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作品名:ラビリアンファンタジー 作者:ディオス

第157回   第百五十六話 妖狐と鬼の死闘 シオンVSタツノスケ!

南の城と高台を繋ぐ渡り廊下ではシオンとタツノスケが剣を混じらせていた。タツノスケの刀をシオンはライトダガーで必死で止めている。明らかにシオンが押されていた。

「クッ!コイツ、強い!」
「フン、まだこんなものではないぞ?」

タツノスケは攻撃を止めて大きく後ろに跳び、シオンから距離を取った。シオンはそれがチャンスと思ったのか、直ぐに左手を腰に回してバックパックから妖狐符術の呪符を二枚取り出しタツノスケに向かって投げた。

「風・刃・斬・音・零!戦塵斬刀符(せんじんざんとうふ)!!」

呪文を唱え終わるとシオンの投げた呪符は短刀へと変わりタツノスケに向かって飛んでいく。だがタツノスケは慌てる事無く二本の短刀を全て刀で弾き落とした。

「そんな単純な攻撃が拙者に通じると思っていたのか?愚か者め」
「・・・・・・っ!」

鬼の仮面の下からタツノスケの低い声が聞こえてシオンは一歩下がった。どうやらタツノスケはシオンが全力で向かってこない事に少々腹を立てているようだ。

「あの秋円とアルフォントの仲間であるのだからこの程度の力とは思ってはいない。拙者を失望させるな、お前の全ての力をぶつけて来い!」
「言われなくても、そのつもりよ!」

シオンは新しい呪符を取り出すため再びバックパックに手を伸ばそうとした。次の瞬間、さっきまで数m離れていたはずのタツノスケが自分の目の前まで来ていたのだ。

「なっ!?」
「遅い・・・・」

タツノスケはそう言うといつの間にか鞘に収めてある刀に手を掛け、少しだけ鞘から抜き、そして戻した。その直後にタツノスケはシオンの背後に回りこみ何事も無かったかのように立ち止まった。シオンはフッとタツノスケの方を向き、彼の背中に目をやった。

(アイツ、何をしたの?さっきは刀を鞘から少し抜いただけで直ぐに収めた。一体あの行動に何の意味があるの・・・・?)

シオンがタツノスケの行動の意味を必死で考えていた、その時、突然シオンの胸から腰まで右下に向かって大きな切傷が生まれたのだ。

「え・・・・?」

自分の体に生まれた切傷、その傷口から吹き出る鮮血。シオンはあまりにも突然の出来事に自分が斬れらた事を直ぐに理解することができなかった。シオンが斬られた事に気付いた時、彼女は膝を床に付けて必死で痛みに耐えていた。そしてタツノスケはゆっくりと振り返り、膝をつくシオンを見下ろした。

「真の剣士に斬られた者はしばらくして自分が斬られた事に気付くものだ」
「うう・・・・そんな、斬られた感触や刀を振る音すら無かったのに・・・・」
「我が剣技の一つ『音無しの刃』その斬撃は音すら生み出さない速さ、目で追うのは不可能。ちなみに今のはあえて傷が浅くなるように手を抜いた」

斬られた場所から手を離したシオンはゆっくりと立ち上がって再びライトダガーを構えた。

「ほぅ、もう止血したか。流石は契約者。傷の塞がりが早いな」
「傷の治りが早いのも契約者の強さの一つよ」
「だが、連続攻撃の前ではいくら高速の治癒力も意味は無い」

タツノスケは鞘に収めてある刀を再び抜いて両手で構える。シオンは新しい呪符を取り出してタツノスケの出方を待っていた。すると、タツノスケは床を蹴りシオンヘ一気に近づいた。そしてシオンに右からの斜め切りを放つ。シオンはライトダガーでその斬撃を止めるが、タツノスケは直ぐに次の攻撃へ移った。今度は左からシオンの脇腹を狙って横切りを放つ。シオンは左手に持っていた呪符をタツノスケの刀の方へ軽く投げた。

「剛・連・印・立・対!霊滅結界符(れいめつけっかいふ)!!」

呪符はシオンの脇腹の前で六角形の光の盾となり斬撃を防いだ。それでもタツノスケは攻撃を止めることはなかった。今度はシオンの左足を狙って攻撃をする。気付いたシオンは大きく後ろへ跳んでタツノスケの攻撃を回避した。

「かわしきったか。やはりさっきまでお前は本気を出していなかったか」
「当然よ、あんまり私を馬鹿にしないでよね」
「お前もだ。私をガッカリさせるなよ?」

タツノスケは仮面をつけている為表情は分からないが、笑っているのか随分と気分の良さそうな声だ。だがシオンは笑ってはいるが微量の汗を垂らしている。どうやら先ほどの一撃の痛みがまだ引いていないようだ。いくら契約者と言えど、彼等は超人ではない。契約を交わしたことで少しだけ身体能力や治癒力が高まっただけに過ぎないのだ。無理をすれば直ぐに傷口が開いてしまう。

(あんまり無茶はできないわね、なんとか痛みが引くまでは距離を取って持ち堪えないと・・・・)

シオンは体力を回復するため大きく後ろへ跳んでタツノスケから離れた。すると、タツノスケは構えを解き刀をゆっくりと下ろした。よく見るとタツノスケの刀の切っ先は彼の影の中にあった。そして次の瞬間驚くべき事が起きたのだ。タツノスケの刀の切っ先がまるで泥の中に入っていくように影の中へ沈んでいき、その光景を見たシオンは表情を固めて驚いている。そして彼女が頭で考える前にそれを起きた、なんとシオンの右肩に鋭く尖った黒い物体が突き刺さったのだ。

「なっ!?」

突然に痛みにシオンは驚き咄嗟に振り向く。彼女の肩に刺さっている尖った黒い物体はシオンの直ぐ後ろにあった高台の影から飛び出ていたのだ。黒い物体はシオンの肩から引き抜かれ高台の影の中へ消えていった。

「うう・・・・」

黒い物体を引き抜かれて右肩に再び痛みが走る。シオンは左手で右肩の傷口を押さえた。その姿を見たタツノスケは自分の影から刀を引き抜き、構えない状態のままゆっくりとシオンに向かって歩き出した。

「滑稽だな、拙者が離れた敵に攻撃する手段を持ち合わせていないと思ったか?」
「・・・・っ、やっぱり、今のはアンタの仕業だったので?」
「今のは『闇夜の刃』。影や闇などの光の届いていない所から敵に攻撃することができる。お前は近づいていようと離れていようと拙者の攻撃から逃れる事はできんのだ」
「そ、なら攻撃の隙を与えないようにするだけよ!」

シオンは右肩を押さえていた左手を下ろしてバックパックに手を伸ばした。そして中から何かを取り出した。取り出したのは呪符ではなく手榴弾、彼女は手榴弾を左手で握り、親指を安全ピンに通して何時でもピンが突けるようにし、右手でライトダガーを構えた。それを見たタツノスケは足を止めて刀を構える。

「今度はどんな手品を見せてくれるのだ?」
「手品かどうか、アンタ自身の体で確かめなさい!」

シオンはタツノスケに向かって走り出した。タツノスケはゆっくりと刀を鞘に収めた。どうやらまた音無しの刃を使うようだ。

(やっぱり、アイツが音無しの刃って言う技を使う時は必ず刀を鞘に収めてる、つまりあの技の型は居合い。居合いは間合いが全く読めないと言われている無敵の構え、でも、そんな無敵の構えにも弱点はある!)

シオンは走りながらタツノスケの音無しの刃の攻略法を考え、そしてタツノスケとの距離が6m程まで縮むと、手榴弾の安全ピンを抜き、タツノスケに向かって手榴弾を投げ付けた。すると手榴弾はタツノスケの目の前で爆発。黒い爆煙がタツノスケの視界を包み込んだ。

「何っ?」

爆煙で視界を奪われたタツノスケは刀を鞘から抜き、構えてシオンの気配を探りながら警戒する。すると、自分の背後、城の方から何かが渡り廊下に降り立った様な音が聞こえ振り返る。そこにはライトダダガーを握り、自分に向かって走ってくるシオンの姿があった。タツノスケは咄嗟に振り返り迎撃しようとするが、シオンは一手先を読んでいたようだ。彼女は小声で契約魔法の演唱をしていたのだ。そして、すでに演唱を終えていた。

「仇名す敵を焼き尽くせ!フレイムショット!!」

シオンの左手から火球が放たれタツノスケに向かっていく。タツノスケは刀で火球をなんとか止めるが、細い刀で人間の頭位の大きさの火球を長く持ち堪えるなんて不可能だ。しばらく止めていたタツノスケは限界と判断したのか、大きく斜め後ろに跳んで火球をギリギリで回避し、渡り廊下の手摺りの部分に着地する。そしてその直後にシオンがライトダガーで斬りかかった。シオンのライトダガーがタツノスケの右腕に切傷を作り出した。

「ほぅ、拙者に傷を負わすとは、流石は神竜隊の一人だな」
「言った筈よ、私達は負けるわけにはいかないって。だからここで死ぬ訳にはいかないのよ!」
「そうか、なら拙者がお前のその小さな希望と一緒にお前自身の体も切り刻んでくれよう」

タツノスケは手摺り部分から渡り廊下に降り立ちシオンの方を向いて刀を構える。シオンもライトダガーを構えて再び呪符を取り出した。二人の立ち居地はさっきと同じ、シオンが高台側、タツノスケが城側だった。

「さっきは不意を突かれた今度はそうは行かんぞ。受けてみよ、斬岩の刃!」

タツノスケは床を蹴りシオンに一気に近づいた。そして大きな横切りを放った。シオンは大きくジャンプしてその斬撃を回避した。だが、その直後にシオンの背後にあった高台が横に真っ二つに斬れた。

「ウソッ!高台が真っ二つに・・・・」

ジャンプしながら高台の成れの果てを見ていたシオン。そしてタツノスケは宙を飛んでいるシオンを見上げて左手を彼女に向けた。するとタツノスケの左手に水色の光の波動が放たれた。

「波動撃!」

その光の波動はシオンに直撃した。宙を飛んでいたシオンにはその攻撃を回避することは不可能だったのだ。

「うわあーーーっ!!」

攻撃を受けたシオンはそのままバランスを崩し、渡り廊下の城側に叩きつけられて倒れた。

「拙者が刀による攻撃しかできないと思っていたか?甘いな、刀以外の攻撃方法も得ているわ」
「う、ああ・・・・」

全身に伝わる痛みに声を漏らすシオン。両手を使い必死で体を起こし、立ち上がろうとするも最初の斬撃で受けたダメージとさっきの波動で受けたダメージが体を襲い思うように体に力が入らないでいた。

「どうした、もう立ち上がれなくなったか?」
「クッ・・・・ま、まだよ・・・・。解放、レベル・3!」

シオンはレベル・3を発動させて身体能力を高めてた。彼女の体に赤い光のラインが浮き上がり、シオンの体力を微量ではあるが回復させた。

「それがレベル・3と言うやつか、まだまだ楽しめそうだ」
「こっちは楽しむ余裕なんて無いんだけどね・・・・」

シオンは立ち上がり、呪符は取らず、落ちているライトダガーだけを取ってタツノスケの方を向き再び構えた。

「情報ではお前達の体に光のラインが浮かび上がっている間は身体能力が高まると聞いているが」
「そのとおりよ」
「なら、より戦いを楽しめと言うわけか」
「戦いを楽しむ、悪党はどいつもこいつも同じね!」

シオンはタツノスケを睨みバックパックから手榴弾を取り出して投げ付けた。すでに安全ピンは抜かれていた為、手榴弾は再びタツノスケの前で爆発し、また爆煙で彼の視界を奪った。だがタツノスケは構えを変えたり周りを見回すといった行動はしなかった。

「フン、拙者に同じ手は通用せんぞ」

タツノスケはまたシオンが背後から契約魔法で攻撃してくるの悟ったのか、左手を背後に向けて再び光の波動を放った。だが背後からは何の手応えも感じられない。

「・・・・背後には居ない?」

タツノスケは前に意識を向けてシオンの気配を探る。すると、前から生き物の気配を感じたタツノスケは刀を振り爆煙を掻き消した。すると、彼の視界には左手を天に掲げ、巨大な白い火球を作り出していたシオンが入ってきた。

「残念だったわね、私はここから一歩も動いていないわよ」
「それは・・・・」
「私の最強の契約魔法、エクスプロージョンよ」
「さっきの爆煙は拙者の視界から自分の姿を消し、あたかも拙者の背後に回りこんだと思い込ませて演唱する時間を稼ぐためか」
「アンタに同じ手が通用しない事は百も承知よ。だからアンタが背後に意識を向ける事に賭けて危険度の高いこの作戦を選んだのよ」

契約魔法を使い間、最も危険なのは演唱中の時だ。演唱中は契約者は攻撃も防御もできない、上級の魔法を使うのならより長い間演唱する必要がある。しかも今シオンが居るのは逃げ道の無い渡り廊下、そして相手は今までの敵とは比べ物にならない程の強者である魔人。長い演唱は危険すぎるのだ、もしタツノスケが爆煙無視して突っ込んできたらシオンは危なかっただろう。だがシオンは賭けに勝ちエクスプロージョンの発動に成功したのだ。

「コレを避けてみなさい!!」

シオンは白い火球をタツノスケに向かって投げ付けた。だがタツノスケは向かって来る火球を見て動揺する様子も見せず、刀を構え始めた。

「さっきの火球は突然の事で対処できなかったが、今度はそうは行かんぞ?」

タツノスケは刀をゆっくりと上げて火球に意識を集中させる。するとその瞬間タツノスケの刀の刀身に青白い炎の様な物が纏い始めた。

「我が闇の剣技を受けよ、霊魂の刃!」

タツノスケが刀を振り下ろした瞬間、刀身から斬撃と三つの人魂の様な物が放たれ白い火球にぶつかる、一見シオンの火球が押しているように見える、だが押しているのはタツノスケの斬撃と人魂だった。そして遂に斬撃は火球を掻き消しシオンに向かっていく。

「ウソッ!エクスプロージョンが掻き消された!?」

自分の契約魔法の中で一番強い契約魔法がアッサリと掻き消された事の驚くシオン。そのせいか残った人魂に直ぐに対応できずに三つの人魂のうち二つの右腕と左の脇腹に受けてしまった。

「な、何コレは・・・・」

自分の体に触れていった人魂に驚きながら、通り過ぎて行った人魂を追う様に目で追うシオン。その時、シオンの体に異変が起きた。

「ぐっ!?ううっ!な、何・・・・・・?」

人魂が触れた右の腕と左の腰から激痛が走り始めた。しかもその痛みは少しずつ広がっていったのだ。

「痛みが、拡がっていく?」
「そのとおりだ」

痛みに耐えているシオンに離れているタツノスケが語りかけてきた。

「拙者の闇の秘剣、霊魂の刃から放たれる人魂に触れるとその触れた箇所から痛みが全身を襲うのだ」
「何ですって・・・・!」
「バジリスクの毒と違って全身に拡がる時間は遅く、拡がりきっても死ぬことは無い。だが痛みが消えることは無く、解毒剤なども無い」
「なら、どうやってこの痛みを消せばいいのよ!?」
「その痛みを消したいのならば、死ぬか拙者を倒すしか道は無いぞ」

タツノスケの話を聞き終えたシオンは痛みに耐えながらライトダガーを構え、バックパックから呪符を取り出した。

「二つしか道が無いなら、アンタを倒して痛みを消してやるわ」
「できるならな」

シオンは三枚の呪符をタツノスケに投げつけて呪文を唱え始めた。

「風・刃・斬・音・零!戦塵斬刀符!!」

投げた三枚の呪符は短刀へ変わりタツノスケに向かっていくがタツノスケはアッサリと弾き落としてしまう。だがシオンはタツノスケが短刀を弾き落としている間に一気に距離と詰め、タツノスケの目と鼻の先まで近づいたシオンはライトダガーでタツノスケの刀を封じた。

「いくら接近戦がアンタの得意な土俵でも、刀が使えなきゃ意味は無いでしょう!」
「フフフ、忘れたか?拙者が刀が付かなくても戦いえるという事を?」

タツノスケは左手を刀の柄から離しシオンに顔に近づけ、また光の波動を放とうとした、その時、シオンが新しい呪符を取り出しタツノスケの左手に呪符を貼り付け、その直後に大きく後ろの跳び距離を取った。その間にシオンは再び呪文を唱え始めた。

「界・陣・滅・罪・善!煉獄爆炎符(れんごくばくえんふ)!!」

呪文を唱え終えると、タツノスケの左手に張り付いていた呪符が爆発した。

「ヌオォッ!」

左手に伝わる痛みと熱に驚きの声を出すタツノスケ。爆煙が消えた時、タツノスケの左手は火傷でボロボロになっていた。

「これでもうあの光の波動は使えないでしょう!」
「フフフ、たとえ波動撃を封じてもお前の不利な状況に代わりは無い」

タツノスケは刀を両手で構えてシオンをジッと見る。いくら左手がボロボロになっても、相手は魔人だ。柄を握ることぐらいはできる。シオンの両手構えを見てまた新しい呪符を取り出して構えた。

(煉獄爆炎符でなんとか光の波動は封じたけど、やっぱり完全に使えなくするのは無理か・・・・。でも、これでアイツに勝つチャンスができたわ。急いで決着をつけないと私の体も持たないわ)

シオンはチャンスをどう活かすのか、そして霊魂の刃によって全身に広がっていく激痛に自分が何時まで耐えられるのかを考えながらタツノスケの出方を待っていた。するとタツノスケが刀を鞘に収めて構えを変えた。

(刀を納めた?・・・・っ!まさか!?)

シオンは悟った、タツノスケはまた音無しの刃を使ってくると。シオンは未だにあの居合いをかわすコツもタイミングも掴んでいない、この状況でまたあのとんでもない速さの居合い切りを受けたら今度こそ自分は死ぬ、そう考えたシオンは知らず知らずの内に焦りだした。シオンの表情から余裕が消え、焦りと恐怖が表れるの見たタツノスケは仮面の下で笑いながら語ってきた。

「ハハハッ!どうした?さっきまでも表情が全然違うぞ、もしや恐れているのか?この音無しの刃を?」
「っ!う、うるさい!」
「フッ、図星か。いくら聴覚の優れているお前でもこの一撃をかわす事は不可能だ」
「クッ・・・・」
「今度はさっきの様に手加減はせぬ、次の一撃でお前の命は必ず尽きる」
「・・・・・・」
「お前との戦い、なかなか楽しめたぞ。だが、その楽しい戦いもこれで終わりだ」
「・・・・・・」

シオンはゆっくりと一歩下がりタツノスケから少しずつ距離を作ろうとするが、今更下がっても意味は無い。ジャンプしてかわそうとも考えたが、彼の視界に入っている以上逃げられない。そして、タツノスケは草鞋を擦りながら足を動かす。

「さらばだ、狐火シオン」

別れを告げてタツノスケはシオンに向かって走り出した。だがシオンは諦めなかった、必死で方法を考え続ける。その時、突然北東の方から大きな爆発音と震動が伝わってきた。その震動でシオンとタツノスケの立っている渡り廊下も大きく揺れだした。

「な、何だ?」

突然の震動にタツノスケは足を止めた。シオンも震動に驚いて目を開いて北東の方を向くが、直ぐに前を見直す。そして立ち止まっているタツノスケを見て全力で走り、彼の刀を鞘ごと蹴り飛ばした。

「しまった!」

シオンに蹴られて宙を舞う刀は鞘から飛び出し渡り廊下に刺さる。鞘は宙を舞ったままだ、タツノスケはその鞘をなんとか取ろうとするが、シオンが早く先に動いていた。

「仇名す敵を焼き尽くせ!フレイムショット!!」

シオンは契約魔法を発動させて鞘に向かって火球を放った。火球は鞘に直撃し粉々に消し飛ばした。

「鞘が!」
「残念だけど、これでもうあの居合い切りはできないわよ」

シオンはタツノスケの音無しの刃を完全に封じた。これでもう彼女が最も恐れているものは消えた。だが、まだ戦いが終わったわけではない。タツノスケは刀を引き抜き再び両手構えを取った。

「まさか音無しの刃を封じられるとはな・・・・」
「さっきの爆発でアンタの気が反れたおかげよ」
(でもさっきの爆発は何だったの?)

シオンが頭の中で爆発の原因を考えていた。実はさっきの爆発はコンタとウィッカの戦いでウィッカが発動した禁呪の一つアポロプロミネンスが城壁を破壊した時に起きたものだったのだ。だがシオンとタツノスケはそれを知らなかった。

「まぁ、運も実力の内と言うしね」

シオンは考えるのを止めてタツノスケの方を向き独り言を言った。するとタツノスケは剣を逆さまに持ち自分の影の上まで持ってくると、勢いよく刀を下ろした。すると刀身は影に吸い込まれるように沈んでいく。それを見たシオンは咄嗟に高くジャンプして渡り廊下から足を離した。その直後に彼女の影から黒い刀身が伸びてシオンの襲ったのだ。だが直ぐに床から離れたおかげで無傷で済んだ。

「なんと、闇夜の刃までかわされたか・・・・」

連続で自分の剣技がかわされた事に少し驚くタツノスケはゆっくりと影から刀を引き抜き、大きく振った。そしてシオンもゆっくりと着地して構える。

「いきなり攻撃を仕掛けてくるなんて、らしくないわよ?」
「どうやら拙者にも時間がなくなってきたようだ。これ以上時間を掛けると拙者の技が全て見抜かれてしまう。次の一撃でケリをつける」
「・・・・いいわ、私もそろそろ限界みたいだから」

自分の体が限界に近いと判断したシオンはタツノスケと同じ事を考えていたようだ。ライトダガーを腰の納めてバックパックから新しい呪符を九枚取り出した。

「その呪符で戦うつもりか?お前の符術のほとんどが拙者には通用しないことを忘れたか?」
「勿論知ってるわ。でもね、一つだけあるのよ。まだこのラビリアンに来て一度も使っていない符術が・・・・」
「何?」

シオンは九枚の呪符を自分の目の前まで持ってきて呪文を唱え始めた。

「空・幻・蒼・鱗・極!」

九枚の呪符はシオンの手から離れて彼女の後ろで扇状で並び、蒼い炎へと変わった。そして青い炎は徐々に形を変えてシオンの背後へと伸びていく。その形はまるで九本の尻尾、そして今のシオンは九本の尻尾を持つ妖狐、九尾の狐の様だった。

「こ、これは・・・・」
「アンタ達魔人はラビリアンでの私達の戦い方を基にディアボロスとルシフェルが造ったんでしょ?だったら、ラビリアンで一度も使っていない技には対処しようが無い」
「なんと、切り札を隠し持っていたのか」
「戦いでは常識よ」

シオンは両手を大きく横へ伸ばし目を閉じる。タツノスケも慌てる事無く、冷静に刀を両手で構えると、刀身に青白い炎が纏いだした。霊魂の刃を使うようだ。

「では次の一撃で全てを決めるとしよう」
「ええ」

二人は神経を集中させた。相手がどのタイミングで攻撃してくるか、どう攻撃すれば相手を倒せるか、そして先に仕掛けたのはタツノスケだった。

「受けよ!霊魂の刃!」

タツノスケが大きく刀を振ると、刀身から青白い斬撃と三つの人魂が放たれた。そしてシオンは両手を向かって来る斬撃と人魂に向けた。

「九尾蒼炎符(きゅうびそうえんふ)!!」

蒼い炎は斬撃と人魂に向かって伸びて行き、二人の攻撃はぶつかった。エクスプロージョンの時は打ち消されてしまったが、今度はシオンの攻撃が押している。蒼い炎は少しずつ押し戻して行き、遂に斬撃と人魂を飲み込んだ。

「何ぃ!?」

最強の剣技が通用しない事に驚きを隠せないタツノスケ。そして、シオンの蒼い炎はタツノスケも飲み込んだ。蒼い炎が消えた時、中から全身から煙を上げ、着物は彼方此方焦げ、膝をついているタツノスケがいた。

「・・・・・・見事だ、拙者を破るとは」
「アンタ言ったわよね?意志だけでは成し遂げられない事もあるって。確かに成し遂げられない事もあるわ、でもだからと言って諦めたらそれでおしまい、どんな小さな希望でも諦めなければチャンスは必ず来るわ。そして私も諦めなかった、だからこうして立っているのよ」
「・・・・・・成る程、小さな希望はやがて大きな希望へと生まれ変わる、か」

俯いているタツノスケは顔を上げてシオンを見上げた。

「狐火シオン、お前の名と強さ、あの世でも忘れぬぞ・・・・・・」

そう言い残し、タツノスケは黒い霧へと変わり消滅した。タツノスケが消滅と同時にシオンの体中に広がっていた痛みを消えた。タツノスケが死んだ事で霊魂の刃の力も消滅したのだろう。シオンはレベル・3を解除してゆっくりと渡り廊下に仰向けになった。

「フゥ、ちょっと無茶しすぎたかな?少しだけ休もう。マサシ、ジゼル、皆、悪いけど、少し休むわね・・・・」

シオンはゆっくりと目を閉じて眠りに付いた。シオンもタツノスケに勝利して、残るはユウタとバジリスクのみ。果たしてユウタはバジリスクに勝てるのあろうか、一ヶ月前のリベンジをユウタは果たせるのだろうか!?


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