2021年。この時代の日本は傭兵会社による運営が大きく進んでいた。そんな傭兵の世界で生きる一人の少年がいた。彼の名は秋円 マサシ。傭兵会社ラントシンフォニアに所属している彼は会社でも指折りの実力を持った傭兵である。
「マサシー」
一人の社員に呼ばれ、缶コーヒーを飲んでいたマサシは振り返った。
「ん、どうした?」 「社長がお呼びだ、至急社長室まで行ってくれ」 「わかった」
マサシは飲み終えた缶コーヒーをゴミ箱に入れ社長室へ向かった。社長室の前に着いたマサシは扉をノックした。
「はい」 「マサシです」 「入って」
マサシは社長の言葉を聞き社長室へ入った。そこには美しい女性が社長の物と思われる椅子に座っており、その前で四人の男女が立っていた。1人は狐の耳を生やした少年、もう1人は茶髪の青年、更に、金髪のロングヘアーの少女とジャケットを着た女性の四人であった。
「なんだ、お前達も呼ばれてたのか?」 「うん、まあね」 「これで全員揃ったな」 「ああ」 「エミリア様、神竜隊全員揃いました。お話をお願いします」 「わかったわ」
どうやらエミリアという女性が社長らしい。そしてエミリアの前にいる四人の男女。狐の耳を生やした少年は月本 コンタ。茶髪で腰にチャクラムを付けた青年は金山 ユウタ。ジャケットを着た女性はコンタと同じで狐の耳を生やしている、名前は狐火 シオン。そして金髪のロングヘアーの少女はレイナ スズキというロシア人と日本人のハーフである。彼等はマサシと同じ特殊部隊「神竜隊」の隊員である。
「たいした事じゃないの、貴方達に休暇をあげようと思ってね」 「え、休暇?」 「やった〜!」 「シオン」 「あ・・・す、すみません」
レイナに注意され、はしゃいだシオンは状況を思い出しエミリアに頭を下げた。
「いいのよ、しばらく仕事続きでまともな休みが無かったんだから、はしゃぎたくもなるわよ」 「い、いえ、その・・」
はしゃいだシオンに優しい笑顔を見せたエミリア。それを見て暗い顔をしていたシオンの顔にも笑顔が戻った。
「ありがとうございます」 「じゃあ改めて。神竜隊、貴方達に有給休暇30日を与えます。思いっきり楽しんできなさい」 「よっしゃあ!皆はどうする?」 「私は久しぶりにガンショップ巡りでもする」 「あたしは旅行でも行こうかなって思ってるわ」 「僕は秋葉原とパチンコ店へ行って・・・」 「コラコラ、楽しくてつい、非合法な事まで口走ってるぞ」
エミリアはそんな彼等の会話を静かに、そして優しく見守っていた。
結局、神竜隊の一同はユウタの意見でフランスのパリへ旅行に行く事のなった。エッフェル塔からモンサンミッシェルなどとパリの色々な所を見て回った。
「パリって始めて来たからよくわかんなくて心配だったんだよ」 「でも良かったですね、ユウタとレイナさんがフランスに来たことがあって」 「本当よね」 「私は父に連れられて何度も来た事があるからな」 「俺も昔ホームステイしに来た事があるんだ」 「そうか、さて今度は何処へ行く?」
マサシが次の行き先を考えながら歩いていると周りの観光客がジロジロと自分達を見ている事に気付いた。
「なあ、なんか俺達、変な目で見られてねぇか?」 「そりゃそうだよ、日本刀なんか持ち歩いてるんだから」 「そう言うお前だって銃持ってるじゃねえか」 「て言うか、俺等全員武器を持ち歩いてるもんな・・・」 「休暇とは言え、傭兵としての自分を見失わないようにする為だ」 「それはアンタだけでしょ、あたし達は武器を持ってないと落ち着かないと言うか・・・」 「似たようなもんだけどな、ハハハ・・・・」
彼等は長いこと傭兵として生きて来たため武器を持ち歩く事が日常化してしまったのだ。マサシ達は人気の少ない場所へ行き、改めて自分達が持ってきた持ち物を検査しあった。
「それじゃ、まずマサシの持ち物を見せてくれ」 「わかった」
そう言ってマサシは自分のバックのチャックを開いた。その中から出てきた物は。
「拳銃が一丁、短機関銃が一丁、それぞれの弾倉が三つずつに、グレネード(手榴弾)が五つ、RPGの本体が一丁に弾が二つ。ほんで、保存食と水」
「・・・・・おい、旅行に来たのになんでこんな物を持って来たんだ?しかもRPGまで、着替えとかはどうした?」 「ハハハ・・・・・持って来てない」 「旅行に行くって言ってるのに着替えを持ってこないバカが何処にいる!」 「そ、そういうユウタはどうなんだ?そこまで言うんなら、当然ちゃんと用意してきたんだろうな?」 「当たり前だ!大体お前は・・・・」
マサシとユウタ言い合っている時、コンタが何かを見つけた。
「ねえ、あれなんだろう?」 「ん?」
そう言ってマサシ達はコンタが見たいる方に目をやった。そこにはなにやら緑色の物体が浮いていた。
「なんだ?ゲートみたいな形だけど・・・」 「お、おい迂闊に近づくなって」 「大丈夫だよ、なんともな・・・」
しかし、なんともないと言おうとした瞬間、緑色のゲートの様な物から光が溢れ、マサシを包み込んだ。
「な、なんだ!?」 「マ、マサシ!?」 「言わんこっちゃない!今行くぞ!!」 「ど、どうなって・・・・・うわあーーーー!!」 「マサシー!」
光はマサシを飲み込み緑色のゲートと友に消えてしまった。コンタ達を残して。
「な、なんだったの・・・今の?」 「俺が知るか!とにかく一大事なのは確かだ。みんな、日本に戻ってエミリア様に伝えるぞ!」 「「「了解!!」」」
ユウタの言葉に3人は声を合わせて返事をし、走り出した。
周りはさっき居たパリの場所とは違う、コンタ達の姿も無い、あるのはマサシが持っていたバックと気絶しているマサシだけだった。
「う、うう・・・・」
マサシは目を覚まし周りを見渡した。
「ここは何処だ?コンタ達は・・・?」
マサシが倒れていた場所、そこはパリの広場ではなく林の中といった方がいいかもしれない。とにかくそこには道路も建物もベンチもなにも無かった。
「どうやら全く別の場所へ飛ばされたようだな。でもあの緑色の光は一体・・・・・・」
マサシは落ちていたバックを取った。
「ま、考えていても仕方ないな。まず人のいる所へ行くか、コンタ達と連絡を取らないと・・・・・ん、そうだ!携帯があった!」
マサシは携帯電話を持っていた事を思い出し、コンタ達と連絡を取ろうとした、だが。
「・・・・・・・・・圏外?」
携帯のアンテナは圏外となっていた。
「はあ・・・とにかく、場所を変えよ」
そう言いながら渋々歩き出した。しばらく歩いてもなかなか人と出会わない。
「・・・・・ここはパリの何処なんだ?いや、あんな得体の知れない光に飛ばされたんだ、パリなのかどうかすら解らない。携帯も圏外のままだし・・・・」
携帯を見ながら歩いていると。
「グゴオォォォ!」
何処からか大きな鳴き声が聞こえてきた。
「なんだ?」
マサシは慌てて鳴き声の聞こえた方へ走っていった。マサシがたどり着いた所、そこにはなんと緑色の肌をした巨人がいた。そしてその巨人の目の先には少女が立っていた。桃色の髪をしたツインテールの少女。その子は両手にトンファーを持っていた、どうやら巨人と戦っていたようだ。
(女?しかも一人であの巨人とやり合ってるなんて、映画の撮影か?いや、映画の撮影だとしたら映像を合成させればいい。だとすると、あれは・・・・・本物!?)
マサシが木の陰から覗いていると、少女が構えた。
「うう・・・強い、このままじゃ・・・」 「グゴオォォォ!!」
巨人が大きな腕を上げ勢いよく少女に向かって振り下ろした。
「あ!!」 「危ない!」
マサシは大きくジャンプし巨人の顔に跳び蹴りをいれた。巨人はマサシの蹴りで倒れた。
「!?」
マサシは地面に着地し、少女の元へ駆け寄った。
「大丈夫か?」 「え、ええ・・・」
少女は驚いていた。助けられたからじゃない、4m近くある巨人を蹴り一つで倒してしまったマサシの力に驚いているのだ。しかし巨人はすぐに立ち上がった。マサシに蹴りをかまされ頭に血が上っているようだ。
「グゴオォォォ!!」 「あ!」 「フン、しつこい奴だ」
マサシはそう言いながらバックを開け、中からP90を取り出した。
P90 FN社が開発した短機関銃。パーソナル・ディフェンス・ウエポンというライフルと拳銃の中間にある銃でライフルのように強力で、拳銃のように軽いという性能を持っている。本体はプラスチックで出来ており反動も小さい。弾は5.7mm×28弾を使用している。この弾はライフル弾を短小化したような弾でサイズは拳銃並だが貫通力に優れており、100m先の防弾チョッキも軽く貫通する。しかも利き手を選ばず左右両方で使えるように作られている、更に弾倉は銃の上部に装備されており伏せて撃つ時も邪魔にならない、まさに万能銃である。
マサシはP90を取り、少女を抱え大きくジャンプし、巨人の顔の高さ辺りまである木の枝に乗った。
「キャア!」 「よっと・・・」
巨人はマサシ達に向かって走り出した。だが、すでにマサシは銃口を巨人の顔に向けていた。
「グゴオォォォ!!」 「ちょ、早く逃げないと!!」 「グガゴオォォォ!!」 「・・・・・あばよ」
そう言った瞬間マサシは引き金を引いた。弾は巨人の額に命中した。巨人の身体は大きな音を立てて倒れた。
「・・・・・・」 「フン、デカブツが」
すると、足元でバキッと何かが折れる音がした。木の枝が二人分の重さに耐えられず折れたのだ。
「ん?」 「え?」
そして二人は落ちた。
「のわあ〜〜〜〜!」 「キャア〜〜〜〜!」
マサシは突然、緑色の物体から放つ光に飲み込まれ別の場所へ飛ばされてしまった。そこで出会った少女。戦った巨人。マサシはここが自分のいた世界と全く違う世界である事にまだ気付いていなかった。
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