ゼルキアスからの依頼でハーフエルフの集落である樹霊の都にやって来たマサシ達。そこでハーフエルフの長老ノーゼルダムから詳しい話を聞くことになった。
「それで、依頼の内容とは?」 「フム、我々ハーフエルフとライトエルフの間で争いがあることはご存知ですな?」 「ハイ」
ノーゼルダムから現状を確認するように問われたマサシは頷く。そしてノーゼルダムは深刻な表情で話を続けた。
「今から10日前に突然この集落にライトエルフ達がやって来たのです」 「ライトエルフが?」 「目的は同盟を結ぶことでした」 「・・・もしやダークエルフの事が関係して?」
鋭い視線でレイナがノーゼルダムに尋ねると彼は黙って頷いた。
「ライトエルフと敵対関係にあるダークエルフ達を一掃する為に共に戦う、それが同盟を結ぶ理由だったのです」 「・・・ですが貴方達は同盟を結ぶことを断った。そしてその事に怒ったライトエルフ達は強行手段を取った」 「この集落を攻め、貴方達ハーフエルフを力で従わせようとしているんですね?」
レイナの言葉を引き継ぐようにコンタが話す。周りにいるマサシ達の表情がレイナと同じように鋭くなる。どうやら皆依頼の内容が読めてきたようだ。
「その通りです・・・」 「でも、どうして同盟を断ったんですか?」
ジゼルが断った理由を尋ねるとセピリアが話に加わり質問に答えた。
「私達ハーフエルフは戦うことを望んでいないからよ。私達はこの樹霊の都で静かに暮らすことを望んでいる、それにライトエルフとダークエルフの争いに巻き込まれることも望んでいないから」 「成る程、ハーフエルフは戦いを嫌う種族と聞いてはいました」
ジゼルの隣でネリネがハーフエルフが平和に暮らす種族であることを思い出し、顎に指をつけて口にする。するとセピリアが少し口調を強くして言った。
「でもそれよりもアイツ等が言ったことが気に入らなかったのよ」 「「「?」」」
マサシ達が頭に?マークを浮かべる。
「アイツ等はこう言ったのよ、『貴方達のような人間の血が流れている汚れた種族は私達のような汚れの無い純血のエルフに力を貸すべきだ』ってね」 「そんな事を?」
セピリアが言ったライトエルフの言葉にマサシは怒りを感じたのか声が低くなった。そして彼の周りにいるジゼル達も表情が更に鋭くなる。
「だから私は言ったのよ『その汚れた血を流す私達の力を必要とする貴方達は何なのですか?』って。私は汚れてるとまで言われてライトエルフに力を貸す気はなかったからね」 「何を言っているセピリア、抑々あの時お前がもう少し冷静に対応していればこんな事にならずに済んだのだぞ?」 「お父様は悔しくないのですか!?人間の血が混ざっている、たったそれだけの理由で汚れたなんて言われて・・・」 「お前は考え方が幼すぎるのだ」 「「「!」」」
セピリアが話している最中に突然聞こえてくる女性の声。一同が入口の方を見るとドアが開き一人のハーフエルフが入ってきた。セピリアと同じように深緑のマントを羽織り腰には長剣を収めている、セピリアと同じ位の身長をした金髪の女性エルフだ。顔立ちは何処となくセピリアに似ている。
「姉さん・・・」 「父上の仰る通り、お前があの時冷静に対処していれば宣戦布告を受けることもなかったのだ」 「でもっ・・・!」 「我々ハーフエルフが周りから差別を受けてきたのは遥か昔からだ。今更汚れていると言われてもどうにかなる事ではない」 「・・・・・・」
正論を言われダンマリになるセピリア。
「お前は昔から感情的になると後先の事を考えなくなる。それが今回の一件を招いた、つまりお前の責任なのだ!」 「そんな言い方・・・!」 「やめないか二人とも、客人を前に見苦しいぞ」 「「・・・・・・」」
ノーゼルダムに言われ状況を思い出す二人。セピリアは気分が悪くなったのか無言で部屋から出て行った。出て行ったセピリアをそのままにノーゼルダムはマサシ達に頭を下げる。
「娘達が見苦しいところをお見せした、どうか許して下され」 「あ、いえ、気にしていませんから・・・」
マサシは少し驚いていたのか首を横に振る。すると女性エルフがマサシ達に軽く頭を下げた。
「紹介します、セウシルです。セピリアと同じく私の娘です」 「よろしくお願いします、先ほどは妹と共に見苦しい姿をお見せしてすみませんでした」 「いいえ、気にしていません。・・・それにしても」
マサシがセウシルの頭から爪先まで見て言った。
「随分と歳の離れた姉妹なんですね?」 「は?・・・双子ですが?」 「えっ!?」
思いもよらぬ爆弾発言をしてしまったマサシが汗を一つ垂らした。周りにいたジゼル達も自然と一歩下がる。
「お、同じ歳なんですか?」 「同じ117ですが・・・何か?」
セウシルの声には明らかに怒りが感じられる。マサシの顔には更に汗が流れてきた。この時マサシはようやく自分がとんでもないことを言ってしまったことに気付いた。
「え、あ、い、いや〜、世界は広いですからね、事情も色々、姉妹も色々あるでしょうから・・・」 (も〜、マサシのバカッ!)
自分の爆弾発言を必死で誤魔化そうとするマサシの姿を見たジゼルが心の中で彼に怒っていた。ジゼルの後ろではコンタ、レイナ、ネリネの三人も呆れ顔をしている。
「まぁ、顔立ちが違う上に声も若干低いですからな、間違えるのも無理ありません」 「父上?」 「ん?おお、スマンスマン」
父親からも自分が若く見えない様な言い方をされ、チラッとノーゼルダムの顔を見て低い声を出すセウシル。ノーゼルダムは冗談だというような顔で笑いながら謝る。セウシルとのやり取りを簡単に済ませマサシの方を向いたノーゼルダムは話を戻した。
「改めて、皆さんに依頼の内容を説明します。集落に攻めてくるライトエルフの迎撃と集落の防衛です。今日から2日間お願いします」 「2日?」 「ハイ、2日後には物資調達のために集落の外に出ている多くの同胞が戻ってきます。ですがここ数日ライトエルフ達が立て続けに集落に攻め込んできまして、既に多くの者が重傷を負い動けなくなっておるのです」 「成る程、だから2日間と・・・」 「ええ、よろしくお願いします」
そう言ってノーゼルダムは頭を下げる。セウシルも遅れて頭を下げた。そしてマサシの隣までネリネがやって来て小さく頷く。
「承知しました。早速集落の防衛状態を調べたいのですがよろしいですか?」 「分かりました。セウシル、ご案内しなさい」 「ハイ」
セウシルは入口の方へ歩いていきネリネも後を追うように歩いていく。すると、突然立ち止まりマサシ達の方を向いて言った。
「私は集落を見て回ってくるから皆は装備の確認とかをしておいて」 「いいのか?なんなら俺も一緒に行くけど?」 「いいわよ、これは元々私達ゼルキアスの仕事なんだから」 「そうか、じゃあそうさせてもらう」 「ええ、それじゃあ後でね」
ネリネはウインクをしてセウシルの後を追い退室していった。残ったマサシ達もやるべき事をするため行動に移る。
「ノーゼルダムさん、どこか部屋を貸していただけませんか?装備の確認や作戦を立てたいんですが」 「それでしたらこの家の一室を使ってください、準備させます」 「分かりました。それでは・・・」 「ああ、それと・・・」 「「「?」」」
退室しようとして突然呼び止められ振り返るマサシ達。ノーゼルダムはやや深刻そうな顔をしている。
「依頼とは関係ないのですが、セピリアの話し相手になっては下さらぬか?」 「セピリアの?」 「ハイ、あ奴は一見明るく振舞ってはおりますが、今回の一件で責任を感じ深く落ち込んでおります。どうか、娘を元気付けてやって下さい」 「・・・分かりました。早速セピリアに会ってきます」
そう言ってマサシは一人部屋を退室しようとするがジゼルがマサシの手を掴みそれを止める。
「ちょっと待ってマサシ」 「何だよ?」 「会って来るって、彼女が何処にいるか分かるの?」 「・・・・・・さぁ?」 「ガクッ・・・」
分からない、というジェスチャーをして苦笑いをするマサシに肩を落とすジゼル。コンタとレイナもやれやれと顔を横に振った。
「セピリアはきっと『あそこ』でしょう」 「あそこ?」
ノーゼルダムの言葉にジゼルが聞き返す。そしてノーゼルダムはセピリアの居場所を説明しだした。
一方、セピリアは集落の奥にある小さな広場に一人膝を抱えるように座り込んでいた。その表情には明らかに元気がなかった。
「・・・・・・」 「へぇ〜、こんな所があるんだな」 「!」
突然聞こえた声にセピリアは振り返る。そこにはマサシ達が辺りを見渡しながら歩いてくる姿が見えた。
「あ、貴方達・・・」 「よう、ノーゼルダムさんが多分此処じゃないかって」 「そう、まったくお父様もお喋りなんだから・・・」
少し呆れような表情をするセピリアであったがすぐに表情を戻し前を見る。マサシ達がゆっくりと近づくとセピリアの前には一つの墓石があった。
「墓か・・・?」 「うん、私の母のね・・・」 「え?セピリアさんのお母さん?」
マサシの隣に立っていたコンタが聞き返す。セピリアは小さく頷き口を開いた。
「お母様は私が小さい時に死んじゃったの、ダークエルフの攻撃を受けて・・・」 「ダークエルフ?」 「ええ、昔ダークエルフ達がライトエルフに対抗する為に私達ハーフエルフを捕まえて戦力にしようとしていたの。勿論、敵の注意を引き付ける囮のようにしてね」 「ライトもダークも考えてることは同じか。酷いやり方しやがる」
ハーフエルフ達を捨て駒のようにするダークエルフのやり方にマサシが苛立ちを見せる。
「私達は必死に抵抗したわ。でも闇に堕ちたとはいえ相手は純血のエルフ、エルフ本来の力を持っていない私達には勝ち目がなかった・・・」 「その時にお母さんを?」
ジゼルの質問にセピリアは静かにうなずく。
「その時以来、お父様は二つの種族が自分達の事を侮辱したり利用しようとしたりしていても何も言い返さなくなってしまったわ」 「それはきっと二つの種族の怒りを買って奥さんのような犠牲者を出さないようにするためだろう」 「分かっているわ、でもだからと言っていつまでも他の種族にバカにされ続けてもそれは本当の意味でハーフエルフの為にならないと私は思っているの。だから今回も・・・」
レイナが座り込んでいるレイナの背中を見ながら言う。セピリアは少し俯いて自分の考えを口にする。どうやら彼女は母親が犠牲になったことでより強い意志を持つ種族にすることを目指しているようだ。そうしなければ母親の死が無駄になってしまうと思ったからだろう。セピリアとノーゼルダムの考えはどちらも正しいと言える、だがどちらが正しいのかはマサシ達には分からない。
「大変だー!ライトエルフ達が来たぞーっ!」 「「「!!」」」
突然村の方から聞こえてきた声、マサシ達はフッと村の方を見る。どうやらライトエルフ達が攻めてきたようだ。マサシ達はそれぞれの考えや思いを胸に村へ走っていった。この先、ライトエルフとどのような戦いが待っているのか・・・。
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