静まり返ったガーリムト。マサシ達は町の住人捜索及び状況調査を行う為に分かれて行動することになった。
「今のところ何もないな」 「そうだね」 「それにしても、町の人達は何処に行ったのかしら?」
コンタとレイナが血痕を見つけた同時刻、マサシ、ジゼル、ネリネの三人は南の市場を歩いていた。周りには沢山の店が並んでおり、その店の前にはその店の商品らしき物が散乱していた。三人は警戒しながら市場を歩いていく。
「酷い有様だな」 「皆ヘルデストロイヤーにやられたのかな?」 「さあな、もし奴等にやられてのなら死体や血痕が有るはずだ。でもここまで来て死体は1つも見なかった」 「つまり、町の人達が殺された可能性は低い?」 「かもな・・・・」
マサシとジゼルが町の状況を見て推理していると、ネリネが二人に話しかけてきた。
「待って二人とも!」 「ん?」 「どうしたの姉さん?」 「静かに・・・・」 「「?」」
ネリネに言われて二人は口を閉じた。するとネリネは目を閉じて周りの音を聞き始める、その時彼女の耳に何かが聞こえてきた。
「聞こえる」 「何がだ?」 「人の声よ」 「人の?この町の人なの?」 「それは分からないけど、とにかく行って見ましょう。いいわよね?マサシ」
ネリネが念のためにマサシに聞くと、マサシは笑って答える。
「俺は最初からそのつもりだぜ」 「じゃあ決まりね!」 「こっちから聞こえてきたわ、ついて来て」
ネリネに誘導されてマサシとジゼルは小さな裏路地に入っていく。しばらく裏路地を進んでいき出口が見えてきた。三人が裏路地から出ると彼等の目に1軒の建物が飛び込んできた。
「ここから聞こえてきたわ」 「ここって酒場だよね?」 「ええ・・・・」 「・・・・・・ん?」
マサシが何かに気づいて小さく声を漏らす。それを聞いたジゼルとネリネはマサシの方を向いた。
「どうしたのマサシ?」 「二人とも、姿勢を低くしろ」 「「?」」
マサシに言われ姿勢を低くした二人。二人が姿勢を低くしたのを確認したマサシも姿勢を低くして酒場の窓までゆっくり近づいた。マサシは黙って二人を手招きし、ジゼルとネリネはそれを見てマサシの所まで低い姿勢のまま近づく。
「どうかしたの?」 「この中から男の声が聞こえてきた」 「男の声?」 「ああ、ネリネも男の声を聞いたんだろ?」 「ええ」
三人が話をしていると、酒場の中から声が聞こえてきた。男の声だ、高笑いをしている。
「ヒャーハハハハハ!ちょろいぜこんな仕事!それに町の連中を片付けた後に飲む酒もまた最高だぜ!」 「何、あの気味の悪い笑い方?」 「聞いていて気分が悪くなってきた・・・・」 「・・・・・・中には男一人だけのようだな」 「どうして分かるの?」 「中からあの後この声以外は何も聞こえない、つまりあの男が一人で酒を飲んでるって事だ」 「成る程」 「よし、中に入るぞ。俺が先に入るから、お前達は俺に続いてくれ」 「うん」 「分かった」 「念のため武器は使えるようにしておけ。あの男に話では、奴はこの町を襲った連中の一人、つまりヘルデストロイヤーの一員である可能性が高い。いきなり攻撃してくるってことも考えられるからな」
マサシに念を押され、自分達の武器を取るジゼルとネリネ。ジゼルは以前マサシから渡されたジグザウアーを取りセーフティを解除。ネリネも剣を抜いた。マサシもジグザウアーを抜いてゆっくりと入口に近づいていく。そしてノブに手をかけ、一気にドアを開いて中に入った。
「動くな!」 「!」
マサシの声に気づいた男は慌てて立ち上がりテーブルに置いてあった拳銃と取ってマサシに銃口を向けた。男は茶髪に紺色の上着に白のワイシャツ、ジーパンを穿いている。
「ヘルデストロイヤーの人間か?」 「ハッ!だったらどうする?」
マサシの後ろからジゼルとネリネが続いて酒場に入ってきた。ジゼルは銃を男に向け、ネリネも剣を構えた。
「そう言うって事はやっぱりヘルデストロイヤーの人間なんだな」 「ああ、そうだよ。で、お前もそうやって質問するって事はライトシンフォニアの人間なんだな?」 「ああ、そうだ・・・・」 「そうか、まだ生き残りがいたんだなぁ」 「・・・・・・」
男はマサシを見て馬鹿にするかのように言った。マサシは表情こそ変えなかったが少し熱くなっている。
「お前等、何者だ?」 「人に名を聞く時は自分から名乗るのが礼儀じゃないの?」
銃を構えながらジゼルは男を睨んで言い返す。
「うるせぇ女だな。俺様はドルイド・アーノルド、ヘルデストロイヤーの第四物資補給隊長だ。覚えておけ」 「ほぉ、支給部隊長様がこんなところで一人酒を飲んでいるのか?随分暇なんだな」
マサシが挑発するように言うと、ドルイドはマサシの方を睨んで言い返してきた。
「うるせぇ!無様に敗戦したライトシンフォニアが偉そうな事言うんじゃねぇ!」 「敗戦?どういう事だ?」
マサシがドルイドに尋ねると、今度は笑いながらドルイドは言った。
「ハハハハ、何も知らねえのか?おめでたいな。この町のライトシンフォニアと町の住人は全員くたばっちまったよ!」 「「「!」」」
驚く三人。そんな三人を見てドルイドは再び口を開く。
「せっかくだからもう1つ教えておいてやるよ。サリム村の連中とこの町を襲った奴は人間じゃねえ。化け物だよ、醜いなぁ!」 「化け物?」 「そうだ、それでその化け物はまだこの町のどこかに潜んでるぜぇ!頑張って見つけるんだな。ハハハハハ!」
ドルイドはそう言ってマサシ達に背を向けて走り出した。
「待て!止まれ!」
マサシの言葉も聞かずにドルイドはそのまま目の前にある窓ガラスに飛び込み店の外に飛び出して茂みの中に逃げて行った。マサシ達は後を追ったがドルイドの姿は何処にも無かった。
「逃げ足の速い奴ね」 「まったくだ・・・・」 「マサシ、これからどうするの?」
ネリネがマサシに今後の事を聞くとマサシは黙って外も見ながら考える、するとと無線機から坂木の声が聞こえてきた。
「マサシさん、応答してください」 「俺です。どうしたんですか?」 「今中隊の本拠点にいるのですが、気になる物を見つけたのです。すぐにこちらに来てください」 「なんですか、その気になる物とは?」 「こちらで説明します。とにかく急いでください。ユウタさん達には私から連絡しておきますので、では」
坂木に戻るように言ったらすぐに無線を切ってしまった。
「どうしたんだろう?」 「分からない。とにかく戻ろう」
数分後、神竜隊は坂木達がいる中隊の拠点に到着した。拠点には坂木達以外の傭兵の姿は無かった。
「お待たせしました」 「わざわざすみません。おや、全員揃ってますね?」 「ええ、ここに来る途中で会ったんです」 「そうですか、ではすぐに説明に入らせてもらいます。どうぞ、奥にテントがあるので、そちらで」
マサシ達は坂木に案内されてテントの方へ歩いて行く。テントまでの道のり、マサシ達は辺りを見回すがやはり誰もいない。しかし、よく見ると所々に血痕が付いていた。
「マサシ見て、あれ血痕じゃない?」 「ああ、やっぱり襲われたんだな・・・・あれなんですか、気になる物って?」 「いえ、違います」 「では一体?」 「口では説明しづらいのです、テントにその『物』があるのでそれを見ながら説明します」 「「?」」
マサシとジゼルが坂木から話を聞いていると、マサシの後ろにいるコンタが話に加わってきた。
「実は僕とレイナが町の入口辺りを調査してたら村を囲んでいる柵が壊されていたんだ。それでその柵にも血痕が付いてたんだよ」 「そうなのか?」 「ああ、しかもその柵の壊れ方が普通じゃない。人間の力では到底無理な壊し方だった・・・・」 「・・・・・・」
コンタとレイナの話を聞いていると、今度はユウタとシオンが話しに入ってきた。
「俺達の調査した方でも血痕があったぜ、しかもその周りには沢山の薬莢が落ちていた」 「ユウタ達の方でも?」
薬莢の事を聞きユウタの方を見たコンタ。
「何だ、お前達のところでも落ちてたのか?」 「うん、ライトシンフォニアが使っている突撃銃のがね」 「私達のところでもよ、突撃銃の薬莢だけが落ちてたわ」 「ヘルデストロイヤーの連中が使っている銃の薬莢は落ちてなかったのだろ?」
レイナがシオンに聞くとシオンは少し驚いた顔をして頷いた。
「やはりな、私達のところでもそうだ・・・・」 「・・・・・・」
マサシ達が話していると、坂木が立ち止まってマサシ達の方を向いた。
「着きました。皆さん中へどうぞ」
坂木に言われてテントに入ったマサシ達。そして彼等が見たのはテーブルの上に大きな四角いトレーが置かれており、そのトレーの上には大きな何かの肉の塊が載っていた。
「な、何ですかこれは・・・・」 「気持ち悪い・・・・それに臭い」
肌色で少し血管が浮き出ている肉塊を見て気持ち悪がるマサシ達。坂木はその肉塊にゆっくりと近寄って話し始めた。
「これはこの拠点の入口の近くに落ちていたんです。私も初めて見たときはゾッとしましたよ。今部下達が他にも落ちていないか辺りを捜索しています」 「・・・・・・何かの生き物の一部ですか?」 「先ほど科学班に調べさせましたが、何も分かりませんでした・・・・」 「・・・・・・」 「マサシ」
黙り込んでいるマサシにジゼルが話しかける。
「もしかして、アイツの言ってた奴のじゃない?」 「・・・・・・可能性はあるな」 「アイツ?誰の事ですか?」 「実は・・・・」
マサシは酒場であったドルイド・アーノルドの事や彼が話していた化け物の事を皆に話した。
「ヘルデストロイヤーの物資補給部隊ですか・・・・」 「そいつが何かを知っているのは確かだね!」
コンタがマサシを見て言うと、マサシもコンタの方を見て言った。
「ああ、それは間違いないだろうな。しかし気になるのは奴の言っていた化け物の事だ」 「一体何なんだろ?」 「奴はまだこの町に潜んでると言った。それが本当ならこの町で奴を倒しておかないと被害がどんどん広くなる。何とかしないと・・・・」
マサシが化け物の事を話していると、坂木の無線機から音が聞こえてきた。
「私だ」 「大尉!こちら第一小隊です!」 「どうした、そんなに慌てて?」 「げ、現在正体不明の生命体と交戦中です!すぐに救援を要請します!」 「なんだと!?」
無線から聞こえる男の声を聞いたマサシ達は驚いて坂木の方を見た。
「今何処にいる?」 「きょ、拠点から西に20m程離れた広場・・・・うわああああああああ!」
男の悲鳴が聞こえ、無線はそのまま切れてしまった。
「応答しろ!・・・・・・クッ!」 「坂木大尉、その第一小隊とは?」 「私が捜索に向かわせた部隊です・・・・」 「・・・・・・」
しばらく沈黙があったが、それはすぐにマサシによって破られた。
「多分ドルイドの言っていた化け物だろう・・・・。俺達が行ってきます。坂木大尉はここに残ってサリム村に連絡して増援を要求してください!」 「大丈夫なのですか?相手はどんな生き物かも分からない未知の生命体ですよ?」 「大丈夫です。俺達は神竜隊ですよ?」
マサシに続いてジゼルとユウタが坂木の方を見て言った。
「あたし達が必ずそいつをやっつけてみせます!」 「コイツの考える無謀な作戦は何度も成功してきました、多分今回も大丈夫でしょう」
二人に続いて残りの隊員達も口を開いた。
「そうですよ、しかもこっちには契約者が五人もいるんですから!」 「絶対に負けないわ!」 「私もそう思う・・・・」 「わ、私はまだ神竜隊に入ったばかりだから、よく分かんないけど・・・・大丈夫だと思います」
マサシ達を見て坂木は「彼等なら大丈夫」と心の中で思い、彼等の顔を見た。
「分かりました、私はここに残ってサリム村に連絡を入れます。皆さんお気をつけて」 「ハイ、行くぞ皆!」 「「「おう!」」」
マサシ達はテントを出て拠点の西に方へ走って行った。傭兵達を襲った正体不明の生命体が姿を現した。果たしてどんな生き物なのか?そしてマサシ達はその生命体とどう戦うのか?
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