気が付くと真っ暗な空間に立っていたマサシとジゼル。そして二人の前にディアボロスとルシフェルを名乗る自分達にそっくりの男女が現れたのだ。
「「・・・・・・」」
マサシとジゼルは状況が把握できず、目を丸くして黙ったまま立っていた。
「ウフフフ。ボーっとしちゃって、お人形みたいね」 「そうだな。フフフフ」
そんな二人を見てあざ笑うディアボロスとルシフェル。
「・・・・ッ!」
マサシはあざ笑う二人に気づき首を大きく振ってジゼルの方を向いた。
「おい、ジゼル!」 「・・・・!」 「しっかりしろ!」 「マ、マサシ・・・・」 「大丈夫か?」 「う、うん・・・・なんとか」 「そうか・・・・」
ジゼルはマサシに呼ばれてようやく我に返った。そして二人はもう一度ディアボロスとルシフェルの方を向いて武器を構える。
「おいおい、そんな物騒な物を構えないでくれよ。俺達はお前達と戦う気はない」 「ええ。少なくとも、今わね」 「今は?」
ルシフェルの「今」という言葉を聞いて聞き返すマサシ。
「おいルシフェル、今それを言うなよ」 「いいじゃない、どうせいつかは言うつもりだったんでしょ?だったら、今言おうが言うまいが、同じ事じゃない」 「確かにな」
ルシフェルの言う事に一理あると考えて納得するディアボロス。そんな時、マサシは1歩前に出て二人に問い掛けた。
「おい、『今は』って言ったが、それはいつかお前達は俺達の敵になるって事か!?」 「当たり前でしょ・・・・」 「無意味な質問をするな、答えるのが面倒だ」 「確認だ!か・く・に・ん!」
マサシはディアボロスとルシフェルを睨んで言い返すと、マサシの後ろに立っていたジゼルがマサシの隣まで歩いてきた。
「あなた達、何者なの?」 「また無意味な質問を・・・・俺達が何者なのかはさっき名乗ったはずだが?」 「そうよ、あたしはルシフェル。そして彼はディアボロスよ」 「あなた達の名前を聞いてるんじゃないの!どういう存在なのかと聞いているのよ!」
ジゼルの隣に立っているマサシは彼女の声を聞いて少し驚いている。何時にも増してジゼルが感情的になっているからだ。
「俺達の存在?」 「そうよ、あなた達はどうして私達と同じ姿をしているの?そしてここは何処なの?詳しく話して!」 「「・・・・・・」」
熱くなっているジゼルを見て、今度はディアボロスとルシフェルが黙った。
「お、おい・・・・ジゼル」 「何?」 「お、お前がそんなに熱くなるなんて、珍しいな?」 「え?・・・・・・あ、あたしそんなに熱くなってた?」 「あ、ああ・・・・」
あまり熱くなるジゼルを見ていないマサシは苦笑いをしていた。熱くなるところを見られて頬を少し赤くするジゼル。
(普段あまり熱くならない奴が熱くなると、少し恐いな・・・・)
苦笑いしながら赤くなるジゼルを見ているマサシ。すると、さっきまで黙っていたディアボロスとルシフェルが喋り出した。
「いいだろう、教えてやる」 「あたし達がどういう存在なのか、そしてここが何処なのかをね」 「「!」」
話し出そうとしているディアボロスとルシフェルの声を聞き、マサシとジゼルは表情を変えて再び二人を睨んだ。そしてディアボロスとルシフェルはゆっくりと話し始めた。
「まず最初に話しておくがこれは夢じゃない、現実だ」 「「・・・・・・」」 「フッ、話さなくても最初から知っているって顔だな。次に場所だ、ここは俺とルシフェルが作り出した空間『虚無宇宙(ゼロスペース)』だ」 「虚無宇宙?」 「そうだ」
そう言ってディアボロスが指をパチンと鳴らすと、真っ暗だった空間が突然光り出した。
「うわぁ!」 「ま、眩しい!」
マサシとジゼルは突然の光に目を閉じた。しばらくすると光が治まり、二人はゆっくりと目を開いた。
「い、一体なんだったんだ、今のは・・・・?」 「マサシ!」 「どうした、ジゼル?」 「し、下、下を見て!」 「下?」
何かに驚いているジゼルを見て、言われたとおりに下を見ると、マサシは驚いた。なんと、彼は宇宙空間に立っていたのだ。足元でだけではなく、周りも宇宙になっており、あちこちで多くの星々が輝いていた。
「な、なにぃ!?」 「な、何なのここ?」 「う、宇宙だと!?」 「宇宙?こ、これが・・・・」
マサシが宇宙と言っているのを聞き、ジゼルは驚いて周りを見た。初めて見る宇宙に心を奪われたかのように彼女は見回していた。
(宇宙、噂には聞いていたけど、こんな風になってたんだ・・・・)
ジゼルが周りを見ていると、マサシが少し慌てるような顔をしていた。
「マサシ、どうしたの?」 「い、いや・・・」 「安心しろ、ここにはちゃんと空気がある」 「「!」」
マサシとジゼルが空気がある事を伝えるディアボロスの方を見た。空気がある、という事を知らされて少し落ち着いたマサシ。どうやらマサシはその事で慌てていたようだ。マサシはどうして慌てていたのか分からず首を傾げるジゼル。
「ここは俺とルシフェルが作り出した別世界の空間だ、地球でもラビリアンでもない。無の宇宙とでも言ったほうがいいな」 「無の宇宙・・・・だと?」 「そうよ、生まれたばかりの何も無い宇宙、つまり虚無の宇宙よ」 「「・・・・・・」」
宇宙を作り出してしまうほどの力を持つディアボロスとルシフェル。マサシとジゼルは改めて彼等の力の大きさを感じるんだった。
「さて、次は俺達がどういう存在なのかという事だ。俺とルシフェルは元々お前達の中に眠っていた存在だ」 「俺達の?」 「ええ、あたしはジゼルの、ディアボロスはあなたの中に眠っていたの」 「いつからだ?」
マサシが尋ねると、ディアボロスが笑いながら言った。
「最初からだよ」 「最初から?」 「ああ・・・・・・お前が俺と契約を交わした時からな」 「!!?」
ディアボロスの口から予想外の言葉に驚きを隠せないマサシ。
「契約を交わした時から・・・・?」 「ああ、当時のお前は親を殺され心に大きな闇を持っていた。更にお前は誤って俺と契約を交わし身内からも忘れられてしまった事によりお前の闇は頂点に達した。俺はその闇を取り込み自我を取り戻したのだ」 「どういう事?」
理解できないジゼルはディアボロスに尋ねた。
「通常、蘇った俺達(魔物)は魔封石に封印される直前に自我を失うのだ。だが、もし契約を交わした直後に契約相手が心に大きな闇を持っている場合はその闇を取り込んで自我を取り戻す事ができる」 「馬鹿な!そんな話しは聞いた事が無いぞ!」
聞いた事の無い魔封石の秘密。それも聞いたマサシは叫んだ。
「当然だ、あのエミリアやヘルデストロイヤーの社長ゾークですら知らないのだからな」 「エミリア様ですら・・・・知らない?」 「お前のおかげで俺はこうやって蘇る事ができた。お前の闇が俺に力を与えたのだ、礼を言うぜ」 「クッ・・・・!」
自分の心の闇が契約相手である魔物を自分の中に生み出してしまった、しかもその魔物がいずれ自分の敵になってしまう。それを知ったマサシは目を瞑って歯を食い縛った。そんな時、ディアボロスの隣に立っているルシフェルがジゼルの方を見て言った。
「そしてジゼル、あたしがあなたの中に生まれたのはコルヘルスであなたの聖天使の力が覚醒した時よ、あの時にあたしは生まれたの。あなたの心の中にも闇があったわ、ネリネと生き別れになってしまった時の孤独、そしてマサシの黒竜の姿を見た事によって生まれた恐怖。それを取り込んで自我を手に入れたの」 「!!」 「コルヘルスで生まれたあたしはマサシとの接触でディアボロスと出会ったの」 「接触?・・・・・・あっ!」
ジゼルはコルヘルスで聖天使人として覚醒した時、マサシが背後から自分を抱きしてた時の事を思い出して声を出す。
「思い出したようね」 「あの時に・・・・・・」 「ジゼル・・・・」
聖天使人に覚醒した事でルシフェルを生み出してしまった事を知り、悲しそうな目をするジゼル。彼女の肩にそっと手を置くマサシ。ジゼルはゆっくりとマサシの手に自分の手を重ねた。
「ディアボロスと出会ったあたしは彼と誓ったわ、いずれこの世界に・・・・」 「ルシフェル・・・・」 「あっと、ゴメンね」
何かを言おうとしたルシフェルを止めるディアボロス。
「話はおしまいだ。そろそろ時間だしな」 「どういう事だ?」 「もうすぐパラメドラに着く頃だろ?そろそろ起こされるだろう。それに、今日は挨拶をする為にお前達を虚無宇宙に呼んだだけだからな」 「まだ話は終わってない!お前達の目的は・・・・」
「目的は何だ?」と言おうとした瞬間、マサシとジゼルの目の前にディアボロスが立っていた。
「な、なんだと!?」 「いつの間に!?」
さっきまでルシフェルの隣に立っていたディアボロスが一瞬でマサシとジゼルの前に移動したのだ。そして両手で二人の首を掴み持ち上げた。
「ぐあ・・・・な、なんて速さだ・・・・」 「全然・・・・見えなかった・・・・」 「悪いが、この虚無宇宙での記憶は全て封印させてもらうぞ。記憶を残し、この後に任務に集中できなくなってミスを犯し、死んだりしたら困るからな」 「あなた達が死んだら、あたし達も死んじゃうからね・・・・」 「そういう訳で、次にお前たちと会うまで記憶は封印させてもらう」 「ふ・・・・ふざける・・・・な!」 「それじゃあ、さようなら」
ディアボロスの赤い目が光だし、それを見たマサシとジゼルの目から光が徐々に消えていく。そして二人は意識を失った。
「おい、二人とも!起きろ!」 「ん、んん?」
誰かに肩を揺すられて目が覚めるマサシ。マサシが目を覚ますのと同時にジゼルも目を覚ました。そして二人の目の前には自分達を見ていたユウタ達がいる。
「う〜ん、よく寝た!」
目を覚ましたジゼルは背を伸ばした。そんな姿を見てユウタは言った。
「寝すぎだ!あれから5時間も寝てたんだぞ?」 「もうすぐパラメドラに着くよ」
ユウタの隣でコンタがもうすぐ着く事を知らせた。すると、操縦士がマサシ達に声をかけた。
「間もなくパラメドラ方面、トトロム平原に到着します」 「分かった。皆準備をするぞ」
ユウタがコンタ達に準備を始めるように言うと、コンタ達は頷いて自分達の武器と荷物を確認する。そんな時、マサシとジゼルが何か考え込んでいる。
((あれ?何か夢を見てたような・・・))
二人は虚無宇宙でディアボロスとルシフェルに会った事、その虚無宇宙の事など、全てを忘れていた。
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