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作品名:ラビリアンファンタジー 作者:ディオス

第155回   第百五十四話 攻防の嵐 ネリネVSジークフリート!

レイナとカラミティが戦いを始めようとした同時刻、西の高台と城を繋ぐ渡り廊下ではネリネとジークフリートが自分の剣を握り構え合っていた。

「レイナ達も戦いを始めたみたいね?」
「ああ、俺達も始めよう。お前の剣が俺に何処まで通じるのか、見せてもらうぞ?」

そう言ってジークフリートは剣を上げて上段構えを取り、ネリネは剣を斜めにしてジークフリートの出方を見た。それから数秒が経ち、先に仕掛けたのはネリネだった。

「ハアァァッ!!」

勢い良く走りジークフリートとの間合いを一気に詰めてジークフリートを下から斜めに斬りかかろうとした。実は彼女の持っている剣はライトシンフォニアが開発したアストラル超合金でできた剣なのだ。バジリスクとの戦いで剣を失ってしまったネリネの為にエミリアが特注で作らせた代物である。ネリネはその剣でジークフリートに攻撃を仕掛けた。ところがジークフリートはネリネの剣を止めようともせず上段構えのまま立っていた。そしてネリネの斬撃がジークフリートに当たろうとした瞬間。

「鉄壁魔装(てっぺきまそう)」

突然ジークフリートは何か名前のような言葉を口にした。その直後、ジークフリートの茶色い全身甲冑(フルアーマー)が紅く光りだした。そしてネリネの剣がジークフリートの甲冑に触れた瞬間ネリネの剣は火花を散らつかせて大きく弾かれた。

「うわぁ!」

突然弾かれた自分の剣にネリネは驚きの声を上げながら大きく後ろに飛ばされる、だが、クルッと一回転してそのまま着地し体勢を立て直した。

「どうした?その程度の攻撃なのか?」
(今のは何?アイツの甲冑に触れた瞬間、まるで何かに押し戻されたように剣が弾かれた・・・・)

頭の中で何が起きたのか考えるネリネ。すると、ジークフリートは剣を下ろし左手の指を上に向けてネリネを招くように曲げる。それを見たネリネは少しだけ眉が動いた。

(挑発とはやってくれるわね、しかも剣を下ろしてわざと隙を作るなんて。それなら、遠慮なく行かせて貰う!)

ネリネはジークフリートの挑発に少々苛立ったようだ。だが彼女は決して冷静さを失ったわけではない。敵の挑発に乗りこちらの隙を相手に見せる、などのような初歩的な失敗はしないように心を乱さずに再びジークフリートに向かって走り出した。すると、ネリネの剣が突然黄色く光りだした。そしてジークフリートの頭上までジャンプして勢い良く剣を振り下ろした。

「くらえ!鋼牙斬(こうがざん)!!」
「甘いぞ、鉄壁魔装」

ジークフリートは再び技の名前らしき言葉を口にした。するとまたジークフリートの甲冑が紅く光りだしたのだ。ネリネの鋼牙斬がジークフリートの兜をカチ割ると思われた瞬間、またネリネの剣は止められて火花を散らせて彼女を弾き飛ばした。

「クッ!また!」

空中でさっきと同じ様に一回転して着地するネリネ。彼女は剣を構え直しジークフリートを睨んだ。

(どうして?鋼牙斬は硬度の高い物ほど斬れやすくなる剣技、しかもエミリア様から渡されたこのアストラル超合金の剣を使っているのだからどんな物でも斬れるはず・・・・)

どうして斬れないのか、それが分からずネリネは頭の中で混乱していた。するとジークフリートが剣を床に刺して腕を組んで話しかけてきた。

「フフフ、『なぜ私の攻撃か効かないの?』という顔をしているな?」

自分の考えを読んだジークフリートをネリネはジッと見たまま剣を構えた。

「教えてやろう、鉄壁魔装は俺の甲冑を被う様に結界を張り敵の攻撃を防ぐ奥義だ」
「防御奥義?」
「そのとおりだ。だが只の結界ではない、引力を反転させて相手の攻撃の流れを反らす事ができるのだ」
「引力ですって?」
「お前の攻撃によって発生する引力と俺の鉄壁魔装の反転した引力がぶつかりお前の攻撃を防いだのだ。これは攻撃を止めたのではなく反らしたため、破るのはほぼ不可能だぞ。どうする?」
「ならこれはどうかしら!」

ネリネは剣を両手で持ち、天に掲げるように上げて目を閉じる。すると、ネリネの体が赤く光だし、背中から銀色の翼が生え、髪も銀色に変わった。聖天使人の力を解放したのだ。

「ほぅ、それが噂の聖天使人の力か」

ジークフリートが興味津々にネリネの姿を見た。そしてネリネは目を開き、剣を力強く振り下ろした。

「精霊剣術、ブルーズソニック!!」

勢い良く剣を振り下ろすネリネ。剣からは青く光る刃が放たれ、ジークフリートに向かっていく。

「ブルーズソニックは私の魔力によって作り出された刃、引力なって関係ないよ。これは止められないわ!」
「フッ・・・・」

自分に向かって来る青い刃を見ても、ジークフリートは小さく笑うだけで一切動揺していない。そして彼はゆっくりと刺さっている剣を抜き、両手で柄を握ってゆっくりと構える。

「氷炎双牙(ひょうえんそうが)!」

ジークフリートは新たな技の名前を叫び剣を大きく振り下ろす。すると刀身から大きな冷気と炎の塊が放たれブルーズソニックとぶつかった。その瞬間大きな爆発と白い煙が上がり渡り廊下を包み込んだ。

「これじゃあ敵が見えない!」

ネリネは聖天使の翼を広げて高く飛び上がり白い煙の中から脱出した。真上からジークフリートの様子を窺おうと渡り廊下を見下ろす。すると、突然前の方から声が聞こえてきた。

「誰かを探しているのか?」
「!!」

聞こえてきたのは下に居る筈のジークフリートの声。ネリネはフッと顔を上げると、ジークフリートは城の屋根の上で剣を握り自分を見ていたのだ。そしてネリネが自分に気付いた事を確認したジークフリートは屋根を蹴り、飛んでいるネリネに一気に近づいた。

「ハアァッ!」
「クッ!」

自分に剣を振り下ろしてくるジークフリートを見てネリネは咄嗟に剣でジークフリートの剣を止めた。だがs空中では攻撃を止めることはできても自分に圧しかかってくる力までは止められない。ネリネはジークフリートの力に負け、高台の方まで圧し飛ばされ、そのまま高台に叩きつけられた。

「うあぁっ!!」

高台に叩きつけられたネリネを見ながらジークフリートは渡り廊下に着地し高台に埋まる様な態勢のネリネをジッと見ていた。するとネリネは高台に埋まっている自分の体を自力で抜き、高台を下りて渡り廊下に降り立つとジークフリートの方を見て再び剣を構える。

「イツツツ、今のは効いたわ」
「フフフ、嘘をつけ。殆んど効いていないのだろう?」

痛がってはいるが苦笑いをしているネリネを見てジークフリートも小さく笑ってネリネの言う事を否定する。すると今度はネリネが先の行動に出た。彼女は再び翼を広げて高く飛び上がると、空中で大きく翼を広げて一気にジークフリートに向かって急降下し始める。

「正面?ナメてくれるな?」

真正面から自分に向かって来るネリネを見て少しガッカリした様な声で剣を両手で握るジークフリート。ネリネが一定の距離まで近づいたのを見て再び剣を振り下ろした。

「氷炎双牙!」

刀身から再び冷気と炎の塊が放たれネリネに迫っていく。だがネリネは慌てる様子も回避する様子も見せずに小さく微笑み左手を冷気と炎の塊に向けた。

「エンジェリックシールド!」

ネリネの目の前に黄緑色の結界が張られ二つの塊を防いだ。すると二つの塊がぶつかった瞬間ネリネの前に爆発し、またあの白い煙が上がった。そう、これは冷気と炎がぶつかった事によって発生する水蒸気爆発によって巻き起こる煙だったのだ。

「防御魔法か何かで防いだが、なら煙の中か煙の真下から俺に向かって来る可能性が高いな」

空中で発生した白い煙を見ながらジークフリートは何時でも反撃できるように剣を構える。しかし、なかなかネリネは姿を見せない。ジークフリートが前だけでなく上と左右にも意識を向けてネリネを気配を探りだす。すると、突然煙の中から無数の銀色の羽がジークフリートに向かって飛んで来た。聖天使人が使える天使魔法の一つ、レインフェザーだ。それに気付いたジークフリートは飛んでくる羽を次々に剣で弾き落としていく。

「やはり煙の中から出てくるのか。その為にこの攻撃で俺の動きを封じるために・・・・」
「はずれよ!」
「!」

突然聞こえてくるネリネの声にジークフリートは声のする方を向いた。すると、煙の真下から何かが飛び出てきたのが見えた。そう、ネリネだ。彼女は一気のジークフリートの向かって飛んで行く。ジークフリートはレインフェザーを弾いているため迎撃態勢に入ることができなかった。それを見たネリネは剣の切っ先をジークフリートに向けた。

「そのレインフェザーは貴方の注意を向ける為のフェイント、本命はがら空きの懐よ!」

ネリネの剣の切っ先がジークフリートの懐に届こうとした直後、ジークフリートは全ての羽を落とし終え、自分の剣を下に向けて平らな面でネリネの剣を止めた。

「・・・・フゥ、危ない危ない」
「でも、衝撃と力は止められない!」

ネリネの剣を止めたジークフリートは足で床を擦りながら後ろに押し戻されていった。だがジークフリートは倒れる事無く城の入口前で踏み止まった。

「まさか俺か押されるとはな。聖天使人の名は伊達ではないという事か」

ジークフリートはネリネの力に敬意を表する様に言いながら体勢を立て直して剣を肩に乗せてネリネの方を見る。ネリネはゆっくりと着地し同じ様に体勢を立て直すと剣を両手で握りゆっくりと構えた。

「聖天使人はラビリアンでも最も力の強い戦闘民族と言われていた人達。私は契約者じゃないけど、貴方達魔人とも互角に戦えるわ」
「成る程、ラビリアン最強の民族か、なら俺も全力で戦わないと失礼だな?」
「・・・・今までのが全力じゃなかったと言うの?」
「ああ、最初から全力で戦ったらあっさりと勝負が付いてつまらないだろう?」
「戦いを楽しむ・・・・あまり良い趣味とはいえないわね」

カラミティと同じ様に戦いを楽しむと言うジークフリートも見てネリネは若干気分が悪くなった。そんなネリネの表情を見たジークフリートは剣を構えて一気にネリネに向かって走り出した。それを見たネリネも瞬時にジークフリートに向かって走り出す。そして二人の距離があと1mという所まで来た瞬間、二人の剣は交じり合い大きな金属音を立てた。そして二人は剣をジリジリと火花を散らすかせながらお互いの顔をジッと見ている。

「お前に見せてやろう、魔人の本当の力をな」
「だったら私も全力で貴方を倒すだけよ!」

しばらく剣を交えた二人は大きく後ろに跳んで距離を作る。するとジークフリートは着地した瞬間に剣を大きく横へ振った。

「受けよ!破砕激光(はさいげきこう)!」

ジークフリートの剣から青白い光弾が放たれ、ネリネに向かって飛んで行く。ネリネは空いている左手を光弾に向けて手を向ける。すると彼女の左手に白い光が集まりだし円盤状へ形を変えた。

「ホワイトスフィア!」

ネリネはその円盤状の光をフリスビーを投げるように青白い光弾に向かって投げる。それは覚醒空間で黒いジゼルが使っていたのと同じ天使魔法だった。光の円盤はジークフリートに光弾に当たる直前に無数の小さな光の光球に分かれ光弾にぶつかり掻き消した。そしてその光球の内のいくつかは光弾に当たらずジークフリートに向かって飛んでいく。ジークフリートは高くジャンプしてその光球を回避。そしてネリネを見下ろす状態で剣を構える。すると、彼の剣が青白く光りだす。

「ならこれはどうだ?刀身雷雨(とうしんらいう)!」

ジークフリートはジャンプしたまま大きく剣を振る、そして刀身から青い雷が雨の様にネリネに向かって降り注がれる。ネリネは雷を見上げると左手を腰に回し何かを取り出した。それはなんとライトシンフォニアの採用短機関銃、P90だった。実は天空魔導城へ向かうジェット輸送機の中でネリネはマサシから受け取っていたのだ。ネリネはそのP90を雷に向かって乱射、弾丸だ雷に近づいていくと、弾丸は軌道を反らしグニャリと曲がる。すると雷も弾丸に引き寄せられるようにグニャリと曲がりそのまま消滅した。

(フゥ、危なかった。電気は鉄に引き寄せられるって事をマサシから聞いておいてよかったわ。まさかこの銃がこんな所で役に立つなんてね・・・・)

雷が消えてホッと一安心するネリネ。だが雷は消えた後、彼女は直ぐにP90を腰の戻して剣を両手で握る。そして宙からゆっくりと降りてくるジークフリートに向かって走り出した。そしてジークフリートが渡り廊下に着地した瞬間、ネリネは床を蹴りジークフリートに向かって跳んでいった。

「ハアァーッ!」

ネリネはジークフリートの顔の高さまで上がり彼の頭上を狙って剣を振り下ろした。

(いかん!この状態では鉄壁魔装が間に合わん)

鉄壁魔装が間に合わないと悟ったジークフリートは剣を横に構えてネリネの振り下ろしを防ぐ。そしてネリネはがら空きとなったジークフリートの胴体に蹴りを放つ。蹴りはジークフリートの甲冑に命中、傷を負わせることはできなかったが衝撃はしっかりジークフリートに伝わっている。

「ぬおぉっ!?」

体に走る衝撃にジークフリートは声を上げて再び足で床を擦りながら後方へ押された。だがやはり倒れずそのまま踏み止まった。

「驚いたな、俺に一撃を食らわすとは」
「言ったはずよ?全力で貴方を倒すと。貴方も本当の力を見せると言ったわ、貴方の全力はこの程度なの?」
「ハハハ、言ってくれるな。なら教えてやろう、相手の力を侮る事が、どれ程大きな後悔を生み出すかという事を」

ジークフリートは再び剣を構えてネリネを見る。するとネリネも再び剣を構えてジークフリートの出方を見る。すると、ジークフリートは足に力を入れる姿が見え、ネリネは更に警戒を強める。だが次の瞬間、彼女の予想を超える出来事が起きた。ジークフリートが床を蹴りネリネに向かって跳んだ瞬間にネリネの目の前まで来たのだ。

「なっ!は、速い!」
「お前の反応速度が遅すぎるのだよ」

ジークフリートはネリネに向かって剣を振り下ろし、ネリネは咄嗟に剣を横にし、なんとかジークフリートの剣を止める。だがジークフリートの攻撃はこれだけでは終わらなかった。

「行くぞ、魔剣乱舞(まけんらんぶ)」

ジークフリートはネリネの剣から自分の剣を離した。そして信じられない速さでネリネに連撃を放つ。ネリネはその連撃を止めてはいるが彼女の表情には一切余裕が見られなかった。

(クッ、速い!おまけに斬撃が重すぎる、これじゃあ長く持たない!)

ネリネはジークフリートの猛攻を防ぎながら徐々に後ろに押し戻されていく。しかも聖天使人の力を解放した状態で思いと感じるほどの一撃だ、少しでも気を抜けば斬撃の嵐を受けることになる。

「どうした、防ぐので精一杯じゃないか?さっきの余裕は何処へ行った?」
「クッ!ウウッ!」

ネリネは必死で斬撃を止めたはいるが止められなかった斬撃は彼女の体に切傷を作り出していく。ジークフリートは猛攻を止めてネリネの腹部に蹴りを入れてネリネを蹴り飛ばした。

「がはっ!」

腹部に伝わる痛みと衝撃にネリネの表情が崩れる。彼女はそのまま高台に飛ばされ高台の壁に叩きつけられた。ジークフリートは攻撃と足を止めたその場に立ち止まる。

「フッ、蹴りはさっきのお返した。だがあの連撃を止めたのは驚いたぞ」
「うう・・・・」

壁に叩きつけられそのままズリ落ちる様に座り込むネリネ。彼女の体の彼方此方には切傷ができ血まみれになっている。

「どうした、もう立ち上がる気力も残っていないか?」
「・・・・そんな事、ないわよ」

痛みに耐えながらゆっくり体を起こすネリネ。左手で蹴られた腹を押さえ、右手で剣を握りゆっくりと構えてジークフリートの方を向いた。

「その状態でまだ戦うか、その諦めない意志の強さと闘志、心から敬服しよう」

ジークフリートは傷だらけでありながら立ち上がり戦い続けようとするネリネに敬意を表し剣を構える。だが戦況は明らかにネリネが不利だ。ネリネは傷だらけ、それに引き換えジークフリートはほとんど無傷、ネリネは何時倒れてもおかしくなかった。しかしそんな状態でもネリネの目からは光は消える事はなかった。腹部の痛みが引き、再びネリネは両手で剣を握った。

(今の状態で正面から戦いを挑むのは自殺行為だわ。聖天使人の治癒力である程度傷が癒えるまで空中から攻撃を仕掛けるしかないわね・・・・)

ネリネは状況を心の中で整理し、銀色の翼を広げて高く飛び上がった。ジークフリートは飛び上がったネリネを見て構えを解き、別の構えに取った。

「傷が癒えるまで空中で時間を稼ぐつもりか?だがそんな作戦は通用しないぞ、氷炎双牙!」

ジークフリートが剣を振ると刀身からまた冷気と炎の塊が二つ放たれネリネに迫っていく。だがネリネはその二つの塊を簡単に回避した。

「何度も同じ技を見ていればかわすタイミングだって簡単に掴むことができる!もうその技は私には通用しないわ!」
「ホゥ、そうか。なら見せてやろう、今まで見せた事のない新たな技、俺の最強の技を!」

ジークフリートは最強の技を見せると言い剣を前に構えた。すると、ジークフリートの体から青白い気が出てきたのだ。そしてその気は彼の体から剣へと移り刀身を包み込んだ。

「受けろ、我が秘奥義!悪竜霊砲(あくりゅうれいほう)!」

ジークフリートが空を飛んでいるネリネに向かって剣を振り下ろすと、刀身からさっきの青白い気が放たれた。その気は形を変えて竜の頭となりネリネに迫って行った。

「アレがジークフリートの切り札、でも・・・・!」

空を飛んでいるネリネは舞う様に飛んで向かって来る竜を回避し、竜はそのままネリネの横を通過して行った。

「残念だけど、例え傷だらけでも制空権を握っている私の方が立場的には有利よ。聖天使人の力があれば体も直ぐに良くなる、そうすればまだ貴方に勝つチャンスもある!」
「・・・・残念だが、お前にチャンスは無い。有るのは窮地へ追い込まれる危機だけだ」
「それってどういう・・・・」

「どういう事?」と聞こうとした瞬間、背後から何かを感じたネリネは後ろを振り返る。彼女の視線の先には、さっき回避したはずの気の竜が迫ってきたのだ。突然の出来事にネリネは驚き回避行動に移ることができなかった為、気の竜は彼女の背中に直撃した。

「うわあーーっ!!」

背中から伝わる大きな衝撃にネリネは空を飛ぶことができずそのまま落下していき、渡り廊下に叩きつけられた。

「ガハァ!」

倒れたままのネリネの見て、ジークフリートはゆっくりと剣を下ろした。

「驚いたか?俺が悪竜霊砲の最大の特徴だ。その気は俺の体から作り出された俺その物、目標に命中するまで何処までも追い続ける。いわば『生きた気』なのだ」
「い、生きた・・・・気・・・・?」

全身に走る痛みに耐えながら、なんとか体を起こしジークフリートの方を向くネリネ。そして必死で立ち上がろうとした。

(うう・・・・今の一撃で翼をやられた、これじゃあ飛ぶ事はできない。だからと言って、地上戦に持ち込んだら明らかに私の方が不利、しかも体のダメージも大きくまともに戦えない。このままだと確実に負ける、どうすればいいの!?)

窮地を逃れる方法を頭の中で必死に考えるネリネ。だが、彼女には考える時間すらない。ジークフリートが自分の目の前まで跳んで来たのだ。そして剣を頭上から振り下ろしてきた。ネリネは咄嗟に剣を横にして振り下ろしを防いだ。ネリネは痛みに耐えながらジークフリートの剣を弾き、彼の脇腹に横切りを放つ。

「鉄壁魔装!」

剣が脇腹に触れようとした瞬間にジークフリートの体が紅く光りネリネの剣を弾いた。剣を弾かれ体勢を崩したネリネにジークフリートはエルボーを放った。

「ぐあっ!」

エルボーはネリネの左肩に命中。彼女はそのまま床に叩きつけられるように倒れた。そして倒れたネリネをジッと見下ろすジークフリートはゆっくりと剣の切っ先をネリネの向けた。

「なかなか楽しいだったぞ。だが、俺を倒す事まではできなかったようだな。だが、せめてもの情けとして、楽に死なせてやる」

ジークフリートはそう言って剣を上げ、ネリネに止めを刺そうとした。だがその瞬間、倒れていたネリネは左手をジークフリートに向けた。そして左手に白い光が集まりだしたのだ。

「ホワイトスフィア!」

光が円盤状になった瞬間ジークフリートの体目掛けて光の円盤を投げた。円盤はジークフリートの甲冑に当たった直後爆発し、ジークフリートを後ろに押し戻した。

「ぐおぉぉぉっ!」

突然体に走る衝撃にジークフリートは声を上げた。そして直ぐに体勢を立て直すと急いで防御態勢に入る。だが遅かった、ネリネは既に自分の目の前まで走ってきていたのだ。

「何!?」
「悪いけど、私はまだ諦めていないわ!例え翼がもがれ様と、例え腕が消し飛ぼうと、私は最後まで希望を捨てない!」

痛みに耐え、残りの力全てをジークフリートにぶつけながらネリネは叫ぶ。ネリネはジークフリートが体勢を立て直す暇を与えまいと剣で連撃を放つ。その刃をジークフリートは剣で防ぎ続けた。

「な、何だ?さっきまでと力も太刀筋が違う」
「教えてあげるわ、私達聖天使人は体に受けた傷が深ければ深いほど力を強くなるのよ。正直こんな方法で戦うのは嫌いだけど、世界の為にも私は負けられない!」

勝つ為なら己の嫌う戦い方も迷わず使う。その世界を守る為の覚悟と決意にジークフリートは押されながらも感服した。

「いい覚悟だ、だがあっ!」

剣でネリネを押し戻したジークフリートは距離を取って体勢を立て直した。剣を両手で持ちネリネをジッと見る。

「傷が深ければ強くなる能力、それは言ってみれば諸刃の剣だ。それではいずれお前も死ぬぞ?」
「もとよりその覚悟よ!覚悟が無かったら最初からここには居ないわ!」
「・・・・成る程、なら次の一撃で決着とつけてやる。俺の全ての力を込めた悪竜霊砲でな!」
「望む所よ!」

二人は自分の剣を両手で持ち相手を見ながら意識を集中させた。ジークフリートの体からは再び青白い気が出て彼の剣を包んでいき、ネリネも目を閉じ何かに集中し始めた。そして数秒後、先に仕掛けたのはジークフリートだった。

「これで最後だ!悪竜霊砲!」

剣を振り下ろし剣に宿っている気をネリネに向かって放った。気は徐々に竜に姿を変えてネリネに迫っていく。だがその時、ネリネは目を開き剣を振り上げた。

「これが今の私の最高の力よ!スカイライトシャイン!!」

大きく剣を振り下ろす。すると刀身から空の様な清々しい青の光の刃が放たれジークフリートの気の竜に向かって行く。青い光の刃と青白い気の竜がぶつかりお互いを押し合う。だが、次第にネリネの刃がジークフリートの竜を押し戻し始めた。

「何!!」
「いっけーーーっ!!」

ネリネの叫びが通じたのか青い光の刃はジークフリートの気の竜を真っ二つにしてジークフリートに向かって飛んでいった。

「な、何と!」

自分の最強の技が通じないかった事に驚くジークフリート。そしてネリネの青い光の刃はジークフリートに直撃した。刃が青い粒子の様になって消滅しても、ジークフリートは立ったままだった。だが致命傷を受けていたのは間違いないようだ。彼の甲冑や兜の隙間から黒い霧状の物が漏れるように出てきている。

「フ、フフフフ・・・・。見事だネリネ、魔人である俺の力を超えるとは・・・・お前はいずれ、剣の道を極めし者となるだろう・・・・」
「・・・・・・」
「お前のような奴に倒されるのなら・・・・俺も・・・・本望・・・・だ・・・・・・」

そう言い残し、ジークフリートの体は甲冑や剣も含めて完全に黒い霧となり消滅した。それを見終えたネリネはガクッと膝をつきその場に倒れた。

「剣の道、か・・・・。こんなボロボロになって死に掛けてる私には剣の道を極めるなんて、無理かも・・・・ね・・・・・・」

疲れが一気の出たのかネリネはそのまま眠りについた。ネリネとジークフリートの戦いはネリネが勝利。だがレイナに続きネリネも重傷を負う、そんな恐ろしい力を持つ魔人達に残りの三人は無事勝てるのだろうか!


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