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作品名:天人伝承 作者:安芸

第1回   1
      翼無き者に告ぐ

      我らは天人

      いと高き天より地を

      生きとし生ける命あるすべての行く末を

      見届けるものなり

      我らは天人

      人ならぬ者





      プロローグ



 激しい雷鳴。そして稲妻も。
 朝からずっと、大粒の雨が大地を穿ち続けている。
 おかげで今日の課外授業は台無しだ、とキルヴァが恨みがましい眼で窓の向こうを睨みつけたそのとき―-----
 なにかが、閃いた。
 暗く垂れこめた雲の合間から、まっすぐに、なにか金色に燃えるものが落ちてきた。
 キルヴァは机を飛び離れ、窓辺にしがみついた。
 だが、光はすぐに消えてしまった。
「王子、席にお戻りを。勉強の最中です」
「―-----いま、なにか空から落ちてきた」
「空から落ちてくるものなど決まっています。雨か、星です」
「え!?星!?」
「正しくは星のかけら、隕石ですが。……拾いに行きたいですか?」
「行きたい」
「ではさっさと今日の分の勉強を終わらせてしまいましょう。終わって、雨がやんでいたら、星拾いにお供いたします」
 キルヴァは眼を輝かせて机につき、真剣に勉強を再開した。
 キルヴァの若き家庭教師兼護衛役のセグランはクスッと笑った。
 王子の気性は素直で、まっすぐで、わかりやすい。ゆくゆくは、民を愛し、民に愛される王になるだろう。
 ……楽しみだな。
 
 結局、雨はやまず、キルヴァがセグランを連れて星を拾いに行けたのは翌朝だった。
 ところが、落ちていたのは星ではなかった。
 
「……あれ、なに」
 キルヴァは朝日に輝く湖のほぼ真ん中を指差した。
「……鳥?」
「……いえ、鳥にしては大きすぎますよ。あれは……まさか……」
 セグランは湖の淵に近づこうとするキルヴァを止めて、じっと眼を凝らした。
「大変だ」
 セグランはすぐに上着を脱ぎ捨てた。
「王子はここにいてください。これ以上近づいてはいけません。というよりは、もっとずっと離れて、できれば隠れていてください。私がいいというまで出てこないように。いいですね。お願いですから、いまは私の言うことを聞いてください」
「……わかった。隠れている。けど、その前に教えて。あれはなに?」
 セグランの強張った喉が、緊張にみちた声を紡いだ。  
「あれは、天人です」




 ―-----もしも、このとき、この出会いが、後の悲劇の源になると知っていたならば

 ―-----私はあなたを助けなかった

 ―-----そう、私は選択を誤ったのだ

 ―-----私があなたを助けなければ

 ―-----王子とあなたは恋に落ちることもなく

 ―-----私はなにも失うことはなかっただろう


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