ネリネの救出に成功したマサシ達だったが、彼等の前にリーズとコルヘルスで戦ったステルス・ヴァルキリーが変わり果てた姿で現れ、マサシ達の前に立ちはだかった。
「ステルス・ヴァルキリー・・・・」
体のいたる所が金属化しているステルス・ヴァルキリーを見て驚くコンタ。
「また会ったな、小僧!」 「コルヘルスではお世話になりました」 「リーダー達の仇は取らせてもらうぞ・・・・」
男勝りなヴァルキリー、礼儀正しいヴァルキリー、クールなヴァルキリー。コルヘルスで生き残った三人のヴァルキリーは右腕は鋭い鉄の爪が付いているロボットアームとなっており、左足も鋼鉄製になっている。更に彼女達の左目にリニアレンズが埋め込まれており、左肩には小型の砲が取り付けられていた。
「お前達、その姿は・・・・」
初めてステルス・ヴァルキリーを見るマサシも、彼女達が最初は今と同じ姿では無い事が分かるのだろう、とても驚いている。
「私達はコルヘルスでそこの小僧達に敗れた後、このロードグランで改造手術を受けたのだ、お前達を倒す為にな!」 「だからと言って、姿形まで変えるなんて・・・・」
力を得るために体を機械化したステルス・ヴァルキリーを目にして驚きを隠せないでいるコンタ。
「しかしおかしいな、奴等がコルへルスから戻ったのは数時間前だ、改造手術を受けてからたった数時間で動ける程まで回復するなんて」 「フッ、気になるか?」
ステルス・ヴァルキリーの後ろで腕を組んでいるリーズが表情を変えずに口を開く。
「コイツ等の体には疑似魔封石を埋め込んであるのだ」 「疑似魔封石?」
疑似魔封石を知らないマサシ達は、驚いてリーズに訊いた。
「我々ヘルデストロイヤーが独自で開発した魔封石のコピーだ。あの石を埋め込まれた人間は私達契約者と同じ力を得る事ができるのだ、しかし疑似魔封石はまだ未完成な為、埋め込まれた人間は理性を失う。だが、改造手術などで調整すれば例え未完成でも理性を失わず、力も制御できるのだ・・・・」 「なるほど、それなら回復力も契約者と同じだから、コイツ等は手術後でもすぐに傷が塞がって動く事ができるようになったって訳だ」 「そのとおりだ・・・・」
リーズは組んでいた腕を下ろし、自分の前にいる三人のステルス・ヴァルキリー達に命令を出した。
「行け!ウルド、ベルダンディー、スクルド・・・・」 「「「ハッ!」」」
リーズの命令を受け、三人の変わり果てたヴァルキリーは構えた。どうやらクールなヴァルキリーがウルド、男勝りなヴァルキリーがベルダンディー、そして礼儀正しいヴァルキリーがスクルドと言うの彼等の名前らしい。
「行くぞ!神竜隊!」 「クッ!行くぞ!」 「う、うん!」 「絶対に負けられない!」
マサシの合図でジゼルとコンタが返事をして自分達の武器を取り構えた。
「ネリネ!コイツを!」
マサシは白龍刀をネリネに差し出し、残った黒龍刀を抜いて構えた。
「マサシ?」 「お前は剣を持っていないだろう?コイツを使え!」 「すまない」
マサシから白龍刀を受け取り、構えたネリネはジゼルの隣についた。
「姉さん、体は大丈夫なの?さっきまで捕まっていたから、ヘルデストロイヤーの連中に何か酷い事されて怪我しているんじゃ・・・・」 「大丈夫よ、忘れたの?私は・・・・」 「あっ、そうだったね!」
ジゼルはネリネがなにを言おうとしたのか察したのだろう、小さく笑って再びステルス・ヴァルキリーの方を見て構えた。そしてその直後にステルス・ヴァルキリーが姿を消した。
「き、消えた!」 「どうなってるの!?」
突然姿を消したステルス・ヴァルキリーを見て驚くジゼルとネリネ。
「コレが奴等のステルス迷彩か・・・・」 「うん、僕もコルヘルスで初めて見た時は驚いたよ・・・・」
噂は聞いていたが実際消えるところを見たマサシは驚くのと同時に鋭い視線でステルス・ヴァルキリーの居た場所を見ている。コンタも一度は見ていたが改めて姿を消すところを見て再び驚く。
「気をつけろ!何処から襲ってくるか分からないぞ!皆、背後を守り合う様に円陣を組むんだ!」
マサシの声を聞き三人は頷き、四人は背を内側にし円を作った。この円陣なら少なくとも背後からの攻撃は防げる。
「奴等を見つける方法はあるの?」
ネリネがマサシに周りを見回しながらマサシに問い掛けた。するとマサシも周りを見ながらネリネに言った。
「大丈夫だ、こっちにはコンタという強い味方がいるんだ!コンタ、奴等の居場所は分かるか?」 「今やってる、ちょっと待って」
コンタは視線と狐耳を動かして、必死でステルス・ヴァルキリーを探している。だが・・・・。
「・・・・・・おかしい、気配がまるで無い!」 「なんだって!?」 「もしかしてアイツ等、動かずにその場でジッとしているんじゃ・・・・」
コンタの言葉を聞いて、マサシ達はヴァルキリー達が立っていた場所を見た、だが彼等の視界には腕を組んでいるリーズしかいなかった。その時、隠れていたヴァルキリー達が三角型の円陣でマサシ達を囲んでいた。
「なっ!?」 「いつの間に!」
驚いた直後、三人のヴァルキリーは肩についている小型砲から黄緑の光線を放った。
「しまった!避けられない!!」 「任せて!」
ネリネが突然片手を空に上げた、すると、マサシ達を包み込むように黄色い円形の結界のような物がマサシ達を守った。そして黄緑の光線はマサシ達に当たる事はなかった。
「ほぉ、結界か・・・・」 「やるじゃねえか!」 「さすが聖天使人ですね」
姿を見せた三人のヴァルキリー達はネリネの結界を見てニヤリと笑った。
「助かったぜ、ネリネ!」 「ありがとう、姉さん」 「気にしないで」 「それにしても驚きましたよ、ネリネさん本当に聖天使人の末裔だったんですね」
マサシ達がネリネの聖天使人の力に驚き、感謝していると、ヴァルキリー達が再び構えた。
「おい、俺達を無視か?」 「いい度胸だな・・・・?」 「もう少し痛い目に遭わないと分からないようですね?」
ヴァルキリー達がマサシ達の方を少し睨むようね目で見た。
「チッ!うるさい連中だな」 「それにしても、コルヘルスで会った時よりも、性格が変わったんじゃないですか?」 「改造手術の影響じゃねえのか?」
性格の変わったヴァルキリー達を見て、表情こそ変えなかったが少し不気味に思ったマサシとコンタ。
「まだまだこれからだぜ!」
そう叫んだベルダンディーが高くジャンプし、鋼鉄製の左足の膝を曲げた。すると、膝はガコンと開き、太ももの部分から何かが発射された。
「マイクロ弾だ!」 「任せて!」
コンタがベルダンディーの方を向いてファイブセブンを発砲。そして弾はマイクロ弾に命中し空中で爆発した。
「よし!」
コンタはマイクロ弾を撃ち落した後、続けて、ジャンプしているベルダンディーに向かって発砲した。
「フン、効かねぇよ!」
ベルダンディーがロボットアームをコンタの方へ向けてアームの手を広げた。すると、手の前に黄緑をした半透明の六角形の大きな薄い板が作られ、弾丸を防いだ。
「なっ!」 「弾を止めた!?」
信じられない事が起き、驚きの声を上げるマサシとコンタ。
「な、何なんだアレは!?」 「あんな兵器見た事ないよ!」 「フフフフフ・・・・」
驚く二人を見て腕を組みながら笑うリーズ。
「みんな気をつけろ!他にも何か兵器を隠し持っているはずだ!」 「そのとおり・・・・」
声が聞こえ、マサシが声の聞こえた方を向くと、ロボットアームを自分に向けるウルドがいた。すると、アームの掌(てのひら)に黄緑の光球が作られた。そしてウルドはそれをマサシに向かって投げつけた。マサシは慌てて黒龍刀でその光球を止めたが、光球は力も速度もマサシの予想を超えていた。
「グウッ!な、何て力だ・・・・!」 「フッ、お前にはそれを止めることはできない・・・・」 「ク、ソォ・・・・!」
必死で光球を止めるマサシ。その時、マサシの側面へ回り込んだスクルドがマサシをロボットアームの爪で切り裂いた。
「グワァ!」
光球を止めていた為、身動きの取れないマサシはスクルドの攻撃をまともに受けてしまい、止めていた光球ごと飛ばされた。
「グワッ!グウッ!」
攻撃を受けてそのまま地面を転がるマサシはうつ伏せになって止まった。黒龍刀は攻撃でマサシの手から離れ地面に刺さった。光球は6m程離れた所で地面に落ちて爆発した。
「マサシ!」
ジゼルはスクルドに向かって走り出し、持っていたトンファーでスクルドに攻撃した。
「臥龍粉砕撃(がりゅうふんさいげき)!!」
トンファーが黄色く光だし、短い部位でスクルドの頭部を狙ったが、ロボットアームで攻撃が止められた。
「クッ!」 「無駄ですよ、そんな物では私達には勝てません」
スクルドは笑いながらジゼルの後ろを見ると、そこにはウルドが立っていた。ステルスで姿を消し、ジゼルに気づかれないように近づいたのだ。
「い、いつの間に!?」 「円陣を解いたのが運のつきだ・・・・」
ウルドはロボットアームで拳を作りジゼルを背後から脇腹を殴った。その衝撃で彼女を大きく殴り飛ばされた。
「ウワーー!!」 「ッ!ジゼル!!」
自分の近くまで飛ばされたジゼルに気づき、駆け寄ったネリネはしゃがみ込んだ。
「ジゼル、大丈夫!?」 「う、ううう・・・・」
なんとか意識はあるようだ、それを確認して安心するネリネ。だが彼女は妹を傷付けたヴァルキリー達を睨みながら立ち上がった。
「よくも妹を!」
ネリネの体が光だし、髪が銀色に変わり、目も赤くなった。聖天使人の力を完全に解放したのだ。
「あ、あれは・・・・」
マサシの元へ駆け寄り、傷を見るコンタは光り出したネリネを見て驚いた。
「聖天使人の力を解放したんだ」 「まさか本当に聖天使人の末裔だったなんて」
うつ伏せになったマサシがネリネを見て口を開いた。コンタは彼女の姿を見ながら目を丸くした。
「ようやく聖天使人の力を解放したか。だが、私達はお前の体を分析し、お前の力を知り尽くしている。お前など敵ではない・・・・」
ウルドはロボットアームでネリネを指差し、挑発するようにネリネに言った。しかしネリネはゆっくりと白龍刀を構えた。マサシとコンタもネリネの元へ駆け寄り、マサシはネリネの隣で黒龍刀を構え、コンタは倒れているジゼルの様子を見た。
「コンタ、ジゼルは?」 「大丈夫、意識はある、いま回復魔法を・・・・」 「だ、大丈夫よ、これ位の傷ならすぐに治るから・・・・」
ジゼルは殴られた脇腹を左手で押さえて右手でトンファーを持って構えた。それを見たコンタは大丈夫だと判断し、納めていたファイブセブンを再び抜いてウルドを狙った。ベルダンディーとスクルドもウルドの近くまで跳んで再び構える。
「お遊びはここまでだ、さっさと終わらせるぞ・・・・」 「OK!」 「分かりました」
ウルドに返事をしたベルダンディーとスクルド、それを確認したウルドは構えてマサシ達に向かって走り出した。
「これで終わりだぁーー!!」 「「「「!!」」」」
四人が迫ってくるウルドを睨んだ、その時。
「ウオー!!が、あ!・・・・がは!!?」 「「「「!?」」」」
さっきまでもの凄い殺気をぶつけながら走ってきたウルドの様子が急変した。自分の首を左手で掴み、口からはヨダレをダラダラ垂らし始めたのだ。
「な、なに?」 「どうなってるの?急に苦しみ出しわ!」 「分かりません・・・・」
理由が分からないジゼルとネリネは驚いて苦しむウルドを見ていた。二人の間に立っているコンタも少し驚いていた。するとマサシが腕を組みながら笑い出した。
「フフフフ、実はさっき攻撃を受けて時に三分経てば苦しみ出すツボを瞬時に突いておいたんだ、これぞ『双竜剣奥義 三分殺し』♪」 「本当なの?そのわりにはビックリしてたじゃない?」 「すみません、ウソです・・・・」 「ガクッ・・・・」
笑いながら格好をつけるマサシをジーッと見て疑うジゼル。そしてアッサリとウソを認めたマサシにガックリと首を落とした。二人のやりとりを目を細くしてみるコンタとネリネ。
「しまった!」
さっきまで腕を組んで戦いを見物していたリーズが少し取り乱した様子でウルドを見ていた。
「奴等の戦いに気を取られている間に、ウルドの『薬』の切れる時間を忘れていた!」
リーズは懐からアルミ製の小さなケースを取り出し、その中から小型の注射器を取り出した。
「スクルド、ベルダンディー!早くウルドを押さえつける!」 「「ハイ!!」」
リーズの命令で二人はウルドを押さえつけた、だが暴走したウルドはベルダンディーとスクルドをあっさり振り払った。
「急げ!間に合わなくなるぞ!!」 「ハ、ハイ!」
スクルドはウルドに飛びつき、それに続いてベルダンディーがウルドを押さえようとした。
「ウウ・・・ウガアアアア!!」 「グワッ!!」
しかし、暴れるウルドは飛びついたスクルドをベルダンディーに向かって投げ飛ばした。そしてその様子をただジッと見ているマサシ達。
「どうなってるんだ?」 「仲間割れかな?」
ヴァルキリー達の行動を理解できずに悩んでいるマサシとジゼル。その時、コンタがある「物」に気づいた。
「見て、あの注射器」 「注射器?」
マサシ達はリーズの持つ注射器を見た。
「それがどうかしたの?」 「リーズはウルドが暴れだした直後にあの注射器を出した。ひょっとすると、アレを打つつもりなんじゃ」 「・・・・そうか、アレはウルドを落ち着かせる為の注射・・・・」 「可能性はあるわね」
四人は注射器を見てリーズのやろうとしている事を理解した。彼等が再びウルドを見た時、ウルドは暴れてこそいないが、立ったまま痙攣をしている。
「ガ、ガ・・・・ジ、ジュン・・・・ショウ・・・・」 「チッ!」
ウルドを見て舌打ちをするリーズ。彼女の後ろにいるベルダンディーとスクルドが止めに入ろうとしたが、リーズが二人の前に手を出した。
「もういい、放っておけ・・・・」 「し、しかし・・・・」 「手遅れだ。予想よりも早くウルドの細胞が崩壊し始めた・・・・」
リーズがそう言った瞬間、ウルドは動かなくなり、みるみる体が砂の様に顆粒(かりゅう)と化した。ウルドの立っていた場所には彼女の身に付いていたロボットアームとリニアレンズ、そして小型砲と鋼鉄の左足、衣服だけが残った。
「ウ、ウソ・・・・砂になっちゃった」 「こんな事があるなんて・・・・」
目の前で人間が顆粒化したのこに驚きを隠せないジゼルとネリネ。
「失敗した・・・・」
リーズが持っていた注射をベルダンディーとスクルドの首に打った。
「社長の仰るとおりだった、この『細胞固定薬』の注射を怠れば、僅か三分で死んでしまうとは・・・・」 「・・・・・・」
リーズの言葉を聞いたマサシは注射をしなければ死んでしまう、これが力を求めた者に、魔封石の力を得た者に与えられた代償なのだと思った。
「ウルドは死んだが、お前達を倒す事は十分できる・・・・」 「「「「・・・・・・!」」」」
マサシ達がリーズと残る二人のヴァルキリーを見て武器を構えた、その解き、マサシ達の頭上から声が聞こえた。
「そこまでだ!リーズ!」 「「「!!!!」」」
声が聞こえ処刑場にいた全員が上を見ると、そこには一機のヘリが浮いていた。しかも聞き覚えのある声だった、そして再び声が聞こえた。
「マサシ!大丈夫か!?」 「その声は・・・・!」 「ユ、ユウタ!?」
なんと、ヘリはライトシンフォニアのハインド、そして乗っているのはユウタ達だった、驚くマサシとジゼル。思わぬ所で思わぬ助っ人。果たしてマサシ達は無事にロードグランを脱出できるのか!?
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