神竜隊が魔人との戦いを終えた頃、マサシとジゼルはディアボロスとルシフェルの居る城へ潜入していた。中庭から城の中へ入った二人はエントランスの様な広い部屋に立っていた。
「ここが天空魔導城の中か・・・・」 「一見普通の城に見えるけど」
マサシとジゼルは部屋を見回して辺りを調べた。そこは円状の大きな部屋で真ん中には二階へ上る大きな階段があり赤いカーペットが敷かれている。壁には見た事の無い大きな肖像画が何枚も飾られてあり、まるで中世ヨーロッパの城の様な所だ。
「ここの何処かに二人が居るのね」 「ああ、恐らくこの城一番上の部屋、もしくは王様の居る様な部屋だろうな」 「どうして分かるの?」 「自分達の事を創造主とか名乗るような奴等だぜ?自分達の存在をアピールする為にそういう所に居る可能性が高い」 「成る程ねぇ」
苦笑いを見せて説明するマサシと腕を組んで頷きながら納得するジゼル。二人はディアボロスとルシフェルの子供の様な考え方に少し呆れているようだ。
「これ以上俺達の姿で好き勝手させる訳にはいかない。さっさと奴等の所へ行くぞ!」 「OK、コテンパンにしてやりましょう!」
二人が気合を入れていると、エントランスの中に二つの声が響いた。
「随分と言いたい放題だ?」 「あたし達の事をそんな風に軽い存在だと思っていたのね」 「「!!」」
突然聞こえる男女の声に反応し、マサシとジゼルは天井を見上げた。
「その声は、ディアボロス!」 「それにルシフェル!」 「よく来たな、お二人さん」 「ようこそ天空魔導城へ」
マサシとジゼルの侵入を歓迎、そして見抜いていた様な声で挨拶をするディアボロスとルシフェル。だがその一方でマサシとジゼルは天井を見上げながら鋭い声で言い放った。
「ディアボロス、ルシフェル!これ以上俺達はお前達の妄想に付き合うつもりは無い!」 「貴方達の強い者だけが生きるまやかしの世界なんて誰も受け入れないわ!」 「フッ、妄想にまやかしか。まさかお前等の口からそんな言葉が出るとはな」 「何?」 「それってどういう事?」
ディアボロスの言っている事の意味が分からず眉を動かすマサシとジゼル。そして今度はルシフェルの声が聞こえてきた。
「ここまで来たんだから教えてあげるわ。あたし達の求めている世界は、貴方達の求めている世界でもあるのよ」 「何を言ってるの!あたし達はそんな世界を望んでなんかいないわ!」 「果たして本当にそうだろうか、俺達はお前達の中で生きていたんだぜ。昔からお前達の事をよく知っているんだぜ?」 「持って回った言い方は止めろ、ハッキリと言え!」
挑発的なディアボロスの言い方にマサシは力の入った声で言うと、ディアボロスが小さく笑う。
「フフフ、知りたかったら俺達の所へ来い。俺とルシフェルは最上階の謁見の間に居る」 「あたし達を止めたかったら急いで来ることね。最も、無事に来る事ができたら、の話だけど。ウフフフフ」
ディアボロスとルシフェルがそう言うと、二人の声はそれきり聞こえなくなった。残されたマサシとジゼルはディアボロスとルシフェルの言った事を考え始める。
「一体どういう事なんだ?アイツ等の創ろうとしている世界が俺達の望む世界って・・・・」 「適当に決まってるわ!あたし達はあの二人が望む世界で生きたくなんかないもの。それは、あたし達自身がよく分かってる」 「・・・・ああ、そうだな。ワリィ、変な気分にさせちまって」 「ううん、気にしてない。さぁ、行きましょう、ディアボロスとルシフェルは最上階よ!」 「おう!」
二人はディアボロスとルシフェルの下へ向かう為に階段へ向かって走り出す。すると、全力で走っていた二人が突然足を止めた。
「気付いたか?」 「ええ、何か来る」
二人が階段の方を見て構える。すると、階段の奥から、上の階からサンドリアに攻めてきたあの黒騎士達が大勢ゆっくりと姿を現した。
「あれはサンドリアに攻めて来た黒騎士!」 「やっぱりすんなりとは行かせてくれないか」
目の前の大勢の黒騎士達が一斉に剣を構える。だがその光景を目にしたマサシとジゼルは動じる事無く、アロンダイトとブリュンヒルドを構えた。
「さてと、どう攻める?」 「ここまで来たんだから、もう方法は一つしかないでしょう?」 「ああ!」 「「強行突破!!」」
マサシとジゼルの考えが一致した瞬間、二人は床を蹴り黒騎士の軍団に向かって走りだした。黒騎士達も向かって来るマサシとジゼルに向かって一斉に走り出した。そして、黒騎士の一人がマサシに向かって剣を振り下ろした。マサシはその攻撃をアロンダイトで止める。すると、アロンダイトの刀身が光だしマサシはそのまま勢いよくアロンダイトを振る、すると黒騎士の剣の刀身が一瞬で切り落とされた。黒騎士はダンマリのまま驚き一歩下がるが、マサシはそのまま黒騎士に斜め切りを放つ。黒騎士の体は黒い霧状となり消滅した。
「凄い、敵の剣を切り落としちまった・・・・これがアロンダイトの力・・・・」
アロンダイトの切れ味に驚くマサシと、驚いて立ち止まる黒騎士達。だが、直ぐに体勢を立て直して再び攻めて来た。すると今度はジゼルに黒騎士の一人が襲い掛かった。剣を大きく横に振り、左から横切りを放つが、ジゼルはブリュンヒルドを装備した左手でその斬撃を止めた。そして空いている右手で黒騎士の腹部にパンチを入れる。その瞬間、黒騎士は大きく後ろに飛ばされ、その後ろにいた別の黒騎士達を巻き込んでいく。
「へえぇ、凄い力。でも、これなら、行ける!」
ジゼルは黒騎士達に向かって走り出し、次々に黒騎士達を殴り飛ばしていく。ジゼルに殴り飛ばされた黒騎士達は全員黒い霧状の変わり消滅していく。すると、黒騎士達はジゼルを囲み四方から攻撃しようとした。だが、ジゼルは高くジャンプしてがら空きの真上から包囲網を脱出、した直後に包囲網の外にいたマサシが黒騎士達に向かって大きくアロンダイトを横へ振った。アロンダイトから白く光る光の刃が放たれてジゼルを包囲していた黒騎士達を全員真っ二つにする。そしてそのまま黒騎士達は全員黒い霧となった。
「ジゼル、俺がいるからってあんまり無茶しないでくれよな。ビックリするぜ」
疲れたような声でジゼルに注意するマサシ。ジゼルはマサシの隣に着地して笑いながら言った。
「あら、無茶なんてしてないわよ。無茶なんて、ねっ!」
ジゼルは掌から薄い黄色の光弾を作りマサシに向かって光弾を放った。マサシは姿勢を低くしてその光弾を回避、すると光弾はマサシの背後にいた黒騎士に命中、黒騎士はそのまま消滅した。
「そう言う貴方だって自分で倒せる相手をあたしに押し付けないでよね」 「ハハハ、バレた?」 「バレバレよ」
軽口を叩き合いながらマサシとジゼルはお互いに背中を向けて構え直した。一見綱渡りの様な危ない戦いに見えるが、二人は全く余裕を崩していない。それだけ二人はお互いを信じ合っているという証拠だ。そんな二人を見た黒騎士達はゆっくりと後退していく。二人の強さに恐れを成したのだろう。
「敵が下がっていくよ」 「どうやら俺達を恐れているようだ」 「それじゃあ・・・・」 「ああ、このまま一気に畳み掛けるぞ!」 「OK、ちゃっちゃとコイツ等を倒して、先へ進みましょう!」 「行くぞ!」
二人はもの凄い速さで、そして同時に走り出して黒騎士達へ向かっていった。マサシとジゼルの表情からは恐怖や苦しさといった表情は見られない。今の二人は勝機と余裕に満ちていた。
その頃、謁見の間ではディアボロスとルシフェルが立ったままワインを飲みながマサシとジゼルの到着を待っていた。
「遂にここまで来たか、アイツ等」 「彼等も強くなってるから、ここまで来るのにそう時間はかからないわね」 「ああ、だが奴等がここに到着した時、奴等の命も終着駅に到着することになる」 「面白い言い方ね。それってマサシと一体化していたからなのかしら?」 「フッ、さぁな。ま、今となっちゃそんな事どうでもいい、奴等が死ねばこの姿も話し方も俺達だけの物となるんだからな」
ディアボロスがワイングラスを持っていない方の手で握り拳を作りながら笑う。ルシフェルも空いている手で自分の銀色の髪を指で捻りながらクスクスと笑った。すると、何処からか声が聞こえてきた。
「残念ですが、貴方達が彼等を倒す事はありませんよ」 「!誰だ?」
聞こえてきた声にデイアボロスは動じる事無く聞こえてきた方を向く。声は下の階へと繋がる階段から聞こえてきた。そしてゆっくりと声の主が階段を上がってきた、その声の主は・・・・。
「お前は、エミリア」
そう、声の主はサンドリアで防衛部隊の指揮を取っているはずのエミリアだったのだ。エミリアが階段を上がり終え、ディアボロスとルシフェルに向かって歩いていく。彼女の表情は鋭く、二人と戦うという意思が感じられる。
「どうしてお前がここに居る?」 「そうよ、貴方は地上でサンドリアの防衛に当たっていたはずだけど」 「地上での戦いは粗方落ち着いたのでここに来たのですよ、貴方達と戦うために」 「ホゥ、俺達と戦う?俺達の討伐は神竜隊の任、そしてそれを命じたのはお前だろう。なぜお前が俺達を倒すんだ?」 「私がここに来た理由は彼等のジェット輸送機が撃墜したのを確認したからです。彼等の消息が確認できなくなった以上、私自身が貴方達を討つしかないと思っていたのですが、どうやらその必要は無かったようですね」
エミリアはマサシ達の乗っていたジェット輸送機が天空魔導城の砲台に撃ち落されたのを確認したエミリアは彼等がやられたと思い乗り込んできたのだ。
「貴方達のさっきの会話を聞いてマサシ達の無事が分かりました」 「よかったじゃないか、ならもうここには用は無いだろう?」 「さっさと帰って地上部隊の指揮に戻ったら?」
ディアボロスとルシフェルがエミリアに帰るよう言うが、エミリアは立ち去ろうとしなかった。いや、それどころか背負っている大剣を抜いた。
「いいえ、私が帰るのは貴方達を倒してからです」 「何?」 「マサシ達に言った事と貴方がやろうとしている事が滅茶苦茶よ」 「ジェット輸送機が撃墜されたことで彼等は高い確率でバラバラになっています。全員揃って進めばなんとかなりますが、バラバラになった状態で進めば一人の体力の消耗も激しく、ここまで辿り着くまでに力を使い果たしているでしょう。そんな状態で戦ったら、いくら強くなった彼等でも勝つのは難しい、だから私がここで貴方達を討ちます!」 「成る程、だが、いくらお前でも俺達二人を同時に相手にするのは無謀ではないか?」 「一人ではないぞ」 「「!」」
エミリアの背後から別の声が聞こえてきた。ディアボロスとルシフェルが階段に目をやると、また誰かが上がって来る。それはなんとゾークだった。
「ゾーク・・・・」
意外な人物にディアボロスは低い声で名を口にする。ゾークはゆっくりとエミリアの隣まで歩いてきた。
「ゾーク、下の階はどう?」 「粗方雑魚は片付けた、当分誰も上がってこないだろう」 「そう。マサシとジゼルがこの最上階に向かってるみたいよ」 「あの二人がか?」 「ええ、彼等が来る前に戦いを終わらせましょう」 「言われるまでもない」
ゾークは大剣を抜いてエミリアと同じ様に構える。ライトシンフォニアとヘルデストロイヤーの二つの傭兵会社の社長、いや、呪いを受けた二人の契約者が目の前の邪神竜と堕天使を討つ為に協力し合う。すると、突然ディアボロスとルシフェルが笑い出した。
「フッ、ハハハハハ!これは驚いた、敵対し合っていた男女が手を組むとはな!」 「アハハハハ!そうね、数ヶ月前までは馬鹿みたいに戦っていたのに!」
二人の気持ちも知らずに悲しき呪いを笑うディアボロスとルシフェル。だがエミリアとゾークは取り乱す様子も見せずに構えたまま二人をジッと見ている。
「それで挑発のつもりですか?」 「生憎だが、私達に挑発は通用しないぞ」 「フフ、ハハハ・・・・。そうか、なら心理戦は無しだな?」 「フフフ・・・・。ええ、さっさと片付けてマサシとジゼルを向かえる準備をしましょう」
笑いが治まったのか、ディアボロスとルシフェルはワイングラスを捨ててエミリアとゾークを見た。
「・・・・行くわよ、ゾーク」 「ああ」
エミリアとゾークは床を蹴り、ディアボロスとルシフェルに向かって走り出した。
その頃、マサシとジゼルは一階の黒騎士達を倒して二階に上がって来た。二階も一階と同じ広さで奥に上の階へ繋がる階段があり、部屋の壁には絵画が飾ってあった。
「一階と大して変わらないな」 「敵が来る前に次の階へ行きましょう」 「ああ!」
マサシとジゼルが階段へ向かって走り出そうとすると、上の階へ続く階段から足音が聞こえてきた。二人が階段の上を見ると、骨と皮だけの様な細い体をしたミイラのような怪物が槍を握り、三列に並んで大勢下りてきた。そして二階に足を付けると槍先をマサシとジゼルに向ける。
「おお〜いいねぇ。トコトンやる気だコイツ等」 「今度も強行突破ね、急がないとアイツ等いつゼロビッグクランチを起すか分からないわ」 「ああ、一気に行くぞ!」
マサシとジゼルはミイラ兵達に向かって走り出した。マサシとジゼル、そしてエミリアとゾーク、二組の男女が己の信念と意志を賭けて今激闘を繰り広げようとしている。一体どの様な結末になるのだろうか!?
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