせて挨拶をした。玄関から向かって来た先生は僕が一番よく知っている先生だった。僕は口が開いたまま立っていた。
「こんにちは!今日もいい天気だな。新入生はもう来てるのか?」
  そう言って元気よく来たのは日高先生だった。あのスポーツバカみたいな先生からして想像出来たはずなんだが、僕はこの時全く予想してなかったのだ。あまりにも在り来たり過ぎるから頭の中から忘れ去っていたんだろう。
 「おぉ!やっぱり秋谷も来てたのか。今から新入生に陸上部の部活動について説明するから、まぁみんな集まってくれよ。」
  僕達二人の除いて新入部員は後三人いた。しかし、それはみんな女の子だった。一人はクラスで見た事ある顔だった。名前はえっと水川さんだったっけ?
 「男って僕達二人だけなのかな?」
  海藤君がちょっと困ったように僕に話しかけてきた。
 「まぁいいんじゃない?先輩には男の人も結構いるしさ。別に困るような事じゃないと思うよ。」
 「そ、そうだね。困る事ないよね・・・。」
  海藤君は少し落ち込んでいるようだった。
  普通なら女の子がたくさんいた方が喜ぶべき事なのだが、海藤君にとってはそれはあまりよくない事に感じる。木村がここにいれば絶対そう言うに違いない。
 「よし!いいか、説明を始めるぞ。」
  先生が話し始めたので前を向き、話を聞くことにした。
 「うちの陸上部なんだが、まぁやる事はどこの高校とも一緒だ。自分のやりたい種目をすればいい。分からない事があったら、先生になんでも話してくれ。精一杯力になろう。後先輩にも教えてもらったらいい。うちの先輩はみんな優しい人ばかりだ。なんの遠慮もせず聞きまくったらいい。なぁみんな?」
  先生は休憩している先輩達に向かって、大声で叫んだ。
 「俺にまかしてくださいよ!新入部員の諸君!勉強は教えられないけど、部活での事は何でも聞いてくれたまえ!」
  と一人の先輩が大声で叫んでいた。他の先輩達はみんな爆笑していた。どうやらこの人がムードメーカーらしい。どこの部活にもそんな人は一人か二人いるもんだ。
 「というわけだ。」
 先生は嬉しそうに僕達を見回した。すると何か思い出したかのように、
 「おっと、重要な事を話してなかったな。うちの部活は基本的に土、日は休みだ。大会とかの時はさすがに休みじゃないけどな。そのかわり月から金まではみっちりやるから覚悟しておけよ?」
 (噂は本当だったんだ。)
  僕はこの高校の陸上部のを前に聞いた事があったのだが、まさか本当に土日を休みにする部活があるなんて思えなかった。なら、どうしてこの高校の陸上部は成績が優秀なんだ?毎年短距離走でも長距離走でも、他の種目でもこの高校の選手は活躍していた。
「先生、土日が休みってどういう事ですか?全く練習しないんですか?私、この高校の先輩達の活躍を見て、この高校に入学しようと思ったんです。練習時間が短いのにどうして、先輩達はみんな活躍出来るんですか?」
 同じクラスの水川さんが先生に質問した。先生はすぐに答えてくれた。
 「先生はな、無理をして部活をさせるのは嫌いなんだ。先生が高校の時の部活はな、本当に厳しかったんだ。厳しかったからこそ、いい成績を出すものもたくさんいた。けど、体を壊したり、部活を嫌いになって去るものもたくさんいたんだ。先生は君達にそんな事になって欲しくないんだ。だから無理矢理先生が厳しくしても、楽しくないと思うんだよ。部活はまず楽しくなくてはならない。平日は先生がしっかり教えて、成長出来るようにする。体も壊れないようにさまざまな事も教えていこうと思う。けど土日の使い方は君達次第だ。休んでゆっくり家でくつろいだり友達と遊びに行ってもいい。ちなみに君達の先輩は土日も高校に来て練習をしている。もちろん休んでいる日もあるけどな。先生は土日も職員室にいるから、まぁ聞きたい事があったら職員室に来てくれていいんだが、先生から運動場に出て教えにいくことはない。部員達だけで、楽しく練習出来たらいいと思う。部活は時間が大体決まっているけど、その時はちょっとして帰ってもいいし、自分が納得するまでしてもいい。つまり自分の気分次第でいいってことだ。部活を楽しんでくれたまえ。一生懸命して楽しければ、必ず結果は後からついてくる。部活を、陸上というスポーツを好きになってくれたまえ!よし!では練習を開始するぞ!」
  この先生は本当にいい先生だなと思った。僕はこの陸上部をとても好きになれる気がした。それは僕だけでなく、他の新入部員もそんな感じの顔をしていたように思えた。
 (よし、練習するか。)
  僕は立ち上がって、服を着替えに部室に行く事にした。これからの高校生活は美咲さんのいう通り、とても楽しくなると僕はこの時思っていた。


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