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作品名:ラビリアンファンタジー 作者:ディオス

第158回   第百五十七話 毒の舞踏会 ユウタVSバジリスク!

東の高台と南の高台を繋ぐ渡り廊下の上では、ユウタとバジリスクがお互いをジッと見て相手の出方を待っていた。

「どうした、さっきから動いていないぞ?俺が怖いのか?」
「勝手に言ってろ、俺は用心深い性格なんだよ」

ユウタはバジリスクの挑発にも乗らずに冷静に構えている。彼は一度バジリスクと戦い毒をその身に受けている。だから尚更警戒心を強くしているのだろう。

「そうかい、そっちが来ないなら、俺から行かせて貰うぜ」

バジリスクは待つのが飽きてきたのか先の動き出した。両手から濃緑色の毒を分泌させ、まるで水が湧き出るように掌から毒が作り出された。そしてその毒は槍の形に変わり、バジリスクの両手には毒の槍が二本握られた。

「ヴェノムジャベリン!」

バジリスクは二本の毒の槍をユウタに目掛けて投げ付けた。ユウタが精神を集中させて自分に向かって来る毒の槍の向きや流れを分析し、体をゆっくりと動かした。すると、二本の毒の槍はユウタに掠る事も無く横を通り過ぎた。それを見たバジリスクは少しだけ驚きの表情を見せる。

「ホゥ、かわしたか」
「正面から仕掛けてくるとは、俺もナメられたもんだな」
「成る程、どうやらこの一ヶ月でお前もそれなりに成長したようだな」
「当然だ、俺達はお前達に勝つ為にエミリア様から修行を受けてきたんだ。お前達に勝たなきゃこの世界を救えない、なにより、俺は一ヶ月前の借りを返したかったからな!」
「フッ、そう言えばそんな事もあったなぁ」

バジリスクは腕を組み、デノンでユウタ達と戦った時の事を思い出してニヤリと笑った。バジリスクにとってあの戦いは愉快なものだが、ユウタにとっては非常に不愉快なものだ。敗北した上に解毒剤まで渡されて情けを受ける。もはやそれは屈辱に近かった。

「なぜあの時俺達に解毒剤を渡した?当然理由があるんだろう?」
「理由、か。強いて言うなら、お前達が死ぬと戦う事ができなくなり、つまらないから。と言うべきだな」
「・・・・・・戦うためだけに俺達を助けたと?」
「お前達が死ねば残るのは大した力の無いカスだけになっちまうからな」
「クッ!」

ユウタは胸の中で必死に怒りを抑えた。バジリスク達が楽しむ為だけに助けられた屈辱、ラビリアンの人々や傭兵の仲間達をカスと言われた怒り、ユウタはバジリクスを睨みながらチャクラムを取り出し指で回し始めた。

「お前だけは容赦しない!俺達を見逃した事を後悔させてやるぜ!」
「後悔するのは魔人である俺に一人で戦いを挑んだ、お前だ!」

二人は高くジャンプし、ユウタは両手のチャクラムを投げ、バジリスクは両手から作り出した毒球を投げ付けた。チャクラムと毒球がぶつかり、チャクラムは毒が触れた事で煙を上げて腐食し始めた。

「やっぱりアイツの毒の前じゃ普通のチャクラムは意味が無いか・・・・。それならっ!」

ユウタは両手をバジリスクに向けて小声で何かを言い始めた。そう、契約魔法の呪文演唱だ。

「唸れ、我が腕に宿りし真空波よ!ソニックブーム!!」

ユウタが演唱を終えて両手を外側へ向かって大きく横へ振ると、彼の腕から大きな真空波がバジリスクに向かって飛んで行き、その風圧でユウタは後ろへ押される様に飛んだ。このユウタの行動はバジリスクへの攻撃だけではなく、バジリスクから距離を取るための行動でもあったのだ。まさに一石二鳥だ。

「フン、またその魔法か、デノンで通用しなかったのをもう忘れたか」

バジリスクは右腕を毒で覆わせ、巨大な毒の腕を作り出した。一ヶ月前にデノンで戦った時にユウタが使ったソニックブームもこの腕で遮られたのだ。

「ヴェノムアーム!」

バジリスクの濃緑色の腕がユウタの真空波を鷲掴みにしようと巨大な掌を真空波に向けて伸ばした。そして真空波を掴もうとした、その時、真空波が巨大な毒の腕の一部を消し飛ばしてバジリスク本体に向かって飛んでいく。

「何っ!?俺のヴェノムアームを消し飛ばしただとぉ!」

予想外の出来事にバジリスクは思わず声を出す。バジリスクは咄嗟に体を反らして直撃だけは免れたが真空波に脇腹を切り裂かれた。バジリスクはゆっくりと渡り廊下に着地すると、離れた所で同じ様に着地するユウタを見て考えた。

(一ヶ月前と明らかに契約魔法の力が違う。デノンではヴェノムアームで簡単に防げて真空波を今回は防げなかった。この短期間でここまで力を上げるとは、フフフフ、これは楽しめそうだ)

強くなったユウタとより激しく戦う事ができる、その考えがバジリスクを興奮させ、更に戦いは激しさを増そうとしている。一方、離れた所でバジリスクを見ていたユウタも何かを考えていた。

(驚いた、一ヶ月前は止められなかったあの毒の腕をソニックブームが消し飛ばしただけじゃなくバジリスク自身にもダメージを与える事ができた。エミリア様のおかげで俺達は確実に強くなっている。これなら、今度は勝てる!)

自分が前より強くなった事を実感したユウタの士気は更に高く、そして強くなった。ユウタとバジリスクは遠くにいる相手を見ながら次にどんな攻撃をするか、相手がどう動いてくるかを考える。そして今度はユウタが先に動いた。ユウタはチャクラムを回しながら走り出し、バジリスク目掛けてチャクラムを投げた。

「ダブルロードリング!!」

ユウタの投げたチャクラムを水色の光のリングへと変わり、更に速さを増してバジリスクに向かって飛んでいく。だがバジリスクは慌てる事なく両手で毒を分泌させて槍を作り出した。

「何度やっても結果は同じだ、ヴェノムジャベリン!」

毒の槍を光のリングに投げ、ユウタのチャクラムに命中し腐食させた。かに見えたが、光のリングは毒を弾くように掻き消しバジリスクに向かっていく。

「何!?」

ユウタのチャクラムが自分の毒を掻き消した事に少しだけ驚くバジリスク。だがバジリスクはすぐに表情を戻して再び毒を分泌し始めた。その毒はバジリスクの両腕を被い巨大な毒の腕へと変わった。

「ヴェノムアーム!」

バジリスクは自分に向かって来る光のリングを掴もうと毒の右腕を伸ばした。毒の右腕がまるで飛んできた小石をキャッチする様に光のリングを包み込み、指の間から白い煙が上がるのが見えた。リングが腐食したのを確認したバジリスクは左腕で握り拳を作りユウタに向かってパンチを放つ。ユウタは迫ってくる毒のパンチをジャンプで簡単に回避し、そのまま契約魔法の演唱へ移った。

「雷雲よ、敵を貫く刃となれ!雷鳴の剣、サンダーソード!!」

跳んだまま両手をバジリスクに向けるユウタ。すると彼の手の前に紫色の電気が集まりだし剣の形へと変わった。そして電気の剣は真っ直ぐバジリスクに向かって飛んで行った。それを見たバジリスクは毒の左腕で電気の剣を防いだ。電気の剣が毒の腕に当たった事で爆発し、周囲に毒が飛び散った。毒は渡り廊下の床や手摺り部分に付着し煙を上げている。ユウタが渡り廊下に着地した時、辺りは毒による渡り廊下の腐食で上がっている煙に包まれていた。

「クッ!酷い臭いだ、鼻がもげそうだぜ・・・・」

辺りは煙によって包まれており視界は悪くなっている。そのせいでユウタはバジリスクの姿を確認できなかった。だが同時にバジリスクもユウタの居場所を知る事ができないという事だ。しかしバジリスクは慌てることも無く余裕の表情でジッと前を見ていた。

「少しやりすぎたな、腐食の煙のせいで俺まで何も見えなくなったしまった。まぁ、俺には関係ないな、『これ』を使ってしまえば」

バジリスクは笑いながら大きな口を開けて息を吐いた。すると、バジリスクの口から紫色の煙の様な物が出て周りの煙に混じるように溶け込んでいく。

「この感覚浸食の霧を使えば例え俺の視界が悪くなったとしても奴に勝ち目は無い」

そう、彼が口から吐き出したのは煙はデノンの町でユウタ達を苦しめた感覚浸食の霧だったのだ。この霧を吸うと吸った者の五感が低下しまともに戦えなくなってしまう恐ろしい技だ。

「奴がこの腐食の煙を吸い続ければ直ぐにいずれ全ての感覚が鈍り、また俺の毒の餌食になる。フフフフ、残念だが金山、今回もお前の負けだ」
「随分と言いたい放題だな?」
「!」

煙の奥から聞こえてくるユウタの声にバジリスクの表情から笑みが消える。そして煙に中からユウタがゆっくりと歩いて出てきた。よく見ると彼は口に茶色いマスクの様な物を着けていた。そのマスクの両端にはプラスチック製の円盤状の物が二つ取り付けれらている。

「まさかそれは・・・・」
「ああ、酸素マスクだ。お前がこの煙にまぎれて毒霧を撒き散らすと察しが付いていた、だからこの煙でお前の視界から逃れた直後に持って来たこの酸素マスクを付けさせてもらったと言うわけだ」
「チッ!用意のいい奴だ」
「因みに神竜隊全員がこのマスクと同じ物を持っている、お前と会っても霧を吸う事無く戦えるようにな」

ユウタは酸素マスクを指差しながらバジリスクに全員が酸素マスクを持っているという事を話し、ゆっくりと新しいチャクラムを取り出して指で回し始める。だがユウタには一つ心配な事があった。

(しかしあまり長く戦うことはできない。このマスクに付いている酸素ボンベは二つ、二つ合わせても三十分しか酸素は持たない。つまり三十分以内にバジリスクを倒さないと俺が不利になるという事だ・・・・)

そう、ユウタのマスクの両端に付いているプラスチックでできた円盤状の物は酸素ボンベだったのだ。しかもそのボンベに入っている酸素の量は少なく、三十分しか呼吸ができない。それまでバジリスクを倒さないと感覚浸食の霧を吸い自分が危険な状態になってしまうのだ。それが今のユウタの一番心配している事だったのだ。

「さっさとお前を倒してマサシ達と合流させてもらうぞ!」

ユウタはチャクラムを回しながらバジリスクを見て構える。バジリスクはユウタを見ながら毒を分泌しその毒でまた毒の槍を一つ作り出した。

「そんな簡単に行くと思うなよ、俺達魔人の力はこんな物じゃねぇぞ!」

バジリスクは慌てる様子も見せずに槍の先をユウタに突きつける。実はこの時バジリスクはある事に気付いたいたのだ。それは自分が有利になる事、そしてユウタが不利になる事だ。

(例え酸素バスクを着けて俺の毒霧から逃れたとしても、それは酸素が持つまでの間だけだ。いずれボンベの酸素を無くなり俺の毒霧の餌食になる。つまりあのマスクは只のその場しのぎという事だ)

バジリスクはユウタが心配していた事に既に気付いていたのだ。ボンベの酸素が無くなればまた毒霧を使える、それがバジリスクの余裕を崩さない訳だったのだ。だがユウタもバジリスクが気付く事は想定済みのはずだ。

(多分奴は俺の酸素マスクの酸素が無くなるまではまともな攻撃はしてこないはずだ。何らかの方法でボンベが空になるまでの時間稼ぎをするはず、だったら・・・・)

ユウタは何か思いついたのか目を鋭くしてチャクラムをバジリスクに向かって投げた。バジリスクは向かって来るチャクラムを毒の槍で弾き落とした。チャクラムは床に落ちて煙を上げながら腐食した。

「なんだ、さっきみたいに光のリングにして攻撃してこないのか?普通のチャクラムじゃ俺には勝てないぞ」

バジリスクはユウタはあざ笑うかのような顔で言い、毒の槍をユウタに向かって投げ付けた。

「ヴェノムジャベリン!」

ユウタは体を反らして毒の槍を回避し、その直後にバジリスクに向かって走り出した。

「フフフフ、血迷ったか?俺と近距離で戦おうと言うのか。俺に近づいた戦う事がどれ程無謀かもう忘れたか!」

デノンの戦いで敗北した事をユウタに告げながら彼の行動を笑うバジリスク。だがユウタがそんなミスをするはずない、策があるのだ。だがバジリスクはそんな事考えもしていなかった。ユウタは走りながらバックパックに手を入れて何かを取り出した、それは青い英文字で何かが書いてある手榴弾の様な物だ。ユウタは安全ピンを抜きソレをバジリスクに向かって投げつけた。

「ハハハハッ、馬鹿め!俺の手榴弾なんかが通用すると思っているのか。手榴弾の爆発など毒で防いでやるわ!」

バジリスクは笑いながら左手で毒を分泌し、巨大な毒の腕を作り出して盾にする様に自分の前に持っていく。そしてソレが爆発し、周りに白い煙の様な物が飛び散った。すると、どうだろうか、バジリスクの毒の腕は見る見る凍り始めたのだ。これにはバジリスクも驚きを隠せないでいた。

「な、何だと!?」

実はユウタが投げたのは手榴弾とは全く別の物だったのだ。彼が投げたのは「フリーズグレネード」、言わば冷凍弾だ。中に入っているのは火薬ではなく液体窒素、爆発と同時に周囲に液体窒素をばら撒き凍らせる兵器だ。毒の腕が凍った事を確認したユウタは右手で拳を作り、腕に風を纏わせ始めた。

「くらいなっ!ウインドグレネード!!」

ユウタは風を纏った腕でバジリスクを凍った腕にパンチを放った。すると毒の腕は簡単に砕けてしまい、ユウタのパンチは奥にあるバジリスクの腹部にメリ込む様に当たった。

「グオアァァ!!」

腹部に伝わる痛みに思わず声を出すバジリスク。そしてバジリスクはそのまま渡り廊下を引きずる様に後ろへ飛ばされて行った。

「お前の唯一の弱点を毒を分泌していない所を攻撃すれば普通にダメージを与える事ができるという事だ。それはデノンでの戦いで既に手に入れていた情報だ。だからお前の毒を液体窒素で凍らせてしまえば普通に触れても俺は毒に侵されることも無いし、無防備なお前の本体を攻撃できる。毒の腕を作った時に自分の体にも毒を纏っておくべきだったな?」

奥で倒れているバジリスクを見てユウタは哀れむ様に言った。するとバジリスクはゆっくりと起き上がり殴られた腹部を押さえながらユウタに向かって歩き出した。彼の口や額からは緑色の血が垂れてる、どうやらかなりのダメージを受けたようだ。

「やってくれやがったな、人間如きが俺にここまでの傷を負わせるとは・・・・!」

大ダメージを受けた事が相当屈辱だったのか、バジリスクはユウタを睨みながら開いている方の腕で握り拳を作っている。だがユウタは動じる事無く再びバックパックからフリーズグレネードを取り出し新しいチャクラムを取り出して右手の指で回し、左手でフリーズグレネードのピンに指を掛けた。その姿を見てバジリスクは両腕を横へ伸ばして叫ぶ。

「同じ手が俺に通じると思ったかぁ!!」

バジリスクは両手で毒を分泌しその毒の腕を作り出し床を蹴りユウタに向かって大きく跳んだ。跳び上がったバジリスクを見上げながらユウタは後ろに跳び安全ピンを抜いて投げ付けた。バジリスクは左の毒の腕でフリーズグレネードを掴もうとした瞬間爆発し、毒の腕は凍りついた。だが残った右の腕でユウタを鷲掴みにしようとする。だがユウタは床に足をつけて直ぐに高くジャンプして毒の腕から逃れる。そしてチャクラムをバジリスクに向かって投げた。

「なめるな!」

バジリスクは口から毒の球を飛んでくるチャクラムに向かって吐き出した。毒球はチャクラムに命中し腐食させた。その直ぐ後にバジリスクは再び左腕を毒の腕に変えてユウタを攻撃しようとした。だがユウタはバジリスクよりも早く行動していた。彼の体に緑色の光のラインが浮かび上がり、両腕が竜翼に変わっていたのだ。レベル・2とレベル・3を同時に発動していたのだ。ユウタは竜翼を広げ、空中からバジリスクの背後へ回り込んだ。

「なめてるのは、お前だったなっ!」

ユウタはバジリスクの後頭部に蹴りを入れ、そのまま渡り廊下へ叩き付けた。

「ガアァッ!!」

叩きつけられて声を上げるバジリスク。そしてゆっくりと起き上がり、飛んでいるユウタを見上げる。後頭部を蹴られた事で更なる怒りを覚えるバジリスクは再び毒の右腕を作り飛んでいるユウタへパンチを放った。ユウタは迫って来る巨大な毒の腕をサラッと回避し、そのままバジリスクへ向かって急降下した。

「正面?何処まで俺を侮辱する気だぁ!!」

バジリスクは真正面から向かって来るユウタに向かって毒球を連続で吐き出す。竜翼を動かし空中で毒球を回避していくユウタ。だが、その内の一つが彼の足に命中した。

「グウッ!」

バジリスクから少し離れた渡り廊下へ着地したユウタは毒の付着した足を痛みに耐えながら見る。その姿をバジリスクはあざ笑いながら見ていた。

「フハハハハッ!良い様だな、また俺の毒の痛みに苦しむがいい!」
「・・・・生憎だが、それは無いぜ」
「何?」

ユウタの言っていることの意味が分からず、ジッと彼を見るバジリスク。するとユウタは竜翼を腕に戻して足に付いている毒を取り、バックパックから何かを取り出した。またフリーズグレネードかと思われたが、取り出したのは細長い筒状の注射器だった。そしてユウタはその注射器を自分の左腕に刺した。

「その注射器、もしや・・・・」
「ああ、そうだ。お前がくれた解毒剤を複製し、更に手を加えた物だ。手を加えたことで効き目が早くなり直ぐに毒を消してくれる物だ。これでお前の毒をくらってもしばらくは安全って訳さ」
「クゥゥッ!」

自分の毒を無力化する解毒剤をユウタが所持していたことを知ったバジリスクの表情はまた怒りの表情へ戻った。バジリスクの怒りも爆発寸前まで来ていた。

「・・・・どうやらお前は、俺を本気にさせたみたいだな」
「負け惜しみか?らしくないぞ」

挑発する様に言い放つユウタ。そしてバジリスクは歯を食い縛りながらユウタを睨んで言った。

「・・・・いいだろう、そんなに俺の真の力を見たいなら、見せてやろう!そして後悔するがいい、ディアボロス様とルシフェル様の申し出を断ったことを!!」

真の力を見せると言ったバジリスクは右手を天に掲げた。すると、彼の右手から毒が湧き出てきた。だがその毒は今までの濃緑色の毒とは違い色は紺色だった。その毒はバジリスクの周りへ噴水の様に吹き出て彼の足元へ広がって行く。そしてその広がった毒は徐々に形を変わっていった。

「八岐毒蛇(やまたのおろち)!!」

紺色の毒はどんどん大きくなっていき、その毒は八つの蛇の頭へと変わった。そしてバジリスクの背後には紺色の毒でできた八つの毒蛇が現れた。

「な、何だと・・・・」

現れた毒の大蛇を目にして驚きを隠せないでいるユウタ。そしてユウタがバジリスクへ視線を移すとバジリスクが上げていた右腕を下ろしてゆっくりと後ろへ下げる。それと同時に右側の二つの蛇の頭がバジリスクの腕と同じ様に後ろへ下がった。そしてバジリスクが右腕を突き出すと、二つの蛇の頭がユウタに迫るように伸びた。

「ヤバイ!」

ユウタは咄嗟に渡り廊下からジャンプして下の中庭へ逃げ込んだ。そしてユウタが立っていた場所に二匹の蛇がぶつかる。その瞬間、まるで水が蒸発するようにとんでもない早さで溶けていった。ユウタは中庭からさっきまで自分が立っていた場所を見上げて確認する。

「な、なにっ!?渡り廊下の一部が一瞬で・・・・!」

驚いていると、渡り廊下からバジリスクも中庭へと下りて来た。バジリスクが着地すると足元に再び紺色の毒が広がりそこから八つの蛇の頭が現れた。

「驚いたか?この八岐毒蛇の毒はヴェノムアームやヴェノムジャベリンの毒とは殺傷力も侵食力も違う。一滴も触れればそこから僅か数秒で全身に拡がり命を奪う。全身に浴びればその瞬間くたばるぜ」

バジリスクは再び右腕を後ろに下げ、右の蛇二つも再び後ろに下がる。そしてバジリスクが腕を突き出し、二つの蛇が再びユウタ目掛けて伸びた。ユウタは大きく横へ跳んで蛇を回避する。だがユウタが蛇を回避した直後にバジリスクがユウタの目の前まで跳んできた。

「ッ!!」
「蛇だけじゃなく、俺にも注意しろよっ!」

バジリスクは驚くユウタに毒の左腕でパンチを放った。

「グワァーッ!!」

殴られた痛みと毒による痛みがユウタの体を襲い、ユウタはそのまま飛ばされて城壁に叩きつけられ。幸い解毒剤を注射していた為、毒で死ぬ事は無いが痛みは消す事はできない。ユウタは痛みに耐えながらゆっくりと体勢を立て直した。

「フフフ、無様だな。さっきまでのお前とはえらい違いだ」

痛みに表情を歪めるユウタを見てバジリスクはあざ笑いながら言い放つ。だがユウタの目から光は消えてはいなかった。彼は新しいチャクラムを取り出し、両手の指で回し始める。

「お前も切り札を出した瞬間さっきまでと全然違うな、一撃くらわせた位でそんなに嬉しそうな顔をするとは」
「ホ〜、この状況で挑発か、随分余裕だな。なら何時まで俺の毒から逃げられるか試してやろう」

そう言ってバジリスクは毒の左腕を上げて勢い良く振り下ろした。すると左の三つの蛇の頭が上がり勢い良くユウタの頭上から落ちるように向かっていく。ユウタは前へ全力で走り頭上からの蛇の攻撃から逃れ、回していたチャクラムをバジリスクに向かって投げた。

「ダブルロードリング!!」

チャクラムは光のリングへと変わりバジリスクに向かって飛んで行く。だはバジリスクの頭上から一つの蛇がバジリスクと光のリングの間に割り込み光のリングを大きな口で飲み込んだ。

「無駄だ、八岐毒蛇を発動した今、その光のリングなど何の役にも立たない!」

光のリングを止めた蛇がそのまま走ってくるユウタへ迫って行く。ユウタは左斜め前に飛んでその蛇を回避。バジリスクの側面に回りこみ新しいチャクラムを左手で回し右手をバックパックへ伸ばす。すると二つの蛇が正面と上からユウタに向かってきた。ユウタは素早く後ろへ跳び二つの蛇を回避し、バックパックからフリーズグレネードを取り、今度はバジリスクの背後に回りこんだ。フリーズグレネードの安全ピンを抜いてそれをバジリスクに投げつける。ところがまたバジリスクの頭上から蛇が割り込んでフリーズグレネードの爆発からバジリスクを守った。爆発によって周囲に液体窒素が散布されたが凍ったのは毒の蛇だけ。バジリスクは凍っていなかった。

「クソッ!」
「無駄だと言うのが、分からねぇのか!!」

凍った蛇の横から別の蛇が現れてユウタに襲い掛かる。ユウタは咄嗟に横へ跳んで蛇を回避、ギリギリで間に合った。だが回避した直後、前から毒の槍が飛んで来た。ユウタは回避することができず、その槍は脇腹に刺さってしまった。

「うわぁっ!!」

脇腹に走る痛みにユウタは膝を付いてしまった。そしてバジリスクは新しく八つの蛇を毒で作り直し、膝を付くユウタを見て笑った。

「ハッハハハハ!どんなに攻撃してもこの八岐毒蛇は何度でも元通りになる。この俺が生きてる限りな!お前達ではディアボロス様の計画を止める事はできない、諦めろ!」
「黙れっ!!」

笑いながら諦めるよう言って来るバジリスクにユウタは膝を付いたまま顔を上げる。その表情は痛みに耐える表情ではなく、敵を威嚇する様な睨んだ表情に近かった。

「ディアボロスが人間なら諦めてやってもいい、だが奴は魔物だ。そして世界その物を消そうとしている!そんな事をする奴をこのまま野放しにする訳にはいかない!!」
「フン、物分りの悪さもここまでくれば大した物だ。お前と話すものいい加減に飽きてきたぜ、そろそろくたばれっ!!」

バジリスクの背後の八つの蛇がユウタに襲い掛かる態勢に入った。ユウタは痛みに耐えながら立ち上がり右手をバックパックに入れる、そして手探りで何かを探し始めた。

(・・・・・・フリーズグレネードはあと一つ、解毒剤も少ない。これ以上戦いを続けると俺に勝ち目は無い。つまり次の一撃で決着をつけないとヤバイって事か)

次にどのようにして戦うか、そしてどうすればバジリスクを倒せるのか、ユウタはバックパックの中を探りながら必死で考えた。すると、もう一つ何か別の物の感触がし、ユウタはゆっくりとバックパックから取り出した。

「これは、手榴弾・・・・・・ッ!もしかして、コレなら」
「今更そんな手榴弾一つで何ができる!悪あがきはみっともないぞ!」

バジリスクはそう言い放ち八つの蛇をユウタに向けて伸ばした。ユウタは手榴弾を向かって来る蛇達に向けて投げた。だがユウタは手榴弾の安全ピンを抜いていない、つまり爆発しないという事だ。にもかかわらずユウタの表情には焦りの様子は見られない。そして手榴弾が八つの蛇にギリギリまで近づいた瞬間、ユウタは腰に収めたあったシグザウアーを抜いて手榴弾を狙い引き金を引いた。銃口から吐き出された弾丸は手榴弾に命中、手榴弾は爆発して八つの蛇の頭を吹き飛ばした。

「何っ!爆発で八つの蛇を全て吹き飛ばしただと!」

実はさっきユウタが安全ピンを抜かずに手榴弾を投げたのは爆発を自分自身で行うためだったのだ。安全ピンを抜いてしまえば時間が経過した直後に爆発し、全ての蛇の頭を吹き飛ばす事ができなかっただろう。だから彼は安全ピンを抜かずに銃で爆発す事にしたのだ。

「フン、馬鹿め!八岐毒蛇を今更吹き飛ばしても意味無いわ、時間が立てば自然に元の戻る、その時こそお前の最後・・・・」

「最後だ!」と言い放とうとした瞬間、バジリスクの目の前に何かが飛んできた。そしてその物体は突然爆発しバジリスクの体を凍らせたのだ。

「こ、これは、さっきの冷凍爆弾か!?だがこんな物で俺の動きを封じたつもりか?これで俺を倒せると・・・・」
「思ってるぜ!」
「!?」

バジリスクが声のする方を見ると、エアーシールドで真上から降ってくる紺色の毒を防ぎながら自分の目の前まで走ってきたユウタがいた。そして凍りついたバジリスクの体に向けてパンチを放った。

「ウインドグレネード!!」

風を纏う拳がバジリスクの凍った部分に命中。その瞬間バジリスクの凍りついた体は粉々に砕け散りバシリスクの上半身と下半身が二つに分かれた。

「グワアァーーーーッ!!」

渾身の一撃を受けて断末魔を上げるバジリスク。彼の上半身は離れた所へ飛ばされ、下半身はその場にゆっくりと倒れた。そしてそれと同時に紺色の毒の蛇も消滅した。それを確認したユウタはエアーシールドを解いて上半身だけとなったバジリスクの下へ歩いていく。

「グ、グウッ!ば、馬鹿な、俺がこんな簡単に一撃を貰うとは・・・・」
「さっきの手榴弾はあの蛇を吹き飛ばすだけが目的じゃない、爆発で蛇を吹き飛ばすのと同時にお前の注意を一瞬でも俺から外すためだったんだ」
「な、何・・・・?」
「お前の意識が俺から外れた直後に俺は残ったフリーズグレネードをお前に向かって投げたんだ。そしてお前自身を凍らせてそこに一撃をくらわせるという単純な作戦さ」
「クッ!俺がヴェノムアームやジャベリンで応戦していたらどうするつもりだったんだ?」
「応戦しないと踏んでいた。凍り付いて下手に動けばお前の体は粉々になっちまうからな。応戦するとすれば、体を動かさなくても操れるあの毒蛇を使うしかない。だが蛇は吹き飛んでて使えなかった・・・・」

ユウタはバジリスクが応戦する事を考えて先に八岐毒蛇を吹き飛ばしていたのだ。そして応戦する事ができなかったバジリスクはユウタのパンチを食らってしまったその結果がこれだ。

「お前の最大のミスは切り札であるあの毒蛇を出した瞬間、俺が接近戦に持ち込んでこないと思い込んだ事、そしてフリーズグレネードを毒を凍らせる為だけ使うと思った事だ」
「クウウッ!・・・・人、間・・・・如きが・・・・!」

ユウタを憎しみの篭った目で睨みながらバジリスクの体は黒い霧となり消滅した。レベル・3を解除したユウタはその場に座り込んだ。

「フ〜、なんとか勝てたぜ。だが予想以上にやられたな。しばらく体を休めよう。・・・・念の為にもう一本解毒剤を打っておくか」

ユウタは解毒剤を打った後に目を閉じて横になった。ユウタとバジリスクの戦いはユウタが勝利した。これで五人の魔人全てを倒した。だが神竜隊の受けた傷も決して浅くは無い。残ったマサシとジゼルはどうなるのだろうか、そして城の中では何が待ち構えているのだろうか!?


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