エミリアの提案でヘルデストロイヤーを一時解放しエクス・デストロの迎撃に就かせることになった。マサシ達はやや不満のようだが非常事態な為仕方がない。彼等はヘルデストロイヤーに町の護りを任せ、ディアボロスとルシフェルを討つ為に天空魔導城へ向かう為の準備を進めるのだった。
「マサシ、こっちの武器はどうするの?」 「ああ、それも念のために積んでおいてくれ」 「分かったわ」
ジェット輸送機の止めてある城の広場ではマサシがジゼルの持ってきた武器や荷物を見て積むべきか否かを確かめてジゼルに指示を出した。そんな時、城の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「マサシ、ジゼル!」 「ユウタ、皆!無事だったか」
城の中から出てきたのはマサシとジゼル以外の神竜隊全員だった。彼等の姿を確認したマサシは作業の手を止めてユウタ達に向かって手を振った、ジゼルもユウタ達の方を見て安心したのホッと一息をついた。
「よかった、皆無事だったんだね」 「ああ、お前達もな。でも一体どうなってるんだ?」 「ええ、驚いたわよ。まさかヘルデストロイヤーが解放されるなんてさ」
ユウタとシオンがジゼルの方を見てヘルデストロイヤーの出現について口にするとマサシが目を閉じてジェット輸送機から下りてユウタ達の下へ歩いていく。
「この状況じゃ仕方がないってエミリア様が仰っていた、苦肉の策だってな」 「うん、エミリア様も迷った末の選択だったと思うよ」
マサシとジゼルがやや暗い顔でエミリアの考えをユウタ達に話すとユウタ達もやや曇った表情をした。エミリアが苦渋の選択をしたのだと心が痛んだのだろう。
「エミリア様も辛い選択だったろうな、この世界の人々と世界そのものを護るために・・・・」 「ああ、私達もエミリア様の立場だったら同じ選択をしていただろう・・・・」
マサシの考えに同意しレイナは頷いて答える。するとユウタ達が入ってきた入口から再び聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「全員揃いましたね」
マサシ達が入口の方を見るとエミリアが大剣を背負って歩いてくる姿が見えた。その後ろには同じ様に大剣を背負って歩いてくる青年がいた。その青年の正体を知っている神竜隊は再び表情を曇らせた。そしてマサシはその青年の名を口にした。
「・・・・ゾーク」 「久しぶりだな、神竜隊」 「まさかまたこうやってお前と話す日が来るとは思わなかったよ」 「それは私も同じだ」
マサシとゾークがお互いの顔を見て低い声で話し合う。周りにいる他の神竜隊は悪くなっていく空気を感じて一筋の汗を垂らす。その時、エミリアが手をパンパンと叩いた。
「二人とも、睨み合うのはそこまでですよ。ゾーク、約束はしっかり守ってもらいますよ?」 「分かっている、ここまで来た以上もう逃げも隠れもしない。この戦いが終わったら素直に混沌の楔を行う。だが、我が社の社員達の犯した罪は全て帳消しにするよう王と交渉し、その後お前達ライトシンフォニアの傘下にすると約束を忘れるな?」 「分かってるわ」
エミリアとゾークの会話を見てコンタがマサシの肩に飛びつき耳元で話しかけた。
(ねぇ、なんだかゾークの雰囲気変わってない?) (ああ、俺も薄々そう感じてた) (どうなってるんだろう?) (さぁな、何かを企んでるのか、それとも本当に諦めたのか・・・・)
突然雰囲気が変わったゾークを見ながらヒソヒソ話しているマサシとコンタ。そんな二人を見てエミリアが話しかける。
「二人とも、どうしたのですか?」 「い、いえ、何でもありません」 「ハ、ハイ」
いきなり話しかけられ慌てて首を振るマサシとコンタ。エミリアは首を傾げるが直ぐに話を戻した。
「では作戦の内容を確認します。まず私達が敵の地上部隊を抑えている間に貴方達は敵の拠点であるあの浮遊城へ向かってディアボロスとルシフェルを討ってください。空にも敵の部隊がいますので浮遊城までは空中部隊が護衛していきます」 「分かりました」 「ですが、たとえヘルデストロイヤーの戦力が加わっても長くは持ちません。長くても四時間が限界です」 「四時間ですか、長い様で短いですね・・・・」
微妙な時間にマサシは腕を組んで難しい顔をする。その時ゾークの無線機か発信音が聞こえマサシ達はゾークの方を向く。
「私だ・・・・・・そうか、直ぐに行く」
ゾークはそう言って無線機をしまってエミリアを見た。
「敵の勢いが増して防衛部隊が押されているようだ、私は戻って指揮を取る。エミリア、お前はどうする?」 「そうね、私も行くわ。貴方の監視もかねてね」 「フッ、信用されてないな。まぁ当然だがな・・・・」
ゾークは笑いながら首を振り、エミリアはそんなゾークを呆れるような目で見ていた。マサシ達も同じである。
「皆さん、私とゾークは防衛部隊の指揮の戻ります。準備が出来次第出発してください」 「「「ハイ!」」」
神竜隊は一斉に返事をし、それを見て頷いたエミリアはゾークと共に城の中へ戻っていった。
「ゾークの奴、本当に信用できるのかな?」 「さぁな、エミリア様も頼っていはいるが完全には信じていないようだし・・・・」
ネリネが腕を組みながらマサシ達の方を向き、隣に立っているレイナも低い声で言った。
「だが、今はゾークとヘルデストロイヤーに頼るしかない。ここはエミリア様とゾークに任せよう」
マサシの方を向いてジゼル達は頷きジェット輸送機に残りの荷物と武器を積み始めるのだった。
サンドリア南門方面。サンドリア、ライトシンフォニア、ヘルデストロイヤーの兵士達が戦っている中、サンドリアの傭兵達も町を守る為に戦っていた。その中にはシンディとセリーナの姿もあった。
「シンディ、助けはいるか!?」 「いらない、わぁ!」
シンディは剣を交えていた黒騎士の剣を弾いて斜め切りを放つ。黒騎士は黒い霧となり消滅した。
「そう言うアンタはどうなの!?」 「大丈夫だ!」
セリーナも黒騎士の腹を蹴り、倒れたところを剣で串刺しにして黒騎士を倒した。
「それにしても、複雑な状況ね。あのヘルデストロイヤーが私達と一緒に町を守る為に戦ってるなんて」 「ああ、確かに複雑だ」
二人が話していると、突然彼女達の背後から竜の姿のマサシ達が戦ったあの鰐の様な口をした生物兵器が襲い掛かってきた。二人は反応が遅れて回避行動を取ることができない。死を覚悟したその時、突然生物兵器の背後に爆発が起きた。そして生物兵器はそのまま霧状となり消滅した。二人が生物兵器の後ろを見ると、そこにはスティンガーを構えていたヘルデストロイヤーの傭兵が立っていた。
「お前等、ボ〜っとしてんじゃねぇ!死にたいのか!」 「・・・・・・すまない」
きつい口調だが、自分達を助けてくれたかつての敵に感謝するセリーナ。シンディも小さく頷いてヘルデストロイヤーの傭兵に感謝した。
「やっぱり複雑ね」 「ああ、だがこれだけは言える、今の奴等は味方だ」
シンディのセリーナは再び剣を構えて向かって来る黒騎士達を迎え撃った。
ゼルキアスのコルヘルス。ここではライトシンフォニアの傭兵とゼルキアスの兵士、そしてコルヘルス武術学園の生徒達が町を守る為に戦っていた。
「皆さん、力を合わせて私達の学園を、この町を守るのです!」 「「「おおーっ!!」」」
生徒会長のフランシスの言葉に生徒会メンバーや他の学生達の士気も高まった。そして兵士や傭兵達と共に黒騎士やガーゴイル達に立ち向かって行く。
「会長、イヴルの門の戦力が押されています!」 「チャンとアルト、そして一組から三組を援護に向かわせなさい!」 「ハイ!」
フランシスの指示を受けてダンは仲間達の元へ向かった。ダンが去った後、フランシスは周りの生徒達を引き連れて黒騎士達に向かって走り出した。
「この世界を貴方達のような悪党には渡しませんわ!」
フランシスは自分のレイピアを強く握りエクス・デストロの黒騎士達から町を守る為に命をかけた戦いを始めた。
そしてサンドリア城の広場ではジェット輸送機への積み込みが終わり神竜隊は外で作戦の確認をしていた。
「よし、これで全部積み終わったな」 「うん、あとはあのお城に行くだけだね」 「じゃあ、エミリア様に連絡を入れて出発するぞ」
マサシは無線機を取り出し後部ハッチからジェット輸送機に乗り込み、ジゼル達もその後に続いた。そして連絡を終えるとマサシは操縦席に座り後部ハッチを閉じた。
「よし、発進するぞ、皆座ってくれ!」
ジゼル達はジェット輸送機の端に取り付けてある椅子に座り安全ベルトを付けた。それを見たマサシはスイッチを入れ、操縦かんをゆっくりと引く。するとジェット輸送機のブースターは下を向いて炎を噴出し、機体はゆっくりと上昇を始めて空へ上がっていく。そして約100mの所まで上昇するとブースターは前を向きゆっくりと前進を始める。するとジェット輸送機の周りにライトシンフォニアのイーグル、そしてヘルデストロイヤーのハリアーUが近づいてきた。マサシがその光景を目にすると、操縦席の無線機に連絡が入ってきた。
「神竜隊、聞こえますか?」 「エミリア様!」 「マサシ、貴方が出たという事は、貴方が操縦しているのですね?」 「ハイ」 「ではマサシ、よく聞いてください。貴方達の周りを飛んでいる戦闘機はあくまで貴方達に近づく敵を倒すための護衛機です。虚無宇宙(ゼロスペース)まで残り数十mまで近づいたら護衛機は退却します。その後は貴方の操縦の腕と貴方達の防御用の契約魔法だけで浮遊城へ向かってください」 「分かりました、必ず城に辿り着いてディアボロス達を倒して見せます」 「それと・・・・」 「何ですか?」 「・・・・・・いえ、何でもありません。ご武運を」 「了解!」
無線が切れ、マサシはジゼル達の方を向いて頷き、ジゼル達も揃って頷いた。そしてマサシは天空魔導城へ向けてジェット輸送機を発進させた。
「一気の突っ切るぞ!皆、しっかり掴まってろ!!」
ジェット輸送機はもの凄い勢いで天空魔導城へ向かって飛んで行き、護衛の戦闘機もそれに続くように飛んで行く。だが敵もそれを見逃すはずがない、ガーゴイル達がマサシ達の乗るジェット輸送機に迫っていく。だがそれもイーグルやハリアーUが機銃で落としていく。それを機にジェット輸送機は更に速度を上げた。だがその前に量産型Ursが二体立ち塞がる。そして膝の装甲を開きミサイルを発射しようとした。マサシは急いで速度を落とし避けようとする、だがその直後量産型Ursに戦闘機の対空ミサイルが命中。だがアストラル超合金でできている体にミサイルなんかが効く訳がない。しかしミサイルの力に押されえ量産型Ursは降下して行く。それも見たマサシは再び速度を上げて突っ切った。
「よしっ!このまま一気に浮遊城へ向かうぞ!」
その頃、天空魔導城の謁見のまでは大型モニターに映るジェット輸送機を見てディアボロスとルシフェルは小さく笑った。
「ねぇディアボロス、あの輸送機って・・・・」 「ああ、神竜隊(奴等)だ」 「やっぱりね。どうするの?」 「・・・・撃ち落せ」
ディアボロスの指示を受けてルシフェルは無線機を取りだし何処かへ連絡を入れた。
もう少しで天空魔導城へ辿り着く所までやって来た神竜隊。ここまで護衛の戦闘機のおかげでなんとか無傷で来れた。
「よし、そろそろ護衛の戦闘機を下がらせよう。皆、防御魔法の・・・・」
魔法の準備をするようジゼル達に伝えようとするマサシ、だがその瞬間周りの戦闘機が爆散した。
「「「!?」」」
突然爆発した戦闘機に驚くマサシ達。そしてマサシは正面を見る、彼等の視線の先には対空砲や機銃をこちらに向ける天空魔導城があったのだ。
「城が攻撃してきやがった!」 「マサシ、お前はこのまま操縦を続けろ!防御の方は俺達がやる!」 「分かった、任せたぞ!」
マサシに操縦を任せてユウタは防御魔法を発動させる準備を始めた。
「精霊よ、空気の壁を生み出し我等を包め!エアーシールド!!」 「邪念を阻む水の盾よ、聖者を護れ!アクアウォール!!」 「エンジェリックシールド!!」
ユウタ、コンタ、ネリネは自分達の魔法でジェット輸送機を覆うように結界を張った。コンタの水の盾が左翼をユウタの風の盾が右翼を、そしてネリネの黄緑色の結界が正面を守っている。天空魔導城は虚無宇宙とラビリアンを繋ぐ入口の手前で止まっている。その為天空魔導城へ近づくには正面から近づくしかないのだ。そして次の瞬間、対空砲と機銃からもの凄い数の弾が放たれジェット輸送機を襲う。だが弾は三人の防御魔法によって防がれジェット輸送機を落とす事はできない。
「よし、三人とも、そのまま頼むぞ!」 「分かった、だが急いでくれ!俺とコンタの契約魔法では輸送機の翼を全て防ぐことはできない!」
ユウタの言っている事は正しかった。実はアクアウォールとエアーシールドが守っている両翼の三分の一がはみ出ているのだ、つまり翼の先の部分だけは守ることができないんだ。それを知ったマサシは天空魔導城へ一刻も早く着くために更に速度を上げた。だが、後数十mのところまで来て両翼の先に対空砲の弾が当たり爆散し煙を上げた。
「うわぁっ!」 「キャア!」
機内に伝わる振動と衝撃にマサシとジゼルが声を上げる。その間もユウタ達は防御魔法を張り続けていた。そして遂に天空魔導城の真上まで辿り着いた。
「よし、このまま中庭に不時着するぞ!皆、しっかり掴まってろ!」
マサシに言われてジゼル達は近くのパイプや椅子に掴まり衝撃に備えた。だが、その瞬間両翼のブースターが爆発しジェット輸送機は大きく傾いてしまった。
「グワァ!くっそ〜!ここまで来て落ちてたまる・・・・」
バキィン!!
「あ・・・・」
マサシが操縦かんを力強く傾けた瞬間、機内に高い金属音が響き、神竜隊は一斉に操縦席の方を見た。
「どうした?マサシ」
ユウタがマサシに何が起きたのか尋ねると、マサシは汗を垂らし、苦笑いをしながら手に持っている操縦かんを見せた。
「・・・・ワリィ、折れちゃった」 「「「えーーっ!!」」」 「「何だってー!!」」
三人声を揃えて叫ぶジゼル、シオン、ネリネと驚きの声を出すコンタとユウタ。レイナは驚きはしたが声は出さなかった。
「何やってんだよお前はぁ!?」 「す、すまん!・・・・・・こうなったら後部ハッチから飛び降りるぞ!」
マサシは後部ハッチの開閉スイッチを押して操縦席から後部へ移った。
「ったくしょうがないな!皆、後部ハッチが開いたら一斉に外へ飛び出すんだ!このままじゃいずれ撃ち落されちまう!」
ユウタの指示を聞き神竜隊は頷く。そして後部ハッチが全開した瞬間、マサシ達は勢いよく外へ飛び出した。ジェット輸送機はまだ飛んでいるため、当然飛び降りた瞬間降下していった。そして全員が飛び降りた直後に天空魔導城の対空砲がジェット輸送機を破壊され、神竜隊はバラバラになってしまった。果たして神竜隊は無事なのだろうか!?
|
|