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作品名:ラビリアンファンタジー 作者:ディオス

第150回   第百四十九話 戦場という名のチェス盤

「・・・・・・ッ!もしかして!」
「どうしたのマサシ?」

北門方面に突然現れた量産型Urs(ウルス)軍団。そして敵の攻め方に異変を感じたマサシ。彼は咄嗟に後ろにいる市松の方を向いて叫んだ。

「市松大佐!情報部に連絡してサンドリアの主力部隊の編成状況を調べてください!」
「何?」
「急いでください、早く!」
「あ、ああ。分かった」

戸惑いながらも市松は近くの装甲車へ駆け寄って無線機で城の情報部へ連絡を取り始める。しばらくして市松が装甲車から出てきたマサシの下へ駆け寄ってきた。

「情報部の話では既にサンドリアの主力部隊の編成は終わりこれからこちらへ向かうとの事だ」
「・・・・その主力部隊なんですが、そのまま待機させてください」
「何?しかし敵が新たな増援を出して来たのだからすぐにこちらへ向かわせるべきだろう」
「もし俺の予想が正しかったら、こちらに主力部隊を向かわせたら俺達が圧倒的に不利になります!そのまま待機させるように情報部に伝えてください!」
「一体どういう事だ?」
「それは後でお話します。ですから急いでください!」
「・・・・分かった」

市松は再び装甲車に戻って城の情報部に連絡を入れる。それを見たマサシは離れた所にいるコンタとレイナ、空にいるユウタとシオンに向かって叫んだ。

「皆!すまないがしばらくここを離れる!」
「え?どういう事?」

突然戦場を離れると言い出したマサシにコンタは訊き返し、他の神竜隊もマサシの方を向いて驚いた。勿論、隣にいるジゼルも同じだ。

「俺達はエクス・デストロの罠にはまったのかもしれない!」
「罠!?」
「俺はジゼルと一緒に町へ戻る。やる事を終わらせたらすぐに戻る、それまで持ち堪えてくれ!」
「・・・・・・分かった!そっちはお前に任せる!」

しばらく考えてユウタはマサシの方を向いて大声で言い、近くにいるシオンもマサシの方を向いて頷く。

「アンタがそう言った時は必ず何かあるからね、任せたわ!」

ユウタとシオンの方を見て二人の考えを聞いたコンタとレイナも一度お互いの顔を見合って頷き、マサシの方を見た。

「こっちは僕達でなんとかするから、二人は町へ行って!」
「私達のことは心配するな」

四人の答えを聞いたマサシはレベル・5を解除し元の姿に戻った。

「ジゼル、お前も俺と一緒に来てくれ!」
「一体どういう事?」
「それは道中話す!」
「・・・・分かった、あたしも一緒に行くわ」

ジゼルはマサシが何か重要なことに気付いたのだと感じて素直に頷き、元の姿に戻った。人間に戻った二人は市松の乗っている装甲車の所へ走っていく。

「市松大佐!」
「秋円大尉、説明してくれ、一体どういう事だ?」
「俺達は敵の策にはまった可能性があるんだす。恐らくこれは俺達(迎撃部隊)ではなく、城、つまり本拠点を落とす策の可能性が高いんです」
「本拠点を落とす?」
「俺とジゼルは一度町に戻ります。戻るまでの間、ここをお願いします」
「・・・・・・分かった、だが契約者が二人抜ける事でこちらの戦力も大きく変わる。急いで戻ってきてくれ」
「分かりました!」

マサシとジゼルは指揮を市松に任せ、近くに止めてあるバイクに乗った。二人はバイクに乗り、マサシはスロットルを回してバイクを全速で走らせ戦場に背を向けて町へ戻って行った。ジゼルはマサシの後ろに乗り、マサシの胸に腕を回してしっかり掴まっていた。





一方、ライトシンフォニアが北門方面で激闘を繰り広げている間、城では会議室でエミリアやライトシンフォニアの幹部、そしてハイドリアとサンドリア軍の将校達が集まっていた。地球から持ってきた情報機器を使い正確、迅速に戦況を調べているライトシンフォニアの傭兵達。その近くにある大きな机ではエミリア達が地図を広げて話し合いをしている。

「一体どういう事なのです、エミリア殿?我が軍の主力部隊をそのまま待機させるとは」

ハイドリアは突然出撃を止めてきたマサシの考えが分からずエミリアに尋ねる。周りの将校達も考えが理解できずにエミリアの方を見ながら頷いた。

「私にも分かりません。ですが、彼が何の意味も無く主力部隊を待機させるとは思えないのです。ましてや新たな増援が現れて北門の方はかなり不利な状況にある筈なのに、必ず何かあるはずです。もう少し時間をください」

エミリアは冷静にハイドリア達に自分の思っていることを話し、時間を与えるように説得している。ハイドリア達も少し納得できない様子を見せるが、どうにか納得していくれた。すると、一人の兵士が慌てて会議室に飛び込んできた。

「へ、陛下!大変です!!」
「どうした?」
「み、南門の前にあの巨大な穴と同じものが・・・・!」
「な、何だと!?」

南門方面にも虚無宇宙(ゼロスペース)へ繋がる穴が現れたと聞かされて驚く一同。エミリアは傭兵に急いで指示を出した。

「南門に設置してあるカメラの映像をモニターに映してください!」
「ハ、ハイ!」

傭兵は急いで情報機器を操作し、大きなモニターに南門方面に設置してあるカメラの映像を映した。モニターには北門方面に開いた穴と同じ巨大な穴が南門の近くに開いている光景が映され、そこから大勢の黒騎士と量産型Urs達がゆっくりと並んで穴から出てくるのが見えた。その光景を見たハイドリア達は驚きのあまり言葉を失った。だがそんな中、エミリアだけはあまり驚く表情も見せずにジッとモニターを見ていた。

「まさか・・・・」

エミリアはマサシの言った主力部隊の待機の理由に気付いたのか近くにある無線機を取り何処かに連絡を入れ始めた。





その頃、マサシとジゼルはバイクを走らせて北門へ向かっていた。

「ねぇ、マサシ、一体どうしたの?突然主力部隊を待機させた上に町へ戻るなんて」

ジゼルはいまだに理由が分からずマサシにしがみ付きながら尋ねる。マサシは前を見たままゆっくりと話し始めた。

「俺達は敵の罠にはまった可能性があるんだ」
「市松大佐にも同じ様なこと言ってたよね?罠って・・・・」

ジゼルがマサシに尋ねようとした時、マサシの持っている無線機から発信音が聞こえてきた。マサシは片方の手でバイクのスロットルを回したままもう片方の手で無線機を取り顔に近づけた。

「こちら秋円」
「市松だ。秋円大尉、町へ急いでくれ!南門の近くにもあの巨大な穴が開いてそこからもの凄い数の敵が現れたと連絡が入ったのだ!」
「えっ!?」

マサシの後ろで無線機から聞こえてくる市松の言葉を聞きジゼルは驚きを隠せないでいた。

「分かりました、俺とジゼルは一度サンドリオの主力部隊と合流した後、指揮を取り南門方面の敵を粗方片付けてからもそちらに戻ります」
「了解した、そっちは頼んだぞ!」
「了解です!」

マサシはそう言って無線機をしまい再び両手でバイクのハンドルを握った。

「マサシ、さっきの通信って・・・・」
「俺の予想したとおりになったか・・・・」
「え?それじゃあ、主力部隊を待機させた理由って・・・・」
「ああ、これの事さ」
「でもどうして敵が南門の方から現れたの?」
「陽動作戦(フェイントオペレーション)さ」
「陽動作戦?」
「ああ・・・・」

マサシはバイクを走らせながらジゼルに敵の作戦を説明し始めた。





「まず、宣戦布告と同時にわざと北門から離れた所に穴を開け、そこから主力部隊を出撃させて俺達の焦りを誘い、それに気付いた俺達に戦力を北門方面へ送らせる」

ライトシンフォニア&サンドリア迎撃部隊→北門方面へ!

「次に神竜隊(俺達)が北門方面に来た瞬間を見計らってUrs軍団を出撃させる」

神竜隊→北門方面(到着し迎撃部隊と合流!)同時にUrs軍団出撃!

「新たな増援が現れたことでサンドリアの動かせる全ての戦力を北門方面へ向かわせる」

ライトシンフォニア&サンドリア主力部隊→北門方面(全ての戦力が集結!)

「そして城の護りが手薄になった瞬間に南門方面から別働部隊を出撃させて一気に攻め込む」

南門方面から敵部隊が出現!→サンドリア(全ての戦力が北門方面に向かってるため防衛戦力がない!)

「護りの戦力が無いためサンドリアは敵の進攻をアッサリと許してしまい城は落とされてる。それで俺達の負けだ」





マサシの説明が終わりジゼルはゆっくりと口を開いてマサシに質問する。

「でも、どうして北門から離れた所に穴を開けたの?北門のすぐ前に開けて一気に攻めた方が効率がいいのに」
「確かにそれなら俺達が迎撃部隊を送り込む前に町の大半を制圧して一気に城に近づける。だけどそれじゃあ町に全ての戦力が留まり攻め落とし難くなる」
「それじゃあ、わざわざ離れた所に穴を開けたのは本拠点の部隊を誘き寄せて戦力を削るため?」
「それだけじゃないさ。離れた所に誘き寄せれば、例え南門方面に敵が現れたという情報を得ても距離があるため直ぐに町を守りに行く事はできない」
「・・・・時間稼ぎ!」
「そうだ。つまり、あの主力部隊は最初から囮だったんだ!」
「そこまで計算していたなんて・・・・」
「ある意味、サンドリアの主力部隊の編成が遅れたのはラッキーだった」

マサシとジゼルはエクス・デストロの驚異的な戦力と作戦を、そしてそれを指揮しているディアボロスとルシフェルに改めて恐ろしさを感じ、急いで町へ戻っていく。





会議室のモニターを見ながらエミリアはフッと何かに気付いて顔を上げて。

「成る程、マサシが主力部隊を待機させたのはこれに気付いたからなのですね・・・・」
「エミリア殿、南門方面に主力部隊を送り込むが、よろしいですな?」
「ハイ。・・・・・・ですが、部隊の二割を残してください」
「二割を、ですか?」
「ええ、その二割を北門方面へ送って頂きたいのです。そして今この城に待機している我が社の一個中隊を南門方面へ送ります」
「分かりました、ですがなぜライトシンフォニアの中隊を南門へ回して我が軍の部隊を北門へ?」
「敵の軍の中にはUrsの量産型がいます。それに対抗できるのは我が社の部隊だけです」
「成る程・・・・」

ハイドリアは敵の未知の力に対抗するには同じ世界の力を持つライトシンフォニアに任せるしかない。そう確信したハイドリアは頷いた。

「よし、我が主力部隊の二割を北門方面へ回し残りを全て南門へ回せ!」
「ハッ!」

ハイドリアの命令を受けて将校は敬礼し会議室を後にした。それを見たエミリアもゆっくりと出口のドアに向かって歩いていく。

「エミリア殿、どちらへ?」
「少し外の様子を見ていきます」

エミリアはそう言い残して会議室を出て行った。廊下を歩きながらエミリアは窓から外の様子を見ると、外ではライトシンフォニアの空中部隊とエクス・デストロのガーゴイルの戦いが繰り広げられていた。

「敵の戦力が分からない以上、これ以上戦力を分けるわけにはいきません。だったら・・・・」

エミリアは何かを決意したような鋭い視線のまま再び廊下をゆっくりと歩き出し会議室に戻っていく。北門と南門の両方から攻めてきたエクス・デストロ。急いで城に戻るマサシとジゼルと何かを決したエミリア。一体この後どうなるのだろうか、そしてマサシ達はサンドリアを護れるのだろうか!?


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