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作品名:SEASON 作者:けん

第2回   入学式 前編
(あぁ、だるい・・・・それに眠いし・・・。何で校長の話ってこんなに長いんだ?誰も真面目に聴かないって。ほら、俺の前の席のヤツなんかもう寝てるよ。早く終わってくれないかなぁ。)
 今僕は体育館で見るからにいい物を食べているような体格の校長の話を聴いている。まぁ入学式なんだから仕方がない。むしろこれがなかったらそれはそれでどうかと思う。
(健康考えて飯食えよ。校長先生。)
 と無駄に校長の健康面を気にしながら早く終わってくれる事を祈り、だんだん睡魔が襲って来るのを我慢しながら座っていると、突然後ろから肩を叩かれた。
「おい、寝てる場合じゃないぞ。お前はもっと目の前の状況に気を配れよ。お前はそんなんだから好きな女の子の一人も出来ないんだよ。」
 突然小さな声で話しかけてきたのは中学の時から友達の木村だった。中学では3年間同じクラスになり、そして高校も一緒、クラスも一緒になった腐れ縁の強い友達だ。しかも名前の順番的にも偶然が重なり、僕は「あ」なのでクラスの一番前に座っていて、その後ろに「き」の木村が背後霊のように座っていた。 
「今は喋る時じゃねぇだろ。ちょっと黙ってろよ、みんなの迷惑になるだろ。」
 と僕が話を断ち切ろうとすると木村がさらに
「何言ってんだよ風!、周りの奴ら全員寝ちまってるじゃんか。起きてるの俺とお前ぐらいだよ、それにここは結構隅っこの方だからあんまり目立たないし、前には違うクラスの男子達がいるから多少喋ったって気づかれないって。」
 確かに周りの奴らは寝てしまっていて前には壁になるような違うクラスの男子が並んで座っていた。
「まぁでもなんだな、お前がこの高校に来てくれて嬉しかったぜ。お前ならもっとレベルの高い高校や、部活動の推薦でも楽に合格できただろ。けど何でここにしたんだ?」
(そういえば言ってなかったっけな。)
 実はあまり言いたくない理由だったので誰にも理由は言わなかったのだ。
「・・・・・・・・・・近かったから。」
 ぼそりと言った言葉に木村は驚いた顔をして、
「マジかよ?お前そんな理由でこの高校にしたのか。担任の小畑の驚きの顔が思い浮かぶな。けど何て言ったらいいか、お前らしい理由だな。両親は何も言わなかったのか?」
 笑いながら喋る木村に、
「いいんじゃない?そんな事より近いんだから、彼女が出来たらちゃんと家に連れて来なさいよ。」
 と親に言われた事を告げると木村は声を押し殺して笑っていた。この時僕は、木村と話している楽しさを感じていた。木村がいてくれて高校生活の不安が少し和らいだのも事実であり、心の中ではこいつには少し感謝している。まぁ口に出しては言わないけどな。
 ようやく校長の長い話が終わり、この高校の校歌を聴いた後、クラスに移動することになった。
3年の教室は1階、2年の教室は2階、そして一年生は3階に教室があり、クラスは5組あり一クラスあたり三十人程度の人数で分けられていた。
(一年と三年の教室の場所が反対だと思うのは僕だけか?)
 と個人的な疑問を誰に問いかけるわけでもなく頭の中で考えていた。しかし廊下側の窓からは北校舎が邪魔で景色が見えないものの、三階の教室の窓から見る山の景色はなかなかのもので、僕はこれはこれでいいかと納得した。
 僕のクラスは2組で教室に入ると、一列ずつ机が綺麗に並べられており、先生から一番前から名前の順で座るようにと指示があって、一番前ってのがちょっと嫌だったが、窓側の席になれた事に関しては自分の名前に感謝したものだ。
 僕の右横に座って女の子を見ては喋り女の子を見ては喋りしているヤツがいなければもっと静かでよかったのに。
「よし!お前ら静かにしろ。これから先生の自己紹介をする。」
 隣のクラスまで聞こえるような声にクラス一同ビクッっとした。教室が静まりかえったのを確認して先生が話し始めた。
「私の名前は龍之介、日高龍之介だ。歳は二十五歳で独身、趣味はスポーツ全般で水泳が得意だ。去年にはハワイで行われたアイアンマン・トライアスロンに参加した。あれは死ぬほど疲れるが終わった後飲む酒は最高の味になる。是非みんなも機会があればチャレンジしてみてくれ。後は・・・・そうだな、みんな出来るだけでいいから部活に入って欲しいな。出来ない理由がある人に無理やりしろとは言わないが、高校生活の中で部活はいい経験になるし、それにいい結果が出せたら内申もよくなるだろうからな。みんな!青春は一度きりだ!悔いが残らないように!」
 そう言うと先生の自己紹介は終わった。
(どこからどうみてもスポーツマンだな。この人が体育の先生なのかな。まぁこんな人も嫌いじゃないから問題ないけどね。)
 みんなが先生の勢いに負けて目が点になっているところに一人の女の子が質問をした。
「先生の担当教科は何ですか?やっぱり体育ですか?」
 クラス全員がそう思っただろう。しかし返ってきた言葉は僕らの予想を裏切っていた。
「いや、先生は数学を教えている、数学は実に楽しい、みんなもしっかり勉強してくれたまえ。」
 予想外の返答に質問した女の子も驚いていた。そんな時チャイムがなり、十分間の休憩が入った。
「次はみんなの自己紹介をしてもらいます。今のうちに考えておいてくよ。名前と出身中学、趣味ぐらいは最低でも言ってくれよな。」
 と先生は言い残して教室を出ていった。これから名前の順番的にも一番最初に自己紹介をする訳だが、最初はやっぱりやりにくい。誰かの後の方が参考に出来るしやりやすいんだけどなぁと思いながら窓から見える景色を眺めていた。
 休み時間の終了の合図となるチャイムがなり、チャイムがなってから一分も経たないうちに先生が教室に戻って来た。
「よし、じゃあ自己紹介を始めるか。名前の順でいいよな?いいよな?秋谷?」
 と先生は僕をとても情熱的な目で直視してきた。
(嫌ですと言ったら自分が悪いように思えるほどの目だ。)
 そう思いながらゆっくり首を縦に振った。
「よし、じゃあ始めるぞ。自己紹介が終わったらみんな拍手するんだぞ。」
 そういうと先生は椅子に座り、ニコニコしながら僕を見ていた。
 僕はゆっくりと立ち上がった。そして体を少し後ろに回転させて喋り始めた。
「初めまして、秋谷風と言います。史鎌東中学からきました。部活は陸上部に所属していました。
家は高校の目と鼻の先で歩いて2、3分で着きます。趣味は散歩と食べること・・・かな。そういうわけでよろしくお願いします。」
 思いのほか緊張した。その訳はみんなに注目されていたからというありきたりな答えともう一つ、一人の女の子の視線がとても気になったからだ。その女の子は僕をとても興味津々で見ていた。その子を見て、僕は不思議なことに懐かしさを感じた。


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