レイナにゼルキアスからの依頼がきていると聞かされ、手伝う事になったマサシ、ジゼル、コンタの三人。四人は依頼者であるネリネに会いにゼルキアスの首都であるロードグランへ向いネリネと再会する。そしてネリネから詳しい内容を聞くために城にある彼女部屋へ向かった。
「ここよ、入って」
ネリネに案内されたマサシ達は城にあるネリネの部屋に入った。本棚には沢山の書物が並べられており、壁には何本もの剣が掛けられている。
「ここがネリネの部屋か」 「そこの椅子に座って待ってて、今書類とお茶を持ってくるから」 「ワリィな」
マサシ達は来客用のソファーに座って部屋の奥へ行くネリネを見送った。そして四人は部屋を簡単に見回した後に依頼の内容について話し出した。
「一体どんな内容かしら?」 「さぁな、でもネリネがレイナに依頼を頼んだくらいだから簡単な依頼じゃない事は間違いないな」
内容を考えるジゼルにマサシは自分の考えを話す。するとコンタが話しに加わってきた。
「でも危険度は3だったんでしょ?そんなに危険な内容だとは思えないんだけど・・・」 「・・・いずれにせよ、公開できない極秘の依頼だと言う事は確かだろうな」
コンタに続いてレイナが考えを口にする。すると部屋の奥からネリネの声が聞こえてきた。
「レイナの言うとおりこれは一般の人には知らせられない極秘の内容なの。危険度は低くてもある意味難しい仕事よ、だからレイナに手紙を出したの」
部屋の奥からワゴンにティーポットとカップを乗せてゆっくりと歩いてくるネリネ。四人の前に空のティーカップをテーブルに置き紅茶を注いでいく。紅茶を出し終えると四人の前に数枚の書類を置いた。
「そこに内容が詳しく書かれているわ。でも、その書類を読む前に四人に訊きたい事があるの」 「「「「?」」」」
四人は手を止めてネリネの顔を見上げる。
「貴方達、『エルフ』って知ってる?」 「エルフ?」
エルフと言う名を聞いたジゼルは聞き返した。するとマサシが紅茶を一口飲んで答えた。
「エルフって森に住む妖精のエルフか?」 「そう、この世界には三つの種類のエルフが存在するの。人間とエルフの血が流れている『ハーフエルフ』。エルフの血だけが流れている純血の『ライトエルフ』。そしてライトエルフが堕落し闇に染まった『ダークエルフ』の三種類よ」
ネリネがラビリアンに存在するエルフの種類を説明しながら椅子に座る。そしてゆっくりとティーカップを取り話を続けた。
「ハーフエルフは人間の血が流れているエルフで私達人間とも少しだけ交流があるの。でも、人間の血が混ざっているためエルフ本来の力は弱まっているわ」 「エルフが使える力を使えなくなってるってこと?」 「一部だけね。エルフは自然の力を借りて使う『元素魔法』というものを使う事ができるんだけど、ハーフエルフは人間の血が混ざってエルフの血が薄くなってしまったから魔力が無くなってしまった。だから他の二種は彼らを『汚れた血』と言って手嫌いしているわ」 「酷い、同じエルフなのに・・・」 「仕方ないわ、エルフは自尊心が強いから自分達より力の劣る人間を見下したりするから人間の血が流れるハーフエルフを仲間と認めないのよ」
ゆっくりとティーカップを口につけて紅茶を飲むネリネ。人間よりも差別の酷いエルフの話を聞かされ悲しそうな目をするジゼル。すると紅茶を飲みながら話を聞いていたマサシがティーカップを置いて口を開いた。
「こっちの世界でもエルフは似たようなもんなんだな」 「そうだね、昔本で読んだことがあるけど、何処でも同じだね」
マサシに続いてコンタも天井を見上げて言った。二人の話を聞いたジゼルとネリネは彼等の方を向いた尋ねる。
「貴方達の世界でもエルフは人間を見下しているの?」 「ん?ああ、正確には小説や漫画の中で、だけどな。俺達の世界ではエルフは存在しないんだ」 「ふ〜ん、変わってるね」
話を聞いてジゼルは椅子の上で足をぶらつかせながら小さく頷く。するとさっきまで黙っていたレイナが紅茶を飲み干し、空になったティーカップを置いてネリネの方を向き尋ねた。
「それで、エルフと今回の依頼にどんな関係があるんだ?」
レイナの方を向いたネリネは真剣な表情でテーブルの上の書類を取り説明を始めた。
「実はそのエルフの内、ハーフエルフとライトエルフの間で争いが遭ったみたいなの」 「争い?」 「ええ。数日前に一羽の鳥が足に手紙をつけて城にやって来て、その手紙にその二つの種族の争いを止めてほしいと書かれてあったの」 「手紙の送り主は?」 「ハーフエルフの長老のノーゼルダム殿よ」 「ノーゼルダム・・・何者だ?」 「さっきも言ったようにハーフエルフの長老で、現在のハーフエルフで一番の長寿の方よ」
ネリネが依頼のことを話し始めると四人はネリネの方を向いて鋭い目をしていた。それだけ集中していると言う事だろう。
「詳しい話は『樹霊の都』で話すと書かれてあったわ」 「樹霊の都?」
聞いた事の無い場所にマサシが聞き返す。
「ここから東に10キロ程行ったところにある『ペリシャムスの森』の中にあるハーフエルフの集落よ」 「ハーフエルフの集落かぁ・・・」
マサシが腕を組んでどんな所なのか考える。ネリネはそのまま話を続けた。
「でも元老院は何の見返りも無しに、増してやエルフの頼みなんて聞けないと言って私にこの件を押し付けたってわけ。しかも騎士団を使わず、私一人の力で何とかさせたいみたい」 「なんて無責任な人達だ!」
元老院の行いに怒りを表すコンタ。いくら騎士団長になったとは言え、まだ元老院の中にはネリネの存在をよく思っていないものが大勢居るのだ。今回の件で彼女が失敗すれば騎士団長の資格を剥奪するきっかけになる。それを分かっていて元老院はネリネ一人に押し付けたのだろう。
「ネリネ一人に押し付けたのも、表ではエルフの存在や集落の場所をおおやけにしない為って言う理由だけど、実際はネリネを蹴落としたいだけって訳か」
マサシが元老院の企みを口にし気に入らないと言いたそうな表情を出した。するとネリネは書類をテーブルの上に置き立ち上がった。
「勿論私はハーフエルフを見捨てるつもりもないし、元老院の命令で動くわけでもないわ」 「困っていれば、例え人間だろうとエルフだろうと助ける。それがお前の意志であり、やり方でもあるんだろう?」
かつて自分と同じ神竜隊に所属していたネリネの考えを先に口にするマサシ。ネリネはマサシの方を見てゆっくりと頷いた。するとマサシは立ち上がり、ジゼル、コンタ、レイナの三人も続いて立ち上がった。
「それじゃあ、早速行こうぜ。エルフの集落、樹霊の都へな!」 「ええ!」 「さっさと依頼を終わらせて元老院の人達に一泡吹かせてやろう!」 「フッ、楽しそうだな」
四人はハーフエルフの集落へ行く事で二つの楽しみを懐いていた。一つは初めてエルフを見ること、そしてもう一つは依頼をクリアして元老院の驚く顔を見ることだった。そんな四人を見ていたネリネは小さく笑いながら汗を垂らしていた。
ネリネの部屋を出て、ロードグランを出発したマサシ達は東に向かって車を走らせていた。運転するマサシの隣の助手席ではジゼルが書類の内容をマサシに伝えている後部座席ではネリネがコンタとレイナからサンドリアではどんな生活をしているのかなど色々な話を聞いていた。その光景は戦友というより、ごく普通の友人同士の会話にしか見えない。そんな楽しそうな海をバックミラーで見たマサシは小さく笑っていた。ロードグランを出発してから1時間後、マサシ達はゼルキアスの小さな村である「リリティムル」へ到着した。
「ここがリリティムルよ」
マサシが車を止めるとネリネが窓の外を指差して説明した。
「ここはゼルキアスの中で最も人口が少なく食料なんかも自分達で作っているの」 「自給自足ってやつだね」
ネリネの説明を聞いてコンタが外を見ながら言った。
「そしてこの村の人達がゼルキアスで唯一ハーフエルフ達の集落への行き方を知っているの」 「ならまずは村人から樹霊の都への行き方を聞かないといけないな」
ネリネの隣でレイナが静かにこれからやる事を口にし、運転席にいるマサシに言った。
「そう言う事だ、マサシあの村へ向かってくれ」 「りょーかい」
レイナに言われたとおり村へ車を走らせるマサシ。その後マサシ達は村長に会いハーフエルフの集落への行き方を聞き、集落のあるペリシャムスの森へ向って再び車を走らせた。そして30分後、四人は森の入口前に到着した。
「ここが入口か」
車から降りたマサシは入口を見上げる。ジゼル達も普通の森とは違う不思議な感じに入り口を見上げた。
「この先にハーフエルフの集落があるんだね?」 「ああ、村長の話では最初の分かれ道を左に行き、その次の分かれ道で右へ行ってその後は・・・」 「もと来た道を戻ると言っていたな」
マサシが村長の説明を思い出しながら話していき、レイナが変わりに答える。
「でもどうしてもと来た道を戻るの?」 「さぁな、それ入ってみれば分かるって言ってたぜ」
ジゼルが首を傾げて尋ねるとマサシは両手を広げながら言う。実は村長は生き方を聞いただけでどうして戻る必要があるのかまでは教えてくれなかったのだ。
「とにかく行ってみましょう」 「ああ、ここで考えていてもしょうがねぇしな」
ネリネの意見に賛成したマサシを先頭にジゼル達は森の中へ入って行った。しばらく歩くと五人は最初の分かれ道の前までやって来た。右と左に分かれているごく普通の道だった。
「これが最初の分かれ道か」 「確か最初は左に行くんだったよね?」
コンタが尋ねるとマサシは首を縦に振った。
「それじゃあ、まずは左へ行こう」
コンタの言葉に従うようにマサシ達は左へ進んでいく。しばらく進むと、また二つに分かれる道に出くわした。
「次は右に進むんだった・・・・・・あれ?」 「マサシ、どうしたの?」
突然マサシが不思議そうな顔をした。それを見て尋ねたジゼルがマサシの向いている方をゆっくりと見ると、右の道の真中に一人の女の子が立っているのが見えた。その女の子は黄緑と茶色の服に橙色のスカートを穿き、背丈はコンタより少し低いくらい。木の実や花の入ったかごを持っている。その少女はマサシ達に気付き、少し驚きの表情を見せてマサシ達の方を見る。
「なんでこんな所に女の子がいるの?」 「リリティムルに住んでる子じゃないのか?」
一人でいる女の子に小さな違和感を感じるジゼル。マサシはリリティムルの子供ではないかと考えているようだ。そこへネリネが話しに加わってくる。
「それは無いと思うわ、村長がこの森は深いから子供が一人で行かないように言い聞かせているって言ってたから」 「じゃあどうして・・・」
ネリネの言った事を聞き益々違和感を大きくする一同。するとジゼルが手を振って女の子に呼びかけた。
「ねぇー、そこの貴方ー!」 「!」
呼びかけてきたジゼルに驚いた女の子は慌てて奥へ走って行った。
「あ、待って!」 「あ〜あ、行っちゃったよ」 「な、何よ、まるであたしが驚かせたみたいじゃない」 「ま、この状況じゃあ誰が呼びかけても逃げちまうだろうな」 「む〜、何だか納得がいかない」
マサシの言い分に頬を膨らませるジゼル。するとコンタが二人を見上げて言った。
「二人とも、話は後にしなよ。あの子を追いかけよう、放っておいたらあの子迷っちゃうよ」 「そうだな、行こう」
マサシ達は森の奥へ走って行った女の子を追って走っていく。しばらく走っていくと、さっきと同じ右と左に分かれている分かれ道に出くわす。女の子の姿は無かった。
「あの子何処に行っちまったんだ?」 「見失う筈無いのに」
姿を消してしまった女の子を捜してマサシとジゼルは辺りを見回す。そんな中、コンタがマサシの方を向いて言った。
「・・・ねぇ、マサシ」 「何だ?」 「さっきの女の子を見て気付いたんだけど・・・」 「ああ」 「さっきの女の子、耳が少し尖っていたんだ」 「何だって?」
コンタの言葉に一同は驚いてコンタの方を向く。
「間違いないのか?」 「うん、最初は外見だけ見てて気付かなかったけど、あの子が見えなくなった時に薄っすらと見えたんだ」 「耳が尖っている女の子・・・」
マサシは顎に手をつけて考え込む。そして一つの結論に辿りついた。
「・・・エルフだな、あの子は」 「やっぱりマサシもそう思う?」 「ああ、この状況じゃあ誰が考えてもそうなる」
マサシの隣でコンタが確認するように尋ねると、今度はレイナがマサシの考えを代わりに言うように話し始める。
「このエルフの集落があると言われている森に女の子が一人で、しかも耳の尖っているとなれば、エルフしか考えられない、か・・・」 「そう言う事だ」 「となれば、あの子が行き先は一つしかないわね」
ネリネがクルッと後ろを向いて元来た道を見る。そしてマサシ達の方を向くと、マサシ達は黙ったまま頷いて元来た道を戻っていく。しばらく歩いていくと、マサシ達は辺りを見回し始める。最初に来た時と比べて少しだげ周りの雰囲気や風景が変わっていたのだ。
「マサシ・・・」 「ジゼルも気付いたか?」 「うん、風景が違う」 「ああ、どうやらビンゴのようだ・・・」
二人が会話をしていると、先頭を歩いていたネリネが止まった。四人も止まり前を見た。そしてマサシ達の目の前に木や植物でできた大きな門のような物が目に飛び込んできたのだ。その門は明らかに人の手が加えられている物。自然にできた物ではない。
「マサシ、コレって!」 「ああ、どうやら着いたようだな。ハーフエルフの集落に」
遂にハーフエルフの集落「樹霊の都」に到着したマサシ達。ハーフエルフ達は彼等に対してどのような反応をするのだろうか、そしてこの後に一体どんな出来事が起きるのだろうか!?
|
|