窮地に立たされたマサシとジゼルを救ったのは覚醒空間で出合った二匹の子竜、ユグドラとシルドラだった。二人は二匹の力を借りてディアボロスとルシフェルの攻撃を防ぐ事ができる様になったのだ。マッハ4の機動力を持つディアボロスとルシフェルと互角に戦えるようになったマサシとジゼルの反撃が今始まる。
「俺達の攻撃を防いだだと?」 「あり得ないわ、あたし達はマッハ4っていう超音速で動いているのよ」
自分達の攻撃が防がれ驚くディアボロスとルシフェル。そんな二人とは正反対に離れた所で横一列に並び勝機が見えた事に喜びを感じて小さく笑うマサシとジゼル。
「これでお前達と互角に戦えるぜ」 「もう貴方達の思うようにはならないわ、覚悟しなさい」
マサシとジゼルは同時に床を蹴り目にも留まらない速さでディアボロスとルシフェルの背後に回った。一瞬の出来事に驚き、ディアボロスとルシフェルは咄嗟に振り返る。
「くらえっ!聖刃蒼雷剣(せいじんそうらいけん)!!」 「天竜破砕撃(てんりゅうはさいげき)!!」
マサシとジゼルは技の名前を叫びながら攻撃を仕掛ける。マサシのアロンダイトの刀身は青白い電流を纏い光だし、マサシは柄の部分を両手で強く握りそのままディアボロスに向かってアロンダイトを振り下ろした。ジゼルの右手のブリュンヒルドは黄色い光を放ち、ジゼルはルシフェルにパンチを放った。ジゼルが以前使っていた臥龍粉砕撃(がりゅうふんさいげき)のパンチタイプと言ったほうがいいだろう。二人の攻撃はディアボロスとルシフェルに当たるかと思われたが、ディアボロスはマサシと斬撃をBX(ブラックエクスカリバー)で防ぎ、ルシフェルもジゼルのパンチを左手で止めた。
「止められた!?」 「フッ、馬鹿め。例え俺達と同じ速さで動ける様になったとしても、速さが同じならお前達の気配を感じ取るのも攻撃を止めることも容易い」 「つまり、攻撃を当てるまではできないって事よ」 「でも、貴方達の動きについていけるのならまだチャンスはあるわ!」
攻撃を止められたマサシとジゼルは体勢を立て直そうと大きく後ろへ跳んで距離を取った。離れた二人を見てディアボロスとルシフェルはBXと左手を下ろしてマサシとジゼルをジッと見た。
「どうしてお前達が突然俺達と同じ速さで動けるようになったかは分からないが、所詮は焼け石に水。俺達に攻撃が当たらなければ意味は無い」 「それに、今の貴方達はレベル・3を発動している状態であたしとディアボロスについて行けてる、つまりレベル・3が解除されれば貴方達の速さも元に戻る。レベル・3を長時間発動していたら貴方達の体力もいずれ無くなるわ、何時まで続くかしら」 「「・・・・・・」」
ディアボロスとルシフェルの話を黙って聞くマサシとジゼル。確かにレベル・3を発動し続けると体力の消耗も早くなる。だが、二人の目から光が消える様子は無かった、なぜなら二人はさっきの攻撃が全く効かなかった訳ではないと知っていたからである。二人はディアボロスのBXを握っている右手とジゼルのパンチを止めたルシフェルの左手が少し震えているのに気付いたのだ。マサシはディアボロスとルシフェルに聞こえない小さな声でジゼルに話しかけた。
(ジゼル、気付いてるか?) (ええ、勿論)
マサシの声を聞き、ジゼルも同じ様に小声で返事をした。
(アイツ等の手、震えているよな) (うん、あたし達の攻撃を止めた時に反動と衝撃で少しだけ痺れてるんでしょうね) (これもユグドラとシルドラの力のおかげで速さだけじゃなくて力も上がってるみたいだな) (でもこれってルシフェルの言うとおり、レベル・3で元々の身体能力が上がってるからアイツ等にダメージを与えられたのかしら?) (・・・・分からない。だけど少なくとも元々の移動速度はアイツ等と同じになったはずだ、そしてさっきのルシフェルの言葉からすると奴等はその事に気付いていない) (つまり奴等はあたし達の体力の消耗を待ってレベル・3が解除したところで一気に攻撃を仕掛けてくるって事?) (多分な、レベル・3が解けても力は戻るが速さは変わらないはずだ。奴等は油断している。) (それじゃあ・・・・)
マサシとジゼルが小声で話している時、ディアボロスとルシフェルは痺れている自分達の手を見ていた。
(何なんだ、さっきの攻撃は?) (アイツ等の攻撃を止めただけで手が痺れるなんて・・・・) (まさかアイツ等、力も強くなっているのか・・・・)
頭の中でマサシとジゼルの力の変化に驚くのと同時に考えているディアボロスとルシフェル。すると、会話を終えたマサシとジゼルはディアボロスとルシフェルの方を向いて自分達の武器を構えた。
「マサシ、さっき貴方が言ったとおりにすればいいのね?」 「ああ、その時は『例のアレ』を頼むぜ!」 「任せて!」 「よし、行くぞ!」 「うん!」
何かの作戦を考えたのか確認の会話を終えた二人はまたとてつもない速さで走り出しディアボロスとルシフェルに向かっていく。それを見たディアボロスとルシフェルも同じ速さで向かって来る二人に突っ込んでいく。そしてマサシとディアボロスの剣とジゼルとルシフェルの拳がぶつかり大きな震動と衝撃を生み出した。
「クウゥッ!」 「ヌゥゥ!」 「ウウッ!」 「フウゥ!」
マサシとジゼルは力を入れて押そうとするがディアボロスとルシフェルも負けずと押し返す。二組の男女が己の持てる力全てを相手にぶつけ合い、すぐに相手から離れた両方の男女。本来空気の存在しない宇宙とは逆に空気の存在する虚無宇宙(ゼロスペース)の空気は四人の闘志によってピリピリとしていた。そんな中で激しい死闘が繰り広げられているのだ。
「ジゼル、アレ行くぞ!」 「OK!」
マサシの合図を聞き、ジゼルは薄い黄色の竜翼を背中から生やして広げ、マサシも純白の竜翼を広げる。そして二人は同時に飛び上がり空中から地上にいるディアボロスとルシフェルを見下ろした。
「飛んだか、ルシフェル、俺達も行くぞ!」 「わかったわ!」
ディアボロスが漆黒の竜翼を広げて飛び上がると、それに続いてルシフェルも漆黒の天使翼を広げて飛び上がった。だが、マサシとジゼルは二人が上がってくることを読んでいた、二人は既に契約魔法の演唱を始めていた。
「聖天(しょうてん)よ、魔に潜む者に裁きの波動を!」 「聖天よ、魔に裁きの波動を放て!」 「「フォトンブラスト!!」」
ディアボロスとルシフェルが自分達と同じ高さまで上がって来た直後に契約魔法の名を叫び、マサシは左手を、ジゼルは右手を出して隣り合わせる。その瞬間に二人の手から白い光の波動が一直線に伸びてディアボロスとルシフェルに向かっていく。しかもマサシとジゼルの波動は一つとなり大きな波動となっていた。しかしそれを見たディアボロスとルシフェルは表情を変える事はなかった。そしてルシフェルがディアボロスの前に来て両手を向かって来る波動に向けた。
「エンジェリックシールド!」
天使魔法のエンジェリックシールドを発動したルシフェルの前に赤く光る結界が張られてマサシとジゼルの光の波動を防いだ。光の波動は結界によって止められディアボロスとルシフェルにダメージを与えられず結界の前で爆発し消滅した。
「ウソ!フォトンブラストをエンジェリックシールドで防いだ!?」 「馬鹿な、俺達二人のフォトンブラストが一つになった強力なやつだぞ!?それを防ぐなんて・・・・」 「なんて魔力なの・・・・」
自分達の合体魔法が効かなかった事に驚きながらディアボロスとルシフェルのいた所を見るマサシとジゼル。黒い爆煙で覆われており二人の姿は確認できない、すると、煙の中から紫色の光が薄っすらと見える。そして爆煙が消えるとそこには左手を上げ、紫の電流で集め始めているディアボロスと周りに無数の紫の光球を浮かせるルシフェルの姿があった。
「クッ!やっぱり無傷か!」 「しかも、もう次の攻撃の準備を始めている!」
結界でフォトンブラストを防いだ直後に次の攻撃準備を始めているディアボロスとルシフェルを見て構えるマサシとジゼル。そして攻撃の準備を終え、ディアボロスとルシフェルは攻撃を仕掛けて来た。
「雷雲よ、我が意志となり敵を貫く刃となれ!サンダーソード!!」 「受けなさい、天使の失楽!」
ディアボロスは契約魔法のサンダーソード、ルシフェルは見たことの無い技で攻撃を仕掛けた。電流の剣と無数の光球は一斉にマサシとジゼルに向かって飛んで行き、それを見たマサシは咄嗟に契約魔法の演唱を始めた。
「秩序の光よ、我らを守る聖なる領域となれ!シャインバリア!!」
マサシは自分とジゼルを被うように光の結界を張った直ぐ後に電流の剣と無数の光球が結界にぶつかる。しばらくはなんとか持ち堪えていたが、次第にピシピシと罅割れる様な音が聞こえてきた。ディアボロスとルシフェルに力が強すぎて防ぐことができず、壊れかけているのだ。そして電流の剣と光球が爆発し、その衝撃と爆風で結界を破壊しマサシとジゼルを吹き飛ばした。
「うわぁーーーっ!!」 「キャアーーーッ!!」
二人が吹き飛ばされた姿をディアボロスとルシフェルは笑いながら見ていた。
「ハハハッ、俺達の魔力の高さはさっきのエンジェリックシールドを見て分かったはずだ。そんな防御魔法で防ぎ切れるわけが無いだろう」 「あたし達にできるなら自分達にもできると思ったの?甘いわよ、世の中そう思い通りには行かないわ」
吹き飛ばされたマサシとジゼルは体中に走る痛みに耐えながら空中で体勢を立て直してディアボロスとルシフェルの方を見た。
「大丈夫か?ジゼル」 「え、ええ、なんとか」
ジゼルを心配し、彼女の方をチラッと見て声を掛けるマサシ。ジゼルもディアボロスとルシフェルに意識を向けながら小さく笑って答えた。ジゼルの安否を確認したマサシは直ぐに視線をディアボロスとルシフェルに戻して話し続けた。
「どうやら魔力はまだアイツ等の方が上みたいだな」 「しかもアイツ等、契約魔法と見たことの無い技まで使ってきたわ」 「多分あれはルシフェル自身の技だろう、力をどれ程のものか分からない以上、防御魔法で防ぐのは危険だな」 「それじゃあ、魔法が来たら回避に専念って事ね」 「ああ」
魔法に対する注意を高めて武器を構え直すマサシとジゼル。そんな二人を見てディアボロスとルシフェルは更なる攻撃を仕掛けようとしていた。
「反撃のスキは与えねぇ!ダークネスアロー!」
ディアボロスの左手から無数の黒い矢が放たれマサシとジゼルに向かって飛んでいく。二人は上昇し黒い矢を回避する、だが二人の頭上にはルシフェルが先回りしていた。
「上は行き止まりよ♪レインフェザー!」 「しまったっ!!」 「避けて!!」
ルシフェルの漆黒の翼から黒い羽根が雨の様に降り注ぐ、マサシとジゼルはそれぞれ別の方向へ飛んで羽根の雨をギリギリで避けた。そして二人が離れた瞬間にディアボロスはマサシに、ルシフェルはジゼルに向かってもの凄い勢いで飛んでいった。
「やっぱり一対一で戦う方が楽しめそうだ!」 「俺は楽しむつもりはこれっぽっちもねぇよ!」 「だったら、さっさとクタバレ!」
ディアボロスがBXの刃を光らせてマサシに迫ってくる。マサシはディアボロスの動きを分析しながら次の行動を考えた。だがディアボロスの飛行速度は異常なまでに速く一瞬でマサシの目の前までやって来た。
「真っ二つになれ!」 「クッ!秩序の光よ、我らを守る聖なる領域となれ!シャインバリア!!」
マサシは咄嗟に演唱を行い光の結界を張ってディアボロスの斬撃を紙一重で防いだ。だがディアボロスはニッと笑い空いている左手で拳を作った。するとディアボロスの拳が青黒い気を纏いだしたのだ。
「ヴェールクラッシュ!」
技の名前らしき言葉を叫び気を纏った拳でマサシの光の結界を殴った。そしてディアボロスの殴った箇所から結界に罅が入り、マサシの結界は粉々に砕けて消滅した。
「なっ!?」 「甘すぎるぜ、主人格様」
笑いながらマサシの甘さを口にしたディアボロスはBXでマサシを斬り付けた。
「グワァッ!!」
マサシの左肩から右の腰まで大きな切傷が生まれそこから赤い血が吹き出た。幸い、斬られる瞬間にマサシは後ろに下がった為、浅い切傷で済んだ。
「ほぅ、斬られ瞬間に下がったか。どうやら反射神経も高くなっているようだな」 「クッ・・・・!」
傷を抑えながら痛みに耐えディアボロスを睨むマサシ。ディアボロスは再び青黒い気を拳に纏わせてそれをマサシに見せた。
「このヴェールクラッシュは攻撃力こそ劣るがあらゆるバリアや結界を完璧に破壊する。接近戦では俺にバリア類は通用しないぞ、フフフ」 「つまりお前の攻撃は回避以外にかわす方法は無いって事か・・・・」 「まぁそう言う事だ」
マサシがディアボロスの斬撃を受けた時と同じ頃、ジゼルもルシフェルの攻撃を受けて息が上がっていた。
「ハァハァ・・・・」 「どうしたの?もしかしてもう体力の限界が来たのかしら」 「・・・・そんな訳ないでしょう、まだ戦いは始まったばかりなんだから」 「フフフ、その状態で言っても、説得力に欠けるわよっ!」
ルシフェルは喋りながらジゼルに再び攻撃を始めた。ルシフェルの連続パンチをジゼルは防御し続ける。
「ううっ!」 「ほらほらどうしたの?防ぐだけで精一杯じゃない、そんな事であたし達に勝てると思うなんて貴方達は甘すぎよ!」
連続パンチを止めたルシフェル左足に赤黒い気を纏わせた。
「吹っ飛びなさい、堕天星王脚(だてんせいおうきゃく)!」
赤黒い気を纏った左足でジゼルに中段蹴りを放った。ジゼルは咄嗟に右腕でその蹴りを止めて直撃だけを逃れたがそれでもダメージは大きかった。
「うあっ・・・・!」
腕に伝わる痛みに声を漏らしたジゼルはルシフェルの力を抑えられずにそのまま飛ばされてしまった。離れた所でその光景を目にしたマサシはジゼルの方へ向かって飛んでいった。
「ジゼルーッ!」
もの凄い勢いで飛ばされたジゼルになんとか追いついたマサシは彼女の背中から受け止めた。
「ううっ、大丈夫かジゼル?」 「え、ええ。でも今ので右腕が折れたみたい」 「何だって!?」
腕が折れた聞かされて思わず声を上げるマサシ。ディアボロスとルシフェルは離れたと所で合流し二人の会話を聞いてニヤリと笑っていた。
「腕を折るとは、お前も意外と残酷だな?」 「ええ、ゆっくりと甚振ってから殺さないとね。それに残酷と言えば貴方も同じよ?」 「フフフ、そうだな」
笑いながら会話をするディアボロスとルシフェルの姿を見たマサシとジゼルは悔しそうな顔で見ていた。
「アイツ等・・・・!」 「完全にあたし達を甚振って楽しんでるわ」 「アイツ等は相手を傷つけることに快楽を感じている、奴等をここで倒さないとラビリアンに住む人達はアイツ等の創った世界で地獄を見ることになる。必ずここで倒すんだ!」 「ええ。でもこの腕じゃ・・・・」 「大丈夫だ、今こそ『アレ』と使う時だ。俺達二人とも傷だらけだし、疲労も限界に来てる」 「OK、じゃあ行くわよ」
ジゼルはマサシの腕の中で目を閉じ小声で何かを言い始めた。その光景を見たディアボロスとルシフェルは動こうともせずに話していた。
「何をする気か知らないけど、何をやっても無駄よ」 「ああ、例え回復系の契約魔法を使ったとしても折れた腕や疲労までは治らない」
笑いながら話しているディアボロスとルシフェルであったが、次の瞬間、奇跡とも言える光景を二人は目にするのだった。
「癒しの女神よ、大地へ舞い降り、我らに加護と命の煌きを!フォーチュンヒーリング!!」
演唱を終えたジゼルが契約魔法の名を叫んだ瞬間、白い光の粒子が頭上から降り注ぎマサシとジゼルの体に触れていく。すると、二人の体が光りだし体の傷を治していくではないか。それだけではない、二人の顔から疲れた様子が消えていく。そう、彼等の疲労も綺麗に消えたのだ。やがて光の粒子が消えるとマサシとジゼルはゆっくりと離れた。そしてジゼルは右腕をゆっくりと動かした。
「どうだジゼル?」 「ええ、完全に治ってるわ」
なんと折れた筈の右腕が元通りになったのだ。それを聞いたマサシは笑ってジゼルの顔を見た。その一方でディアボロスとルシフェルは驚きの顔でマサシとジゼルを見ていた。
「ば、馬鹿な・・・・。折れた腕が元に戻った上に疲労も回復しただと?」 「あり得ないわ、契約魔法の中で折れた骨や疲労を回復する魔法なんて存在しないはず・・・・」
驚く二人を見たマサシとジゼルは鋭い視線で二人を見ながら口を開いた。
「それがあるから今俺達はこうしているんだよ。それにしてもお前達も知らない契約魔法があったとはな」 「このフォーチュンヒーリングは回復系の魔法の中でも唯一全ての怪我や疲労を回復する事ができる上級契約魔法。しかもこの魔法を取得できる契約者が生まれるのは十万人に一人、そしてそれをあたしは使える、と言う事よ!」
ジゼルは滅多に得ることのできない最上級魔法を取得した契約者の一人だったのだ。それを知ったディアボロスとルシフェルは驚きのあまり言葉を失った。
「さてと、疲労も回復したし、これでレベル・3を維持し続けることができる!」 「勝負はまだまだこれからよ!」
構えて闇の自分達を見るマサシとジゼル。圧倒的に不利な状況下にあった二人がその最悪な状況を一瞬で覆した。これは二人に、ラビリアンに住む人々に大きな希望を与える瞬間でもあったのだ。
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