ゼルキアスの使者と共にユピローズへやって来た一人の少女、それは生き別れになったジゼルの姉、ネリネだった。バルコニーからネリネの去る姿を見えなくなるまで見ているジゼル。
「・・・・・・姉さん」 「・・・・・・」
悲しそうなジゼルの後ろ姿を黙って見続けるマサシ。すると、マサシの後ろから無数の足音が聞こえてきた。振り返ると、そこにはコンタ達の姿があった。
「マサシ、ジゼル!」 「みんな・・・」 「リーズが来てたって本当?」 「ああ、さっきまでここにいたよ。たった今、城から出て行った」 「あ〜!間に合わなかった〜!!」
シオンは悔しそうな声で言った。
「サヤカの事で一言文句を言ってやろうと思ったのに〜!」 「まったくだ・・・・・」
シオンに続いてレイナも少し悔しそうな顔をしている。体中の包帯が彼女の代わりに悔しさを語っている。
「ところで、リーズと一緒にいた女の人は誰だったの?」 「何だ、リーズ以外にも誰か来てたのか?」
コンタがもう一人の使者の事でマサシに訊くと、コンタの隣に立っていたユウタが尋ねた。
「ああ・・・・・彼女は・・・・・・」 「ん?」 「誰だったんだ?」
コンタとユウタがマサシの方を向いたまま首を傾げる。マサシは言っていいのか迷っていたのだ。ずっと外を見ていたジゼルが振り返って口を開けた。
「彼女はあたしの姉さんよ・・・・・・」 「ジゼル?」
ジゼルが自分から打ち明けた事に少し驚いたマサシ。
「ええぇ!?ジゼルのお姉さん?」 「ウソ、どうしてお姉さんが敵国にいるのよ!?」
驚いて声を出すコンタとシオン、そして黙ったまま驚きの顔をしているユウタとレイナ。
「・・・・・・それは、話さば長くなるんだ」 「どういうことなの?」 「実は・・・・・・」
数分後、詳しく事情を説明したマサシは悲しそうな目でジゼルを見た。
「そうだったんだ・・・・・・」 「お姉さんだと知った時は辛かったでしょうね」 「当然だろうな、生き別れになった実の姉が敵国に居たんだから、しかも助けたくても助けられないだから」 「なおさら辛いだろうな・・・・・・」
神竜隊の隊員達もジゼルの辛い過去を知り、悲しそうな目をしている。すると、さっきまで悲しそうな顔をしていたマサシが・・・・・・。
「みんな、何くらい顔してるんだよ!」 「マサシ?」 「俺達まで暗くなってどうするんだ?俺達が落ち込んでても何も変わらない、落ち込んでる暇があったら自分達が何をするべきか考えろ、さっきもエミリア様に言われたばかりじゃねえか」 「マサシ・・・・」 「ジゼルの姉さんだって、これから助ければいいだろ?今から落ち込んでちゃ、助ける事なんて出来ないぜ」 「おやおや、さっきまで一番暗そうな顔してたのにな」 「ありゃ・・・・」
ユウタに痛い所を付かれ、よろけるマサシ。だが、マサシの言葉でジゼル達は少し明るさを取り戻した。
「そうだな、マサシの言うとおりだ、いま落ち込んでたって何も変わらない。俺達が変えようと思わないと始まらないよな」 「うん、僕達がしっかりしないとね」 「私達はヘルデストロイヤーを倒して世界を救う!」 「そして、ジゼルの姉を救い出す・・・・」
ユウタ、コンタ、シオン、そしてレイナがそれぞれの思いを口にし、改めて思いを強くする。そんなみんなの姿を見ていたジゼルの顔にも明るさが戻った。
「そうだよね、あたしもしっかりしなくちゃね」 「そう言うこと」
マサシがジゼルの方を見て笑った。そんなマサシを見てジゼルもニコリと笑い返すのだった。そんな時、マサシ達の後ろから中年の男の声と無数の足音が聞こえてきた。振り返るとユウタ達の治療をしていた医師達がいた。
「コラー!君達、まだ傷も癒えていないのに動いちゃダメだろー!」 「ヤッベ、先生達だ!」 「どうしたんだ?」 「実はリーズが来てるってコンタから聞いて先生の許可を貰わずに出て来ちまったんだよ」 「部屋を出るときは許可を貰うようにって看護婦さんからも言われてたんだけどね・・・・」 「そ、それじゃあ先生達も怒るだろう・・・・」 「僕、マズイ事しちゃったかな?」
マサシ達が話していると、医師達はユウタ達の下へ駆け寄ってきた。息も荒い、どうやら大分捜しまわったようだ。
「ハァハァ、ど、何処をウロウロしていたのだね?さあ、早く病室に戻りなさい!」 「「「は、はい・・・・」」」
ユウタ達は医師達に連れられて病室へ戻って行く、コンタも少し責任を感じユウタ達と一緒に病室へ戻って行った。残されたマサシとジゼル、互いを見て苦笑いをした。
「ハハハ・・・・」 「フフフ」 「さて、今日は色々あったからな、帰ってゆっくり休もう」 「そうね、それじゃあ、また明日ね」 「ああ」
ジゼルはバルコニーを出ていき、家へと帰って行く姿をマサシは見守っていた。
その頃、サンドリアから出たリーズとネリネは街から150mほど離れた所にいた。
「さっきの少女、お前の知り合いか?」 「・・・・・・知らないわ」 「そうか・・・・」
二人は王宮で会ったジゼルの事を話をしていた。ネリネはこの時、まだジゼルが生き別れになった妹だという事に気付いていなかった。
「ところで、お前にはこの後ゼルキアスに戻ってすぐに『コルへルス』へ向かってもらう」 「コルヘルス?王都から南へ50キロ先に行ったところにある街の事?」 「そうだ、お前にはその街を襲撃し、街を占拠してもらう」 「占拠!?」 「ああ、『抵抗する者は全員殺せ』と社長からの命令だ」 「そんな!」 「お前に拒否権はない、お前が逆らえば部下は死ぬ・・・・・・答えは分かっているな?」 「・・・・・・ッ!」
部下を人質に取られているため逆らう事が出来ず、彼女は・・・・・・。
「分かった・・・・」
と、答えるしか出来なかった。
「よし、お前を今回の作戦の指揮官を務めてもらう。今回、お前にはヘルデストロイヤーの傭兵を25人、我々に寝返ったゼルキアスの兵士を50人与える。そいつ等を使って街を制圧しろ、失敗は許されんぞ」 「わかってる!」 「結構」 「クッ・・・・!」
ネリネは歯を食い縛っている。自分が無力だという悔しさ、ヘルデストロイヤーへの怒り、それらを必死で抑えていたのだ。そんな思いを胸に抑え、平原に止まっているヘルデストロイヤーのブラックホークに二人は乗り込んだ。
翌日、サンドリアの王宮ではマサシがバルコニーから外を見ていると、後ろからジゼルが声をかけてきた。
「おはよう、マサシ」 「おう、おはよう」 「ユウタ達はどう?」 「もうスッカリよくなったよ、いま食堂で朝食を食ってるよ」 「そう。でもたった一日で傷が完治するなんて、契約者って凄いわね」 「まあな。ところで、今日はシンディと一緒じゃないのか?」 「シンディなら入口であったけど、すぐにユウタ達を探しに行ったわ」 「どうして?」 「『アイツ等から契約者の事を聞き出してやる!』とか言ってたわよ」 「アイツも契約者の事を知ったのか・・・・」
シンディに自分達が契約者である事を知られ、少し悲しそうな顔をするマサシを見てジゼルが優しく声をかけた。
「大丈夫よ、シンディはあなた達が何者であっても避けたりしないわ」 「そうだな、アイツの性格なら大丈夫だな」 「なんか引っかかる言い方ね?」
突然聞こえてきた声に、二人は驚いて振り返ると、シンディが壁にもたれてこっちを見ていた。
「シ、シンディ!何時からそこに?」 「アンタの『契約者の事を知ったのか』ってあたりから」 「ついさっき?」 「そう・・・・そんなことよりも、どうして隠してたのよ?アンタ達が契約者だって事」 「・・・・・・」
シンディの質問に黙り込むマサシ。
「シンディ、あのね・・・・・・」 「『こんな力を持っていたら、みんな自分を避けて離れていく』なんて思ってるんじゃないでしょうね?」 「!!」
思考を読まれたかのような正確な答えに驚くマサシ。そんな彼を見て、シンディは口を開いた。
「アンタがどんな力を持っていようと、アンタはアンタでしょ?チャランポランで正義感が強い男」 「シンディ、お前・・・・・・」 「アンタはちょっと違う力を持っているだけで私達と同じ人間よ」 「・・・・・・ありがとう」
マサシがシンディに礼を言い、ジゼルは笑顔でそれを見ていた。そんな時、声が聞こえ、三人が振り返るとユウタがバルコニーに入ってきた。
「おーい、マサシ!ジゼル!」 「ユウタ、どうしたんだ?」 「ああ、実は・・・・・・あ、シンディ、ここにいたのか」 「いちゃ悪い?」 「いいや、しかし俺達から契約者の事を聞いた後、突然食堂を飛び出して何処行ったのかと思ったら」 「いいでしょ、ところでどうしたの?」 「エミリア様と陛下が呼んでいるんだ。どうやら任務のようだ」 「そうか、行くぞジゼル!」 「うん!」
マサシとジゼルがバルコニーを出て謁見の間に向かおうすると。
「私も行くわ!」 「お前はまだ怪我が完治してないだろ?それにこれは俺達、神竜隊に与えられて任務だ。危険度が高い、だからお前は残れ、いいな?」 「ちぇ、分かったわよ」
確かにシンディはまだ怪我が完治していない、この状態でついて行っても足手まといにしかならない、彼女はそれを理解したのだろう。
「ジゼル、気を付けてね」 「大丈夫!」 「行くぞ、二人とも!」
マサシ、ジゼル、ユウタの三人はバルコニーを後にし謁見の間へ向かった。果たして彼らにどんな任務が待っているのだろうか?
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