親友と思っていたエリックに殺されかけて、その親友の手によって愛するエミリアを傷つけられ大きな怒りを表すゾーク。そしてゾークの後ろには三つ首竜の形をした黒い霧状の物が姿を現した。
「ゾ、ゾーク。お前・・・・」
突然殺気を向けるゾークを見て一歩ずつ下がるエリック。ゾークはエミリアを抱きかかえながらエリックを睨んでいた。
「エリック、お前はもう僕の親友でも何でもない。自分勝手な嫉妬で人を傷つけるただの愚者(ぐしゃ)だ」 「ゾ、ゾーク?どうしたの?」
ゾークの目はエリックに対する怒りで赤く光っている。そしてゾークはエミリアを右手で抱きかかえ、空いている左手をエリックに向ける。すると、左手から黒い槍のような物が飛び出しエリックの心臓を貫いた。
「がっ!!」 「ひっ!」
心臓を貫かれたエリックを見て驚くエミリア。
「が・・・・が・・・・なにが・・・・おき・・たん・・・・だ・・・・」
エリックはナイフを落とし、そのままその場に倒れて動かなくなった。エリックが死んだ事を確認したゾークはエミリアをゆっくりと立たせて彼女の顔を見た。
「大丈夫か?」 「ゾ、ゾーク・・・・あなた、何をしたの?」 「君を傷付けた愚者を葬っただけだ・・・・」 「どうして!?彼は少し取り乱していただけよ!話し合えばきっと・・・・」 「無理だよ、彼にはもう話し合いなんて通用しない。それが証拠に、彼は僕を殺そうとした」 「どうしたのゾーク、いつもの貴方じゃない・・・・」
突然変わってしまった恋人を見て驚きを隠せないエミリア。すると、何処からか声が聞こえてきた。
(彼は貴方の知っているゾークではありません) (え?)
突然声が聞こえて驚くエミリア。そして突然目の前が真っ白になった。何も無い空間、真っ白の空間にエミリアが一人立っていた。
(こ、ここは何処?) (ここは私の作り出した空間です) (!)
エミリアが声の聞こえた方を見ると、そこには白い羽、黄緑の髪を持った妖精がいた。
(あ、あなたは?) (私はインシェルと申します) (インシェル?)
聞き覚えのある名前を聞いたエミリアは目の前の妖精をジッと見た。
(インシェルって、インシェルの教会の?) (ハイ、私はあの教会で将来を誓い合った男女を多く見てきました。そして教会の前で結婚式を挙げよう嬉しそうに話していたあなたとゾークも) (まさか、あなたがあの伝説の妖精・・・・)
自分が憧れていた教会の妖精を見て驚くエミリア。しかし、そんな彼女の表情はすぐに変わった。
(それよりも、教えて。ゾークが私の知っているゾークじゃないってどういう事?) (・・・・ゾークはティアマットの魂と同化してしまったのです) (同化?どうして?) (原因はエリックにあるのです) (エリックに?どういう事?)
ゾークが変わった原因がエリック。それを聞かされたエミリアは訳が分からずに混乱している。
(彼はあなたとゾークがこの教会に来る前にティアマットに悪魔の願いをしてしまったのです) (悪魔の願い?) (エリックはティアマットに『ゾークに呪いをかけてくれ』と願いました。しかし彼は願った後に自らゾークを殺そうとしました、ティアマットの教会では願いをした後に願った本人が相手を殺そうとしてしまうと、ティアマットの魂がその相手に乗り移ってしまうのです・・・・) (え?ええ?どういう事・・・・?) (つまり、エリックが自らゾークを殺そうとした為ゾークにティアマットの魂が乗り移ってしまったのです。しかもその時ゾークはあなたが傷付けられた事でエリックに対して怒りを持っていました。それが更にティアマットの力を高めてしまったのです) (そ、そんな・・・・・・じゃあ、ゾークはどうなっちゃうの?もう元に戻らないの?) (残念ですが・・・・) (そんな・・・・・・)
エミリアは泣きながらその場に座り込んでしまった。しかし、インシェルがゆっくりと姿勢を低くしてエミリアの肩に手を置いた。
(・・・・ただ、1つだけ方法があります) (え?)
方法がある、それを聞いてエミリアは顔を上げる。
(エミリア、私と契約を交わしてください) (え?) (私と契約を交わして私の力を得てください。そして『混沌の楔』を行い、その力でゾークに宿ったティアマットの魂を消滅させるのです) (混沌の楔?) (光の力を宿したあなたと闇を宿したゾーク、あなた達二人の力を混じり合わせて呪いを封印するのです) (その方法ならゾークを元に戻せるの!?) (保障はできません。ですがティアマットと同化してしまった彼を救うことができる唯一の方法です) (唯一の・・・・)
エミリアが唯一の方法と聞かされ考え出すと、インシェルは更に彼女が予想もしていなかった事を口にした。
(ただし、契約を交わしてしまうとあなたはゾーク以外の人の記憶から存在が消えてしまいます・・・・) (え?それってどういう事?) (つまり、ゾーク以外の人達から忘れられてしまうのです) (!!!?)
忘れられる、それを聞いたエミリアは驚きを隠せなかった。
(それはゾークも同じ事、ゾークもあなた以外の人から忘れられてしまう。そして、あなた達は混沌の楔を行うまで時が止まります) (時?) (歳を取らなくなる、不老になるということです。周りの人達が老いていく中、あなた達だけは歳を取らずに混沌の楔を行いまで、苦しみや孤独に耐えながら生きて行かなくてはなりません・・・・) (・・・・・・) (後悔するかもしれません。『こんなに苦しむくらいなら、契約を交わさなければよかった』と、ですから無理に契約を進めるつもりはありません。ですが、彼はティアマットの魂に捕らわれながら永遠に破壊の限りを尽くすでしょ・・・・) (・・・・・・) (決めるのはあなたです)
エミリアは目を閉じて考え込んだ。そしてエミリアは目を開いてインシェルを見た。
(契約を交わすわ) (いいのですか?これからあなたには死よりも辛い現実が待っているかもしれないのですよ?) (構わないわ、ゾークをあのままなんてできない!それに、私達は約束したもの、どんな時でもずっと一緒だって、楽しい時も苦しい時も・・・・) (・・・・・・)
真剣な目で自分を見るエミリアを見て彼女の覚悟を悟ったインシェルは頷いて言った。
(分かりました。エミリア、あなたに私の力を授けます)
そう言ってインシェルは目を閉じ、両手をエミリアの胸に当てた。すると、インシェルの体はみるみる光の粉の様な物に変わりエミリアの体の中に入っていく。そしてエミリアの体が光だし、そのまま彼女はインシェルの空間からティアマットの教会に戻って来た。
「・・・・・・」
エミリアは閉じた目を開き、目の前にいるゾークを寂しそうな目で見た。
「どうしたんだい、エミリア?」 「ゾーク、貴方はこれからどうするの?」 「どうするって、いつもの生活に戻るだけだけど」 「無理よ、私達はもう元の生活ぬは戻れないわ。私も貴方も皆の記憶から消されてしまったの、だから、もう元には戻れない・・・・」 「そうか、じゃあ僕と君だけで生きて行こう」
ゾークが手を差し伸べると、エミリアは首を横に振って誘いをを断った。
「ダメ、私、今の貴方とは生きていけない・・・・」 「そう、なら仕方ないね」
ゾークは断られて事を不満に思う事無く納得した。
「エミリア、君が僕を拒絶するのならそれでも構わない。でもそれなら僕も君と共に居られない。僕は君の前から消えるよ」
ゾークはエミリアに背を向けて教会を去ろうとすると、エミリアは彼の前に回りこんだ。
「行かせない、ゾーク、貴方はここで私と混沌の楔を行うの」 「それはできない・・・・」
ゾークはそう言ってエミリアに人差し指を向ける。するとエミリアの体が光り出した。
「え?か、体が動かない・・・・!?」 「しばらく動く事はできないはずだよ。僕はこの村を去るまでそこでジッとしていてくれ」
そう言ってゾークはエミリアの横を通り教会の出口に向かって行く。
「さよなら、エミリア・・・・・・」 「ゾーク!待って!」
彼女の必死の制止を聞くことも無く、ゾークはエミリアの前から姿を消した。
「・・・・・・それが今から200年前の事よ」 「そんな事が・・・・」
テントの中でエミリアが夜空を見上げながらジゼルに自分の過去を打ち明けた。
「・・・・・・」 「こんなに自分の事を話したのはあなたが初めてよ」 「・・・・どうしてあたしにそんな悲しい事を話してくれたのですか?」 「さっきも言ったようにあなたは私とよく似ている、あなたに私と思いをさせたくないからよ」 「エミリアさん・・・・」
悲しそうな目で自分を見るエミリアを見てジゼルは少し胸が苦しくなった。
「それでお前はエミリア様の前から消えたのか?」 「そうだ、折角ティアマットの力を得たのだから、この力を楽しまなくては損だろう?私はあの後、村に戻り父や村長達を殺した、その時の快感は最高だった」 「ッ!!・・・・そんな風に考えていたの?エミリア様はお前の事を愛しているから、その混沌の楔を行おうとしたんだぞ?お前を元に戻す為に」 「お前は知らないかもしれんが、闇を司る魔物と契約を交わした人間は心も闇に染まるのだぞ」 「何?」 「情報によるとお前も闇の神竜種と契約を交わしたそうじゃないか、お前の心も知らないうちに闇に染まったいるかもしれんぞ?」 「何をバカな!俺は闇に染まってなどいない!」 「フッ、まあ良い。さて、行くとしよう。さっきも言ったように今回はお前に会いに来ただけだからな」
そう言ってゾークはマサシに背を向けてその場を去ろうとした、だがマサシもそんなゾークを見逃すつもりはない。
「待て!」
マサシは腰のシグザウアーを抜いてゾークを狙う。ゾークはマサシが銃を突きつけていることに気づいたのか、その場で立ち止まった。
「お前をエミリア様の所へ連れて行く!」 「・・・・やめておけ、お前では私には勝てん」 「試してみるか?」 「フフ・・・・」
「!?」 「どうしたの、ジゼル?」
突然表情を変えたジゼルを見てエミリアが尋ねる。
「・・・・・・マサシ」 「え?」 「マサシが危ない!」
ジゼルは慌ててテントから出て行き、エミリアはそんな彼女の後ろ姿を見ていた。ジゼルは感じ取っていたのだ、マサシの見に危険が迫っているという事を。果たしてゾークと対峙したマサシはどうなるのだろうか?
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