ゼルキアス国境の村ポルランティアで起こっている襲撃事件の依頼を受けたマサシ達。久しぶりに再会したコンタとレイナ、そしてマサシの傭兵団神龍(シェンロン)の新人団員のアックスを連れて一行はゼルキアスへ向った。サンドリアを出てから半日が経ち、辺りは暗くなりかかっていた。なんとか彼等は日が落ちる前にポルランティアに着く事ができた。
「着いたぞ、ここがポルランティアだ」
運転席から降りたマサシは村の入口を見た。入口には大きな門のような物が建てられ、一番上には大きな看板がついている。例えるなら西部劇に出てくる町の入口の様なものだ。マサシに続いてジゼル、コンタ、レイナ、そしてアックスの四人が降車した。そしてレイナが懐から数枚の紙を取り出して読み始める。
「人口30、ゼルキアス共和国の中で一番小さな村だ。近くには『ゼムトの森』という所があって多くの動物や魔物が住み着いているそうだ」 「魔物が住み着いている森?どうしてそんな所の近くに村があるんだ?」
レイナの説明を聞いてマサシが尋ねる。レイナは別の紙を見て説明を始めた。
「魔物と言っても森に住んでいるのは人間に危害を加えない大人しい魔物だけだ。それにゼムトの森にはその森でしか取れない貴重な薬草や果実が多くある。ここに住んでいる人達はその薬草や果実を別の村や町に売った金で生活をしているようだ」 「そのとおりです」
レイナが説明を終えた直後に村の方から一人の男が歩いてきた。茶色い髪に口髭を生やした中年の男だ。
「貴方達がユピローズからいらっしゃった傭兵の方々ですね」 「ハイ、傭兵団神龍です。私が団長の秋円マサシと申します」 「おお、あの有名な神龍に来ていただけるとは、心強い限りです。私は村長のコヨルドと申します。さあ、どうぞ、こちらです」
コヨルドに案内されてマサシ達は村の中へ歩いていく。やがてコヨルドの家らしい大きな家に着いたマサシ達は中で事件の事を詳しく聞き始める。
「最初は畑の野菜を食い荒らす程度でしたが、日が経つにつれて村で飼っている家畜にまで手をつける様になったのです。村の者を数人警備に付かせたのですが、皆やられてしまいました」 「成る程。その警備をしていた人達は十分な装備を?」
家の広間で椅子に腰掛ける一同。その中でマサシが尋ねるとコヨルドはゆっくり首を振った。
「いいえ、なにせこんな小さな村ですから、鍬や短刀のような物だけしかありません・・・」 「・・・・・・依頼書では軍隊の様な統率された獣達と書いてありましたが?」 「ハイ、そのとおりです。まるでこちらの動きを先読みしているような動きでした。しかもこちらが灯りを持って動けば近くの草むらに身を隠してしまうのです」
コヨルドの説明を聞いたマサシ達は流石に驚く。無理も無い、獣でありながら灯り、つまり火だと理解して草むらに隠れるのだ。
「自分の姿を見られないようにする為に隠れる、か・・・。人間並みの知識を持っているんじゃないか?その獣」 「て言うかズル賢いよね。他人の食べ物を食べるだけ食べて、はいサヨウナラなんて」 「全くだ」
マサシとコンタが犯人の獣達の思考を話しているとレイナが腕を組み、目を閉じて静かに口を開いた。
「ズル賢い、と言えばお前達もだろう?」 「「ほっと(いて!)け!」」
二人はレイナに向かってツッコミを入れる。ジゼル達はそんな三人のやり取りを見て苦笑いをする。ジゼルは話を戻すためにコヨルドの方を向いて言った。
「オ、オホン!・・・とりあえず、今晩から我々が警備をして犯人の獣達が現れれば討伐します。村の人達に怪我を負わせる獣をこのまま野放しにはできません」 「え、ええ・・・よろしく、お願いします」
コヨルドは立ち上がりマサシ達に頭を下げ改めて依頼を頼むのであった。
そしてその夜、コヨルドや村人達は家の中に隠れ、マサシ達は外の物陰で犯人の獣達が現れるのを待っていた。神龍はそれぞれマサシとジゼル、コンタとアックス、そしてレイナの三組に分かれて獣達が狙う畑の作物を囲むように離れて見張っている。
「見張りを始めてから1時間、今だに犯人は姿を現さずか・・・」
マサシは腕時計を見ながら状況を確認する。その隣ではジゼルが畑を見ていた。
「本当にこの時間に来るの?」 「今まで奴等は夜中に、しかも決められた時間内に村にやって来ることが分かった。間違いなく今日この時間に村にやって来る」 「でも今だに姿を現さないのよ?もしかして今日は来ないんじゃ・・・」
ジゼルが喋っているとマサシが彼女の顔の前に手を持ってきた。
「マサシ?」 「シッ!」
静かにするようにジゼルに伝えたマサシは畑の方を指差した。ジゼルはマサシが指差す方を見ると畑の近くになにやら薄っすらと光る赤い物体が幾つもあった。それを見たジゼルは姿勢を低くした。
「お出ましのようだ・・・」 「マサシ、アレって・・・」 「ああ、奴等の目だ。しかもかなりの数だな」
マサシは無線機を取り出し誰かに連絡を入れる。
「こちらマサシ。レイナ、聞こえるか?」 「ああ、聞こえている」
連絡を受けてレイナが無線機を取り返事をする。彼女は今、村全体を見渡せる見張り台から畑を見下ろしている。そして暗視ゴーグルを使い暗闇に光る赤い目の持ち主を観察していた。
「敵の正体と数は分かるか?」 「少し待て・・・・・・目の持ち主が分かった、奴等は『ゼルキアステホン』だ。数は畑を囲むように六匹いる」
レイナは無線機の向こう側にいるマサシに獣の正体と数を詳しく教えた。
ゼルキアステホン 体長130〜150cm ゼルキアスに生息している狸に似た生き物。狸に似ているせいか雑食性で夜行性。だが地球の狸とは違ってとても凶暴で人間や馬など自分より大きな生き物を狼の様に集団で襲う。しかも賢く軍隊のように高い連携能力を持っている。
「ゼルキアステホン・・・確かゼルキアスに生息している雑食性の生き物だよな?」 「うん、でも彼等は森の中に生息していて人の住んでいる所には滅多に姿を見せないはずだけど」
ジゼルがゼルキアステホンの生態について喋っていると無線機から再びレイナの声が聞こえてきた。
「奴等は食料が無くなったり、冬の終わり頃つまり春になると食料目当てに森から出て来る。恐らく今回もそのせいだろう」 「それで村の食料を狙って来たって訳か」 「どうするの?マサシ」 「とにかく奴等をこのままにしておけない。片付けるぞ!」 「OK!」
マサシは無線機でレイナ達に連絡を入れた。
「俺とジゼルが奴等に攻撃する。レイナはその見張り台から援護しながら状況を教えてくれ」 「了解」 「コンタとアックスは側面から攻撃をしてくれ」 「分かった!」 「了解です!」 「よし、作戦開始!」
そう言ってマサシは胸につけている小型ライトを点けてアロンダイトを抜き飛び出した。ジゼルもそれに続いた。見張り台から二人が飛び出した事を確認したレイナは持っていた「PSG1」を構えた。
PSG1(H&K PSG1) へッケラー&コッホ社が1970年代に開発した高性能のスナイパーライフル。対テロ特殊部隊も採用しているほど性能が高く、射程距離は700m。しかも外見上の大きな特徴でもある太いバレルはサプレッサー無しでもそれ自体が発射音の低減効果を持っている。
レイナはPSG1を構えてゼルキアステホンに狙いを定めていつでも撃てる様に準備を万端にした。
「そこまでだ、この化け狸ども!」 「「「!!」」」
作物をあさろうとしたゼルキアステホンは走ってくるマサシに気付きフッと顔を上げる。そしてマサシはアロンダイトを大きく振り下ろした。だがゼルキアステホンを横に跳んでそれを回避した。しかしマサシはそれを狙っていたのだ。マサシは腰に納めてあるシグザウアーを抜き跳んだゼルキアステホンの一匹に向って発砲した。
「ギギャアッ!」
跳んでいた為回避する事ができなかったゼルキアステホンは撃たれ鳴き声を上げて地面に倒れた。そしてそのまま動かなくなった。
「まずは一匹!」
倒した事を確認したマサシは他のゼルキアステホンの方を向きアロンダイトとシグザウアーを構える。仲間が倒された事に驚いた他のゼルキアステホンはマサシに警戒して距離を取った。だがマサシの背後に回っていた一匹がマサシに飛び掛る。しかし、次の瞬間、飛び掛かったゼルキアステホンを強い衝撃が襲う。ジゼルがゼルキアステホンをブリュンヒルドで殴り飛ばしたのだ。殴り飛ばされたゼルキアステホンは地面に叩きつけられ息絶えた。
「マサシ、油断しちゃダメよ!」 「油断はしてないさ、お前の分を残しておいたんだよ」
マサシはジゼルのチラッと見て笑いながら言うと再び前を向く。ジゼルも小さく笑うとマサシの隣で残ったゼルキアステホンを見て構える。相変わらず息の合った二人だ。そんな二人を見たコンタとアックスも自分達の武器を取った。
「腕は衰えていないみたいですね、あの二人」 「当然さ、俺達神龍を束ねる存在だからな」 「それじゃあ、僕達も行きましょう!」 「ああ、元神竜隊のお手並み拝見だ!」
コンタはマサシと同じ小型ライトをつけてファイブセブンを二丁構えながら飛び出し、アックスもハンドアックスを構えて後に続いた。すると、突然無線機からレイナの声が聞こえてきた。
「皆、村の外から別のゼルキアスホルンが侵入してきた。数は八匹だ」 「ええ!?と言う事は全部で十二匹になったって事?」
コンタが驚いて訊き返すとレイナが冷静に答えた。
「そうだ、そのまま畑に向っている」 「了解!」
返事をしたコンタはゼルキアステホンを狙いファイブセブンを発砲。マサシ達の前にいる四匹のうち三匹がコンタの銃撃を受けて倒れた。残った一匹が逃げ出そうとしたが何処からか銃撃を受けて倒れた。離れた所からレイナがPSG1で狙撃したのだ。
「コンタもレイナも腕は衰えていないな」
マサシは喋りながらコンタと見張り台のレイナを見て少し懐かしさを感じていた。彼の隣にいるジゼルも同じのようだ。六匹全て倒した後にコンタとアックスがマサシとジゼルの下へ駆け寄ってきた。
「大丈夫?」 「ああ、見せてもらったよ。狐と狸の戦い」 「ちょっと!」
笑いながらふざけるマサシを見てツッコミを入れるコンタ。するとジゼルが二人に注意した。
「二人とも、ふざけるのは終わってからにしなさい!まだこっちに向ってる奴等がいるのよ!」 「おっと、そうだったな」 「ゴメンゴメン」 「ギャギャーッ!」
二人が反省していると村の入口の方から鳴き声が聞こえてきて四人が振り返る。すると暗闇の中から八匹のゼルキアステホンが走ってきた。四人が構えて迎撃しようとするが八匹のうち三匹が撃たれて倒れた。再びレイナが狙撃したのだ。突然倒れた仲間を見て急停止しるゼルキアステホン。そしてその直ぐ後にマサシ達が残った五匹に向って走り出した。
「立ち止まってないで逃げたらどうだ!聖刃蒼雷剣(せいじんそうらいけん)!!」
マサシはアロンダイトに青白い電流を纏わせてゼルキアステホンの一匹を攻撃した。電流と斬撃の二つの痛みに鳴き声を上げて倒れる。
「村の人達を襲った罪を償いなさい!天竜破砕撃(てんりゅうはさいげき)!!」
ジゼルもブリュンヒルドから黄色の光を放ち二匹目のゼルキアステホンを殴り飛ばした。二匹目のゼルキアステホンはそのまま村の外まで飛ばされた。
「そぉれっと!」
走っていたコンタは高くジャンプして空中からファイブセブンを発砲。三匹目と四匹目のゼルキアステホンを倒した。
「俺の分も残しておいて下さいよ!」
これまで一匹も倒していないアックスは愛用のハンドアックスで飛び掛かってきた五匹目のゼルキアステホンの倒した。全てのゼルキアステホンを倒したマサシ達は辺りを警戒する。周りに敵がいない事を確認したマサシは無線機を取りレイナに連絡を入れる。
「レイナ、お前から見て隠れている奴はいるか?」 「いや。隠れている奴も村に向かって来る奴もいない。恐らくその十四匹で全部だろう」 「そうか」 「フゥ、これで一段落ね」 「ああ、そうだな。よし、村長に伝えに行こう」
マサシ達は村を荒らしていた犯人ゼルキアステホンを倒した事を伝えるためにコヨルドの屋敷に向った。
翌朝、村人達が村と復興作業やゼルキアステホンの死体の始末を始める。マサシ達はコヨルドから夕べの事と今後の事について話をしていた。
「本当に助かりました、これで安心して村の復興に望めます。それと、こんな事お願いするのも難なのですが・・・」 「村の復興作業の事でしょう?勿論お手伝いさせていただきます」 「よろしいのですか?」 「依頼の内容にも作業を手伝うと書いてありました。それに、依頼の内容に無くても我々は手伝うつもりでしたし」 「・・・ありがとうございます」
手伝いをすると言うマサシにコヨルドは深く頭を下げた。そんな時、マサシ達から少し離れた所ではコンタとアックスが何か話をしていた。
「ええっ!今からですか?」 「ああ、今すぐ俺と勝負だ!」 「で、でもどうして・・・」 「団長が言っただろう、お前に勝ったら部隊長にすると!」 「だから僕と勝負したいと?」 「そうだ!」
どうやらアックスは依頼を受ける前にマサシの言った事を覚えていたようだ。その事でコンタに対決を申し込もうとしていたのだ。そんな時二人に気付いたジゼルが二人に近寄った。
「二人とも、何の話をしているの?」 「ああ、ジゼル。アックスさんが僕と戦いたいって・・・」 「団長が彼に勝ったら俺も部隊長にすると言ったじゃないですか。だから対決を申し込んでいたいんです」 「ハァ、対決をするのか自由だけど、それはまず村の復興作業を終わらせてからにして」
ジゼルは溜め息をついてコンタとアックスに言った。するとアックスは立てかけてある桑と取り気合の入った顔をした。
「おおっ!やってやりますよ!とっとと終わらせて、コンタと勝負だ!」
そう言ってアックスは走り出し、もの凄い勢いで畑を耕し始めた。そのアックスの勢いに村人達は半分驚いている。
「うおおおおおぉーー!!」
叫びながら耕すアックス。彼が目の前を通過するたびにレーシングカーが通過するような音が響いている。そんな光景をマサシ達は汗を垂らしながら見ていた。
「何をやっているんだ?アイツは・・・」
レイナはアックスの行動を腕を組みながらジト目で見ている。
「さぁ、あたし達も作業を始めましょう」 「「ハ〜イ」」
ジゼルに指示されてマサシとコンタは声を揃えて返事をして作業に掛かった。それから数時間後、村の復興作業は一通り片付き、壊れた建物や畑も以前の姿に戻って来た。
「今日はこれ位でいいでしょう」 「ええ、神龍の皆さん、本当にありがとうございました。後は私達だけで大丈夫です」 「良いのですか?」 「ハイ、依頼には『元に戻るまで手伝う』という様になっていませんから。それにアレだけの報酬でこれ以上貴方達に手伝いをさせる訳にはいきません」 「我々は大丈夫です」 「いいえ、そのお気持ちだけで結構です」 「・・・そうですか、では我々はこれで」 「ハイ、こちらが報酬です」
マサシはコヨルドから報酬の入った皮袋を受け取りジゼル達の所へ向かった。
「マサシ、報酬は貰えたの?」 「ああ」
マサシは皮袋を見せてニッと笑った。そんなマサシを見ながらコンタは言った。
「久しぶりに君達と仕事ができて楽しかったよ。もうしばらくユピローズにいるつもりだから依頼を受ける時は僕も誘ってよ?」 「ああ、考えておく」 「ハハハ」 「・・・コンタ、勝負の続きた」
何処からか聞こえてくるアックスの声。マサシ達はアックスの方を向いて汗を垂らした。
「アックスさん、勝負はまた今度にしませんか・・・?」 「・・・逃げるのか?」 「いや、そういう訳じゃないんですけど・・・」
コンタは苦笑いしながらアックスに言った。アックスは桑を握ったまま仰向けで倒れていた。その表情には明らかに疲れが見える。
「アックスさんバテてるみたいですから・・・」 「うううう・・・」
復興作業で体力を使い果たしたアックスは完全に疲労困憊の状態だった。結局その日はアックスはコンタと戦う事無くユピローズに帰ることとなった。
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