襲い掛かってきた親衛隊のドラゴンナイト達をユウタ達に任せて上の階へ上がるマサシとジゼル。仲間達の無事を祈ってディアボロスとルシフェルの待つ謁見の間へ向かうのだった。
「急ごう、早く戦いを終わらせないとユウタ達や地上部隊の人達も危ない!」 「ええ!」
マサシとジゼルは全速力で階段を駆け上がったいく。そして、二人は今までの階とは違う広い部屋へ足を踏み入れた。
「ここが謁見の間?」 「分からない、でも今までの階と違って上へ上がる階段はないからここが最上階だろうな」 「じゃあやっぱりここが・・・・」
ジゼルが何かを見つけて言葉を止める。彼女の視線の先には戦闘の痕跡があったのだ。床には爆発によって出来た大きな穴、壁には刃物で付けられた斬り傷の様なものがある。
「マサシ、あれって・・・・」 「戦闘の跡だ、多分下の階にあった痕跡を付けた奴と同じ奴の仕業だろうな」 「そのとおりだ」 「「!」」
部屋の奥から聞こえてくる声の反応したマサシとジゼルは暗くて見えない部屋の奥を見た。二人は既にその声の主が誰なのか気付いている。
「ディアボロスか!」 「よく来たな、待っていたぞ」 「何処にいる!」 「愚問だな、お前達の見ている先だよ。さっさと来い、お前達の知りたがっている事を教えてやる。あと、先客が居るんでソイツ等も紹介しよう」 「先客?一体誰だ!?」
ディアボロスに質問するマサシだが、ディアボロスの返事は無かった。
「さっさと来いってことかよ」 「行くわよね?」 「勿論だ」
マサシはアロンダイトを抜き、ジゼルの方を向いて彼女に問いかけた。
「いよいよ最後の、そして一番キツイ戦いが始まる。覚悟はできてるか?」 「当然、覚悟が無かったらこんな所には居ないわよ」 「フッ、そうだな。ワリィ、つまらない事訊いて」
ジゼルは笑って首を横に振る。そしてそれを見たマサシも自然と笑みを浮かべた。だが直ぐに二人は鋭い表情へと変わり、ディアボロスの声が聞こえた部屋を見て暗闇の中へ歩き出した。しばらく歩いていると。二人は床に倒れている何かに気付いた。そしてその倒れているものを見て表情を凍らせる。
「エ、エミリア様!それにゾーク!」
そう、床に倒れていたのは傷だらけのエミリアとゾークだったのだ。二人ともうつ伏せに倒れており切傷や弾痕などが体中にあり、そこから大量に出血していた。マサシとジゼルは倒れているエミリアとゾークの下へ駆け寄り二人を起した。
「おい、どうしたんだ!?」 「大丈夫ですか?」
マサシはゾークの起こして呼びかけるが返事は無い。エミリアも同じだ、ジゼルの声にまるで反応しない。
「も、もしかして二人とも・・・・」 「安心して、気絶してるだけよ」 「「!!」」
聞こえてきた女の声に反応したマサシとジゼルは顔を上げて奥の暗闇を睨む。すると、突然部屋のライトが全て光りだした。部屋が明るくなり暗闇が消え、部屋の奥の玉座に座るディアボロスと玉座にもたれる様に寛ぐルシフェルが二人の視界に入った。二人とも黒いマントに黒と白で基調した色彩の服を身に纏っている。
「ディアボロス、ルシフェル!」 「やはり来たか、マサシ、ジゼル」 「お前達がエミリア様とゾークを・・・・」 「あたし達以外に誰がやるって言うのよ?」 「くっ!」
ルシフェルの挑発的な言葉にマサシは奥歯を食い縛り睨む。その隣でジゼルがエミリアを寝かせてゆっくり立ち上がった。
「どうしてこんな事を、大体なぜエミリア様とゾークがここに居るの!?」 「どっちの質問に答えればいいの?」 「両方よ!」
再び挑発的な態度を取るルシフェルを睨みながら怒鳴るジゼル。するとディアボロスが立ち上がり口を開いた。
「その二人はお前達の輸送機が撃墜されたのを見てお前達が死んだと思い、お前達の変わりに俺達を討とうとしてここに来た」 「俺達の変わりに?」 「そうだ、あとお前達を守る為に戦うとも言っていたな。そして倒れている理由は・・・・話さなくても分かるだろう?」 「まさか・・・・」
ディアボロスの話を聞きマサシは察したのか表情を凍らせた。勿論、隣に立っているジゼルも同じだ。二人の頭の中を信じたくない答えが横切った。ディアボロスとルシフェルに負けたと・・・・。
「まさか、二人が負けたなんて・・・・」 「フフフフ、ライトシンフィニアとヘルデストロイヤーの社長だから少しはできると思ったが、大したことなかった。実際、ソイツ等は俺とルシフェルに傷一つ付けられなかった」
そう言ってディアボロスとルシフェルは両手を広げて自分達の姿をマサシとジゼルに見せた。確かに、二人の体の何処にも傷は付いていない。それどころか服に汚れすら付いていなかった。 「なんてこった・・・・」 「エミリア様とゾークでも勝てないなんて・・・・」
自分達の知る人物の中で最も力の強いエミリアとゾークでも倒す事ができなかった、そんな相手にマサシとジゼルは恐怖を感じ始める。自分達の同じ姿をしているのであれば尚更だ。
「もう質問はいいだろう?早速本題に入ろうか」
ゆっくりと玉座からマサシとジゼルに向かって歩き出すディアボロスとその隣を同じ速さで歩くルシフェル。二人の姿を見て立ち上がったマサシとジゼルは戦闘態勢を取るがディアボロスとルシフェルは両手を下ろしたままだった。やがてディアボロスとルシフェルは倒れているエミリアとゾークを挟む形でマサシとジゼルの前に止まった。
「城に入った時にお前達に言った事を覚えているか?」 「・・・・お前達の望む世界は俺達の望む世界だという事か?」 「そうだ」 「そんな見えすぎたデタラメをあたし達が信じると思ってるの?」 「デタラメじゃないわ、あたし達の望んでいる世界は昔、貴方達が望んだ世界なのだから」 「昔のあたし達?」 「一体どういう意味だ?」
言っている事が全く分からないマサシとジゼル。すると、ディアボロスが不敵な笑顔を見せた。
「なら見せてやる、お前達が望んでいたという証拠をな」
パチンと指を鳴らすディアボロス。すると、四人の居た謁見の間が突然白い光に包まれた。激しい光にマサシとジゼルは目を瞑る。そして次に目を開いた時、二人は謁見の間と違う場所に立っていた。
「な、何今の?」 「分からない、それにアイツ等は何処へ行った?」
マサシとジゼルは辺りを見回すがディアボロスとルシフェルの姿は何処にもなかった。そして二人はすぐに辺りを見て自分達が違う所にいる事に気付いた。
「ここ、一体何処なの?」
ジゼルは不思議そうな顔をして辺りを見回す。そこは彼女が見た事の無い場所だった。周りは薄い霧のような物に包まれており、一戸建ての住宅が沢山建っている。そして見た事の無い色の地面が目に入った。しかしジゼルは一度だけその地面を見たことがある。
「ねぇ、マサシ、コレって道路じゃないの?」
そう、二人が今立っているのは地球にしかないはずのアスファルトの道路だったのだ。一度地球に来たことのあるジゼルには直ぐに分かった。
「それじゃあここって地球?でもどうし・・・・マサシ?」
さっきから黙っているマサシの方を向くジゼル。そして彼女は呆然としているマサシを見た。まるで信じられない光景を見ているような顔だった。
「マサシ、どうしたの?」 「・・・・・・ここは」
やっと言葉を出したマサシの声は明らかに驚いたような声だった。すると、二人の目の前の家から数人の男が飛び出して自分達に向かって走ってくる。その男達の手にはマシンガンが握られており、その内の一人は銀色のアタッシュケースを握っていた。ジゼルは咄嗟に構えるが、その男達は自分とマサシの体を通り過ぎて行った。まるで実体の無い物が通過するように。
「な、何今の?体を通り過ぎて行った?」
ジゼルが驚いていると、隣に立っていたマサシは男達が飛び出してきた家の中へ走って行った。
「あっ、マサシ待って!」
マサシの後を追って家の中へ飛び込むジゼル。そして家の中に入ったジゼルは言葉を失った。家の中は滅茶苦茶でいたる所に弾痕があったのだ。驚きながら家の中を進んでいくと、何処からか子供の泣き声が聞こえてきた。ジゼルは急いで泣き声のする方へ向かいリビングの様な部屋へ入ると、そこには先に家に入って行ったマサシが立ったのだ。
「マサシ!もう、勝手に行動しないで・・・・マサシ」
注意しようとマサシに近寄り彼の手を握ったジゼルは、マサシの手が震えている事に気付いた。そして彼の隣に立つ前を見ると、そこには血だらけで倒れている男女と一人の男の子が座り込んでいた。
「酷い、もしかしてさっきの男達が・・・・?」 「・・・・・・あの子は」 「え?」
マサシが見ている男の子を同じ様に見るジゼル、そして彼女は男の子を見て何かを感じた。目の前で泣いている男の子に会った事がある、そう感じているのだ。
「この子って・・・・」 「・・・・あの子は、俺だ」 「ええっ!?」
信じられないマサシの言葉にジゼルは驚きを隠せなかった。そう、二人が最初に立っていたのはマサシの家の前、ここはマサシの家、そして倒れている男女はマサシの両親。
「確かマサシの両親は魔封石の研究者で、子供の時に傭兵達に殺されたって・・・・・・」 「・・・・・・」
以前マサシに聞かされた彼の過去を思い出すジゼルの隣でマサシは泣いている子供をジッと見ていた。
『うううぅ、お母さん、お父さん・・・・』 「ッ!」
泣いている過去の自分から逃げるように目を反らすマサシ。ジゼルは只となりで彼の手を握りながら一緒に見ることしかできなかった。
『どうして、どうしてお父さんとお母さんが死ななくちゃいけないの?どうして強い人が生きて弱い人が死ななくちゃいけないのぉ?』 「マサシ・・・・」
泣いている過去の愛しい人を悲しみながら見ているジゼル。ここでは幻のような存在である二人は触れる事もできず、只ひたすら悲しさや悔しさに耐えていた。
『僕達が強かったら、皆同じ強い人だったらお父さんもお母さんも死ななかったのに・・・・皆が同じ、強い人だけの世界だったらよかったのに・・・・』 「!!」
過去の自分の言葉を聞いたマサシは表情が凍りついた、ディアボロスの言ったとおりの事が起きて・・・・。そしてその瞬間、再び辺りは白い光に包まれた。突然の光の二人はまた目を瞑った。そして光が治まり、目を開くとまた見た事の無い景色が視界に入った。再び外に出ており辺りにはさっきまでの様な一戸建ては建っておらず、草原の真ん中に二人は立っていた。
「・・・・今度は何なんだ、一体何を見せる気だ!」
さっきの過去の映像を見せられたせいかマサシの声には若干苛立ちがあった。隣でもジゼルはキョロキョロと周りを見ている。そしてジゼルは何かを見つけたのか指を差した。
「マサシ、アレ」 「ん?」
二人が見た先には二人の女の子がこちらに向かって走ってくる姿が見えた。マサシはジッとその二人を見ていると、今度はジゼルが表情を凍らせた。
「ッ!あ、あれって・・・・」 「どうした、ジゼル?」
マサシは再びは二人の女の子の方を見ると、マサシはある事に気付いた。その二人の女の子の内一人は背が高くもう一人の背の低い女の子の手を引いて走っていた。二人ともピンク色の髪をしていた。その二人を見たマサシは直ぐにその少女達が誰なのか気付いた。
「ま、まさか・・・・ジゼルとネリネ、なのか?」 「・・・・・・」
そう、走ってきたのはまだ幼い時のジゼルとネリネ。二人はまるで何かから逃げるように全力で走ってきた。そして彼女達の背後から黒ずくめの男達が走ってくる。明らかに二人を追っている様子だった。実はこの男達は人を誘拐しては彼方此方に高値で売りつける人攫(さら)い組織だったのだ。そして追いついた男は二人を引き離し、ネリネを背負って去っていく。
『お姉ちゃん!』 『ジゼル!ジゼルーッ!!』 『待って、お姉ちゃんを返して!返してぇ!!』
座り込みながら必死でネリネを返すよう叫ぶジゼル。だが男達は彼女の言葉に耳を貸そうとしなかった。ネリネが見えなくなり、とうとうジゼルはその場で泣き出した。
『おい、このガキはどうする?』 『ほっとけ、こんなガキじゃ高く売れねぇだろうからな』
残った男達はジゼルをその場に残して来た道を戻っていった。只一人残されたジゼルは泣き続けることしかできなかった。そしてそれを苦しそうか表情で見ているマサシと目を閉じ俯きながら震えているジゼル。
『どうして?あたし達何もしていないのに・・・・。そんなに強い人が偉いの?弱い人は強い人の言う事を聞かなくちゃいけないの?』 「・・・・・・」
幼い自分の言葉を俯きながら聞くジゼル。すでにジゼルは耐えられずに泣いていたのだ。この後、ネリネはロードグランの騎士団に拾われ、ジゼルはベルに拾われてそれぞれの道を歩んだのだ。
『もっと強くなりたい、強くなって強い人だけがいる、喧嘩することの無い平等な世界で暮らしたい・・・・』 「!?」
信じられない言葉にジゼルは思わず顔を上げる。その瞬間に二人は思い出したのだ、幼い時に強い者が生きる世界が創れらてほしいと。そしてその瞬間、また辺りが白い光に包まれた。そしてマサシとジゼルが目を開くと、二人は最初に居た天空魔導城の謁見の間に立っていた。そして二人の前にはディアボロスとルシフェルが退屈そうに立っていた。
「やっと戻ってきたか」 「意外と遅かったわね」 「・・・・・・どういう事だ、過去の映像を俺達に見せて?」 「分かってるんだろう?思い出させたんだよ、お前達が過去に俺達の同じ事を望んでいたという事をな」 「そしてあたし達は貴方達の望みを叶える為にこうやって現実世界に現れた。それにあたし達もそんな世界で生きたいと思っていたしね」 「つまり、今回の戦いを招いたのはお前達も同然って事だ。俺達も最初からお前達の望みを知っていたからな、コルヘルスで初めて会った時もすぐに意気投合した」 「ちょっと待て!!」
話をしているディアボロスとルシフェルに向かって叫ぶマサシ。ディアボロスとルシフェルは表情を変えずにマサシの方を見た。
「確かにアレは俺達の過去の映像だった。それは俺もジゼルも認める!だけどな、俺達はこんな強い奴だけが生きて弱い奴が死ぬ世界なんて望んでいない!」 「そうよ!それに貴方達言ったわよね?貴方達はマサシが契約を交わした時、あたしが聖天使人の力を覚醒させた時に目覚めたって!あの時、あたしはまだ自分が聖天使人の末裔だって事さえ知らなかったのよ!?」 「俺だってそうだ!あの映像は俺が契約を交わす前の光景だ。つまりその時お前達は俺とジゼルの中にはいなかったはずだ!そしてお前達はコルヘルスで出会った時に今回の計画を考えたって言っていた。それなのに、俺達の中で目覚める前からお前達は俺達が過去に言った事を知ってるだと!?話の筋が通らないじゃないか!!」 「何を言ってるんだ?」
興奮しながら話をしているマサシとジゼルに対し冷静なまま話すディアボロス。
「言っただろう?俺とルシフェルはお前達の中で覚醒したと。お前達の中の古い記憶だって簡単に知ることもできる。そうすれば例え覚醒する以前のお前達の過去だって分かるに決まってるだろう」 「それにコルヘルスで貴方達が接触した瞬間にこの虚無宇宙(ゼロスペース)は創られあたし達は何時でも好きな時に会うことができるわ。要するに何時でも時間をかけて今回の計画を練ることができたって訳。それにどんな理由であろうと貴方達が強い者が生きる世界を望んだのは事実でしょ?」
「「!!!!」」
ディアボロスとルシフェルの話を聞いたマサシとジゼルはショックを隠せなかった。今回の事件の引き金を引いたのは幼い時の自分達だという事、そして自分達の出会いが更にその計画を進ませる結果になってしまった事。二人は糸の切れた人形の様に両膝を床につけて放心状態になってしまった。
「俺達の・・・・せい、なのか・・・・・・?」 「あたし達がこの世界を滅ぼす・・・・原因・・・・・・?」
完全に絶望し戦う気力を失ったマサシとジゼルを見てディアボロスはBX(ブラックエクスカリバー)を抜き、ルシフェルは拳をポキポキと鳴らした。 「でもね、同じ世界を望む者にしても、同じ顔をする者は必要ないわ」 「だからお前達にはこの世界と共に、消えてもらう!」
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