翼無き者に告ぐ
我らは天人
いと高き天より地を
生きとし生ける命あるすべての行く末を
見届けるものなり
我らは天人
人ならぬ者
プロローグ
激しい雷鳴。そして稲妻も。 朝からずっと、大粒の雨が大地を穿ち続けている。 おかげで今日の課外授業は台無しだ、とキルヴァが恨みがましい眼で窓の向こうを睨みつけたそのとき―----- なにかが、閃いた。 暗く垂れこめた雲の合間から、まっすぐに、なにか金色に燃えるものが落ちてきた。 キルヴァは机を飛び離れ、窓辺にしがみついた。 だが、光はすぐに消えてしまった。 「王子、席にお戻りを。勉強の最中です」 「―-----いま、なにか空から落ちてきた」 「空から落ちてくるものなど決まっています。雨か、星です」 「え!?星!?」 「正しくは星のかけら、隕石ですが。……拾いに行きたいですか?」 「行きたい」 「ではさっさと今日の分の勉強を終わらせてしまいましょう。終わって、雨がやんでいたら、星拾いにお供いたします」 キルヴァは眼を輝かせて机につき、真剣に勉強を再開した。 キルヴァの若き家庭教師兼護衛役のセグランはクスッと笑った。 王子の気性は素直で、まっすぐで、わかりやすい。ゆくゆくは、民を愛し、民に愛される王になるだろう。 ……楽しみだな。 結局、雨はやまず、キルヴァがセグランを連れて星を拾いに行けたのは翌朝だった。 ところが、落ちていたのは星ではなかった。 「……あれ、なに」 キルヴァは朝日に輝く湖のほぼ真ん中を指差した。 「……鳥?」 「……いえ、鳥にしては大きすぎますよ。あれは……まさか……」 セグランは湖の淵に近づこうとするキルヴァを止めて、じっと眼を凝らした。 「大変だ」 セグランはすぐに上着を脱ぎ捨てた。 「王子はここにいてください。これ以上近づいてはいけません。というよりは、もっとずっと離れて、できれば隠れていてください。私がいいというまで出てこないように。いいですね。お願いですから、いまは私の言うことを聞いてください」 「……わかった。隠れている。けど、その前に教えて。あれはなに?」 セグランの強張った喉が、緊張にみちた声を紡いだ。 「あれは、天人です」
―-----もしも、このとき、この出会いが、後の悲劇の源になると知っていたならば
―-----私はあなたを助けなかった
―-----そう、私は選択を誤ったのだ
―-----私があなたを助けなければ
―-----王子とあなたは恋に落ちることもなく
―-----私はなにも失うことはなかっただろう
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