ソルック村から帰ってきたマサシ達はユニフォリアの角を持ってサンドリアの酒場へ戻ってきた。戻る途中、巨大な角をかついでいるいるマサシに町の人達は驚いていた。
「さて、着きましたっと」
マサシは酒場の前で角を降ろし肩を鳴らした。
「じゃあ、あたし達、依頼完遂を伝えてくるね」 「わかった」 「行こうシンディ」 「ええ」
ジゼルとシンディは酒場の中に入りカウンターへ向かった。カウンターではあの女性店員が驚きの顔を見せた。
「あ、あなた達、無事だったの?」 「うん、なんとかね」 「よかったわ・・・・心配したのよ。それで、依頼の方はやっぱり断ってきたの?」 「ううん、倒してきたわ」 「え?」
ジゼルの言葉を聞き、店員と回りの傭兵や客がジゼルとシンディの方を向いた。
「た、倒したって・・・・あのユニフォリアを?」 「ええ、ブッ倒してきてやったわ!」
シンディの声で周りは人々が騒ぎ始めた。その中には出発前にマサシ達を馬鹿にしていた傭兵達もいた。
「お、おい本当かよ?」 「本当に倒してきたのか?」 「ええ、疑うんだったら外を見てきなさいよ。証拠があるから」
シンディが親指で出入り口を指すと店員達が少し慌てた様子で外に出た。そこにはユニフォリアの一本角と突然大勢の人が出てきて驚いているマサシが立っていた。
「な、なんだ・・・?」
マサシが驚いているなか酒場から出てきた人々は更に驚いた。
「す、すごい・・・」 「し、信じられねぇ!」 「本当に倒してきたのかよ!」 「すっげーなお前達!」
騒いでいる人達の中からジゼルとシンディがひょっこり姿を現した。そしてゆっくりとマサシの下へ歩いてきた。
「お、おい・・・・どうしちゃったんだ、アイツ等?」 「え、え〜と・・・・ユニフォリアを倒したって言ったら、みんな突然・・・」
ジゼルも予想外のみんなの反応に少し戸惑っている様子だった。
「さ〜てと。二人とも、報酬を分けましょう」
その言葉で三人は報酬を分け始めた。報酬はユニフォリアにトドメを刺したマサシが300ロドル、ジゼルとシンディは200ロドルずつ貰うこととなった。
「さて、私はもう帰るわ。日も沈んできた事だし、それじゃね♪」 「あ、ちょっとシンディ!」
シンディは日が沈むことを確認し自分の家のある方へ走っていってしまった。そして残されたマサシとジゼルに酒場の皆が寄ってきた。
「あなた達、本当に凄いわ!」 「ああ、やるじゃねえか!」 「今度俺と一緒に依頼を受けてくれよ!」 「え、あ・・いや・・・その〜」 「あ〜・・・」
二人は困った、という顔をしながら小声で話した。
(ど、どうしようマサシ?) (もしかしたらシンディの奴、こうなる事を知っててさっさと帰りやがったんじゃ・・・) (ああ!)
シンディがさっさと帰った理由に気付いた二人は心の中で叫んだ。
((やられたー!!))
しかし、心で叫んでも残された二人は周りの人達に囲まれて身動きが取れない。
「ええーい!こうなったら・・・」
マサシは何かいい案が浮かんだのか突然声を出した。そして。
「あ〜!あれは何だ!?」
と、突然大声を上げながら空を指差した。
「な、なんだ?」 「どうしたんだ?」
人々はマサシが指差した方を見たが、そこにはなにも無かった。とても原始的な方法である。
(今だ!)
マサシは心の中でそう呟き、ジゼルを抱え大きくジャンプし人ごみを跳び越した。そしてユニフォリアの角を再び肩に担ぎ、一目散にその場から走り去った。人々がマサシ達の方を見たとき、二人の姿はもう見えなかった。
「あら?二人は何処へ行っちゃったのかしら?」
女性店員がそう言っている時、二人は人気のない所で休んでいた。
「はあ〜。ここまで来れば大丈夫だろう・・・」 「え、ええ・・・それにしても・・・」 「ん?」 「あたしを抱えたままジャンプした上に、その大きな角を肩に担いであんなに速く走れるなんて、あなた、やっぱり普通の人間じゃないわね」
改めてマサシの身体能力に驚くジゼルはマサシにそう言った。
「あれ?言ってなかったか?俺が『契約者』だって事」 「それは聞いたけど、そもそもその契約者って何なの?」 「ん〜っとなんて言えばいいかな・・・・・・あ!」 「どうかした?」
マサシが突然声を上げたのでジゼルは少し驚いた様子で聞いた。
「今夜でどこで寝よう〜・・・」 「ドテッ!!」
マサシの馬鹿げた答えにジゼルはズッコケタ。
「もー!ふざけないで真面目に答えてよ!!」 「ふざけてねえよ。マジで今夜どうしよう・・・野宿の用意なんてしてきてないしな〜」
確かにマサシは旅行中にラビリアンに飛ばされたので野宿する用意をしていない。
「・・・・・はぁ、家に来る?」 「え、いいのか?」 「他に当てが無いんでしょ?ていうか、違う世界から来たあなたに当てもあるわけないからね」 「ワリィな頼んでもいないのに」 「別にいいわよ。その代わり、条件があるの」 「条件?」 「家に泊まる間、食費を払う事。それから、後でちゃんと契約者の事のについて詳しく説明する事。わかった?」 「契約者の事は構わないけど、食費の方は無理だぜ。俺はこっちの世界の金なんて・・・・・あ!」
マサシはジゼルを助けた時に貰った100ロドル、さっきの報酬の300ロドルの合計400ロドルを持っていたことに気付いた。
「なるほど、すっかり忘れてた。」 「ふふ、その報酬から食費を払ってもらうからね♪」 (チッ、やられた・・・)
マサシは心の中でそう言った。しかし、行く当てがない以上ジゼルの家に世話になるしかない。そう思ったマサシは観念したらしく。
「わ〜ったよ。お世話になります」 「よろしい!さあついてきて、あたしの家はこっちよ」
マサシは少し気力の抜けた顔をしてジゼルの後をついて行った。それと、ユニフォリアの角は勿論マサシが運んで行った。
しばらく歩くと大きな家が見えてきた。家というより施設に近い建物だ。
「ただいまー」
玄関を開け中に入ると、奥の部屋から小さな子供が三人走ってきた。年は9〜10歳といったところだ。
「おかえりなさい。ジゼルお姉ちゃん」 「遅かったね」 「心配したんだぞ〜」 「ゴメンね。ちょっと依頼に手こずっちゃって」
三人の子供のうち、一人は長い髪の女の子。二人目は眼鏡をかけた短髪の男の子。三人目は少しヤンチャそうな男の子だ。
「ジゼル〜。この角は何処に置いとけばいいんだ?」
子供達と会話しているジゼルにマサシが問いかけてきた。
「ああ、それはそこの壁にかけておいて。明日、鑑定屋に持っていくから」 「OK」
マサシは言われたとおりユニフォリアの角を壁にかけておいた。するとマサシに気付いた子供達がジゼルに質問した。
「ねえ、お姉ちゃん、この人、誰?」 「この辺りじゃ見かけないね」 「ああ、彼はマサシっていうの。彼はね・・・・」 「もしかして、ジゼルの恋人か〜?」 「な!?」
ヤンチャな男の子の発言にジゼルは少し顔を赤くし驚きの声を上げた。
「え〜!ジゼルお姉ちゃんすご〜い!」 「ベルおばさ〜ん!ジゼルが恋人つれて帰った来たよ〜!」 「ち、違うわよ〜!」
子供たちの声を聞き奥から女性が出てきた。子供達の言っていたベルおばさんという人のようだ。
「どうしたの?そんなに騒いで」 「おばさん!お姉ちゃんがね、恋人連れてきたの!」 「あらまぁ。ジゼルも隅に置けないわね」 「ち、違うのよベルおばさん!彼は別にそういう人じゃ・・・」 (そこまで否定されるのもどうかと思うんだが・・・)
ジゼル達の会話を聞き強く否定するジゼルを見て心の底でそう呟いたマサシであった。それからジゼルはマサシが何者なのかを、しばらく家に泊める事をベルに話した。
「・・・という訳で、ベルおばさん、しばらく彼をここに泊めていいかな?」
リビングルーム程の広さの部屋で椅子に座りながら話し合っていた。
「ああ、いいよ。部屋はいくらでも有るし、それに、別の世界の話を聞いてみたいしね」 「ありがとうございます」
マサシはお礼を言いながら頭を下げて言った。
「ところで、アンタはこれからどうするんだい?」 「地道に働きながら元の世界に返る方法を探そうと思ってます」 「なにか働く当てでもあるのかい?」 「そうですね〜」
マサシが考えているとジゼルが提案を上げた。
「だったら、あたしと一緒に傭兵やらない?」 「いやだから、俺は元々傭兵だって」 「それはあなたの世界の話でしょ?こっちの世界では傭兵ってわけじゃないんだし、それにこれから制式に依頼を受けるには傭兵として登録しなくちゃいけないのよ」 「そうなのか?」 「ええ、だから明日制式に傭兵として登録して二人で頑張りましょ」 「・・・・・そうだな、そうするか」 「けって〜い♪」
話がまとまり、しばらく話をしたマサシ達はそれぞれの部屋に戻り休みにはいった。マサシは借りた部屋の窓から外を眺めていた。外はすっかり日が沈み、空には沢山の星が光っていた。マサシが星を見ているとドアをノックする音が聞こえた。
「こんな時間に誰だ?は〜い」 「あたしだけど・・・今いいかな?」 「ジゼルか?いいよ、入ってきて」
マサシの許可を得て部屋に入ってきたジゼルは昼間とは違い、リボンを解き、ツインテールからサラサラのロングヘアになっており、寝巻き姿だった。
「・・・・・・」 「どうしたの?」 「い、いや・・・・別に・・・」
綺麗なジゼルを見て少し驚いたマサシは再び星空に顔を向けた。
「星を見ていたの?」 「ああ、なかなか眠れなくてな」 「そう・・・」 「・・・いい家族だな」 「え?」 「さっきの人達だよ」 「うん・・・・・血は繋がってないけどね」 「え?」
ジゼルの答えに驚いたマサシはジゼルの方を向いた。
「あたしね、孤児なの・・・・小さいときに両親を亡くして唯一の肉親であるお姉ちゃんとも離ればなれになっちゃって、それで一人でいた所をベルおばさんに拾われた育ててもらったの」 「そうか・・・・・悪い事聞いちゃったな」 「誤る事ないよ。あたしから話し出したんだもん」 「でも、どうして今日会ったばかりの俺にそんな事を?」 「先にあたしの事、話しておこうと思って」 「どういうことだ?」 「言ったでしょ?契約者の事、あなたの事を話してくれるって」
マサシは泊めてもらう条件として契約者の事を話すと約束した事を思い出した。
「それって、こんな夜遅くじゃないといけないのか?明日でもいいだろ?」 「気になって眠れないんだもん。それに明日になって『忘れた〜』とか言われそうだし」 「言わね〜よ」 「じゃあ、話してよ」 「はぁ・・・・」
マサシは溜め息を一つ吐くと話を始めた。
「契約者って言うのは魔物と契約を交わして力を得た人間。これは始めて会った時話したよな?」 「うん」 「まず、魔物が封印されている『魔封石』と呼ばれる魔石を手に取るんだ」 「魔封石?」 「大昔に滅んだ魔物を特殊な技術で蘇生させて封印した結晶石だ。そして契約時、その魔封石から魔物を召喚して契約を結ぶ」 「・・・・・」 「そして、契約者は力を得る代わりに代償を支払うんだ」 「代償?」 「ああ、三つの代償のうち、一つは契約者は死後、転生つまり生まれ変わる事が出来なる」 「・・・・・」 「二つ目は契約者が契約相手の魔物に変身する度に自分の寿命を一年支払う事」 「え?変身?」 「契約者は契約してからある程度戦ったり身体を鍛えたりするとレベルが上がるんだ。レベルは1から5まで有って、レベルが5になると契約相手の魔物に変身できるようになるんだ。そして変身すればとてつもない力が出せる、その代償として、寿命を一年削るってことなんだ」 「・・・・・」 「そして三つ目は、契約した人間は同じ契約者以外の人間の記憶から自分の存在を消されてしまうという事」 「え?どういうこと?」
マサシの言ってる事がうまく把握できずに尋ねるジゼル。
「例えば、俺が今こうやってお前と話している時、俺がもしここで契約をすれば、契約者じゃない普通の人間であるお前は、俺のことを忘れてしまうんだ」 「わ、忘れる?」 「ああ・・・」 「それじゃ、マサシも契約したって事はなんだから、契約した後、マサシの近くにいた人達は皆・・・」 「ああ、俺の事を忘れていた」 「!!」 「俺の両親は小さな傭兵会社で魔封石の事を研究していた科学者だった。そして両親は長い時間をかけて、ようやく魔封石を完成させた。でも、完成してまもなく、両親の勤めている傭兵会社は別の傭兵会社の襲撃を受けて崩壊。魔封石を持って命からが逃げてきた両親だったけど、強大な力が手にはいる魔封石を手にするために、傭兵会社の連中は俺の家を襲撃した」 「それで・・・・・どうなったの?」 「両親は傭兵達が襲撃してくるのを知っていたのか、幼い俺に魔封石を持たせてクローゼットの中に隠してくれたんだ。家の中に銃声が響く中、俺はクローゼットの中で震える事しかできなかった・・・・」 「・・・・・」
マサシの話を聞いていたジゼルはあまりの酷さに両手で口を押さえることしかできなかった。
「そして傭兵達がいなくなった後、俺は謝って契約をしてしてしまい、友達や身内からも忘れられてしまったんだ。行く当てもなく途方にくれていた時、俺は今勤めている傭兵会社の人に拾われたんだ」 「・・・・・・」 「ハハ、悪かったな。個人的な話をしちまって」 「・・・・・・」 「ジゼル?」
黙っているジゼルの顔を覗き込むと、ジゼルは口を押さえながら涙を流していた。
「ジ、ジゼル?どうしたんだよ」 「だ、だって・・・・・かわいそうだじゃない・・・・」 「か、かわいそうって・・・・俺がか?」 「うん・・・」 「お、おいおい・・・・今日会ったばかりの奴の話を聞いて泣く事は・・・」 「そんなの関係ないわよ!!」 「!!」
声を上げるジゼルに驚きの顔を見せるマサシ。ジゼルは泣きながら話し続けた。
「大切な人がいなくなって、一人で生きていく事がどれだけ辛い事なのか・・・・あたしにはよく分かる・・・」 「・・・・・」 「それとも、人の悲しい過去を聞いて泣く事がそんなに変な事?」 「いや・・・」 (そうだよな・・・ジゼルも両親を亡くし、お姉さんとも生き別れになっちまったんだもんな。俺と同じ、孤独を生きてきたんだもんな・・・) 「うう・・・・・ぐすっ・・・・・」
ジゼルは必死で流れる涙を手で拭っていた。そんなジゼルにマサシは自分の持っていたハンカチを差し出した。
「ほら、これ」 「あ、ありがとう」
ジゼルはマサシからハンカチを受け取り涙を拭いた。
「ゴメンな・・・」 「ぐすっ・・・え?」 「契約者の話をするだけだったのに、泣く思いをさせちまって」 「ううん、いいよ。あたしが聞いたんだもん」 「・・・・・・」 「・・・・・・」
二人は小さく笑いお互いの顔を見つめあった。しばらく沈黙が有ったが、先にその沈黙を破ったのはジゼルだった。
「それじゃあ、あたし部屋に戻るね」 「ああ、おやすみ」 「おやすみ」
ジゼルは部屋を出ようとしたときクルッと振り返りマサシの方へ寄ってきた。
「これ、間違えて持ってくところだったわ。ありがとうハンカチ」 「ああ、俺も忘れてた」 「フフフ・・・・・マサシ」 「ん?」 「辛い事が有ったら一人で抱え込まずに、あたしに相談してね」 「・・・・・ああ、そうさせてもらう」 「うん、それじゃあね」
ジゼルは最後に微笑んで部屋を出て行った。
(・・・・・ありがとう、ジゼル)
マサシは心の中でそう呟いた。だが彼はまだ気付いていない。自分の心に芽生えた小さな気持ちに。
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