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作品名:SEASON 作者:けん

第3回   入学式 後編
(気のせいかな。)
 そう思うと僕は拍手が鳴り終わる前に席に着いた。その子のことが気にはなったが、視線を送るのも何なので次から次に自己紹介していくクラスメイト達に目を向けていた。
 自己紹介はスムーズに進んでいき、木村の番になった。
「木村駿です!横に座っている秋山と一緒で史鎌東中学からきました。こいつとは中学からずっと同じクラスで高校に入ってからもずっと一緒のような気がします。」
 木村はとても大きな声で元気よく話していた。
(けど駿、半分以上僕の事話しているぞ、自分のこと言えよ、つーか僕の話を勝手にするな。)
 僕との昔話を一通り終えると、やっと自分の事を言い出し始めた。
「部活はサッカー部でGKをやっていました。自分はGKこそサッカーで一番楽しいポジションだと思っています。高校でもサッカー部に入部してGKをやっていきたいと思っています。あと趣味は・・・そうですね、サッカー観戦と昼寝です。授業中は寝ないように努力します。こんな僕ですがこれから一年間よろしくお願いします。」
 言い終わると満足気に席に座った。みんな一分ぐらいで話終えるのにこいつは5分ぐらい話していた。けどみんな飽きもせずしっかり聞いていたようだ。なぜなら木村は男子から見ても男前で友達付き合いも上手い。女子から見ればそれはかっこよく見えるだろう。その証拠に話終えてる木村をまだ見ている女の子がまだ何人かいる。中学の時も木村は女の子に人気があった。
 だが木村は誰とも付き合うことはなかった。誰から告白されても、好きな人がいるから。と断っていたからだ。その木村の好きな人は誰かって言ったら、小学生の時に転校してしまった子だそうだ。
 僕は会ったことはないけれど、本人曰く運命の人だそうだ。
 転校する直前に木村から告白したらしい。それから電話をしたり、休日には会ったりしていたらしい。三年生までどの高校を受けるとかそんな話はあまりしなかったようで、三年の部活引退後に、その彼女がこの高校に入学する事を知り、それから猛勉強をするようになった。
 僕もこいつの勉強にはよく付き合わされた。部活引退するまでの木村の成績は、とてもじゃないがこの高校に合格できるようなレベルじゃなく、僕も無理だと思っていた。しかし、木村は集中すると、とんでもない力を発揮するようで、学校での休憩時間も勉強をし、帰ってからもテレビも見ずにずっと机に向かっていたらしい。その努力が報われ、木村は今こうして僕の横に堂々と座っている。
 彼女は違うクラスにいるみたいで、後で会いに行くらしい。風も来いよ。紹介したいからさ。と誘われたが、やっと会えるのに邪魔したら悪いので丁重にお断りをした。別に急ぐ事でもないしな。  そうしているうちに、自己紹介はあっという間に終わりに差し掛かっていた。そしてさっき僕を見つめていた子の自己紹介が始まった。
「初めまして、湖白美咲です。史鎌西中学から来ました。よろしくお願いします。」
 そう言い終えると拍手が鳴る前に座ってしまった。クラスのみんなもあまりの速さに戸惑っていたが、それでも木村が大きく拍手をするとそれに釣られてみんなも拍手をした。
 座っている彼女はとても悩んでいるように思えた。何に悩んでいるかなんて事は僕には分からないが、下を向いたまま何かを考えているようだった。さっき僕を見ていた顔とは大違いだった。
(アガリショウなのか?それとも他に何か原因があるのだろうか。)
 考えて見てもわからないのだが、何故か僕は彼女の顔が表情が、いや、彼女の事が気になっていた。彼女は眼鏡を掛けていて、髪は長く腰辺りまであるように見えた。恐らく一般的に見ても綺麗な顔立ちだと思った。しかし別に一目惚れしたとか、そういう事ではないのは自分でも分かっていた。今僕の胸にあるこの感情は不安だったのだ。
(どうして不安になるんだよ。まだ話した事もない女の子を見て不安になるなんておかしいだろ。)
 そんな僕を見た木村は、
「どうした?彼女が気になるのか?確かに綺麗な子だもんな。いいと思うぜ。」
 と僕の表情を違う意味で受け取ったらしい。
「そんなんじゃないよ。けどちょっとね・・・・・・・。」
 目線を机に向けながら僕は言った。木村も僕の変化にきづいたらしく、
「まっ、何かあったら俺に言えよ。必ず助けになってやるぜ。」
 と言い、前を向いた。
「頼りにしてるよ。」
 木村はこっちを見ずに手でグッドサインを出した。
「よし、みんな自己紹介が終わったな。みんなよかったぞ。緊張した人もいると思うが、自分をアピールするという事はとても大事な事だ。自分から言わなければ相手はその人が何を考えているか分からないからな。今後も自分をアピールするように!」
 先生は満足気に話終えると、プリントを配り始めた。配り終えた頃に後ろから
「先生、プリントが一枚足りません。」
 と大きな声がした。僕の席の一番後ろの子だった。名前は花東だったと思う。
「じゃあ僕のあげるよ。先生、帰りの挨拶が終わってからもらいに行っていいですか?」
 と僕は加藤君にプリントを渡した。
「おし!じゃあ悪いが取りに来てくれ。終わってから先生と一緒に職員室に行こうか。」
 先生はどんな時も楽しそうだ。話したら楽しそうだなと思っていた。実はさっきの先生の自己紹介を聞いて話したい事があったのだ。そして帰りの挨拶が終わり僕は先生と職員室に向かって行った。
「先生、さっきの自己紹介の話なんですが。」
 そう僕は話始めた。
「俺の自己紹介か?何か変なこと言ってたか?」
「変ではなかったです。ただちょっと説明不足だったかなと思って。」
「ほう、じゃあその説明不足だったところを秋谷は俺に教えてくれるか?」
 先生はなんだか嬉しそうだった。
「先生は、僕たちにアイアンマン・トライアスロンにチャレンジしてくれって言ってましたが、アイアンマントライアスロンはオリンピックタイプのものでスイム1、5キロ、バイク40キロ、ラン10キロの名の通りの鉄人レースです。そんなレースをちょっとやそっと鍛えた高校生が簡単に完走できるわけありません。それにバイクは最低でも十万円ぐらいのモノを買わなければならないし、シューズ、ヘルメット、グローブ、ウェアー、空気入れなどを入れると多額のお金が必要です。それにパンクやメカトラブルも自分で直せるようしならないといけませんしね。ハワイに行く交通費も結構な額がありますし、金銭的な面でも普通の高校生では出来そうにありません。後少し付け足すとエリート選手以外はドラフティング(前の選手にピッタリくっついて空気抵抗の軽減をすること)は失格になってしまうので気をつけないとダメですね。」
「よくそこまで知ってるな。感心したよ、じゃあ何故ドラフティングがエリート選手だけ許されているか分かるか?一つは分かるかもしれんが・・・。」
 先生は少しいじわるな顔をして聞いてきた。
「理由は大きく二つありますよね?一つは実力が拮抗しているトップ選手はスピード域が同じなので意図しなくても周りの選手と一緒になってしまう、つまりドラフティング状態になってしまうからです。日本では道路の関係上海外よりも狭いので、離れようと思っても離れられないんですよね。二つ目は、オリンピックを視野に入れた競技短縮です。スポーツを普及させるには見る人が楽しくなくてはなりません。オリンピックのショートタイプでもトップ選手で2時間弱かかるわけですから、トライアスロンを普及させていく上でギリギリの時間なんだと思います。スポーツの競技時間は重要だからこそですよね。」
 先生は驚いて目を点にしていた。
「こりゃ驚いたな。文句なしだよ。トライアスロンに興味があるのかい?」
 「残念ですけど、興味はありません。走るのは好きですが、泳ぐのはどうも苦手で。」
 先生はがっかりしていたが、それでもこう答えた。
「そうか・・。けど泳げるようになって興味が持てたら私に相談したまえ!」
 と僕を誘う気満々で言った。そんな話をしていたので、あっという間に職員室に着いた。
「じゃあ先生、プリントとってくるから、廊下で待っててくれよ。」
 そう言って先生は職員室に入って行った。僕は一人で窓側の壁に背中をくっつけて廊下に立っていた。
(腹減ったなぁ。プリントをもらったらすぐに帰ろう。」
 そんな事を思っていると、ふと僕の右側から人の気配がした。別に誰がいたとしても緊張するわけでも動揺するわけでもないものなのだが、今回だけは違っていた。そこにいたのは自己紹介中、僕に強い視線を送っていた湖白美咲だったからだ。
 彼女は僕を見て立ち止まっていた。さっきの自己紹介の時とは違い、少し微笑んでいるように見えた。改めてじっくり見ると、湖白さんはとても綺麗な顔立ちをしていた。長く艶やかなストレートの髪に、透き通るように白く細く長い足が、彼女をさらに美しくさせて僕の視界に入ってきた。
「どうしたの?君もプリント足りなかって先生にもらいに来たの?」
 勝手に口が動いた。僕も自分から話し出した事に少し驚いた。別に女の子と話す事が珍しいわけでもなく、綺麗な女の子には緊張するというわけじゃない。けど確かに僕は緊張していた。足は少し震えているのが自分でも分かる。
「違うの。先生に用があって来たんじゃない。あなたに話があって来たの。」
 彼女は少し周りを見渡してから話始めた。
「私ね、たまに違和感を感じる事があるんだ。言葉では言いにくいんだけど、人に違和感を感じたり、特定の場所に違和感を感じたりさまざまなんだけど。えっと、直感的にって言うのかな。けど大体は気のせいなんだけど、たまに・・・・あっ!ごめんね、変な人だと思った?」
 彼女は少し困ったような顔をして僕を見つめた。
「いや、そんなことないよ。テレビでも霊感が強い人とかいるじゃん。違和感を感じる事だって、もしかしたら結構そんな人がこの世にはいるかもしれないしね。」
 僕は話ながら考えていた。何を考えるかって、何故いきなり普通の人なら多少おかしく思われる事を今日初めて会った僕に話ているかって事だ。普通ならこんな事言わない、むしろ言えないと思う。じゃあどうして僕に話してきたかというと、答えは一つしかない。僕に違和感を感じたからだ。彼女ははっきりとはわかっていない。けど確かに僕に対して普通の人とは違う何かを感じたのだろう。だからこうして僕に会いに来て、直接僕に違和感を感じると話すかどうかためらっているのだろう。
(それなら僕から言ってあげた方がいいかな。)
「けど湖白さん、僕に変な人だと思われるかもしれないっていう不安があるのに、職員室まで追って来てまで話そうとするのを見ると、もしかして僕に違和感を感じたの?」
 と少し笑いながら聞いてみた。彼女は僕を見て驚いていた。今から自分が言おうとした事を先に本人から言われたからだろう。
「え?いや、うん。多分私の勘違いだと思うんだけどね。けど私ったら、気になるとどうしても我慢でき・・・・。」
「すまん、待たせたな。秋谷。プリントがどこにあるかわからなくてな。ふー、そろそろ机の上も掃除するかー。」
 日高先生が湖白さんの話を遮るように、職員室から出てきた。
「ん?湖白か?どうした?お前もプリントもらってなかったのか?」
「ち、違います。じゃ、じゃあ私はこれで。じゃあまた明日ね。」
 彼女は顔を真っ赤にして逃げるように走って行った。見えなくなった頃に大きな音がしたが、どこかにぶつかったんだろうか?先生は僕を見て
「邪魔したか?」
 と嬉しそうに見たが、こっちはそんな事どうでもよかった。
「そんなんじゃありませんよ。」
 そう言って僕は廊下に座り込んだ。
(ビックリした。なんとかかわしたが、緊張の糸が切れたよ。)
 僕が廊下に座り込んだのを見て先生は
「なんだ緊張したのか?まぁいい経験だな!」
 と一人で盛り上がっていた。
(だから違うって!とにかく、余計にお腹が空いたし、帰るか。)
 こうして僕の入学式はとりあえず終わりを迎えた。


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