『――朱キ天馬ハ禍ヒノ印。印ヲ刻ミシ悪魔ノ一族、是皆王家ニ仇ナス者共ナリ。世界ヲ滅ボス者共ナリ。 翼ヲ持ツ者共、皆悉ク闇ニ還レ。光ノ前ニ滅ビヨ。 聖ナル子ラヨ、戦フベシ。汝ラノ父、ベルグリッドノ御名ニ於ヒテ。――』
戦いを告げる笛の音が高く、星一つない夜空にこだましては消えた。 燃え盛る炎は、全てを闇に葬ろうとしていた。吹き付けてくる熱風を、彼は顔を覆ってやり過ごす。 熱い。髪が、肌が焼ける。 剣術の道場へ通うために毎日のように走り抜けた、里の外れの小道だった。両側の家屋は既に焼け崩れ、近くに見える矢倉も炎に包まれている。 遠くからも近くからも、人の叫び声がしていた。 己の命と引き換えに、一人でも多くの敵を道連れにしようと刃を振るう戦士たちの雄叫び。親兄弟とはぐれた幼子の泣き声。深手を負い動けなくなった者の、呪詛にも似た呻き。 里に満ちたそれらの声は、彼の頭の中で共鳴する。 (――行かなきゃ) 行って、皆と共に戦わなければ。 そう思うのに、身体が動かない。 ――なぜ。 がむしゃらにもがこうとするが、暗い地面に直立したまま足が動かないのだ。見れば、大地が生き物のように流動し、彼の両足首をがっちりと捉らえている。 “お前は戦ってはならぬ。逃げろ。生き延びるのだ――” 嫌だ、と彼は叫ぼうとした。それなのに声が出ない。もどかしくて爪で喉を掻きむしるが、何一つ痛みを感じないことに気が狂いそうだった。 独りだけ逃げろなどと、拷問より酷い仕打ちだ。皆と共に戦って、死なせてくれ。 身をよじるようにして、彼は訴えようとした。 あぁ、なぜだ……。 彼は血を吐くようにして呻く。 “シルシ”に誓った筈だ。一族と共に生き、共に死ぬと。 皆がそれに従っているというのに、なぜ己一人だけが果たせないのか。 がくりと膝をついた途端に、全ての音が遠退いていく。 代わりに、淡い光が近付いてきていた。
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